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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第二部 一章 〜東大陸〜
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エピソード9 砂海

 爛々と照りつける太陽──心なしか、大きく映っているように見える。あたりは砂の海。地平線のどこまでもが黄色い砂で埋め尽くされていた。

 僕たちは現在、この砂海を渡っている。

 ジン、エルドライト、クリス、カナリア、そして僕──四人と一匹がこのどうしようもない果ての中を進むために、とある”船”に(また)がっていた。


「ぅぅ……これ、コケたらさすがに危ないよね……?」


 風が前から後ろへと流れていく。風圧が彼女の長い髪を(なび)かせ、飛んでいかないようハンドルを両手で握りしめた。

 下の砂が、まるで濁流(だくりゅう)のように波立てている。横転(おうてん)なんてしようものなら大惨事は(まぬが)れない。


「はーっはっはっは! どうだね! 我輩が手配した”船”は!」


 先方を走っていたジンの”船”が、僕たちの元までやってきて感想を聞いてくる。

 そう、彼が用意した”船”とやら──これは生前で言うところの”水上バイク”。いや、この場合は”砂上バイク”と名付けた方が正解か。


 どういう原理で走行を可能にしたのかは(さだ)かではないが、後方の排気口から砂を噴出しているようにみえる。中の動力源は、おそらく魔法石によるものだろう。東大陸の技術には恐れ入る。

 形状は水上バイクそのもの。しかし機動性を底上げすべく設計されており、その横幅は狭い。ひとり乗りであった。

 カナリアが不安になるのも頷ける。生前の知識にある二輪バイク同様、安定性にやや欠ける形状だ。しかも試し乗りなし。ぶっつけ本番。手に汗が握る。

 幸い、周りに遮蔽物(しゃへいぶつ)はない。今のところ真っすぐ進むだけなので、うまくバランスさえ取れれば問題ない。


 後ろに続くクリスとエルドライトは何食わぬ顔で乗りこなしている。クリスに至っては「ヒャッホー!」と楽しげに蛇行(だこう)運転すらしていた。

 バイクは全部で四台。僕は当然、カナリアの膝の上だ。


「はぁ……結局、ヴァンの目撃情報はなかったし、こんな船に乗らなきゃだし、この先も不安だよ……」


 憂鬱になって溜息をつくカナリア。鼻や口に入らないように布が巻かれて隠されており、ゴーグルも装着されていた。顔色を(うかが)ってみても一見してわからないが、どんな表情を浮かべているのかは想像に(かた)くない。

 港でヴァンの情報を聞き回ってみたものの、結果は彼女の口から(こぼ)れた通り。情報交換も盛んな場所であったが故に、ショックも相当だ。


「気にすることはない! 我輩の祖国でも情報は集められる! きっと見つかるだろうさ!」


 爽快に笑い飛ばしてジンが慰めてきた。

 こういうとき、彼の底知れぬポジティブさには助けられる。彼の言うとおり、情報網はひとつに絞らなくていい。祖国とやらで見つかる可能性だってあるんだ。


「そう、だよね……よし!」


 素直に受け取って、カナリアも前向きに。まだ旅は始まったばかりだ。根気強く粘ろうという気概が伝わってくる。

 ハンドルをもう一度つよく握りなおし、アクセルを踏もうとした。


 ところが、ここでアクシデント発生。


「──皆の者、一度旋回(せんかい)せよ」


 ジンが声色を低くして告げる。


「え、なになに?」


「魔物だ」


 クリスが聞き返すと、すかさず返答。言うとおりにスピードを落としながら、その場でぐるっと旋回をする。

 彼が見つめる矢先──僕たちが進もうとした道のりの砂海から”ヘビ”が登場したのだ。


 ギシャァア!


「なにあれ!」


 カナリアが仰天。無理もなかった。

 見た目はコブラ。だが大きさが桁違いにデカい。人間を丸呑みできるほどの口。砂海から伸びる図体は、未だ尻尾を見せていない。だというのに、もう首を曲げて見上げるほど背丈があり、影を映していた。

 おおよそ、一軒家ぐらいの大きさはある。緑色のウロコが艶かしく反射する姿からして、さながら『雲竜(うんりゅう)』の如く。


 その赤い目が、僕たちを捉えた。


「……駆動音で気づかれた。戦闘準備に入るぞ!」


 ジンが取り仕切り、旋回をやめて砂の上を滑らせる。

 停車して様子見──という選択肢がなかったのは、ここが砂海であるが故だ。曰く、この場に足を着かせると無限に沈むのだという。底なし沼と同様らしい。停車などしたらそれこそ”船”ごと沈むのだと、乗車する前にエルドライトからキツく注意をされていた。


「我輩らが引きつける。そのあいだに魔法を!」


「クリス様、カナリア様、あとはお願いいたします!」


 阿吽の呼吸でふたりが先陣を切る。(たく)みな運転(さば)きで”雲竜”の前まできたところで攻防がはじまった。

 まるでダイブするかのように大口を開けてジンを丸呑みにしようとする。彼は寸前で(かわ)し、すかさず詠唱を唱えた。


「黄の美よ──」


 服の中から黒い砂が舞い、彼の手中に収まると同時に、とある形へと変形──剣だ。

 これが造形の魔法。いわゆる錬金術と呼べる代物だった。


「てやぁ!」


 雲竜のウロコに剣を突き立てる。だが所詮(しょせん)、走行しながらの攻撃。まったく歯が立たない。


(ここはジンの言ったとおり、僕らが魔法を使わないと……)


 砂海から再度、大口を開けて突き破ってくる。今度はエルドライトを標的にしたようだ。

 彼女もこれを大胆にジャンプして避ける。着地した途端にバイクが揺れ、転倒してしまいそうになったのがヒヤリハットポイント。

 なんとか難を(しの)げているが、いつまでも持つとは限らない。


「カナリアくん、大丈夫かい?」


「先生! 私こっからどうすればいいか分からないです!」


 クリスが横に寄りそう形で走らせながら聞いてくるが、大丈夫なわけがない。案の定、こちらは目眩(めくるめ)く展開についていけず、大混乱中。

 地上ならまだしも、慣れない乗り物に跨がりながらの魔法となると難易度が跳ね上がる。集中力のリソースを割く余裕がないのだ。

 ならば──


「貸して!」


 僕は両手をぐにーっと伸ばしてカナリアの手の上からハンドルを握った。伸び縮みが自在にできるようになったのも、日々の鍛錬の賜物(たまもの)

 手と手が重なって、一瞬だけドキッとしたが、今はそんな場合じゃない。


「運転は僕が代わりにやる。カナリアは詠唱して!」


「──うん、お願い!」


 ハンドルを手放し、空いた手を雲竜へ向けて狙いを定める。

 僕は一定距離を保ちつつ、敵のサイド側へと旋回。ジンたちは変わらず相手を翻弄させていた。


「準備ができたら言って。合図を送るから」


 クリスも状況を判断してアシスト。残念ながら、この場において彼女の出る幕はこれぐらいしかない。攻撃手段を持たないのだから当然だが。

 カナリアが了承の意を込めてうなずき、目を閉じる。詠唱を奏でた。


「黒の理解よ。我が願い、聞き届けたまえ──」


 刻々と紡ぎ、大気が震えはじめる。

 かの爆裂魔法──その真髄(しんずい)を見せてやろうと言わんばかりに、ひとつ、またひとつと言葉を募らせた。


(えん)(ざい)(じん)(きら)めく光は、我が翼をも溶かす灰燼(かいじん)業火(ごうか)──天まで駆けて、華々しく咲かん!」


「カナリア……?」


 今まで聞いたことのない羅列(フレーズ)。少し不安になったところで合図が飛び交った。


「いけます!」


「ふたりとも! 離れて‼︎」


「待ち侘びた! エルドライト!」


「はい!」


 ふたりが急旋回して雲竜から距離をとる。

 無論、敵も追いかけようとするが──


「黄の美よ!」


 ジンが言い放つと同時に、雲竜がいる砂海に変化が起きた。

 ボコボコと沸騰するように砂が盛りあがり、ひとつの山が出現。ここでようやくヘビの全体が明らかになった。

 あまりにも唐突に発生した巨大な突起物。その勢いに負け、砂上に晒されるのだった。

 なんという置き土産。カナリアが狙いやすくもなったし、打ち上げられる隙に逃げる距離も稼いだ。


「カナリアくん、やっちゃって!」


「ハァァ──!」


 クリスの合図が火蓋を切る。閉ざした目をカッと開き、ありったけのマナをぶつける。


「『祝福せよ(ビナー)──紅焔爆撃(イカルス・プロージョン)』‼︎」


 キラリと光った瞬間、火柱が雲竜を包んだ。


「ギ──‼︎」


(おわっ!)


「おっと」


 耳をつんざくほどの爆音。巻き起こる爆風。危うく転倒しそうになった。咄嗟にクリスが隣まで来て支えてくれたおかげで何とか持ちなおす。

 それにしてもなんて火力だ。火柱が天まで続くのではないかと思うほど高く昇り続けているではないか。

 雲竜もこれだと無事では済まない。断末魔というものを初めて聞いた。文字通り、消し炭。


「いやぁ、すごいねー……」


 これにはクリスも感嘆の声をあげた。徐々に細くなっていく火柱を苦笑いしながら眺める。

 爆裂魔法、ここに極まり。あまりの威力に唖然とするしかなかった。


「やっ、た……」


 葬ったのを見届け、ふいに彼女がフラつく。


「カナリア!」


「よいしょっ──」


 これも危うく、砂海に倒れこむところをクリスが支えて救出。

 だけども、内心ホッとするには早すぎる。


「先生!」


「大丈夫。気を失ってるだけだから」


 考えてみればあれだけの巨体の敵を、ありったけの魔力を使って倒したのだ。意識が飛ぶのも不思議ではない。

 しかしどうして、こうも胸がざわつくのだろうか。

 カナリアが唱えた魔法──素人目からしても間違いなく上級クラスだ。なのに、ドス黒い何かを感じてやまない。


「どうした、何があった」


 そうこうしているうちに、後ろからジンとエルドライトが帰還。スピードを出しつつ状況を聞いてきた。


「この前のキミと同じ現象だよ」


 クリスが端的に答えて、彼が眉をひそめる。


「マナ枯渇症──あれで我輩はしばらく眠りこけてしまったが……」


 以前テルル村にて、ジンはマナを使い果たした。その結果、当面のあいだ村で眠り続けるという経歴がある。

 まぁ、そのせいでルースリスとも激しくぶつかりあったわけなのだが……


「今回は私がいるからね。とにかく、早くこの砂海から抜け出さないと治療もできないよ?」


「それなら安心してください──」


 クリスが自慢げに薄い胸を叩くが、場所の問題がある。

 だがエルドライトが指をさして遠くを見るよう促した。


「見えてきました」


 遥か前方──砂丘の山の間から、薄っすらと建物が顔を覗かせていた。


「あれが……」


 僕のつぶやきに、ジンが割って答える。


「そう、あれが我輩の祖国──造形と美、芸術をこよなく愛する国『ロスバラスチア』だ!」


 アクセルを踏んで、かっ飛ばす。

 目的地はもう、すぐそこまで来ていた。

今回登場したビナーの魔法。

「イカロス」をラテン語で「イカルス」というそうです。

自らの翼さえ溶かす──まさに諸刃の剣ってやつですね!

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