1-6 愛おしきこの地
一人の男が、全身血を吹き出しながらシュナをにらみつける。普段は軽薄に他人を嘲笑していた顔は憎しみで歪んでいた。
「てめぇ…この俺が誰かわかってんのか!第二遊撃大隊長のヘアレスだぞ。こんな真似してタダで済むと思ってんのか」
今しゃべっている男のほかに50人ぐらいの男たちが周囲で呻いていた。
「やはりね…あなたは変わらないわね。新人にトラウマを与え、恐怖で支配する。だろうと思ったから、彼を送ったの。やったね」
シュナの横に立つライカがにこやかに笑う
「ライカ…てめぇ…」
「そう睨まないでよ。ああ、大隊長の承認を得たからシュナ君は精鋭隊員になってもらうわ。これで個人活動が可能となるから、私の仕事の引き継ぎができるわ」
「…」
ヘアレスは悔しそうに顔を歪める
「この後、彼にちょっかいかけたら私が潰すから覚悟してね。それにしても、あなたのその姿久しぶりね。確か、私が副団長に就任したとき、ケチつけてきたあなたを含む5人の大隊長と戦った時以来かしら?5人でも、私一人に勝てなかったのに、あなた一人で勝てるとはおもってないよね?」
ライカはそれを言い残してシュナを連れて去って行った。
「シュナ君にはこれを見てほしいの…」
ライカは一枚の地図を出す。
「これはマレクスが健在だったときのこの大陸の地図よ」
中央には大陸の20パーセントぐらいの大きさを占める円が描かれており、さらに間隔をあけて、円を添うように円が描かれていた。そして円を中心に放射状に線が伸び、更にその線を結ぶ横線も多く書かれているそれはまるで蜘蛛の巣のようだった。
「真ん中の円は、<王>の居城ね。いつも見てるあれよ。そして、居城の城壁から5キロあけて立っている城壁が外の円ね。私たちは境界と呼んでいる。城壁と境界の間に私たちは今住んでいるわ。そして、私たちが住んでいる地帯を環と呼び、シュナ君は二年をかけてこの環を旅してもらった」
俺は頷き、思い出す。
「だが、境界は完璧じゃなかった。途中途中で崩れたり、大穴があいている。そこから魔物よ野盗がよく侵入していた」
「まぁ、昔連邦が侵攻してきた後、そのまま放置されたのよね。昔、この環には64の都市が存在した。それに伴い、64の城門と64の街道が放射状に広がっているわ。そのうちの4つ東西南北に一本づつ大街道を敷いてある。効率的な国だったわね。おかげで侵攻はし易かったらしいわ。今は城壁がぼろぼろだから崩れたところや空いた穴を城門に作り替えたりするなどして門だけで256、町も見た感じバラックやがれきで作った建物ばかりだから都市が縮小して今は308は確認できてる。けど、ほとんどはここ5年で無人都市になっちゃたわ」
「俺が見た感じだと有人都市はお互い<T.T>を中心に同盟を組んでいたが、同盟の意味はなんなんだ」
ライカはクスリと笑う
「いつの時代にあるように、貧富の差ね。かつて300万を誇ったこの国は現在20万のみ、そのうち環内に住んでいるのはたったの4万よ。この4万のみ、お互いの特産物を隊商や行商を通して富を分かち合うことができるのよ。そして、<T.T>の主な仕事は境界の外に住む野盗や魔物、そして敵から守る仕事と、あとは関所を通した出入国管理ね。シュナ君には、環内で最大規模を誇る都市であるここ、ゴミの王国…正式名称百万都市を支配する我々<DOW>、環内の大都市、中都市を支配する<T.T>、小都市や極小都市を支配する自治組織、以下三団体と対立している組織を覚えてほしいわ」
ライカは色ペンを取出し、東西を走る大街道を白色で塗る
「東西の大街道と街道に存在する都市を支配しているのが共同体、かつてのマレクス神聖国を復活させようと企むイカれた集団1ね。所属しているほとんどは貧乏人よ。昔はよかったと呟く集団だけなら楽なんだけど、西側のコムネ教総本山と結びついて武装闘争を仕掛けてくるからメンドクサイ。つまり、特権無くせとい言いたい集団ね」
ライカは黒のペンで北の大街道の半分を塗る
「最近かな?急に現れたのが集団、彼らの主張は…選民による統一国家を樹立し、賤民は選民に奉仕せよ…うん、完全にイカれた集団2ね。構成員はかつての棄民2世や3世で構成されているわ。彼らの親やその上の世代を見てみると、何かしら犯罪を犯して追放処分になったか、借金などどかで逃げて行った人たちばかりね。簡単にまとめると貧乏だから特権寄越せが言いたい集団ね」
最後に黄色のペンで南の大街道の半分を色塗る
「最後は彼らね。自由者、最大の野盗勢力ね。最近は貿易も行うようになってきてくれたけど、不満になると攻めてくる集団よ。一応、豊かな部類に入るわ。金さえあればどんなヤバイものも買えるわ。治安は最悪だけど」
「ほかに色を塗ってない北の大街道の奥はよくわかってないわ。最近だと食人を行う集落や異端信仰を行っている集落が集団と戦争を起こしていることぐらいかしら。南の大街道の奥は<古賢者>の自治組織がいるわ。私たち<賢者>の親みたいな組織ね。マレクス時代に必死で地下活動をおこなっていた組織なんだけど、何故か私たち<賢者>を破門絶縁告知して、一切かかわりを持とうとしないから放置ね」
「これで、この地の話はおしまい!シュナ君には旅立ってもらいましょ♪」