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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第二部 一章 〜東大陸〜
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エピソード8 港


「ぐえ、なんか変な感じ……」


 船から降りて、僕たちは港に足を着かせる。フラつく足取りでカナリアがつぶやいた。

 海上に慣れたせいで、みんな千鳥足である。ありもしない波の感覚が足にこびりついて、おもしろいほど錯覚に揺られるのだ。

 空は快晴。真上に太陽が照りつけて、まるで焦がしてくるようだ。


(ここが東大陸──)


 僕は到着早々、まわりを見渡した。

 港では多くの人集りが行き来しており、ひと目で栄えているとわかる。それもそうだ。ここは港。(あきな)いたちの仕事場なのだ。

 西大陸の港でもヒトは多くいたが、船が多く並ぶだけの物寂しいところだった。例えるなら空港──どこそこ行きの船を案内する、大きな施設といった感じだ。


 しかし東大陸(ここ)はまったくの別物。着いた途端に市場が広がっている。様々な物資が流れてくるのだろう。アラバスタ国では見られない品物がズラリと並んで売られていた。

 行き交うヒトも地元民なのだろうか。ほとんどがジンと同じ褐色肌で黒髪だ。異国に来たという実感がヒシヒシと湧いてくる。


「へぇ、聞いてたとおりの砂漠地帯なんだ」


 酔いが覚めたのか、カナリアもキョロキョロと見回して感想を述べる。

 港といっても、舗装されているのは本当に船場ぐらい。一歩、大陸に踏み込めば柔らかい砂浜ばかりが続いていた。

 草木はない。おそらく空から地上を眺めても、緑はごく一部に限られるだろう。


 これが東大陸──”枯れた大地”の代名詞。


「では、私はいったん船に戻ります」


 シエルが切り出した。


「あ、そっか。まだ入国許可が降りてないんでしたっけ?」


 カナリアが思い出したように彼女の方へ振りかえる。

 名目上、護衛と監視のふた役を担うはずのシエル。だが、肝心な東大陸側からの承諾が(いま)だないのだという。

 計算ではもうすでに降りてもおかしくはないのだが……何かしらのトラブルがあったのか、別大陸の王国から軍人を派遣させるという名目がアダとなっているのか。それはわからない。


「これも軍人として務めです。しばらくのあいだ、不在となることを許してください」


「いやいや! こっちこそ、本当なら許可が降りるまで待つはずなのに……」


 律儀に頭をさげる彼女に、カナリアが慌てて遠慮する。

 本来ならお目付られ(・・)役として、この場に(とど)まらないといけない。ところがあの堅物(シエル)が『先に行ってくれ』と(あらかじ)め申しでたのだ。


「弟を探すのでしょう? ならここに留まっても仕方ありませんよ」


「シエルさん……」


 彼女なりの餞別(せんべつ)。信頼しているからという裏付けでもあった。

 アドニスがひとしきりに”堅物”と呼称するが、そんな彼女にもヒトの心がある。やさしく微笑む表情。潮風で(なび)く紺色の髪。それでも凛々しく映るのは、他でもない彼女の個性(みりょく)だった。


「当然、許可さえ降りればすぐにでも駆けつけますので、そのおつもりで」


「え? あ、はい……」


 スン、といきなり元の顔になって忠告。気温のいちの度数は意外と大きい。普段から表情を抑えているからこそ、急に温度差を突きつけられるとこちらも反応に困ってしまう。現にカナリアの反応が薄い。

 僕も大手を振って、彼女としばしの別れにジェスチャーを送る。


「アインも、私のかわりに彼女を守ってください」


 激励の言葉もいただき、うなずいて返答。今度こそシエルは船の方へと立ち去っていった。

……とはいったものの、戦力的には大きな損失に違いない。ヴァンのことを考えると、ここで足踏みをしている場合ではない。だが一応、未知の大陸である。ありとあらゆる危険性を(かんが)みて、シエルの脱退は非常に痛手である。一時的とはいえ、だ。


(だからこそ、頑張らないと!)


 つい先刻、船内でエルドライトに告げたではないか。

 シエルに頼らなくても、僕が守る。僕が救う。何があってもだ。


「ではここで一度解散としよう!」


 シエルと入れ違いにジンが登場し、提案してきた。


「かいさん?」


 これには当然、僕もカナリアも首を傾げる。


「ここは港ッ! 情報の溜まり場ッ! ヴァルヴァレッツの足取りもッ!」


 暑さに耐えかねたのか、上半身ハダカで次々とポーズを決めるジン。最後はサイドチェストをして己の肉体美を晒した。


(なんでだ……青い海、白い砂浜、照りつける太陽と来たら、女の子の水着が定番じゃないのか……)


 ここぞとばかりにお悔やみポイント。

 なぜ男の裸体を見なければならないんだ……今さらだけども。


「ヴァンのことを調べるチャンスってこと?」


「いえーーっす!」


 単語を(ひろ)いあげて、カナリアが独自に解釈した。

 なるほど。多方面からヒトが集まるこの港なら、失踪したヴァンの目撃情報など聞けるってわけか。ポージングでまったく頭に入ってこなかった。


「ワタクシたちは祖国に向かうための新たな船を用意して参ります。その間にカナリア様たちはご自身の目的を果たされるよう、行動すべきかと」


 エルドライトが割り込んで補足。


「アークライト様、行きますよ」

「今日の我輩、キレてる!」

「早くしてくれませんか」


 ついでにジンを引き連れようと足蹴にしながら進む。

 これで残るは僕とカナリアの二人だけになった。


「あれ、先生は?」


 ふいにカナリアがつぶやく。

 そういえばクリスの姿が見当たらない。まだ船に残っているのだろうか。


「クリス様ならあそこに」


 エルドライトが一瞬だけ戻ってきて、指をさす。

 指された先は市場の入り口。そこで目を輝かせながら物品を眺める彼女の姿があった。


「ねぇおじさん、この果物は?」


「ドラゴン果実だよ。かの勇者が倒したとされる龍の(むくろ)から生えた樹。そこから実ったものだね」


「へぇ〜! いくら?」


「見ない子だね。東通貨は持ってるかい?」


「西なら」


「だったら西銀貨(せいぎんか)──二枚だね」


「ええ! 銅貨(どうか)三十枚で譲ってくれるって!?」


「ちょ、誰もそんなこと言って──」


 わざとらしく大声を張りあげて偽りの値段を聞き返す。

 すると周りのヒトたちが興味津々にぞろぞろと集まってくるではないか。商売で『安売り』と聞けば、寄ってくるのも道理。あちこちから「俺にもくれ!」という声が聞こえてくる。

 瞬く間に行列ができあがる。(はた)からみれば商売繁盛。その実、値踏みの強攻策に打ちのめされていた。

 こうなっては収集がつかなくなる。ボッタくる相手を間違えたおじさんに、同情を禁じ得ない。


「はい、客寄せ料」


「せめて銀貨一枚で許してくれ……」


「ノった!」


 銀貨を指で弾いて、クリスは(おぞ)ましい見た目の果実を購入。

 おじさんが「トホホ」と肩を落としながら他の客の相手をするハメになっていた。


「なんだか、楽しんでるね……」


 隣で眺めていたカナリアが苦笑い。同感である。

 そうこうしながら、僕たちは港でヴァンの情報集めに取り掛かるのであった。

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