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1-4 <賢者>と<聖者>

二人は奥にある小部屋に入る


「さて、くつろいで、少し話したいことがあるの」


ライカは地図を広げる


地図には…北に巨大な大陸があり、東には北に及ばないものの巨大な大陸と、極東には細長い島が、西には大中小合わせて200ぐらいの島が散らばるが、中に一つだけ巨大な大陸のような島が存在する。南には西の大陸よりもはるかに小さい島のような大陸と中央には南の大陸と同じぐらいの大陸がある。


「見てわかるように、これが世界ね。今私たちがいるのは中央の旧<聖マレクス神聖国>と呼ばれている地域よ。ここで重要なのはこの国の歴史なんじゃないわ。ここは北の大陸を統べる連邦の連中が多くの魔物と瘴気を放っていることと、僅かばかりの人間が暮らしていることね」


「だが、それだけではない。ここは<王>が住んでいるお前が捨てられたあの壁の向こうで暮らしている。そして壁の外側はかつて<聖者>が、我ら<賢者>と対立する奴らが繁栄を築いていた。

ジョゼフィンが扉をくぐって入ってくる。


「ちょっと…その話はあとでしようと思っていたのに…まぁ、待ってたわ。私が頼んでおいた本はあったかしら?」


ジョゼフィンは鞄をまさぐり、一冊の本を出す。


「かつて王の配下の一人が書いた本だ」


シュナウザーは本を受け取り、開く。







かつて世界は母なる大海に包まれていた。海には多くの生物が産み栄え満ち溢れていた。海に住む彼らは母に守られながらその身を大きく伸ばし、この世の支配者として君臨した。

だが、突如としてその安寧を奪われた…奴らに、竜によって

突如、海の底から火が吹く、敬愛する海が割かれる、憎むべき隆起した大地によって…

彼ら…後に旧き者と呼ばれる彼らは必死に抵抗した。隆起する大地を砕かんとその巨体を存分に使った。

しかし、母なる大地はその身から子を孕み、産んだ…彼らこそ竜である。

旧き者共は竜の息吹により、その身を焦がされ、敗北し、深き海へとその身を消した。

かつてこの世は旧き者共が支配していた…だが、彼らは敗れた、竜達の息吹によって…



旧き者共を追い払った竜達は静かなる大地で眠りにつき、そして大いなる大空へと翼を広げくつろぐ。あるものは海に入り、あるものは溶岩に入り、あるものは寒冷の地に入ることにより、多種多様な同胞が生まれた。

しかし、その安寧は突如壊された…奴ら、神によって

突如、天が割れる、眼が眩むような眩い光が注ぎ込む、雷が落ちる、敬愛する大空の裏切りによって…

彼ら竜達は必死に抵抗する…翼を広げ、天を駆け巡り、奴らを息吹で消し飛ばしてやろう、爪で引き裂いてやろう、牙で食いちぎってやろう

だが、竜共は神の知恵によって想像される風により翼を折られ、雷により鱗は剥され、岩により爪と牙を壊され、炎により身を焼かれた。龍共は母なる大地が生み出し大山脈の奥へと逃げ去った。

かつてこの世は竜が支配していた…だが、彼らは敗れた、神共の知恵によって…



竜共を追い払った神達は父なる天の命により、この地上を楽園にするべくその知恵を存分に使い、多くの生物を生み出す。

だが、その中には成功するのもあれば、勿論失敗するものもある。竜を追い払い、傲慢になった彼らは、その失敗作を遠方に捨てる。彼らは気にも留めないであろう、捨てられた者共の気持ちを…彼らは気づかないであろう、捨てられた者共の憎しみを…

神である彼らはついに最高傑作である三つの生命体を生み出した。一つは、神の生命力を受け継ぎし巨人。一つは、神の創造力を受け継ぎし御使い。一つは、知恵を受け継ぎし人間である。

彼らの栄光の時代は突如終わりを告げる。憎しみを抱きし、失敗作…奴ら、後に悪魔と呼ばれる彼らによって…

傲慢なる神共は存分に創造の力であらゆるものを生み出す。だが、憎しみを背負う彼らには無力…彼らは全ての創造物を破壊したのだ。神羅万象を破壊する力によって…

焦った神は巨人に、御使いに、人間に命令をする。

傲慢な神の態度に憎しみを抱く巨人は裏切り、知恵を得た人間は勿論裏切った。

神は過ちに気づくが手遅れである。数を減らし、散り散りになった神共は僅かな同胞と御使いを引き連れて異次元に自分たちの楽園を創造し、門を内側から閉め、鍵をかける…誰も入ってこられないように。

かつてこの世は神が支配していた…だが彼らは悪魔達の力によって…



復讐を遂げた悪魔は、自らを魔族と名乗りった。そして、彼らは復讐を共に分かち合った巨人、人間、そして裏切った神や御使いと手を組み、新たな時代を開く。

みんな手を携え、大いに繁栄を謳歌した魔族は突如、裏切りにより終焉を迎える…奴らに、人間によって…

人間は魔族と巨人、そして堕天と呼ばれる神の裏切者共による連合軍との争いは熾烈を極めた。土地は荒廃し、最後は無限に湧き出る人間の数により敗北し、魔族は地下へと潜った。

かつてこの世は悪魔が支配していた…だが彼らは人間の王共の勇気によって敗れた…



そしてこの世は人間の王が支配している…

魔族に勝利した王たちは、今後の自分たちが治める治世は今までと同じ…いや、今まで以上の繁栄になるだろうと考えた。

世界はそれを許さなかった。

幾度も支配者を巡る争いを起こされた世界はついに牙を向けたのである。世界は争いの元凶となった大地、大海、大空に牙を向けたのだ。

彼らは罰として半身を世界にささげられた。



大地はまず南北に引き裂かれ、そしてそのうちの南部は更に細分化された。北部は広いが不毛の大地にされ、南部は人間が住むようになったが、常に争いが絶えず、人間の数は世界によって管理されるようになった。


大海は領域を広げることを禁止され、北に行けば行くほど水は凍り、南に行けば行くほど水は溶岩に溶かされ、東西に行けば行くほど無限の闇に飲み込まれるようになった。しかし、中央のみ水を無限に湧きだすことは認められた。


大空は世界を覆ううちの半分を雲によって奪われた。世界の北側の空は常に雲に覆われ、太陽がさせない様にされた。その代り、南部では太陽がさせるが、一年の内の半分は太陽がさせない様に雲が邪魔しに来るようになり、大空は次第に力を発揮できなくなるようにされた。



故に王たちはかつての支配者のような繁栄は築けなかった。



そして、そんな王の時代は終わる…そう、我らの手によって…


待ってくれよ…新時代…


新時代が訪れたら我らはこう叫ぼう


《O brave new age ああ、素晴らしき新時代》




「誰が書いたのかは私は知らないけどね。そして、その作者は<賢者>を作った者の一人と言われている。まぁ、エドルフとマオから聞いたのだけどね。何故かあの二人は私には教えてくれなかったが…」

ジョゼフィンは寂しそうに笑う


「まぁ、それは別にいいわ。この中に書かれている<王>と呼ばれている存在がキーとなっている。今、世界に影響を与えている組織が二つある。一つは<聖者>、コムネ教を奉じ、昔はこの大陸に根付いてたように全世界にその影響力があったわ。だけど、100年前に、それまで行われていた<魔狩り>と呼ばれている異端者や異教徒、不信心者などを虐殺する運動で、一時的に私たち<賢者>に勝利した彼らは東、西、南を巻き込んで、北側に攻め込む<十字軍>と呼ばれる侵略を開始して大敗北、結果は今のこの地を見ればわかるとおり、見事に壊滅させてくれたわ。その後は<三賢人>と呼ばれるそこのジョゼフィン、私の夫でもあるマオ、そしてエドルフの三人が再興したのが今の<賢者>なの」


ジョゼフィンは苦笑しながら補足する

「再興といっても大したことはしていない。魔法排斥を唱えるコムネ教の管理されている世界で、異端の魔法を研究していた西、東、南の<賢者>の当時の管区長をしていたのが私たちだ。おかげで、ただの研究員がトップに立ったことで組織の本来の目的も忘却してしまったよ。そして皮肉な事に、<聖者>も中央にいた奴らは全滅し、地方にいた奴らが西の果てに組織を再興してできたのが今の<聖者>、当初の目的…秘めた使命とやらも忘却しているはずさ。つまり、われわれは何となく争っているのだよ」


この話を聞いて、僕は世界が如何に陳腐なものなのかと感じられずにはいられなかった。

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