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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
閑話
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聖邪の夜その2

 アディシェスがいる場所まで歩む三つの影。日はすでに暮れており、薄暗い。田舎道を辿って進むと、ほんのりと明るい村が見えた。

 そこは、祭りで賑わう小さな村だった。

 蝋燭(ろうそく)の灯りがあちこちに飾られており、小規模ながらも(こだわ)りを感じさせる。竪琴が奏で、踊りながら酒をあおる村人たち。優しい明かりに包まれた場所──


「わぁ……」


 思わず少女(イーァツブス)が感嘆の声。大きな瞳にいっぱいの灯火がキラキラと映り、反射する。

 彼女の初々しい反応に、神父も益荒男も上機嫌だ。


「人間のこういう(いとな)みは、いつになっても美しいものですね」


「そうかぁ? ま、オレはこのちっこいのが満足ならそれでいいんだけどよ」


 ケムダーがギザギザの歯をみせながら少女の頭を乱暴に撫でる。撫でるというより、振りまわすといった感じだが。

 今の彼はただの面倒見のいい田舎兄ちゃんポジションにみえる。そのギャップを目にして、ヌートは口元を隠して堪えた。


「なに笑ってんだよ」

「いえ、そのようなことブフッ」

「はぁ……らしくねぇのは知ってんだよ」


 吹きだす彼も中々レアだ。普段は怪しい笑みばかり浮かべる胡散臭(うさんくさ)い男だというのに。

 気をとり直して、ヌートが少女の背中をやさしく押す。


「さ、行きましょう。今日は貴女が楽しむためにあるのですから」


「……うん!」


 元気よく頷いて、三匹の悪魔は村の中へ赴くのであった。




 遠くから見ても村は賑わっていたが、実際に近くで拝んでも一緒だろう──他でもないケムダーとヌートの見解である。

 彼女をここまで連れてくる途中、言葉は交わさずとも二人は予想はしていた。距離が遠いか近いかだけで、あまり変わらない。むしろ自分が周りに溶け込めない悪魔なのだと知ってしまっては、興も覚めてしまう。

 (かたく)なに『クリスマス』とやらを堪能(たんのう)したいと願うイーァツブス。一度、真実を突きつければ早々に飽きてくれるに違いないと踏んでいたのだ。

 なのだが──


「誤算でした……」


 プラチナブロンドの髪をボサボサにさせてヌートは肩を落とした。

 思えば、実際に近くで祭りというものに参加したのはこれが初めてである。経験もせず憶測で結論を導きだしていた己に恥じるばかり。

 そう。距離が近ければ近いほど、その熱気に当てられる。言わばこれは”焚火”だ。


 人が思ったよりも多く、ひしめきあっていた。特別な衣装を羽織る者たちの集団に囲まれ、無理やり踊らされ、酒を飲まされ、神父の格好というだけであちこちから引っ張りダコにされたのだ。

 現在、ようやくケムダーのところまで脱けだしてきたところ。


「ごくろーさん」


 含み笑いを作って、彼がくたびれた神父の肩を叩く。


「いやはや、祭りとは恐ろしいものです」


「そのカッコで行くのがわりーんだろ? お得意の救いのお言葉でもかけて回ったらどーだ?」


「勘弁してください」


 音をあげる彼に、ケムダーは下品に笑い転げた。

 恨めしく睨んで黙らせ、今度はそばで何やら食しているイーァツブスに目を向ける。

 彼女は棒切れの先に氷漬けにされたものを舐めている最中であった。


「おいしぃ」


 ひと舐めするたびに、頬を押さえて悶えている。


「それは?」


「氷の魔法で作られた菓子だとよ。むかし、この村にきた勇者さまの発案らしいぜ」


 ケムダーの解説に、神父がメガネを持ち上げた。


「勇者、ねぇ……」


 この世はまさに暗黒時代。魔族の王──魔王が侵略を繰り返す、果てなき(いくさ)

 聞けば、この祭りは侵略から守ってくださるよう神に祈るために(もう)けられたのだという。神父という肩書きだけの彼相手に(むら)がるのも納得がいく。

 自分たちには直接関係がない話ではあるが、どうにも思わずにはいられない。ヌートは(うれ)いの帯びた瞳を()()う人々に向けた。


「いつまで、このような時代が続くのでしょうか」


「は? テメェなに言ってんだ?」


 思わず吐露した言葉に、ケムダーがすかさずツッコミを入れる。


「んなの世の常だろーが。妬み、欲し、争い、奪う。魔王がいない時代でも、人間同士(アイツらはアイツら)で争ってたぜ?」


「────」


 返す言葉が見つからないのか、彼は黙り込んだ。


「ま、こうやって人間が間近(まぢか)にいるっつーのに、ただ遊んでるオレらの方が希少か」


 曰く、悪魔は人間の魂を食らう存在。契約し、堕落させ、望まぬ結果を叩きつけて教訓を与える。それが我々の役目なのだと彼はいう。

 しかし、今この場にいる悪魔は違った。

 ただただ欲することに()いているケムダー。

 やるべきこと、やりたいことが(さだ)まらないでいるキムラヌート。

 そして、生まれて間もないイーァツブス。


 それぞれ、今すぐ人間に害をなそうとは微塵も考えていない連中ばかり。他の悪魔からしてみれば異常でしかない。


「それも、そうですね」


 静かに彼の結論を肯定。

 人間はどこまでも愚かであり、どこまでも尊いのだと知っている。ゆえに、自分がどうすればいいか分からない。

 神父の格好に身を包ませたのも、それが原因だったりするのだ。


「ねぇ、あれ……」


「ん?」


 ヌートが感傷に浸っていると、イーァツブスが指をさした。

 目を(こら)らすケムダーが、


「あ!」


 声を張る。


「どうしたのですか?」


「アイツ、いねぇと思ってたら──」


 突如、彼が人間の群れへと走ってしまい、取り残される二人。


「またお得意の気まぐれですか?」


 やれやれと首を振って、少女の手を握ってあとを追う。すぐに追いついた。


「急にどうされたのですか」


「見ろよ、コイツ」


 何がおもしろいのか、彼がニヤつきながら腕を引っ張ってヌートたちの前に”ソレ”を晒した。

 侍女だ。それも別嬪(べっぴん)。彼が訝しげな目を向ける。


「貴方の趣味趣向にとやかく言うつもりはありませんが、ご迷惑をかけては──」


「……アディシェス?」


 隣の少女の答えに、小言が止まった。


「おー、よくわかったな」

「気配で、なんとなく」

「えらい! そこの神父さまは間違うどころか気づきもしねぇーときた」


 イジられるが、今は無視。


「”無感動(アディシェス)”、なのですか?」


 正解なのか確認を取ると、侍女が頷いた。


如何(いか)にも。そちらは貪欲、不安定、物質主義と見受けられるが」


 侍女は、口を動かさずノドあたりから機械音を鳴らす。

 これには神父も目から鱗。唖然(あぜん)呆然(ぼうぜん)愕然(がくぜん)な有様である。


 ついこの間、会ったばかり。その時の彼は、鉄の竜の姿だった。間違いようがない。


「オレらは今、このイーァツブスのためにだな──」


 フリーズしているヌートを他所(よそ)に、ケムダーが掻い摘んで現状を説明。


「なるほど。承知した」


 侍女も納得したご様子。


「まってください、アディシェス。何故このような場所に、そのような格好で……」


「おいおい、話聞いてたか? コイツが近くにいるから探すぞって」


「それは(ぞん)じておりますよ。ですが、このような形で出会うとは予想できますか」


 横槍を入れてくるケムダーをあしらいながら、侍女の姿をもう一度拝見。

 髪の色は茶色。肩ほどの長さでウェーブが特徴的。顔は先ほど述べた通り、別嬪。長袖の給仕(きゅうじ)服を纏い、貴族ご令嬢に仕える気満々である。


「我々は人間を知るためにここにいる。そしてこの姿は仮初(かりそめ)。『アディシェス・アバター』とでも名付けておこうか」


 質問に対し、律儀に返答。


「もう、なんでもアリなのですね。アナタは……」


 隣にいる益荒男とゴスロリ少女に至っては、クスクスと笑われている始末。

 情報量(ツッコミどころ)の多さに参ってしまったのか、ヌートは頭を抱えて溜息をついたのだった。




 祭りも佳境を終え、徐々に賑やかさがなりを潜めていく。夜はまだ長いが、そろそろ寝始める人間もでる頃合い。

 その間、大人悪魔三人が交代しながらイーァツブスの面倒をみていた。


「帰りましょうか」


「うん……」


 ヌートが少女に提案すると、あからさまに陰鬱とした表情を浮かべる。

 まだ遊び足りないのか、それとも不満なことがあったのか。人の心ですら読めない物質主義者(キムラヌート)にとって、難解を極めていた。


「終わってみれば、呆気ないものですね」


 そもそもの話、彼女に対してここまで気にする必要がどこにあろうか。

 この陰鬱なオーラこそが、本来備わってあるべき姿。なのに、何故か心のどこかで否定する自分がいる──


 ヌートは、俯きながら立ち尽くす彼女の隣で屈み、語りだした。


「わたしは、生前の記憶が曖昧(あいまい)なのです」


「え……」


「驚いたでしょう?」


 悪徳の座は全部で十。位の数が大きくなれば、相反して、混じり合う魂の数が少なくなっていく摂理。

 故に、九の位に位置する”不安定”と十の位に位置する”物質主義”の魂は、もはや単なる輪廻転生に等しいのだ。そして唯一許された特権──それが『生前の記憶の引継ぎ』なのだ。

 イーァツブスでさえも、生前の記憶から『クリスマス』という行事を思い出した。対し、ヌートの場合は欠陥だらけである。


 彼が夜空を仰いだ。


「わたしの中にあるのは、強い後悔の念だけでした。何に対して後悔したのかすら思い出せない、そのせいで自分の信念ですら持てずに常世(とこよ)彷徨(さまよ)っている有様です」


 なんとも情けない。

 ケムダーのような柔軟さもなく、アディシェスのような指標もない。他の悪魔と比べても、自分が何よりも欠陥品であることは明白──


「しかし、貴女のおかげでひとつ、思い出しました」


「なに?」


 今日一日、彼女を連れて色々な場所を巡った。

 はじめは(わずら)わしいと思っていたのだが、ふしぎと楽しめたのだ。そして彼女に対して、生前感じていた感情が再び芽生え始めている。


「わたしには──」


 その答えを、口にして聞かせた。

 生前、当たり前だと思っていたものを、目の前にいる彼女に向けて。

 彼女はよく分からないと言った様子。疑問符を浮かべる顔が可愛らしい。

 ヌートは柔和な笑みを浮かべた。


「『くりすます』の贈り物。サンタなる者は残念ながらいませんでしたが、代行してわたしから貴女へ贈りましょう──」


 屈んだ状態で、少女と向き合う。

 年端もいかぬ見た目。されども悪魔という宿命。しかし、彼はここぞとばかりに慈しむ瞳を作らせた(・・・・)

 ゆくゆくは、今ある感情が暴走するのだろう。ならばこそ、この時だけは。


「『イーア』」


「いーあ?」


「貴女の愛称です」


 生前、彼女にどんな災難が降ったのかは分からない。悪魔に堕ちる魂だ。きっとロクなことじゃない。

 だからなのか、少女──”イーア”は贈られた愛称を噛みしめるように唱え、微笑んだ。


「ありがとう、ヌート」


 彼女曰く、今宵は聖なる夜。

 季節なんて風情のある世界ではない。風習や習わしなんてものもない。しかし、贈れるものはある。


「おい、そろそろ行くぜ」


 背後からケムダーが声をかけてきた。アディシェスはいつの間にか姿を消していた。


「ええ」


 了承し、屈んだ足を伸ばす。


「行きましょう、イーア」


「うん……!」


 少女に手を差し伸べ、繋いだ。

 来訪した道を、三つの影が引き返す。道中、彼が手作りの十字架を握りしめて、祈りを捧げた。


 嗚呼、天主よ。我が祈り、聞き届けたまえ──と。

以上、とある過去話でした。次回からは通常のお話に戻ります。

24日、25日と続いて参りましたが、改めまして。メリークリスマス。

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