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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第二部 一章 〜東大陸〜
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エピソード3 先生と

 黄昏たって仕方がない。時間は刻一刻と過ぎていくのだ。

 甲板から降りて船の内部へとお邪魔する。もっと外の景色を堪能したかったが、きっとあのまま座っていても何の解決にもならない。

 こういう行き詰まったときは、誰かに相談するのが一番手っ取り早い。僕は乗客室までの通路を(ひた)走った。


「おっと──」

(あっぶな!)


 危うくぶつかりそう──というか蹴られそうになったのだが、互いに踏み止まって鉢合わせる。

 ピンク髪の少女、クリスだった。


 異国への旅路の同伴者は複数人いる。彼女がそのうちのひとり。

 本来であれば王都に残っているはずの人物なのだが、諸々の事情があって連れていくことになっていたのだ。


「こんなところでどうしたんだい?」


 さすが先生。僕が少しばかり呆然と立ち尽くしてるのをみて、すぐに屈んで心配してくれた。

 首をやや傾けながら聞いてくる仕草(しぐさ)は、相変わらず見た目相応(そうおう)の可愛らしさ。

 彼女になら、いま抱えている問題を解決に導いてくれそうだ。僕は青火にして答えた。


「ちょっと相談したいことがあるんだ」


「うむ、是非(ぜひ)とも聞かせておくれー。キミみたいな希少な魔法生物とゆっくり語らえるなんて、それこそ滅多にないからねー」


 これも相変わらず適当そうな回答。

 大丈夫だろうか……さっそく人選を誤った気がする。


「場所は……ここでいいかい? 甲板に行く途中だったけど、なんだか波が荒れてそうだし、部屋に(こも)る気分じゃないんだ」


 彼女の提案にうなずく。

 僕たちは通路の端にうずくまるようにして並んで座り、そして悩みを打ち明けた。




「──なるほどね」


 エルドライトのことは伏せた。

 彼女から口外するなと釘を刺されていたが、それは彼女自身から突きつけられたという点を(はぶ)けば問題ないと判断。

 クリスも僕の悩みを言いふらしたりする性格はしていないだろう。


「このままカナリアくんについて行くべきか(いな)か……アインくんはもう答えは出てるのかい?」


 反芻(はんすう)したのち、聞いてきた。

 船の内部はゴウゴウと色々な音が混じって反響する。鉄で作られた技術は、ジン曰く、東大陸ならではの最先端らしい。

 ぐらりと揺れて、僕はまたうなずいて答える。


「なら話はすでに決着してると思うんだけどなー」


「それじゃダメなんだ」


 暗い鉄の天井。配管が張り巡らされているところを眺めながら彼女はつぶやいた。

 今度は首を横にふる。そうそう簡単に割り切ってはいけない。


 とある数式があるとして、僕が答えだけを(つづ)ったとしよう。途中式は真っ白なままで。

 エルドライトはその”途中式”を聞いているのだと推測される。たしかに、答えが出ていても途中式が無ければ減点対象だ。

 だが難しいのはここから。これは数式にあらず。ヒトの心なのだ。


 クリスの言うとおり、僕に明確な答えがあるのなら、理由はどうあれそれに従えばいいはずなんだ。

 けれども、それを良しとしないのが例の侍女であって──


「じゃあ、こうしてみよう」


 またもウジウジと悩みはじめている僕をみて、クリスが提案した。


「いま抱えている状態を一つずつ紐解いてみよう。箇条書き、とでも言うのかな?」


「……と、言うと?」


 彼女が一本ずつ指を立てて解説。


「まずカナリアくんと一緒にいたい『理由』、アインくんが持つ『危険性』、そして最終的に自分がどうしたいか──『終着点』とでも言おうか。こうして大まかに分けてみると考えやすいだろう?」


 なるほど。彼女の助言に納得する。

 言うなれば、盛大に絡まった糸を見て(なか)ば諦めていた状態だった。しかし、こうして一本ずつ分け(へだ)ててみれば単純な結び目だと気付かされる。

 僕はひとつの悩みを、大きく捉えすぎていたみたいだ。

 さすが先生。人生相談お手のもの。


「こういうときは始めに『終着点』から考えるといいかもしれないね」


 一番の難関を始めにもってくる辺り、先生だ。


「僕の、終着点……」


 つぶやいて考える。最終的にどうしたいか──

 こうやって向き合ってみて初めて見えてくるものがある。しかし、考えれば考えるほど真っ暗闇。


 それこそ最初は、自分のことを知りたいと思っていた。

 魔法生物とは何なのか、どうして心の欠片(フラグメント)という力が宿ったのか、そもそも自分はなぜ生まれ変わったのか……

 それも今は昔の話である。


 カナリアを支え、キノやレラを助け、テルル村のみんなや王都の民を救った。

 それでいいと思っている。これからもそうしたいし、そうありたい。

 なら、僕の終着点はそこなのか? 答えは”半々”。


 成り行きで助けたというのもあった。でも、根本では”何か”があったんだ。

 みんなを救ったのは、その結果にしかならない。


「……羨ましいね」


 思いに(ふけ)っていると、クリスが唐突に(こぼ)した。


「うらやましい?」


「そう。『自分の終着点』なんて言われてもそう簡単に答えが出るとは限らない。大抵の場合、”保留”だよ」


 膝を抱えながら、彼女はうつむき気味に(つら)ねる。


「普通の人はそんなにも熱心に知ろうとしないさ。私みたいな根っからの研究者から言わせてもらえばね」


 彼女の知識は常人を上をゆく。

 ドーラ家による探究心の成せる(わざ)なのか。すでに”魔法”という領分から逸脱して”科学”まで解き明かそうとしている変わり者。

 そんな彼女が、こんな僕に何を羨むというのだ。


「さすがの私でさえも、その答えに行き着くまで何年もかかったさ……いや、今もまだ半分しか答えを出せていない」


「半分?」


 僕も同じようなことを考えていたので思わず口に出してしまった。

 彼女がうなずく。


「他のモノには興味があっても、自分のことになるとね……だから羨ましいんだ。”内にも外にも”興味津々なキミが──」


 一拍置いて、告げてくる。


「キミはよっぽど、色んなことを知りたいんだね」


「知り、たい……?」


 ドクン、と灯火が波打った。

 瞬間、脳裏(のうり)にカナリアが映りこむ。


『もっと遠くを見てみたい。色んなことをもっと知りたい──』


 ノスタルジア国でアドニスに言った言葉。この旅の始まりとなったきっかけ。

 色んな景色を見て、知りたい──


 僕の様子をみて、クリスが微笑んだ。


「見つけたみたいだね」


「うん。ありがとう、先生」


「なんだか照れ臭いなー。アインくんみたいな魔法生物に褒められるとくすぐったいよ〜」


 元の適当スタイルに戻る。わざとらしく頬を掻きながら、彼女は立ち上がった。


「一番むずかしいところは解けた。あとは何とかできるね?」


 大きく頷いてみせる。これ以上、付き合わせるわけにもいかない。


「いい感じに暇つぶしになったよ。じゃ、私は部屋にでも戻るかな」


 そう言って歩きだそうとした途端──


 ピーピーピー。


「ん? ……おわっ!」


 船内に警告音が鳴り響くと同時に、大きな揺れが巻き起こった。

 明らかな異常。クリスと転ばないように()せていると、通路の奥から人影が走ってくる。


「魔物です! 戦える者は甲板に、それ以外は乗客室へ!」


 旅の同行者のひとり、シエルだった。

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