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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第二部 一章 〜東大陸〜
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エピソード1 ざまぁみろ

 男が監禁されて数時間がたつ──

 手足を拘束されて身動きが取れない。冷たい床をまるで芋虫のように這いつくばっている。肥えた腹がなんとも醜い。殴られたあとが効いているのか、思うように動いていない。


 そこに、ふたつの影が差す。


「さぁ、仕上げといこうか」


「〜〜!」


 口を縛られており、声を出しても言葉にならない。呻くのみ。

 囚われている男の視線の先に、青年が映り込んだ。


 大人しそうな見た目。黒髪に黒い瞳。この国では珍しくもない凡人。

 顔に覚えがある──過去に一度、『役立たず』と適当に罵って遺跡(ダンジョン)調査のメンバーから外した男だ。


「……本当に、やれと言うんですね」


「当然だとも。これがキミの復讐(キズ)じゃないか」


『傷』と例えたもう一人の顔は見えない。しかし、言動には何故か惹かれる力があった。”カリスマ”とでもいうのだろう。

 青年は催促してくる人物の方を一瞥し、囚われた男と向き合った。


「そう、キミには権利がある。不当な扱いを受けたにも関わらず、この男は浮いた報酬金でのし上がった。何人も、キミと同じような扱いを受けた子がいるじゃないか。ココロに受けた傷は、そう簡単に癒えはしない──そうだろう?」


 背中を押す。青年が腰の剣をぬき、振り上げた。


「〜〜‼︎」


 これには男も必死になる。涙を浮かべ、懇願する。

 許してくれ。もう悪いことはしない。改心する──いや、もうした!

 そう言わんばかりに首を振り続けていた。


「──っ」


 逡巡する青年。恨みがある。晴らしたい憎しみがある。しかし──


「すまない。やっぱり俺は……」


 カラン、と剣が床に転がった。

 一拍の静寂が部屋を支配。やがて呼吸を再開する囚われの男。浅く早い息遣いが、自分が生きている証拠なのだと実感する。


「……そうかい」


 青年の背後からは溜息がつかれた。

 呆れた。呆れられた。そう捉えられてもおかしくない声が、部屋の奥にいる二人にそそがれる。

 その人物が続ける。


「いいんだ、キミがそれで納得できるなら。強制はしない。だけど──」


 暗く狭い空間に一歩踏み込んだのは、それはもう美しい男性だった。

 黄金の長い髪。整った顔つき。真っさらな肌で、純粋さの塊。だがそれ故に向けてくる視線が恐ろしい。

 何も感じさせないのだ。まるで虫でも見てるかのような瞳。ヒトをヒトとも思っていない。


 囚われている男が感じた第一印象。不気味の谷──完璧な見た目だからこそ不安になる。


「報酬は頂かないとね」


「それはもちろん。お金は支払いま──ッ!」


 青年が突如、苦しみだした。

 アゴが外れるほど口を開かせ、泡を吹きながら喉を両手で押さえる。明らかに異常をきたしていた。

 それだけではない。青年の体からブシブシと血が噴水のように飛ぶ。


「ッ──‼︎」


「まだ報酬のことは言ってなかったね。お金なんていらないよ。欲しいのは、キミの”傷”さ」


「〜〜!」


 囚われの男が目にしたのは、もがく青年を興味深く眺める美しき悪魔。

 恐怖に慄いて身を捩らせる。相変わらず肥えた体が邪魔で、うまく態勢が整わない。


「ふむ、キミは過去に毒でも盛られたのかい? 体の出血は遺跡調査で、かな? 骨が折れてるね。高所から落ちた経験ありとみた」


 端正な顔が歪む。笑っている、ように見える。

 何もかも不気味。決定的な何かが欠落している顔だった。


 一分もしないうちに、青年が絶命。

 手足があらぬ方向に折れ曲がり、血反吐と血便を体内から絞るように出しきり、白目をひん剥いたまま崩れ落ちる。

 再び静寂が訪れた。


「……時間にしては耐えた方だね。えらいなぁ、キミは我慢つよい子だ。軌跡としては、少々ありきたりだったけどね」


 パチパチパチ、と拍手を送って締めくくる悪魔。

 そして次第に視線が囚われの男に向く──


「さて、キミをどうしようか迷っているんだ」


 純白な悪意。


「〜〜!」


 首を振る。涙を流して抵抗する。だが、醜く揺れるだけでどうにもならない。

 コツ、コツ、コツ、と靴底を響かせて近寄り、目の前で屈んだ。


 おもむろに縛られていた猿ぐつわを外してくる。


「──た、たすけてくれ!」


 何故わざわざ自由を解くようなマネをするのか、理解する前に男は命乞いをした。

 死ぬのは嫌だ。あの青年のようにグチャグチャになって死ぬのは御免だ──

 もう、なりふり構っていられない。


「金ならだす、いくらでもだす! そ、そうだ、ギルド長に興味はないか!? コネがあるんだ、地位も名誉も思いのままだ!」


 唾液を撒き散らしながら、ありとあらゆるものを差しだすと誓う男。

 何でも犠牲にしてきた。ここまで培ってきたものを手放すのは惜しいが、生きていてナンボである。凄まじい執念だった。


 しかし、男の要望を聞いていないのか、悪魔はニンマリと不気味な笑みを作るのみ。


「いい。じつに醜い──」


 何がいいのか理解できない。ただ、機嫌は良さそうだ。

 一筋の糸。今にも切れそうな綱渡りだが、手繰り寄せてみせると男の目に光明が映る。


「キミには確か、愛する家族がいたね」


「────」


 続く言葉に、男は絶句した。

 心臓を握られたような感覚。血の気がひく。


「家族。嗚呼、美しい……閃いたよ」


「な、なにをする気だ……やめてくれ、家族だけは!」


 どんな術を使ったか不明だが、平然とヒトを殺める異常者。

 ガクガクと震えが止まらない。こんな卑劣な男にも、愛する者はいるのだ。


「蜘蛛って知ってるかい?」


「──は?」


 いきなり振ってくる話題。クモは知っているが、それがどうしたというのか。

 悪魔は立ち上がり、黄金の髪を靡かせながらその場で踊りはじめた。


「おとなの蜘蛛は子を成したあと、子に食べられるみたいなんだ。素晴らしい、尊いと思わないかい?」


 理解に苦しむ問い。男の反応も待たずして悪魔は鼻歌まじりに続ける。


「テーマは家族愛だ。後世に残すために、みずから血肉となって受け継がせる……嗚呼、インスピレーションが止まらない!」


 勝手に自分の世界に浸ったと思えば、急にピタリと動きを止めた。

 悪魔は、無慈悲にも告げる。


「今からキミの肉を切って、あの婦人たちにお裾分けしよう!」


「え……?」


「そして食べてくれる様子を一緒に眺めようじゃないか! まずは怪しまれないようにモモから、バラ、ロース、サーロイン、タン……味付けもしないとね。塩やコショウも買わないと。最後は答え合わせとして頭部を──」


 この男は何を言っているんだ──もはや、理解の範疇を軽く超えていた。どこから指摘すればいいのか分からない。

 唖然としていると、悪魔はおぞましく嗤った。


「心配ないさ」


 瞬間、彼は息絶えた青年の剣を手に取って、男の太い足を斬り落とした。

 付け根を斬られ、ボトッと無造作に横たわる一本の足。


「──‼︎」


 錯乱するのも当然。叫び声をあげ、助けを乞う。


「大丈夫。安心して。どれだけ声をだしても助けは来ない。さ、深呼吸して」


「ハッ、ハッ、ハッ──」


 過呼吸になる寸前で、頭に冷や水でも被せられたような感覚。冷静になる。


「え……」


 痛みがないのだ。出血もない。足だけが落ちた。

 理解が追いつかず、尚も呆然としていると彼が演技をはじめた。わざとらしい動きだ。


「僕たちはそれぞれ”業”を背負っているんだ。そいつにとって一番イヤミになるような呪いさ」


 手を掲げ、足を曲げ、悪魔は謳うように解説する。


「僕の場合は”痛み”。さっきキミを殺そうとした青年にやったのは痛みを思い出させてあげた(・・・・・・・・・)のさ。そして業っていうのがコレ」


「グアぁ‼︎」


 もう一本の足も斬り落とされた。けれど泣いても叫んでもやってくるはずの痛みがこない。

「ね?」と肩をすくめて悪魔は嘆く。


「僕が手掛けても痛みや流血は起こらない。決して死なないんだ。でも物理的に切ったり折ったり凹ませたりはできる。皮肉なものだね」


 すごく悲しそうな顔でうつむくが、その仕草ひとつひとつが気色悪い。

 次に顔をあげて笑顔を振りまいた。ピエロのような笑みだ。


「だけど、感謝しているんだ。これのおかげで僕は作品を創れる。さ、死なないから安心して一緒に見届けようじゃないか。キミが築きあげた愛を──」


 狂っている。ヒトの皮を被った怪物に違いない。


 魔物なら喰われて終わりだ。ウワサの魔王なら殺されて終わりだ。

 でもこの狂人は魂の奥底までもズタズタに切り裂いてくる。

 男は舌を噛んで死んでやろうと思った。


「させないよ」


「!」


 だが、それも剣によって舌が斬り落とされてしまう。

 さっきまで生にしがみ付こうと思っていた。今は死にたいと願うが、死なせてくれない。

 地獄の幕開けだった。


「もう死んじゃったけど、彼の恨みもこれで晴れるだろうね。なんて言ったかな……”アクゼリュス”が前に言っていたんだ。巨悪や悪党に仕返しをして、スカっとする言葉……」


 狂人は唸りながら開けっ放しの扉に向かい、ゆっくりと閉めていく。

 まだ昼間。外の明かりが徐々に遠ざかっていき、男の顔は絶望の色に染まって──


「あ、思い出した!」


 バタン、と冷たく鳴った。


「”ざまぁみろ”、だ」


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