1-3 特異性
「さて、シュナウザーよ。まず、その体をどうにかしないと…」
ジョゼフィンは言葉を途中で止める
シュナウザーが立ったのだ。その脚には透明な結晶で出来た脚が現れた。そして無くした腕の代わりに、透明な…粘りの強い液体と固体の中間の素材で出来た腕が現れる
「大したものだ…そこまで特異を使いこなす才能があるとは…なくした記憶でも取り戻したのかい?」
「?」
本人は反応がない
「ふむ、言葉は理解しているはずだが…人格形成に必要な感情に直結する記憶を失っていると思うのだが、そこはどうなのだい?」
ジョゼフィンは問いかけるが
「わからない」
「うーん、難しいね。生活に支障がある知識…学習して身に着ける知識はあるのか、テストしてみるか…」
そして、その後、一日かけて記憶に関するテストを行った。
翌日…
「君が失った記憶は、あの壁の向こうに関する記憶と感情に直結する…つまり人との接触によって記憶される思い出とやらが失ってるね。魔法の使い方や魔法の基礎的な知識、言葉、文字、計算など学習で得る知識は一般人以上…こちらでいう王侯族が受ける最高教育を受けている。やはり、君は相当高い地位にいたと思える」
「俺は何をすればいいのだ…」
シュナウザーは興味なさそうに話を進める。
「待て待て、そして体の反応を見ると戦闘馴れしている肉体だ。少し線が細いけどな」
そして、ジョゼフィンはシュナウザーに一冊の本を渡す。
「明日までその本の内容を覚えろ。それには力の使い方を記してある。今後は昼は傭兵活動して、夜は私の研究を手伝え。今日はもう遅い…寝ろ。ライカには後で連絡して、明日引き取りにこさせる」
俺はその言葉に頷き、微睡みに入る。
翌日、目を覚ますと体が重い…何者かが体に巻き付いてるような感覚だ。耳が何者かの息があたる。横を振り向くと、ライカが俺の横で寝ていた。
体を起こそうと体を動かすが、拘束が解けない。結局ライカが起きるまでそのままだった。
「へぇー、脚解決したんだ。腕もちゃんとあるし…意外と早いね。それよりも腕ってどうやって動かしてるの?」
シュナウザーは首をかしげる。そういえば原理がよくわかってないのだ。
「物質には個体、液体、気体、そして|第四形≪プラズマ≫と呼ばれる近年発見された謎の形態が存在する。魔力は普段体内では気体として体内を循環してる。以前は液体と考えられてたみたいだがな。私の研究で、体液に気体として溶けていることが確認できた。魔力の結晶化はその気体を昇華させて、一気に固体化させる現象だ。しかし、特異が攻撃手段に使っている魔力の放出はどうやらその第四形が放出されているらしい」
ジョゼフィンは研究家ら饒舌に語る。
「私が考えるにおそらくその第四形でできてるのではないのか?とても形があやふやだからな。それとも固体と液体を往復してるのか、液体で表面張力が並外れて強いのかのどれかかだな」
「よくわからないけど、戦えるのならいいや。シュナ君を連れていくね♪」
ライカはシュナウザーの手を握る
「シュナ君?ああ…略したのか。夜には連れてこいよ。私の研究を引き継がせる。当分洗脳教育させて、私の疑似人格を入れなければいけないからな」
さらりと恐ろしいことを言うが、誰も気に止めない。
シュナウザーはライカと共に外を出る。そこは荒廃した土地だった。土地は完全に死に、空は暗雲に隠され、黒い雨を降らしている。そこに立つ家々はボロボロのバラックやテントで出来た…俗に言うスラム街よりも酷い、難民キャンプのような街並みだった。
数少ない人と通り過ぎるが、彼らの顔に生気は感じられない。目はどんよりとして腐っていた。
やがて、一軒の巨大な瓦礫で出来た城についた。二人は目の前にある入り口をくぐる。
中に入ると、50人ぐらいのならず者が待っていたのか、入り口を注視していた。
真ん中に立っていた男が逆上がった金髪を撫で、少しずれたサングラスをかけ直す。
「ソイツが南方の弟子か…俺はマスティフだ。ここの頭をやっている。覚えとけ」
マスティフは一人の男を手招きする
「団長…なんかようですかい?」
バンダナをつけ、くたびれた雰囲気を醸し出す男が近寄り…
「こいつの面倒を見てくれ」
仕事を押し付けられる。
「おい、コリー。貴様は団長補佐で忙しいはずだろ。そこのガキは俺が面倒を見てやる」
覆面で顔を隠し、鷹を彷彿させる目つきで周囲を威嚇する。
「ハウンド…」
ハウンドと呼ばれた男はマスティフに近づき
「団長、私にお任せを!私が兵士として鍛え上げましょう。そして、わが軍に加えることをお許しください」
そしてハウンドはシュナウザーに視線を向けると
「小僧!わが軍に加われ、俺がお前を導いてやる。俺は親衛隊を指揮するハウンドだ。私が指揮する親衛隊はこの最強の傭兵集団である≪DOW≫の中でも最強の部隊だ」
シュナウザーは周りに殺気を放つ
「お前ら、文句はないよな?」
一人だけ手を挙げる
「ごめんね。ハウンドちゃん。私は文句あるわ」
「ライカ…」
「彼には見習いから始めさせようと思うんだけど…」
「…」
「…」
「わかった」
「なら三役に入る前までは私が面倒をみるわ。そのあと、彼に選択させるわ」
他の幹部は興味なさそうに自分のことを始める。その中、一人の男が近寄る。髪を腰まで伸ばし、ホストみたいな軽薄そうな優男だ。
「お言葉ですが、ライカ…あなた副団長だ。ここの運営を任せられている。彼の指導にかかると仕事に支障が出るのではないのですか?」
彼はついでにライカの手を取り、口づけを行う。
「大丈夫よ。ありがとうクロムフォルレンダー。運営はコリーに押し付けるし、彼には暗殺業を引き継がせるわ」
「クロムとお呼びくださいライカ」
クロムはそう呼ぶと、侍らせている美女の元に戻る。ライカに進言したとき、彼女たちは嫉妬の目をライカに向けていた。
「ついてきてシュナ君」
俺とライカは奥に進んでいった。