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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 五章 〜虚の王〜
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エピソード103 グルツ

 グルツ・アーバンハルト・シャルヴィには特に語る夢がなかった。

 ただ生きるだけ。退屈な毎日に飽き飽きしていた。


『今年の学園には第一王子が入学されるらしい。今後のシャルヴィ家の為、何としても媚を売れ』


 そう父に冷たく言われ、グルツは仕方なく第一王子であるエルウィンに近付いた。


『去れ。(おれ)に構うな下郎』


 会って早々、挨拶もなしにそう告げてくるものだから怒り奮闘だった。

 貴族に生まれたグルツは、家系の柱である父の命令には絶対服従である。


 なんであんなのと連まなきゃならないんだ──


 最初は本当に憂鬱だった。

 しかし、当初のエルウィンは他の生徒達からも囲まれる毎日を送っていた。目的は同じ。媚びを売る為である。

 政治に関しては”王政”が取り仕切るこの国でも、王に認められた貴族は出世コース間違いなしである。没落貴族に堕ちないという点では、かなりの魅力が含まれているに違いなかった。


 だが王子の態度は、どの誰に対しても同一のものだった。

 クラスの皆はグルツと同じ誇り高い貴族。開口一番に無愛想な一言を投げられればどうなるか、火を見るよりも明らか。

 それでも彼は”孤独”と評するより”孤高”の存在に映った。


 王族なのだから当然っちゃ当然──


『なぁ、お前──』


 ある日、不図した拍子に尋ねてみた。


『なんでそんなつまらなさそうな顔してんの?』


 本を眺める彼の視線が、初めてグルツの顔を見て認識した。


何故(なにゆえ)そう思う』


『いや、なんとなく』


 実は自分に似ていたから、とは言い出せなかった。

 彼の目が、日常に飽きていると訴えている。だけどその事すら諦観した面立ち。


 その日を境に、彼はグルツが側に居ても何も言わなくなった。




『貴様は、何故あの様な道化を演じている』


 数日経ったのち、王子の問い掛けにグルツの心臓が跳ね上がった。


『貴様の実力なら、上位クラスにも入れただろう』


『いや、ああしておけば色々とラクなんですよ。自分に必要以上に期待されない為に、ね?』


 つい謙った言い方に、彼は不機嫌に鼻を鳴らす。


『変わった虚栄心の使い方をする。本来であれば、自身を大きく見せようというのが貴族であろうに』


『ハハ、それはそう。でも、俺には荷が重過ぎる』


 誰もいない学園の庭で、互いにベンチに腰掛けながら空を見上げる。

 雲ひとつない空が、どうしても広く捉えて自分がちっぽけに見えてしまう。

 本来の実力を隠して、敢えて滑稽を晒すスタイルが、自分の身を守る処世術だった。


『──てか、なんで分かったんです?』


 王子には見破られてしまった。切長な目と灰色の双眸には全てお見通しというワケである。


『貴様が己のことを”つまらなさそう”と言って退けたのと同じ理由だ』


 質問に対しての答え。それはつまり、似ていたからに過ぎない。


『もしかしたら──』


 そこで初めて王子が口元を緩ませた。


『己たちは”似たもの同士”なのかもな』


『────』


 正直、王子がどういう経緯で学園に入ったのかは解らない。

 それでも、人生で初めて自分の価値観に合った人物に出会ったと、グルツは思った。


 この人に着いていこう──


 退屈だらけの日常に一つ、大きな波紋を呼ぶ予感がしていた。




 彼の前に、気に食わない奴等がやってきた。

 王族に対しての礼儀もなっちゃいない──そう思ったのは、ひとえに堂々とした立ち振舞いだった。


 特に護衛騎士の男に関しては癪に障る。エルウィンが初対面の相手に興味を持ったような素振りに嫉妬したというのも、あったかもしれない。

 だが、奴の目がとにかく気に食わない。

 何も怖いものは無いと言わんばかりの強い芯のある瞳。まるで獅子のよう。


 だから彼は決闘を申し込んだ。

 少しは痛い目に遭えば気が晴れると思っていたのだが、逆にノせられて本気を出してしまった。

 そして案の定、負けた。


 こう見えて、影で努力を怠らない主義の彼にとって、”本気を出して”尚且つ、田舎者に敗北したという事実は重くのしかかった。




『グルツよ──』


 騎士に負けた次の日、王子に呼び出されてグルツは不安に駆られた。

 決闘の話は瞬く間に広がっていた。当然、父からの叱咤も受けた。

 細い糸のように紡がれていた王子との関係も、これで終わりかと思われた。


『貴様に見せたいものがある』


『?』


 連れられた場所は出入り口の一つも無い閉ざされた部屋。

 初めて体験する”転送装置”によっての移動に困惑しながらも、エルウィンの口から語られる。


『己の父だ』


『これが……?』


 透明な棺。水槽と呼ばれる箱の中に眠る現国王の姿に、グルツは何と答えればいいか言葉を探るばかりで、俯いてしまう。


『父は、優しい御方だった──』


 続けて語るエルウィンの横顔は、自分の父の寝顔を通してを遠い過去を思い馳せていた。


『村はずれにある湖での釣りが趣味だったと耳にした事がある。まだ幼い己の頭を、優しく撫でた記憶が今でも鮮明に思い出せる』


 普通と称するには少し身内に甘い、そんな父だったと述べて、彼は目を閉じる形で幻想に幕を下ろした。

 聞いていて羨ましいと思った。自分の両親は慈愛に満ちた一面すら見せてくれない。グルツは己と比較して王子を少しばかり妬んだ。


『しかし、今は遠い昔だ。現国王となった父は、永遠に覚める事のない夢に落とされた』


 グルツよ──

 王子は彼と向き合った。視線が交差し、真剣さをまるで剣のように差し向けてくる。


『”王”とは何だ。ここに横たわる傀儡すらなれない置物か? それとも──』


『王子、俺はお前を誤解していた』


 問い掛けに対して、阻むように割り込ませた。

 その口調は、次期王に対してではなく、エルウィン個人に向けたものであった。故に、王子に向かって敢えて”お前”呼びを強行する。


『最初は何だコイツって思ってたけど、少しずつお前のことを知って、改めた』


 毎日がつまらないと思っていた。

 実力を隠して、変えられない国柄に、心のどこかで諦観していた。


『”王”が何なのかは俺には解らない。でも──』


 きっと、彼なら変えられる。変えてくれる。


『お前になら、尽くしてやるぜ』


 他でもない王子が自分に心を開かせたのだ。

 ぶっきらぼうで愛想が無い、おおよそ誰とでもケンカしてしまうような傲慢っぷりだが、それでもグルツは告げた。

 エルウィンが、少しばかり間を置いてから噛み締めるように頷く。


『──貴様の言い分はわかった。しかし、己がこれからしようとしている事は、少なくても死者が出るぞ』


 最後の忠告。だが、ここに連れられてからエルウィンが何か企んでいることは承知の上だった。


『構うかよ。俺は、ようやく俺のしたい事を見つけられたんだ。だから話せよ、お前のしたい事』


『……感謝する。我が(とも)


 初めて、王子が頭を下げた。

 恐れ多いが、それよりも胸の奥が熱くなる。護衛騎士があんなにも皇女にベッタリなのも頷ける。


 エルウィンが口を開くのを待っていると、不意に手が伸びてきた。


『──すまない』


『────』


 顔を覆うように翳された手から怪しい光が灯り、徐々に意識が遠のいてゆく。

 指の間から申し訳なさそうに眉を下げる王子の顔が、滑稽に見えた。


『貴様の忠義は汲んでやるが、”悪”は己独りでよい』


 そうかよ──

 意識を失う最後に、グルツは不敵に笑ってみせた。

 俺は、諦めが悪いんだぜ。と心で捨て台詞を吐きながら。




◆◇◆◇◆◇




 空中で互いに浮遊して睨み合う。グルツの前には、荒れ狂うかつての宿敵の姿。

 あれだけ誇り高いと思った姿からは程遠く、言い放ってやった通り化物に成り果てていた。


 正直、王子から”呪い”を受けていた間も薄っすらと意識はあった。

 咄嗟の判断で庇えたのも、王子の”あの力”が何らかの拍子で砕けたおかげで体の自由が効くようになったからに他ならない。


「うぉぉおお!」


 ”呪い”の間は魔法が使えなかった。心が支配されているのだから当然。

 しかし、慣れない短剣が扱えるようになったのは、ひとえに”呪い”のおかげでもある。


 暗示によって潜在意識を呼び起こし、扱えるまでひたすら鍛え上げた。故に、こうしてマナを温存しながら戦える。


 グルツは両足先の向きをそれぞれ変えて、体に回転を加えた。

 ジェット噴射の勢いで、まるでコマのように回転してから、化物に斬りかかる。


「ガァァアアア!!」


 高速回転を加えた一撃を、またも鉤爪で防がれる。

 これは予想範囲内。


「ビナー・ハイドロプレスカノン!」


 さらに短剣先から魔法を放ち、圧縮されたレーザーが鉤爪を砕く。


「────!!」


 鋼鉄で覆われた生腕が外気を晒す。

 体重を乗せやすく、力が込めやすい短剣の威力と重ね合わせた魔法攻撃。その矛が持つ鋭さは格別で、破壊した鋼鉄が何よりも物語っていた。


「俺は知ってたぜ。知ってて、アイツに尽くすと誓ったんだ」


 先程、怒号混じりに投げ掛けられた問いに、今更ながら答える。

 耳にしているかは解らない。だが、別に構やしない。


「それに、こんなにも高揚し切ってんだぜ。愉しくて愉しくて仕方ねぇ!」


 己の手を見つめて、震えているのを実感する。

 以前は本気を出しても勝てなかった相手が、ボロボロになってゆく。そんな姿を見て優越感に浸るなという方が無茶である。


「俺はお前に勝つ! この国も、アイツが正してくれる!」


 グルツは武器である短剣をかなぐり捨て、両手を剣の柄を握る要領で翳した。


「黒の理解よ──俺は勝ちたい。奴に勝って、誇れる自分を取り戻し、国を統べる(アイツ)の助けになりたい!」


 詠唱というには、少々おざなり。だが、それでもセフィラは強い輝きを放って顕現した。

 大量の水が両手に集まって”剣”と成す。


「『約束されし勝利の水剣(ビナー・エクスカリバー)』」


──化物を倒すにはうってつけの武器。


 魔法とは、己の願いがカタチとなる現象。詠唱も、謂わば願いを口にする祝詞に過ぎないのだ。

 昔読んだ絵物語を参考に、彼は魔法の真髄に片足を突っ込む。


「うらぁぁぁああああ!!」


 グルツは柄を握りしめ、振り上げた。

 相手は左腕をだらんとするだけで動きが止まっている。これ以上ない勝機。

 獲った。彼は確信した──


 しかし、だがしかし。


 相手もまた、取り込んだ力が”悪魔のもの”だということを、グルツはまだ知らない。


「”クリファ”!!」




「──あ?」


 振り下ろすタイミングで化物が叫ぶ。

 するとどうだ。顕現させた剣が無情にも霧散してしまったではないか。


 振り下ろす手が、滑稽にも空振る。

 それだけじゃない。足に噴出させた水も、いつの間にか消え失せていた。


「────」


 魔法が霧散し、目の前に生身を晒してしまう。

 そこを化物がグルツの服を掴み、明後日の方向に放り投げた。


「黒の理解よ!」


 叫んでも何も反応がない。

 この現象に心当たりがあるとすれば、”呪い”だ。

 土壇場にて力の源を削がれた彼は、そのまま落下──とはいかない。


「ハァァ──!」


 ガチャン──


 重々しい鉄の音を響かせて、化物の右腕が彼を捉える。

 筒の闇から閃光が収束して、グルツは悟った。


 エルウィン──


 彼の背後には、この国で一番背の高い建物が鎮座している。

 そこにはエルウィンの父が眠る部屋がある事を、彼は知っていた。


「悪りぃ、しくじっちまった」


 謝罪の声は誰に届くこともなく、放たれる閃光に包まれるのであった。

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