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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 五章 〜虚の王〜
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エピソード104 エルウィン

 変貌した護衛騎士から逃れ、エルウィンはとある場所に向かった。

 そこは、かの国王が眠る寝室──


「はぁ……はぁ……」


 肩で息を整えながら、なけなしの力を解除して眩ませた姿を晒した。晒すと言っても、他に誰もいないのだが。


『彼女が無事、貴方に靡くのであれば良好。否であるならば──速やかに殺しなさい』


 記憶が蘇り、”キムラヌート”と呼ばれる男から告げられた命令だった。

 出来れば妃に迎えたかった。恋心など、自分には持ち合わせていないと思っていたエルウィンにとって、非常に惜しい路線変更である。


 何故、彼女に惹かれたのか──

 それは、今は亡き母に似ていたからに他ならなかった。




◆◆◆◆◆◆




 エルウィンの生い立ちは実に複雑である。


 父である国王が、あろう事か侍女と子を成したからだ。

 貴族が子孫を残すのと、王族が子孫を残すのとではワケが違う。世間的に超えられない壁がどうしても付き纏ってしまう。

 そんな中、国王と侍女の間に生まれたのがエルウィンであった。


 母はすぐに亡命。生まれたばかりの子を捨てて姿を眩ませたのだ。

 そして過ちを犯した父は、罰と称してこの棺の中に閉じ込められた。

 永遠の理想郷──あたかも神の揺り籠に召されると祭り上げて、程よく厄介払いしたのだ。


 そして他の王族の兄弟が彼を第一王子に仕立て上げたのだ。次の人柱になる為に。


 父の遺品──と言っても死んでいる訳ではないが──を漁っていると、一つの絵が出てきた。

 それは、亡命した母の肖像画。

 生まれて間もない彼にとって、母の姿を再認識したのは十の頃だった。


 時が流れるに連れ、エルウィンの心は諦観に満ちていった。

 いずれやって来る人柱。自分の人生に、何の価値があるというのだ。

 第一王子になってから、自分の我儘が叱られる事なく受け入れられたのが滑稽で仕方ない。

 何も努力しなくても欲しいものが手に入る。その代わり、何も残せない。


 人より価値観がズレてしまうには、当然であり必然であった。




 そんな中、彼の前にグルツが現れた。

 諦観を指摘され、彼もまた自分の人生に価値観を見出せない様子からして、”同類”だと直感した。

 生まれて初めて、心を許せる(とも)に出逢った。

 変わった虚栄心の使い方をする彼との時間は、不思議と不快ではなった。


 こんな(おれ)にも、残せる何かがあるのではないのか──


 次第にそんな思想が過ぎる。そこに皇女ミラの登場だ。

 母の肖像画に似た女が目の前にいる。心が揺れないわけがない。


 なんとしても彼女を手に入れたい。

 そう心から願ったのも、生まれて初めてであった。




 そこに更なる転機が訪れる。

 ”キムラヌート”だ。


 メタトロニオス大聖堂に突如現れた彼の名に、心当たりがあった。

 世界には”十の悪魔”が存在する。父の書庫で読んだ書本に記されていたのを記憶してある。


『──我々は、貴方様をお迎えにあがりました』


 何かしらの思惑があるのは目に見えていた。

 しかし、このまま追い払っても自分の未来が変わることはない。

 ”悪魔”に魂を売った者は、いずれ破滅を迎える──

 信徒たちが口酸っぱく唱えている言霊。”破滅”という言葉ですら、エルウィンが欲していたものの一つに過ぎなかった。


『今日は機嫌がいい。貴様の思惑、乗ってやろうではないか』


 そう答え、彼を王室に招き入れた。


『──で、己は何をすればよいのだ』


『お話が早くて助かります王子。しかし、進言に参った私が言うのも何ですが、怪しいとは思われないので?』


 二つ返事で了承したのだから、相手が困惑するのは道理。

 エルウィンは自分の手のひらを見つめながら口にした。


『……己には何もない。行く末には何も干渉も許されず朽ちてゆくのみだ。故に、何かしらの”事”を起こす。その力が欲しい』


 口にして、手のひらを握り締める。


『なるほど。ええ、なるほど──』


 胡散臭く二度、悪魔が頷いて納得した。


『私が貴方様に願うのは一つ。この国の”偶像”──端的に言って”神”に至って頂きたい』


『神だと?』


『なにも森羅万象を意のままに、とは言いません。この国の信徒が貴方を奉る、その柱になって欲しいのです』


『……いいだろう』


 悪魔が語る詳細に、またも二つ返事で答える。

 この段階ですでに、彼の頭脳には筋書きが描かれていた。メタトロニオス大聖堂にて、玉座に座る演出を。


『一つ問う』


『何なりと』


 エルウィンは悪魔との契約に関して前向きに検討はしていた。

 ただ、相手は人を誑かす悪魔。願ってもみない方法で叶うのは御免被りたい。


『己の望みは二つある。一つは"力"。もう一つはノスタルジア国の皇女を手に入れたい』


 二つの望みを耳にして、悪魔は渋い顔をした。


『──いいでしょう』


『訳ありか?』


『いいえ、とんでもない。ですが条件があります』


 ヌートが指を立てて条件を提示する。


『式を執り行いましょう。彼女が無事、貴方に靡くのであれば良好。否であるならば──速やかに殺しなさい』


『皇女の殺害──それが貴様らの狙いか』


『ええ、まぁ。我々も一筋縄ではいかないのですよ』


 眉を下げながら肩を竦める神父に、エルウィンは片目を閉じた。


『わかった』


『よろしいので?』


『何が備わるかは知らんが、"力"を行使しても良いのだろう? 見事、成し遂げてみせよう』


 王子の問いに、ヌートは『ええ』と頷いた。


『では、貴方には虚数単位(イマジナリーユニット)十一(ラムダ)”の地位を与えます。虚の王、真名”ロキ”よ──』


 神父が手にする聖書。その書本を広げて怪しい光がエルウィンの胸に宿るのであった。




 式典では見事”王”に返り咲いた。

 しかし、二つ目の願いは遂に叶わなかった。


『”外殻”──偽り給え虚飾者』


 授かった”力”を行使し、エルウィンは真っ先にミラを捕らえた。


『離してください!』


『────』


 拒絶されることに慣れているものだと思っていた。しかし、こうも心が掻き乱される。


 煩わしい女だ。


 いつしか憎悪が増していき、冷淡な思考がエルウィンを支配する。


『あくまで彼奴と共に居たいと願うか。ならば──』


『っ!』


 暴れる彼女に光を当て、眠りに堕とさせる。

 そして護衛騎士とグルツが戦っている最中に、玉座に座らせた。


『愛しき妃よ、己の温情に感謝するがいい。愛しき者の手によって眠れ』


 手に入らないのであれば捨てればいい。

 悪魔に提示された通り、エルウィンはミラの命を奪う段取りを作り上げたのであった。




◆◇◆◇◆◇




 そして現在に至る。

 計算外だったのは、あの護衛騎士が異常を来した点。

 異形に変わりゆく姿を見て、エルウィンは図らずも心から賛美(・・)した。


「父上殿……」


 棺に眠る父を見て、彼は膝を着く。

 真に欲した願いは、悪魔に告げたものではない。


「もうすぐ、この国が終わりを迎えます」


 本来であれば、自らの手でこの国を壊してやりたかった。

 父を排斥した貴族らに、知る由もない愚民たちに、破壊の鉄槌を心から願っていたのだ。


 これが、エルウィン・アラバスタル・ウートガルザの狙いだった。


 何かを残したいと思ったのも、何かを変えたいと感じたのも、全てはこの国に対する鬱憤でしかなかった。

 しかし、それも今日まで。

 あの変貌した護衛騎士ならば、代わりに己の願いを成就させてくれよう。


 冷酷にもミラを殺すという選択が出来たのも、本心がこの為であったが故である。


永遠の理想郷(あなたのユメ)……そこに、民を連れて行きます」


 エルウィンは水槽に触れて、父の頬にあたる箇所を撫でた。

 ついに触れることは許されなかったが、それでも満たされた笑みを浮かべる。


──突如、強い光が静かに寝室を崩壊へ導く。


 あの護衛騎士の放つ巨砲なのだと察した頃には、棺が割れていた。

 あれだけ触れたかった父を抱いて、エルウィンは想い馳せる。


『王子──』


我が朋(グルツ)よ──こんな茶番に付き合わせて、すまなかったな……」


『良いってことよ』


 聞こえるはずのない声が耳を撫で、エルウィンは現国王と共に、光へ消えてゆくのであった。

エルウィン、グルツ、二人の幕引きでした。

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