エピソード6 カンパイ
船内には乗客室がそれぞれ個別に分かれているが、ひとつに集まれる会場があった。
会場といってもそう広くはない。船内なのだから当然だが。
そこに僕やジン、クリス、シエル、カナリア、エルドライトを交えて食事と相成った。
「甲板の見張り、ご苦労さまです」
「なんてことはありません。それよりも、こうして食事をする方が落ち着かないのですが……」
席につく前に、エルドライトがシエルに頭をさげる。
シエルにとって魔物討伐は日常茶飯事のご様子。むしろ甲板護衛を続けたそうにしていた。
「結構、結構。もうすでに安全域に入っている。麗しき女性にこれ以上外にいろ、なんてこの我輩の美に反する」
ジンが食卓の準備に勤しみながら割って入る。
こういう準備は侍女が率先してやるものだと思うのだが、正直言って彼の行動は予測不可能。主人が勝手にやってました、で済むのだと解釈。
彼の好意もムダにするのも気が引ける。シエルはそう考えたのか、「そういうことなら」と溜飲をさげる。
「わー、これジンが作ったの?」
カナリアが席につくなり鍋に見惚れていた。
初めてみる料理に興味津々のようだ。
「我が国の郷土料理だ。出汁を基に、色々な食材を放り込む……大雑把のように聞こえるが、これがなかなか奥深い」
「へぇ〜! ……これは?」
ジンの簡単な解説に相槌を打ち、鍋の中にある膾を指差して問いかける。
「魔物の肉だ」
「……え?」
「聞こえなかったか? あの魔物──半魚人の膾だ」
「へ、へぇ……」
聞いたことを後悔したのか、青ざめながら返答するカナリア。
いやわかる。倫理観の話ではなく、ちょっと受け入れ難い見た目をしていて抵抗があるってだけのことだ。
ていうか、甲板で僕が袋を持って運んだものについてシエルから何も聞かされてなかったのか。
「アイン、そんなもの運んでたの?」
彼女が覗き込むように目を合わせてくる。何でもっと早く教えてくれなかったんだっていう、目をしている。いわゆる、ジト目。いきなり顔が近くに映り、僕の頭の灯火は一気に熱を帯びた。
さっきジンと話した内容が脳裏をチラついて意識してしまう。たぶん、僕に顔があったら赤面を隠すようにして俯いていたのかもしれない。
「おー、魔法生物でも照れることがあるんだねー」
そんな心情もお構いなしに、カナリアの反対側に座るクリスが茶々を入れてきた。
放っておいてほしい。
「それでは皆の者、席についたか?」
そのジンが待ってましたと音頭をとる。
容器に鍋の具がよそわれ、酒が注がれたグラスを掲げた。
「我輩の祖国はもうすぐ。ここで英気を養い、とくと味わってほしい。マドモワゼ──」
「かんぱーい!」
話が長くなりそうになったところでクリスがぶっつりと遮断。勝手にグラスを持ち上げながら声を張りあげた。
キンっと鳴る音。みんなも続いてグラスを合わせたのだ。置いてけぼりにされたジン。されど負けず、
「オオ〜〜、麗しき美! 美とはつまり芸術! 芸術にカタチなど不要! 我輩の肉体も、打ち震ぇ〜〜っろ!」
独自の世界に浸り込んでいた。
(というか、誰も裸エプロン姿にツッコミを入れなかったな……)
もう、そういう妖精か何かだとみんな割り切っているのだろうか。
恐るべしヒトの順応力。僕も見習いたいものだ。
意外なことに、ジンの料理は好評だった。膾もいい具合に塩味がついており、アクセントとしては充分。
カナリアも頬に手を添えながら頬張るぐらい。僕も灯火に捧げて食し、おおかた大満足だ。
みんなが食事を終え、エルドライトが食器を片付ける。
ジンは食器洗いのために厨房へ。シエルは甲板にて護衛に勤しむことになり、クリスは昼寝をすると言ってカナリアとどこか行ってしまった。
クリスに関しては、この場に他のヒトが入り込まないよう舞台を整わせてくれたのだと思われる。あのような少女姿をしているが、根っこは大人なのだと気付かされるばかりだ。
つまり、この会場にいるのは僕と彼女のふたりだけ──
「……考えがまとまったようですね」
食器を片手に、背後にいる僕へと視線を向けられる。
僕もただポツンと立っているだけじゃない。小さいカラダなのに仁王立ちをして、挑む姿勢を作った。
彼女は食器をテーブルに置き、向き合う。
「では聞かせてください。アナタの答えを」
「────」
ゆっくりと灯火を揺らして、頭の中を整理。
僕の中にある大きく三つの要素。クリス、シエル、ジンの三人から教わったことを反復させて、青火を焚いた。
マナに想いをのせて、言の葉を奏でる。
「僕は、カナリアが好きだ」
あけましておめでとうございます!
連日の忙しさゆえ、今回は短めにして明日から通常通りに更新していこうと思います。




