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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第二部 三章 〜醜悪〜
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エピソード42 コクマーその2


 どうすればいい。どうすれば──


 ジンの容態は悠長に構えていられるほど生ぬるいものじゃない。クリスの深刻な表情を見れば一目瞭然だ。

 これ以上、誰かが犠牲になるのは耐えられない──ミラの姿が脳裏をよぎった。


「……脈が薄い。場所を移そうにも時間がない」


 処置を施し続けるクリス。額から流れる汗が砂地へと滴る。

 黙って見守る僕と憲兵たち。ジンの容態はみるみる悪化していく。


(僕が、もっと強ければ──)


 ジンが”奥の手”を使うことはなかっただろう。

 もっと言えば、カイツールの手によって犠牲者を生んでしまうこともなかっただろう。


「──ッ!」


 突如、クリスが血相を変えて、ジンの服を脱がし始める。

 元々、上半身裸の上に薄い布を纏っていたような格好だったため、脱がすのに苦労はしなかった。

 そして、胸元に耳をあて、次に心臓に両手を重ねて体重を乗せる。心臓マッサージだ。


 まさか──


「先生……!」


「呼吸停止に心肺停止……! これより蘇生術を開始する!」


 周りがザワつく。

 背後から憲兵のおっさんの声が響いた。


「救護班を呼べ! アークライト家の坊ちゃんが危篤だ! 急げ!」


 急に慌ただしくなる光景に、僕はただ呆然と立ち尽くすのみで──


(いや、頭を働かせろ!)


 クリスは頼りになる治癒師だ。国からのお墨付き、『グレイ・アムリタス』の称号もち。だけど完全じゃない。

 目の前の灯火が風前のものになる。さっきまで黄金に輝いていたのに、吹けば消えてしまいそうだ。

 ”死”という運命には抗えない。すべての生物に平等に与えられた摂理(ルール)。だけど、今ならまだ変えられるはず。


 頭をフル回転させて状況の打破を考える。

 僕の持つ魔法。いつも通り、余さず使えばいい。


「クリフトリーフくん……! ジン! 起きたまえ、キミはまだ死んじゃいけない!」


「坊ちゃん、すぐに救護班が来る!」


 状況は最悪だ。

 ジンはそれなりに人望が厚い。憲兵のヒトたちも、彼の目前まで迫った死に悲痛な涙を浮かべていた。


 この光景を、僕は以前どこかで見たことがある。

 あれはテルル村で、アフェクが村人たちを──


「──ケテル」


 とある案が思い浮かび、僕は”白”の詠唱を唱えた。

 対象は、ジン。


「先生、ごめん」


「アインくん何を──」


 心臓マッサージを行い続ける彼女の間に割り込み、『時止め』をジンに施す。

 乾いた唇。薄く閉じた瞼。まるで死人そのもののような彼が、時によって堰き止められた。


「これで少し時間を稼ぐ」


「アインくん」


「先生、これから僕と──」


 背後から呼ばれ、振り返ると平手が飛んできた。


 パシン。


 鎧兜に軽い音が響く。

 急なことで驚いたが、拍子で魔法を解けなかったのが幸いだった。


「──キミは、一体何をしたのか自分でも分かってるのかい」


 眉をつりあげ、クリスの灰色の大きな瞳が僕を穿つ。

 ヒトの命が掛かってる中、勝手な行動をしたのだ。彼女が怒るのも無理はない。

 しかし──


「分かっているよ。でも僕はこれ以上、犠牲者を出したくないんだ」


「私も同じ気持ちだ。でもね、その魔法は患者を顧みていない。時を止めるっていうのは、苦痛をそのままにしてるってことなんだよ」


 彼女の手は震えていた。

 大事な生徒が死に直面している。そして称号持ちとしてのプライドもあるのだろう。

 問答を繰り返す時間も余裕もないが、僕はあえて乗っかった。


「じゃあ、魔法も使わずこのままにしろって言うの?」


「それは……」


 言い淀む彼女に、僕は畳みかける。


「らしくないよ、先生。何があったのか知らないけれど、このままだとジンを救えないって自分でも分かってるはずだよ」


「────」


 灰色の瞳が、揺れる。

 本来の彼女なら、時を止めてでも時間を稼いで治療の(すべ)を余さず行使するはずだ。

 思えば、砂漠の上で独りで座り込んでいた辺りから気づくべきだった。

 今のクリスの灯火には、ひとつの異質な影が差し込んでいる──頭の灯火がそう映していた。


「先生、僕はジンを助けたい」


 僕はゆっくりと語りかける。


「ジンは言ったんだ。自分の命は大切だって。当たり前だけど、わざわざ捨てるようなマネは絶対にしないって言ってくれた」


 ならなぜ、危険が(ともな)う”あの一撃”を使ったのか。

 答えは明白。


「ジンは僕たちのことを信じてくれてる。必ず助けてくれるって、命を預けてくれたんだ」


 ならば、それに応えないでどうする。


「先生、僕に”魔法”を使わせてほしい──お願いします」


 クリスは仲間だ。

 誠実を表すために、僕は頭を下げた。


「……どうする気だい」


 一拍置いて、彼女が問いかける。

 僕はベンテールをあげて、白銀の灯火を晒した。


「まずは、先生──」


 ”白”の魔法をそのままに、”幻想”を発動。

 光が辺りを包む。


「アナタを助けます」


ちょっと短めが続いて申し訳ないです。

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