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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第二部 二章 〜推理〜
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エピソード11 造形の国『ロスバラスチア』

 ジンに連れられ、僕は街へと繰り出された。

 黄色い砂地が伸びる大通りの両端には、どこもかしこも市場として賑わう。しかし、売られているモノが食料や生活必需品ばかりではなかった。

 骨董品や家具。これらはアラバスタ国でも見受けられたが、この国でひと際目立つ物品が並ぶ──石像銅像の類いだった。

 自ら作ったものだろうか。小さいものから等身大のモノまで、ありとあらゆる形の石と銅が鎮座する。


 病院に入るまえにチラリと見た女性の巨大銅像を目指して歩き、ジンが歓喜。


「ここは芸術を愛する者たちが(つど)う国! あの”女神像”も、この国を象徴するシィィン、ボルっ! ああ、愛しの祖国よ……我輩は帰ってきた!」


 両手を掲げて称えた。

 なるほど。彼は”コレ”を見て育ったのだ。裸体を晒す経緯は理解できないが、『麗しき女性(マドモワゼル)』と呼称するキザな態度の根源はコレにあると踏んだ。


(正直、これすごいもんなぁ……)


 ”女神像”を中心に円形の広場となっていた。行き交う人々の中には、たちまち合掌して拝みはじめるヒトもいらっしゃる。

 近くにきて見上げれば、その圧倒的存在感に心が揺れ動かされた。主に豊満な胸が両目を離してくれやしない。銅像のくせに魅惑の曲線を描いており、今にもたわわと揺れそうだ。

 ひとえに『芸術』と言われても、僕にはまったくの無縁の境地だと思っていた。だが、これはなかなか目を見張るものがある。


「はーっはっはっは! お前も感じ入るだろう、この”美”が!」


 呆然と目を奪われていると、ジンが得意げに笑った。


「僕でもこの像がすごいってことはわかるよ」


「そうであろう、そうであろう!」


 率直な感想を述べると何度も頷いて相槌を打つ。彼とは趣味が合いそうだな、と今更ながら思う。


「この”女神像”はアークライト家の先代様方がお造りになられたと文献(ぶんけん)にも残っております。アナタのようなマナニアでも目を奪われるほどの精巧な造り。まさに『後光がさす』とはこのことだと、同じ女性としても嫉妬してしまうぐらいです」


 そういうエルドライトも何やら得意げのご様子。

 以前、ミラから教わった話の中に『石像物語』という御伽噺があった。その元ネタがこの国にあり、しかもアークライト家が直々に手掛けたらしい。逸話の数々。

 こうしてみると、じつはジンって物凄いヒトなんじゃないかって錯覚してしまう。病院でもあんな反応されていたぐらいだし、少々見くびりすぎたようだ。


「……ん? ──親方っ!?」


 そうこうしているうちに、女神像を横断する集団のひとりがこちらを見て驚愕。すぐさま仲間に呼びかけ、駆け寄ってきた。


「親方、なんでここに!」


「おお! お前たち!」


 見知った仲だろうか。集団が押し寄せ、一気に囲われてしまった。

 集団は全員で三、四人。上半身ハダカの丸坊主の男たちだ。年齢の差はあれど、みんな日用大工のおっさんのような格好。先頭に立つ男だけが僧侶のように白い布を纏わせていた。

 彼の祖国である。べつに見知った人物たちと挨拶ぐらいは交わすのはいいが、なぜこうも裸体なんだ。ジンもジンでハダカになって肩を組み合って再会を熱く祝っている。いやもう、暑苦しい。


「こ、このヒトたちは?」


「アークライト家と繋がりのある芸術家たちです」


 僕の質問に、エルドライトが涼しく回答。その声にひとりの男が頭をかく。


「芸術家っつっても、まだまだ見習いっスけどね……」


「そうそう。なんせ俺たちゃ修行の身。こんな腕じゃ何も語れねぇよ」


「なにを言うか! お前も立派な石像を造りあげたと聞いておるぞ!」


 つられて肩をすくめる男に、ジンが称える。

 熱弁を間近にして、男が「親方ぁ!」と目頭を熱くさせていた。


 ジンにもこういう熱血な一面もあるのだと、無駄に知ってしまった。


「アークライト様、ご無事で何よりでございます」


 さきほど集団の先頭にいた僧侶がジンに頭をさげる。しゃがれた声で、落ち着いた御仁である。


「一報入れてもらえれば、すぐに迎えをお呼び致しましたものを」


「すまないな(じい)や。我輩にも事情があるのだ」


 彼の呼び方から察するに、身内か側近だろうか。

 御仁は「ホホホ」と笑いながら寛容に受け入れる。


「そういえば、そこの鎧は何です? しゃべれるみたいっスけど……」


「ああ、この小さな鎧兜はな──」


 脇から僕を眺めていた坊主男のひとりが尋ねるとジンが端的に、


「西果ての魔女が生んだ、ソル・マナニアだ!」


 紹介した。


「なんと!」


 坊主三人の反応はイマイチ、ピンとこない様子。

 しかし、御仁だけは違った。僕の正体を聞いてプルプル震える。


「そ、ソル・マナニア……実物を見るのは初めてですぞ……!」


「うむ、我輩の仲間が所有権を持っておってな。今は休んでいるが、明日にでも紹介するとしよう!」


「そんなに有名なんスか?」

「バッカお前、マナニアってだけでスゲー珍しいだろーが!」

「コイツ、(がく)がないんでさぁ、許してくだせぇ……」


 坊主三人組──面倒なので”団子三兄弟”と呼ばせてもらおう。

 その三兄弟のうち、ふたりが挟んで、真ん中のひとりの頭を無理やり下げさせる。


「そんなに珍しいの?」


 僕はエルドライトに解説を求めた。


「この大陸では魔法生物自体が希少──こちらから見れば、西大陸の方が魔法生物が多すぎると思うぐらいです」


 ふむふむ。大陸によって発展してる技術進歩が違うらしい。西はマナニア。東は造形技術といった具合か。船といい、砂上バイクといい、この女神像といい、西よりも違うベクトルで発展を続けている。クリスが喜びそうだ。というか喜んでいたか。砂上バイクで。


 思えば、ここに来てから妙に視線を感じていた。周りを見渡しても、アラバスタ国みたいにありふれた魔法生物がまったくいない。魔法生物自体が珍しいのであれば、そのまた希少種であるソル・マナニアはもっと珍しいということに他ならない。

 例えるなら未確認生物のようなもの。知るヒトぞ知る。知らないヒトも少なくない。


「なら、この者をお連れになったのは──」


「爺や」


 御仁が何やら問いかけようとしたところで、ジンが()き止めた。あれだけ能天気だった顔が、一変して冷たい表情を浮かべたのだ。

 彼が「それよりも──」と話題を変える。


「皆の者はこれからどこへ(まい)る。邪魔をしたのなら詫びねばならん」


「いえいえいえ! 滅相もないっスよ! 俺の方こそ突然呼びかけちまいまして申しわけねぇっス!」


 団子三兄弟が連ねて腰を曲げる。どこぞの舎弟っぽい。

 だがジンは、真剣な面立ちで首を振った。


「いいや、それでは我輩の気がすまない。これで許せ──フンっ!」


 息を短く吐いて、彼がお得意のポージング。渾身のサイドチェスト。

 盛りあがった筋肉を前に、三兄弟が目を輝かせた。


「でたー! 親方の”美”ポーズ!」

「芸術を肉体でも表現とか、まさに最先端でさぁ!」

「突きでる大胸筋は影もデカい! どぉしてそんなに大きくなっちゃったんですか〜〜?」


 唐突に始まったボディビル大会に、僕は失神しかける。

 巨大な女神像の股の下。絶景に割り込むハゲと筋肉と男裸体。下手すればトラウマだ。


「まったく……」


 唯一の救いは、エルドライトが頭を抱えて溜息をついていた点だろうか。

 造形の国『ロスバラスチア』──なんとも恐ろしいところである。




 明日、また紹介するという約束を結び、彼らは去っていった。できればもう拝みたくないのだが、この場にカナリアとクリスがいないのでは仕方がない。

 残った僕たちは、しばらく滞在するための宿を手配してもらうべく、一際大きい建物へ向かうのだった。


「それよりもアークライト様、”覆面”はもうよろしいのでしょうか?」


「ああ、もう必要あるまい。あの施設が大丈夫なら警戒するだけ無駄であろう」


「?」


 道中、エルドライトとのやり取りに僕はついていけず、首を傾げる。

 一体、なんの話だ──

 ジンが僕の様子をみて、小さく咳払いをした。


「”ちいマナ”よ」


「まだそれ言うの……?」


「お前だけには先に伝えておかなくてはな」


 僕の呼び方については後ほど抗議するとして……彼がいつになく真剣な目でエルドライトの方へと投げかかる。


「カナリア様をこの国にお招きしたのは、紛れもなくアークライト様のご好意……そのうえでご相談があるのです」


 彼女が前置きをしてから語りはじめた。


「現在、この一帯の国々に発生している”事件”について」


「じけん?」


 この時はまだ知らない。

 僕……いや、僕たちがこの先、大きな苦難に苛まれるということを──

 照りつける太陽に、流れる雲がかかって影を生んだ。

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