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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 二章 〜王都アラバスタ〜
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エピソード21 灰被りの少女

──これが昨日に起きた会談の内容である。

 あまりの出来事に、ヴァンもカナリアも困惑の極みに至っていた。

 正直、僕も内容からして釣りエサにされているようで不満だらけなのだが。


 魔物討伐は一週間後とのことで、今はこうして溜飲(りゅういん)を下げるため、街へ繰り出しているという流れであった。


「でもまぁ、アドニス先生も私たちを守ってくれるみたいだし、魔物退治は重要な任務だし、ね?」


「お気楽だな……」


「ちょっと気楽なぐらいが丁度いいよ。ぜんぶ重く考えてたら、結局何もできなくなっちゃう」


 カナリアの前向きな思考にはいつも元気づけられる。彼もその一人のようで「それもそうだな」と呟いた。


「ねね、アレ見て! おいしそう!」

「おいおいそんな急くなって!」

「はやくはやく! 通り雨がくるかもしれないし、急いでまわろ!」


「──あめ?」


 その一言に、ヴァンが空を見上げて眉をひそめた。


「そんなもんか?」


 空は相変わらず晴れ模様。雲はややあれど、降る気配はない。


「ほーら! せっかくの休日が無駄になっちゃう!」

「だぁ! もうわかったから引っ張るなって!」


 弟の腕を引いて先へ先へと進ませる。

 騒がしい姉弟の休日。そのあとは色々と買い物や食べ歩きをしながら時間が過ぎようとした。

 だが、そう穏やかに過ぎるものでもなく──


「あれ……?」


「どうした?」


「アインが居ない」


「あ? ずっと一緒じゃなかったのか?」


「さすがに試着するときは一緒じゃないよ! ヴァンが見てくれてたんじゃないの?」


「…………」

「…………」


 僕はどこの誰かに連れ去られていたのだ。




 少し時間を(さかのぼ)る──僕たちは服屋におもむいた。カナリアが服を選んで試着している間、僕はヴァンの側にあるイスに置かれていた。だがヒマを持て余した彼は店内をうろつき始め、孤立してしまったのだ。

 突如、通りがかった一人の男が僕を見つけるや否や、


「……へへっ」


 下卑(げび)た笑みを浮かべて僕を(かつ)ぎあげ、店を去った。


「──こいつは高く売れそうだな」


 道中、やたら中を覗き込んで品定め。

 そりゃあ、中で白銀の火が独りでにボウボウと燃えている鎧兜なんて、普通の防具より珍しいに決まってる。


(防具じゃなくて魔法生物なんだけどなぁ……)


 男の顔はやや細長く、頬が()せこけているように見える。くたびれた衣服と不潔な無精髭(ぶしょうひげ)も相まって、あまり良い印象(いんしょう)が持てない。

 なにやらブツブツと独り言。その内容が「あの防具店に持っていけば高く買い取ってくれる」とか、「今すぐに売るより鑑定(かんてい)精査(せいさ)してから売ろうか」など、不安になることばかりであった。


 僕はというと、おとなしくされるがまま。

 以前、子供相手でも敵わなかったため、ここはただの防具に(てっ)して機会を(うかが)うことにしたのだ。逃げる足なんて贅沢(ぜいたく)なものはない。


(情けない。赤ちゃんですら泣くこともできるのに……)


 そんな考えに(ふけ)っていた頃、男がガチャリとドアを開けた。


「ただいま」


 そこは男の家だった。


 路地裏にある木造建築のボロ小屋。そう言ってしまえば身も蓋もないが、現にそうだった。

 薄暗く、およそ灯りとなるものも、そして光が差し込んでくるはずの窓も少ない。


「おか、えり……なさい」


 奥からコホコホと小さな(せき)が繰り返される。声の主は、これまた小さな少女。

 歳の差から察するに娘だろうか。十歳と少しといった容姿だ。風貌は見たままの通り、あまり清潔な生活は送れていない様子。あえて例えるなら”灰被りの少女”。

 御伽噺との違いは、住まう家もボロいのと、共に過ごす家主(やぬし)の態度だろう。


「ッ──寝てなきゃダメだろ」


 立つのもやっとなのだろう。少女はすぐにその場に座り込んでしまっていた。

 男が悲痛の表情を垣間(かいま)見せる。すぐに僕をその場に置き、少女を抱えて奥の部屋へと消えた。


 だいたい想像がつく。

 病気の娘を(やしな)うために、男は金を欲している。そこで珍しい鎧兜を半ば盗むような形で拾い、高く売ろうとしているのだと──

 男が戻ってきた。部屋まで持ち運ばれ、机の上に置かれる。


 小さな窓に小さなベッド。わきにイス。そして埃が被った机がポツンとあるだけの寂しいものであった。

 少女はすでにベッドに寝かされており、窓を物憂(ものう)げに眺めている。


「それは……?」


 僕のことに気づいた少女は、男に質問。

 当然、


「も、貰い物だよ」


 と嘘をつく。

 何も知らない身内に『盗みました』なんて言うはずもなく、ただ成り行きを見守るしかなかった。

 男はそさくさと支度をし始め、再度部屋の外へと向かう。


「……もういっちゃうの?」


「ああ、ちょっと調べものしなくちゃいけなくてな」


 それよりも──と男が続ける。


「ちゃんと寝ておくんだぞ。これ以上、悪化でもしたら……」


「だいじょうぶ。いってらっしゃい」


 男は、後ろ髪を引かれる様子で部屋をあとにした。部屋に静寂が訪れる。


 出入り口が路地裏。それに反して表通りの景色を映している窓。

 混み合った大通りとは離れているのか、辺りは住宅が密集している。子供たちの(たわむ)れる声が聞こえてきた。

 狭い割には穏やかな空間だと評価したいが、こと病人にとってはツラいものがある。少女の綺麗な瞳は、窓を越えて(はる)彼方(かなた)へと、羨望(せんぼう)眼差(まなざ)しを向けていた。


「そういえば──」


 少しして、彼女は僕の方へ興味を向ける。

 スルスルとベッドから降り、近くにあるイスへ腰掛けた。


「”ノーツ兄さま”は、だれからこんなカブトをもらったのでしょう?」


 物珍しさからくる好奇心なのだろう。鎧兜に細い手で触れようとして──


(に、”兄さま”だって!?)


 ボフっ。


「わわっ!」


 ベンテールの隙間(すきま)から火が噴き出てしまった。

 兄妹だったのかと思わず咳き込む。歳の差、二十は離れてる。もしかしたらあの男、見た目より歳は若いのか?


「か、カブトさんは……生きてるの?」


 驚かせちゃ悪いと思い、大人しく逃げる算段を考えていた。しかし、火をみられては仕方ない。変に騒がれてさっきの男が戻ってくる、なんてことがないように、僕は正体を明かそうと試行錯誤(しこうさくご)

 まずはイメージ──何度も鍛錬した方法で、腕を生やす。


「おお」


 少女は目をキラキラと輝かせていた。

 お次に、腕にマナを流しこむ。イメージを絶やさず維持。ヒトの形へと変化させようと試みる。


 ここのところ、夜な夜な練習はしていた。だが、いつまで()ってもヒトの造形(ぞうけい)にたどり着けず、腕が液状と化して消えてしまう。

 そろそろ自由に動かせる身体(カラダ)が欲しい。足手纏(あしでまと)いは、もう()()りだ。


 腕を体の中枢(ちゅうすう)に見立て、そこから手足と(おぼ)しき指を生やす。子供のラクガキでよく見かける棒人間みたいになる。

 ググッと立ちあがろうとして──


「あっ」


 ボシュっと音を立てて霧散してしまった。


(やっぱりダメか)


 何度挑戦しても、これ以上はどうしても上手くいかない。

 諦めて、いつもの腕を用意。手を振ってアピールした。


「……ふふっ」


 そんな僕を(ひか)えめに笑い、すぐに悲しそうな表情を浮かべる。


「あなたも自由にうごけないのね。”レラ”といっしょ」


 誰のことを指しているのだろう。


「あ、レラはね、”レラ”っていうの。『レラ・クオーツ・シーデン』」


 思いだしたかのように自分に指をさして名乗ってくれた。

 少女──レラは少し興奮気味で続ける。


「あなたを連れてきたのはレラの兄さまで、いつも看病してくれてるの」


 話し相手ができたのが嬉しかったのか、その後も身内話を色々聞かせてくれた。

 家が貧しいこと。生まれつき体が病弱なこと。”ノーツ”という男とは、腹違いの兄妹で身寄りのない自分を必死に育ててくれていること。


 僕はただ聞いていただけだが、過去を振り返りながら話すレラはとても楽しそうだった。


「ごめん……ちょっとだけ横になるね」


 しばらくすると、コホコホと咳きが強くなる。

 楽しい時間はこれで終わりなのだと言わんばかりに暗い影が差し込む。


(──レラっ!?)


 バタっ。


 彼女がベッドに戻ろうとイスから腰をあげた途端、その場で倒れてしまった。

 本人も知らぬ間に無理をしていたのだろう。呼吸が乱れ、額から汗が止めどなく滲んでいる。容態(ようだい)が目に見えて悪化していた。


「ごめん……ごめんね、レラがこんなにカラダ弱くて──」


 うわ言のように述べる彼女の声を聞いて、胸が痛くなった。


 事情はどうあろうとも、あの男(ノーツ)は多分、あまり良くないことを繰り返して(・・・・・)いる。僕を盗みだしたのが(さい)たる例だ。

 そして、おそらくレラはそれに気づいている。

 なぜなら、謝罪の言葉は僕に向けたものではなく、


「──お兄ちゃん」


 この場にいない最愛の家族に向けてのものであったからだ。


(レラ!)


 僕は()いずって机から落ち、彼女の元へにじり寄る。鋼鉄が床にぶつかる音だけ、むなしく響いた。


(どうすれば……)


 どうすればいい。なんて分かりきっている。

 助けを呼ぶ。それ以外に何がある。


(でも──)


 事態(じたい)刻一刻(こくいっこく)も争う。彼女をそのままに、この稚拙(ちせつ)な体で外に出るなど、いったい何分かかる。飛び出したとしても、腕一本でどうやってコミュニケーションを取るのだ。

 ない頭を(ひね)って打開策を考える。

 

(────)


 ひとつだけ、方法がある。

 カナリア、ユース、キノたちにやってみせた、”アレ”だ。

 今までは灯火が勝手に反応したけれど、今度は故意(こい)に起こさせる。


『いろんなヒトを助けてあげて。それがあなたのチカラにもなり、記憶にもなる──』


幻想(ともしび)は、すでにあなたの中に──』


 以前聞いた夢の言葉が(よみがえ)る。


(上手くいくかなんて分からない。でも──)


 目の前で苦しんでいるヒトを見過ごせない!


 僕はベンテールを上げて、白銀の灯火を(さら)す。

 部屋の窓は、打って変わってどんよりとした曇り空が映しだしていた。

 そんな空から(へだ)てるように、淡い光が部屋中を包みこんだ。




◆◇◆◇◆◇




 一方、ヴァルヴァレット姉弟──


「おい、ここに変な鎧兜いなかったか!?」


「知らないねぇ。兄ちゃん、鎧のことなら防具屋に行くこった。ウチはどう見ても果実しかおいてないよ」


「ッ、次!」


 大通りでしらみ潰しに走りまわるヴァン。その後ろをカナリアとクリスが追いかける。

 学園に滞在(たいざい)していたクリスを姉が説得して連れてきたのだ。


「ちょっと待ってよ、ヴァン!」


「ちょ、ちょっと休憩……させてくれ〜〜」


 果実屋の前で二人が息を整えるために足を止める。カナリアはまだしも、クリスには体力的についていけてない様子であった。


「お嬢さんたち、さっきの坊主の連れかい? ありゃなんだ?」


 果実屋の亭主(ていしゅ)が訝しげな目で問いかける。

 当然だ。聞くだけ聞いて走り去るなど、商売の邪魔でしかない。

 亭主は、他店の商売仲間のためと内心で言い訳しつつ、根っこは冷やかしに対する苛立ちを二人に向けたのだ。


「すいません……じつはとても大切なものを失くしてしまって」


「鎧兜か?」


「はい。でも、ただの鎧兜じゃなくて──」


「あーはいはい。そんなのこの辺には無いよ。てか、迷惑だから早く()めさせたらどうだ?」


「それは……」


「そんな所でいつまでも居座(いすわ)られちゃあ、こっちも商売あがったりだ。さっさと──」


「おー、ちょうど喉が乾いてたんだよねー」


 ()められるカナリアの表情が次第に曇ってゆくのをみて、亭主の口調がどんどん荒々しくなってくる。

 そこに突如、クリスが口を挟んだ。


「おじさん、これいくら?」


「え、ああ、西銅貨(せいどうか)二枚だよ」


 商人としての(さが)なのだろう。値段を聞かれれば答えざる得ない。


「じゃ、いっこ」


 そう言って、クリスは懐から銀貨一枚を取りだし、見せびらかすように渡した。


「……嬢ちゃん、これは?」


「迷惑料。あとちょっと事情を聞いてほしくてねー」


 この世界で使われる通貨は、基本的に銅貨・銀貨・金貨の三種類。だが、東西南北の大陸によってその価値は変わり、(あつか)える貨幣(かへい)も変わってくる。

 そしてここ、西大陸では一般的に銅貨が多く流通する。量が嵩張(かさば)る分、銀貨の価値は高い。一枚で銅貨百枚と同等の価値だ。

 ちなみに金貨は銀貨五十枚相当(そうとう)。銅貨では換金できない代物(しろもの)である。


 亭主はクリスの言葉に対し、「(まい)った」と降参のポーズを取った。

 こうなってしまっては、されるがままである。周りの目もあるため、すばやく銀貨を懐にしまい込んで耳打ち。


「手短に頼むよ」


「そうこなくっちゃー」


 彼女は得意げに指を鳴らすと、果実を頬張(ほおば)りながら事情を説明した。

 事情といっても、鎧兜は魔法生物のことである点と、防具店はもうあらかた訪問(ほうもん)したあとだという点ぐらいであるが。


 亭主が記憶をほじくり返すようにツルピカの頭を掻いて答えた。


「あー、それならここから北東に進んだ通りにある質屋に行ってみるといい」


「質屋?」


「そう。オレぁそこまでは詳しくは知らねーけど、そこの爺さんが”情報”も扱ってるってこの辺じゃ有名人よ。そこなら何かしら探しもんも見つけられんだろ」


 亭主がそう述べながら、ガサガサと手提(てさ)げの(かご)に果物を()き詰めてカナリアに渡す。


「……これは?」


「そこんトコの婆さんが(この)んでよく買いにくるんだ。手土産に持ってけ」


 それはつまり、質屋で取られるであろう情報料を肩代わりさせてやるという、亭主からの選別(せんべつ)でもあった。


「良いんですか?」


「どのみち今日はもう店しまいよ。雨も降りそうだしな。あーあ、この嬢ちゃんに感謝しとけよ!」


 照れ隠しのつもりだろうか。わざとらしく空を見上げてボソッとつぶやく。


「……悪かった」


 その声はしっかりとカナリアに届き、彼女は表情を改めてにっこりと笑顔を浮かべた。


「ありがとう! 今度ぜったい買いに行くから!」


 勢いのまま、彼女はヴァンの元へ走り去っていく。


「……嬢ちゃんは行かねーのか?」


「もう一個ちょうだい」


「もう店しまいだって言ってんだろ。締まらねーなぁ」


 どんよりとした雲行きを、ただ呆然と見上げる亭主であった。

ちなみに「レラ」と「シーデン」を並べかえたら灰被りの少女になります。

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