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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第二部 三章 〜醜悪〜
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エピソード40 醜悪は笑う




◇◇◇◇◇◇




 砂漠の上を這いずりながら進む。

 遠い過去の記憶が()ぎる中、僕は大破した体をただひたすら引っ張った。


「ハァ……ハァ……い、生きるぞ……」


 あのふざけた男の一撃を喰らって、下半身が吹き飛んだ。

 悪魔に血液なんて通ってない。あるのは胸のコア──”流動”によって生まれた(おり)の塊だけだ。


「僕は、生きる……生きて……それで……」


 また出会うのだ。

 あの時の感動を、もう一度得るために。

 そのためなら醜く這いずっていようとも構わない。


「──ようやく見つけた」


 ザッ、と僕の目の前に小さな足が立ちはだかった。

 朦朧とする意識を叩いて起こし、ゆっくりと視線を上にあげる。


「やっぱり、アナタでしたのですね──先生(・・)


 そこには少女がいた。

 桃色髪のおさげ頭。見た目に反して知的な瞳。たしか──


「アハッ……キミは”器”くんと一緒にいた、”先生”だったよね?」


 希望──いや、絶望を見つけた。

 コイツを人質にして連れ去れば、追撃も(まぬが)れるかもしれない。

 僕を討ち取った形跡が見つけられなければ、追ってくるのは必然。ならばこの少女を利用する手はない。


「ノコノコと僕の前に出てきたこと、後悔するがいい……!」


 活路を見出して、僕はなけなしの力を振るった。

 人間は”痛み”に弱い。痛みから逃れるためなら何でもする。僕の手足となってもらえるよう、”痛み”による精神支配を──


「先生、私ですよ」


「──は?」


 彼女は膝を畳んで屈み、僕の顔を拾いあげて瞳をじいっと見つめてくる。

 なんだ。何をしているんだ。意味がわからない。彼女は一体なにを?

 先ほどから呼んでくる『先生』という言葉に、僕は混乱を隠しきれなかった。


 しかし、一度発動した能力は止められない。

 僕の瞳が少女の魂、その傷跡を覗き込む──


「あ──」


 言葉を失ってしまった。

 覚えがある。数々の魂を見てきたが、この(カタチ)だけは忘れるはずがない。


「嗚呼……そうか、キミか」


 この美しい曲線──間違いない。彼女だ。

 瓜二つの魂が、この世にふたつもあってたまるか。


「キミは死んだはずだ」


 あの時、父親らしき人物に殴打されて亡くなった。

 過去の記憶がフラッシュバックした今なら、確信を持ってそう言える。


 なぜ、ここにいる?


「私は所謂(いわゆる)、”転生者”なのです」


 短く答える少女の声。微かに震えているのは、狂人を目前としている故なのか。それとも──


「──まったく、簡単に言ってくれる」


 僕は溜息混じりに笑みを零した。


 ”輪廻転生”の難しさを()くには些か語るに時間を要するが、簡単に言ってしまえば、魂とはマナと同一なのだ。

 死をもって魂は肉体を離れ、理の流れ──曰く、”流動”によって運ばれる。そして次の肉体に宿る前に、多くの(マナ)と同化し、まったく別の個体へと生まれ変わるのだ。


 前世の記憶を保持する──これを成すには、魔女の手によるサルベージ。または悪徳”物質主義”の特権ぐらいのもの。

 儀式も行わず来世を跨ぐとは、おそらく理に反する。ひと言で申せば”奇跡”だ。


 彼女がゆっくりと口を開いた。


「先生のおかげなんです。もう漠然としか思いだせないけれど、あの時の暗闇から現れたアナタの存在が、私にとって救いの光だったんです」


「────」


 僕の中で、”確固たる意志”が音を立てて崩れる。

 固く誓った己という外殻が剥がれ、コアにヒビが入った。


「そうか──」


 あの時、どうして名も知らぬ少女の魂が美しく輝いていたのか、ようやく理解する。

 僕が創り出したのだ。彼女の輝きを。

 どうしても自らの手で生み出したかった。それだけが悔いだった──いや。


「ごめんよ。あの時、助けてあげられなくて……」


 一番悔やまれたのは、彼女を救えなかったこと。

 そこから目を背くために、僕は外殻を纏ったのだ。


 コアの亀裂によって僕の体も至るところにヒビが入る。

 今にも崩れそうな手で、彼女の頬に触れた。


 柔らかく白い肌。まだ幼い頬に一筋の涙が伝う。


「私は、ただアナタに伝えたいことがあるんです。そのために、今日まで生きてきた──」


 灰色の大きな瞳がまっすぐ僕を射抜く。


「ありがとう、センセイ。助けに来てくれて」


「嗚呼──本当に、人間は美しい」


 眩しいほどに。


 残りの体が砂となって崩れていき、やがて頭部のみとなった。

 最期に、忠告を(ほどこ)してやろう。


「覚えておくんだ。キミたちの”チカラ”は、やがて人を狂わせる──」


 痛みこそ、人が持つ最大の共通感覚だ。

 今は魔法があり、あらゆる治癒法が確率する。彼女の持つチカラも、人類進化の延長線上で破滅をもたらすやもしれない。


「だから、キミだけは忘れないでくれ。人の”痛み”を──」


「はい──センセイ」


 彼女(クリス)の返事を耳にして、視界が黄色い砂一色へ。

 (カイツール)は笑う。


 満足した。

カイツールの最期でした。

アディシェスの次に好きなキャラでした。

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