1-2 ≪DOW≫
コンコン…扉がノックされる。
「ジョゼフィン、入るわよ」
漆黒髪を肩まで切り揃え、病的に白い肌、瞳は青銀に煌めいている。
「ライカね…いらっしゃい。どうした?」
ジョゼフィンは微笑む
「いえ、あなたが珍しい拾い物をしたって、聞いたのよ。その子ね。見た感じ、左腕を千切られ。両脚を切断、右目を抉り取られたみたいね。そして…心臓以外の臓器の摘出、要となる骨の摘出…」
「えっ、彼そんなにひどいのか?一応、この間あなたたちが捕えた血吸い野郎の血を入れてみたんだが。拾ってみたとき、何にか呪いがかけられていたみたい。魂が肉体にくっついて外れなくなっていたのだよ。ちょうど、いろいろな実験に耐えうる検体が欲しかったのだよ」
ジョゼフィンは一枚の資料をライカと呼ばれた女性に渡す。
「確かに、生かすにはその方法しかないけど…この方法だと失った部位は取り戻せないよ。永遠に…」
ジョゼフィンはニヤリと笑い
「甘いね。奴らは、足りない部位を奪ってくっ付けるのさ。手足がなければくっ付ければいいじゃないか。彼らには高い免疫性を所為してるけど、アレルギー反応や拒絶は起こらないんだよ。幸いにも足や腕などくっ付けたい未実験品は残っている」
少年は黙って二人を見る
「悪かったね。君の名前は?」
ライカはくるりと振り返り尋ねる
「?」
少年は首をかしげる
「?」
「?」
二人も首を傾げる
「やっぱり記憶がないみたいね。そして、ここまで多くの喪失を生み出すなんて、あの壁の向こうでは、相当な位にいたらしいね」
「う~ん、名前はシュナウザーはどうかな?」
ライカは勝手に名をつける
「いいと思うが…」
「なら、決定ね」
ライカは茫然としてるシュナウザーに笑いかける
「改めてはじめましてね。私はライカ、傭兵集団≪DOW≫の副団長を務めているわ」
彼女は着ている黒のワンピースを撫でる
「一応、この世界には多くの傭兵派遣会社が存在する。彼女たち≪DOW≫は、この世界から隔絶した…君も追い出された楽園を追放された者や自ら出て行った者たちで構成されている世界最強の傭兵集団の一つといえるね」
「そういうこと。これでわかったね。彼をうちで預かる?けど、体が欠損してるね。体内に流れる血は傷の修復はするけど、血を入れる前に欠損した部位は再生できないのよね。肉体は肉体から器になるから…」
「それなら、任せろ。彼の足りない部分はなんとかする。それより、彼を私の研究に加えよう。私のすべてを彼に与える。私はあいつ等から狙われてる身だ。あの二人みたいにいつ殺されるのかは知らんけどな」
その言葉にライカは顔を暗くする。それを見たジョゼフィンは儚く笑う。
「すまないな。お前の恋人であるマオ…<東方の賢人>を守れなくてな」
「別に気にしなくてもいいわ。彼は最後まで貴女のことを気にかけていたしね」
そしてライカは真顔になって問う
「何度も悪いけど…マオはあなたが殺した…じゃないよね…」
「<西方の賢人>エドルフを疑ったらどうだ。アイツは賢者の裏切者だぞ」
「彼とマオとは親友同士よ。そして、裏切るきっかけを作ったのは貴女。貴女があの二人を争わせるように仕向けたとも考えれるわ。結局、二人とも死んだけど…」
ジョゼフィンは殺気をにじませるライカをせせら笑う
「もっともしっくりするのが、聖者のクソ野郎共だ。アイツらの陰謀で二人が殺されたのが納得できる。そして、奴らの背後の隠れているのが…」
「<王>ね…王に見捨てられ、再び認められようともがく愚者である聖者。王に切り捨てられ、殺し簒奪を目論む異端者である賢者か…」
ライカが呟いたその一言に、ジョゼフィンが反応する
「なんだ、それは?」
「エドルフが貴女たちと袂を分かつ時にマオへ送った言葉よ」
「ならば、警戒せねば、この少年シュナウザーはひとまず、私が預かる。脚と腕が解決したら、そちらへ送り、傭兵として育ててくれ」
ライカはニッコリ笑い、彼女たちの話をぼんやりと聞いているシュナウザーの頭を撫でる
「バイバイ」