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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第二部 二章 〜推理〜
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エピソード10 マナ枯渇症

 四台のバイクを車庫に収め、僕たちはついにジンの祖国に足をつけた。


 砂漠地帯のど真ん中に位置するこの国は、ヒトも土地も王都アラバスタとは特色が違う。

 具体的に述べるなら、まずは行き交うヒトだろうか。港でも見たとおり、ほとんどの人間がジンと同じ褐色肌に黒髪だ。彫りの深い顔立ちが多く、服装も白をベースにしたものを身に纏っていた。

 稀に毛色が違うヒトもいるが、服装からして僕らと経緯(いきさつ)が似ているヒトたちだろうと推測。あえて言うなら『他の大陸からやってきた』という点。


 環境が違えば、建物も違ってくる。

 ここらでは滅多に手に入らないであろう木材や鉄類を使用した物件は、まず見当たらない。基本的に土を固めて築き上げられた黄色い家が建ち並ぶばかりだった。

 しかし、この程度の特色なら、東大陸全体の国が同じ光景だろう。まだ”この国ならでは”を味わってすらいない。


(なんだあれ……)


 それもすぐに解消される。カナリアを担いで、とある建物に搬送する最中に見えた光景が、僕を引きつけてやまなかった。

 女性の裸体を描いた銅像──ただの銅像ではない。おそろしくデカいのだ。あの雲竜(へビ)と同等ぐらいの大きさを誇っている。

 そして、精巧に造られた乳房。男なら、二度見は避けられない。


「何をしているのですか。行きますよ」


 立ち止まっているとエルドライトから急かすよう注意を受けた。我に返って、みんなの元までついていく。

 これが造形の国(ロスバラスチア)。うむ。素晴らしいのではなかろうか。




 カナリアが搬送された場所は、いわゆる病院の役割をもつ施設だった。

 他の家と比べると立派な造りだ。外装は土……というよりコンクリートに近い、灰色の壁だった。

 この世界では、灰色は”コクマー”を象徴する。

 貴重なはずの木材で作られた扉を開けて中へ。入り口には係りのヒトらしき人物が立っていた。全身を白い絹で覆われた女性だ。


「あ、申し訳ございません。本日はもう急患の方のみしか……」


「我輩を誰と心得る!」


 到着早々、ご丁寧にお断りされる流れ。女性が相手もろくに見ずに頭を深々と下げてくる。

 そこでジンが上半身の裸体を晒した。

 誰と心得るとは言うものの、今の彼は”砂上バイク”に乗った姿のままである。つまり、ゴーグルや布を巻いた覆面状態。当然、係りのヒトも困惑の表情を浮かべた。


(なんで顔を隠してハダカを晒すんだ……)


 膝から崩れ落ちそうになる。

 僕は男のハダカが見たいわけじゃ──ちがう。今は一刻も早くカナリアを安静なところへ運びたいのだ。


「この国で我輩を(ぞん)じぬとは、麗しき女性(マドモワゼル)といえどもショックを隠しきれん」


「いいから早くしてくれないかな……担ぐ身にもなってほしいんだけど……」


 意識を失っているカナリアの両脇にはクリスとエルドライトが支えている。身長差的にツラいクリスが急くよう促す。


「ならば見よ! この麗しき肉体を! 魂の奥底にねむる”美”を呼び覚ませ!」


 彼が筋肉を見せびらかすようにポージング。

 汗でテッカテカ。褐色肌というのも相まって見栄えするっちゃあする。まったく嬉しくないが。

 しかし、彼の裸体をひと目みて、女性の表情が一変した。


「──っ! 地割れのように深い腹筋(シックスパック)。控えめな主張の四肢が、黄金比を損なわせない肉体作り……まさか、アークライト様⁉︎ 帰ってきてたのですか!」


 なんでわかるんだ。

 正解も大正解。言い当てた途端、ジンが覆面を外して素顔をみせた。というか、初めから顔の方を晒せば話が早く済んだのではなかろうか。

 そんな僕の心情もお構いなしに、彼がポージングをやめて女性に言いよった。


「我輩の仲間だ。通してくれるな?」


「ただちに先生を呼んできます!」


「あ、いいよいいよー。私も先生だから。とりあえず部屋だけ貸してほしいんだけど」


 奥へ走ろうとする係員を呼び止めて、クリスが要求を口にする。


「えっと、でしたら……」


 ようやく奥へと案内され、僕たちは異国の病室へと向かった。




「まずは水があるなら手配してくれると助かるかな」


「承知しました。ワタクシが運んできます」


 患者(カナリア)をベッドに寝かせ、魔法を駆使して治療を開始するクリス。エルドライトが頷き、係員と一緒に退出した。

 部屋はこれまた灰色の壁。構造的には簡素な間取りだった。


「先生、カナリアの容体は……」


「心配することないよ。たしかに”マナ枯渇症”は数日間も眠りこけるから、看病なしだと危険だけどね」


 ベッドに寄り添って、僕は彼女に詳細を(たず)ねる。

 カナリアの顔を覗き込むと、閉じた瞼の下にクマができていた。呼吸も浅い。大丈夫という割には苦しそうにみえる。

 そんな僕をみて、彼女が詳細を語った。


「前にカナリアくんたちには言ったんだけど、人間の体内には”魔素”が流れているんだ──」


 僕がいない間に聞かせた内容を大雑把に振り返る。

『セフィラを持つ人間が魔法を使うための前準備として、マナを”良性魔素”へと変換する』

 ”良性魔素”が足りない場合、魔法は使えなくなるのは勿論(もちろん)。しかし、体というのはそう単純ではないらしい。


「良性があるなら悪性(・・)もある」


 クリスが静かにカナリアに光を当てながら告げた。

 僕とジンがコクコクと頷きながら聞き入る。


「ただの良性魔素の枯渇なら症状は現れない。魔法が使えないってだけで普通の状態──でも良性魔素を燃焼して魔法を使用した場合、変化を起こして”悪性魔素”へと転じるんだ」


「その”悪性なんとか”というのが、この『枯渇症』を引き起こしていると?」


 後ろにいるジンが要約した。

「そう」と彼女がゆっくりと(まばた)きをして答える。


「悪性魔素は体内で蓄積する有害物質。魔法使いが総じて短命なのは、それが原因の一端なんだ」


「なんと!」


 わざとらしく驚く素振りをして、彼が嘆く。


「この身が短命であるのなら、老いる楽しみも減ってしまうではないか! 衰えることなく美を飾ろうと思っていたのに!」


「あはは、安心して」


 苦笑いをして、クリスが宥めた。


「一端ってだけで、長命な魔法使いだっている。要は酷使しすぎないこと。悪性魔素も、体内だと異物になるから自然と排出とか除去されるよ。ただし──」


 キッとジンを睨みつけて続ける。


「キミやカナリアくんみたいな無茶は、くれぐれも注意することだよ。先生として言ってるんだからね」


「ンン〜〜、善処しよう!」


「あと、患者がいる前では静かにね」


「……善処しよう」


 がっくし肩を落として反省。

 そこで、ふと疑問が湧いた。


「先生、僕はどうなるの?」


 魔法生物の僕は、正直にいって良性悪性とマナの違いがわからない。

 マナを酷使した瞬間、意識が途絶えることは以前にもあった。目が覚めれば後遺症もなく動き回れる。だが、悪性魔素が蓄積するというのならば、僕自身も危ういのではなかろうか。

 そんな質問をぶつけてみたのだが、クリスは唸りながら首を傾げるばかりだった。


「レラちゃんの時にも言ったけれど、キミの場合はわからないことだらけなんだ。魔法生物が魔法を使うっていうのも、本当はおかしな話だからね」


「た、たしかに……」


 アラバスタ国では魔法を使う魔法生物はいなかった。

 強いて挙げるなら戦車馬(ゲリュオン)ぐらいか。アレも改造されたものだとアドニスから聞いているし、また別の話になるのだろうか。


 クリスの授業をこの異国の場で受講している間に、エルドライトが帰ってきた。


「水をお持ちしました」


「ありがと。私はここにいるから、三人は出ていっても構わないよ」


「え、でも──」


 僕が反論しようとしたところでクリスが笑みを浮かべる。

 以前にも見かけた、暗黒めいた笑みだ。


「ここに患者がいるのに、うるさくされちゃ困るんだけどなー」


「さぁ小さきマナニアよ、我輩の国を案内しようぞ」

「それがよろしいかと」

「わかった、わかったから首を掴まないでくれ」


 さすが先生。あのエルドライトですら冷や汗をかいていたぞ。

 僕はジンに掴まれながら病室を退出させられ、照りつける太陽の下へと引きずり出されたのだった。

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