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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 二章 〜王都アラバスタ〜
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エピソード17 水使い

「そーゆー上からな物言い、ムカつくんだよ……田舎モンの分際(ぶんざい)でぇ!」


 グルツが木剣を構え直して叫ぶ。


「黒の理解よ。我は真実を拒む隠者──ビナー・フォグミラージュハーミット!」


 すると数体の分身が現れ、ヴァンに向かって突進。

 

 所詮(しょせん)、質量を持たない幻。対して彼はこれを軽くあしらうように木剣で振りはらった。

 分身が次々と霧散してゆく。しかし、何回も繰り返すうちに霧が濃くなっていき、やがてヴァンの姿を(おお)い隠してしまった。


 数ある魔法の中でも”霧”を使った戦い方。霧も、光の屈折をすらも調節すれば”幻影”の魔法は完成する。

 蜃気楼(ミラージュ)──グルツの得意とするであろう魔法は、どんな相手でも翻弄(ほんろう)させる代物だった。


「────」


 ヴァンが顔をしかめる。グルツ本体を叩きたいように思えた。


「……なんか霧、こっちにもきてる?」


 ここで異変が生じる。いち早く察知したカナリアが呟いた。

 僕たちの周りにも徐々に霧が立ちこみ始め、視界が悪くなっていく。日差しが遮られ、昼間だというのに薄暗い。

 ついには、両者の姿が見えないほどにまで。周囲はまたも騒然とした。


「生徒諸君、離れなさい」


「ミラ、危ないから一緒に離れよ?」

「え、ええ……」


 シエルが忠告し、皆が一斉(いっせい)に距離を取る。

 カナリアとミラも手を繋いで一旦、霧の範囲外まで走った。

 幸い、霧はそこまで広範囲に渡っていない。むしろ水蒸気の塊のようにモクモクと対戦する二人を漂っているだけだった。


(これじゃ、まともに観戦ができない……)


 最悪の場合、中断である。シエルも両者の実力を測りたいから決闘の場を(もう)けたのであって、観測できないのであれば無意味だ。

 しかし、離れてからと言うものの、一向に審判が降りない。

 中は一体どうなっているのだろうか……こうも視界が悪いと両者とも勝負にもならないと思うのだが。


「ビナー・ハイドロプレスカノン!」


 霧を呆然と眺めていると、中から一筋の射線(しゃせん)が飛んできた。


「あぶない!」

「きゃッ──」


 カナリアが咄嗟にミラの腕を引いて避けた。間一髪、ミラが立っていた場所に”ソレ”が着弾。地面を(えぐ)って沈黙する。

 なんだなんだと、カナリアたちは(かが)む姿勢をとりながら、地面を見つめて飛来してきた正体を探る。


「水……?」


 抉られた地面の周りには、液体が染みていた。

 水と判断できたのも、飛んでくる瞬間をカナリアが捉えたのだろう。


(──そうか)


 僕はそこでようやく理解した。

 ”水”だ。グルツの操る魔法は”霧”ではなく”水”なのだ。


 水なら霧を発生させることも可能。超高圧縮(あっしゅく)すれば、レーザーのように撃つこともできる。しかも地面を抉るほどの破壊力も誇る。

 まさに変幻自在──”水”というだけでこれだけ多彩な戦法を思いつくとは、恐れいった。


「こんなの無事じゃ済みません……早く止めないと!」


「ちょっとミラ!? 今は──」


 青ざめるミラ。彼女がカナリアの手を解いて霧へと駆け込もうとした。

 その時──


「ハァァっ!」


──バン!


「っ!? な、なに……?」


 異音が響くと同時に、突風が起こった。

 風で頭の灯火が激しく揺れるが、お構いなし。異音の方向を注視する。


 霧が突風によって掻き消され、中が露わとなったのだ。


(ヴァンは──)


 露わになったのは、手を前方に(かざ)すグルツのみ。しかし、視線をやや上空に向けるとヴァンが飛んでいた(・・・・・)


 手にある木剣が粉々になっている。何をどうすればそうなるのか、答えは地面にあった。

 大きく叩きつけたような跡。砂が円型に弾かれ、衝撃が加わったことを物語っていた。そしてヴァンの並外れた跳躍と木剣。ついでに異音と突風──


 おそらく、ヴァンは地面を木剣で叩いたのだ。

 その風圧で突風を起こし、叩きつけた威力を利用して跳躍。たった一つの動作でこれだけのことを成したのだ。


(てか、風圧で突風を起こすって……)


 いよいよバケモノじみている。彼の戦闘力は(けた)外れだと思っていたが、僕の予想を遥かに超えていた。

 これも、持って生まれた者の力なのだろうか。


「空中で避けられるかよ!」


 グルツが彼を見つけ、翳した手を空中に向けた。

 正真正銘、足場がない。あのレーザーを避けるのは至難の技だ。


「うぉぉぉぉぉ!」

「ビナー・ハイドロプレスカノン!」


 ヴァンは木剣を捨て、腰に(たずさ)えていた剣を抜く。

 本来なら学園にいる間は没収(ぼっしゅう)される武器。だが、今日に限っては帯刀を許されていた。皇女の護衛のためだとゴネた結果らしい。

 とうとう抜身になった剣を空中で構え、重力のまま落ちていく。まるで流星のようだ。


 もう一方は、手のひらに水が集いはじめ圧縮。糸のような線を描いて落ちてくる彼を撃ち落とそうと試みる。


「──ヴァン!」


 ミラが叫ぶと、耳に届いたのかヴァンが目を見開かせた。

 剣先をグルツに向けたまま、迫りくるレーザーの軌道をズラす要領で弾かせる。


 グルツから見れば、レーザーが曲がって外れたように映るだろう。驚愕の色を隠せないでいた。


「────」

「ぐっ」


 目の前で着地し、グルツが木剣をデタラメに振るう。

 しかし、彼の手を先に抑え、木剣を取り上げた。


「なっ──」


 奪い取った木剣を彼の胸に向け、チェックメイト。


「勝負あり! そこまで!」


 周囲が呆然とするなか、待ってましたとシエルが声を張りあげて宣言する。

 決着は、ヴァンの勝利で終わった。


(すごい……)


 ひとつの魔法を多彩に繰り出すグルツもそうだが、それを真っ向から力でねじ伏せたヴァン。

 一息つく彼の背中が、とてつもなく大きく見えた。


「ヴァン!」


「で、殿下っ!?」


 ミラが駆け寄り、勢いのまま彼に抱きつく。

 少しよろけるが、しっかりと受けとめるヴァン。顔がみるみると赤くなっていった。


「こんな人前で、はしたないですよ!」


「そんなのどうでもいいんです……ケガはないですか?」


「た、大したことありません……殿下の方こそ、その、お怪我がないようで……」


 恥じらいが限界に達したのか、彼が口ごもる。急に抱きしめられ、両手を挙げて降参のポーズを取ったまま、宙ぶらりんになっている手をどうしようか迷わせていた。


「大したことない……?」


 ミラが彼の体に(うず)めた顔をあげて、ジトっと目を向ける。

 しまった──と言わんばかりにヴァンが口を(つぐ)む。


「ケガをしてるんですね、すぐに()てもらいましょう。あと、このような危険なマネは今後一切禁止です。ご自分の立場を(わきま)えてください!」


「ぜ、善処します……」


 叱られ、彼は項垂(うなだ)れた。


「もーミラったら。そこまで怒らなくていいんじゃない?」


 そこでカナリアと僕がゆっくりと到着。二人と混じる。

 カナリアが「それよりも──」と二人の様子を見つめながらニヤついた。


「ふたりとも、いつまで抱き合ってるの?」


「────」

「────」


 言われて気付く。二人は、互いを見つめながら目をパチクリとさせてから慌てて離れた。ヴァンは頭をガシガシと掻き乱して照れ隠し。ミラは頬を両手で押さえて、熱くなった温度を冷やしていた。

 彼にとっては何よりも厚い褒美(ほうび)に違いないと、僕も心の中でほくそ笑んだ。


「あーあ……」


 そばでドサっと倒れたのはグルツ。大の字で寝転ぶ。


「負けちった」


 ただ、その言葉には何の装飾(そうしょく)もなく、どこか清々しい気持ちが出ていた。


「グルツ、お前の勝ちだ」


 そこで異を唱えるのは、他でもないヴァンだった。

 彼のそばまで歩み、手をさし伸べる。


「学園で真剣を使うのは立派なルール違反。俺の負けだ」


 なるほど。魔法を弾いた瞬間のことを言っているらしい。

 グルツが鼻で笑い飛ばした。


「あんなの使った範疇(はんちゅう)に入るかよ。そんなの言ったら俺だって魔法を使った。この授業、剣技だぜ?」


 お互い様だ──つけ加えて述べると、ヴァンは「それもそうか」と納得。


「……悪かったな」


 さし伸べられた手をつかみ、態勢を起こしてもらいながらグルツは謝罪した。


「お前んとこの皇女さまのこと、脅すようなことを言っちまった」

「あーなんだ、別に気にしてない」

「んだよそれ、ちったぁ気にしろよ」


 戦った故に芽生えた友情か。二人は繋いだ手を一度だけ上下に振って、乱暴に手放す。

 (はた)で眺めていたカナリアが呟いた。


「──なんか(うらや)ましい。男の子同士のああいうのって」


「ですね」


 これにはミラも同意。僕も頷く。

 魔法──様々な使い方があることを知れてよかった。今後、何かしら役に立てるかもしれない。


「お見事でした。ふたりとも」


 そうこうしているうちに、シエルが拍手をしながら登場。

 周囲にいた生徒たちも大盛り上がりをみせて、本日の授業は終了となった。

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