Memory6 戦いの余韻と手がかり
何故‥貴方に追いつけないのだろう?
何故‥貴方は、そんなに強いのだろう?
何故‥私は貴方より頑張っているのに‥。
何故‥これは神様が決めたルールなの‥?
いや、違う‥。
それは、甘えだ‥。
才能なんて関係ない‥。
努力で埋めろ‥。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も立ち上がり続けろ‥。
いつか貴方を越えるその日まで‥。
by鮮血の女王
どれくらい時が経ったのだろうか?
カインとギーガーは、未だに騎士の間の
中心に突っ立ったままでいた。
2人は模擬戦の勝負が決まった時から
木刀の構えを崩さずにそのままの状態でいた
。
もうすっかり夜を迎えていて周りが暗い
雨水がポタ‥。ポタ‥。と落ちている音だけが響く。
シーヴェンスも何も話さずに動かないままでいた。
空には星がキラキラと輝いていた。
「俺の勝ちだ。ギーガー‥。本気の俺をここまで追い詰める奴がいるなんてな‥。」
最初に口を開いたのはカインだった。
ギーガーは、まだ呆然とした目で自分の木刀の先端を見ている。綺麗な青い髪がヒラヒラと風に揺れていた。
ギーガーは構えを崩して空を見上げた。
「カイン‥。何故俺は君を越える事が
出来ないのだろう‥‥。初めて君と模擬戦をした3年前‥。俺は自分が余りにも無力だという事を気付かされた。そして次に君と模擬戦をする時には絶対に勝ってやろうと今まで必死になって訓練をしてきた‥‥。
自分の腕を信じて‥‥。しかし負けた‥‥。
何が足りなかったのだろうか‥。」
ギーガーは、いつもの元気な声ではなく
辛うじてカインに聞こえるぐらいの
小さく悲しみに満ちた声でブツブツと話した。
ギーガーは泣いていた。
それほどカインに負けたのが悔しかったのだろう。
「‥‥‥。ギーガー‥。お前は俺が認めた唯一の騎士であり親友だと思っている‥‥。
お前は他の騎士とは何かが違う。
11年前か?記憶が曖昧だが初めて会った時そう感じた。2年前の模擬戦でもお前は既に負けているのに何度も何度も俺に向かって来ていたな。
多分そういう所が他の騎士とは違うのだろう?上手く表現できないが俺を相手にそこまで本気で当たってくる奴は、お前以外に知らないって事だ。俺も久々に楽しめた‥‥。
ありがとう‥‥‥。」
長々とカインは話して、後ろを向き木刀と兜そして鎧を片付けようとする途中で大事な事を思い出した。
「ギーガー!お前に足りないのは集中力だ!
俺に一発当てた時、勝てると油断していただろう!最初の集中力を最後まで保て!
そうすれば俺に勝てるかもな!」
カインは歩きながら大声で、そう言うと
道具を片付けて自分の部屋の方へと向かっていった。
「カイン!!また次も‥‥。何度も何度も
俺が君に勝つまで模擬戦をしてくれるだろうか!?」
ギーガーのいつも通りの大声が聞こえる。
「当たり前だろ!楽しみにしてるぜ!
あと忘れていたがお前に聞きたい事があるから明日の休憩時間空けておけよ!」
そう言い残すとカインは夜の闇へと消えていった。
ギーガーも道具を片付けて自分の部屋に戻っていくのだった。
シーヴェンスは、ますますカインと戦ってみたいと思っていた。
次の日。
ギーガーは、昨日の模擬戦をしっかりと
思い出し、いつもよりさらに集中をして
訓練をしていた。今度は絶対に勝つ、そう胸に決めて。
カインも手を抜く事なく訓練を最後まで
やり遂げた。
午前の訓練が終わり昼食の休憩時間。
2人は食堂に行った。
「カイン、話とは何だ?
俺にそんな事を言ってくるなんて珍しいな。」
「あぁ‥。その事だが、あまり他の騎士には聞かれたくない話だ‥。この後俺の部屋に来てくれ‥。」
2人は、騎士達の話声が広がる食堂の中
昼食のノウスデイモンカレーを自分達のペースで平らげるのだった。ノウスデイモンとは、血の民の故郷ノースブラッドの周辺にいるという凶暴な動物らしい、肉は柔らかくとても美味い。
食堂での食事は、いつも様々な地域の新鮮な食材が使われた豪華な物なので、飽きる事ない。朝も早く起きれば食堂で豪華な物が食べれるのだが、カインは食事よりも睡眠を優先していた。基本的に食事時間は、
朝の5時30〜6時
昼の12時〜2時(休憩時間)
夜の7時〜8時
である、食事開始時間に食堂にいない騎士は
自分の部屋に簡素な食事が置かれる。
昨日は模擬戦が長引き食堂に行けなかったので、2人の部屋にカジキステーキとナメコスープ、ホクホク米が置かれていた。遅れは1分たりとも許されない。
とにかく騎士の生活は時間に厳しい。
これは他の国や集落、村でも同じである。
カインが、この世界や国を嫌う理由の一つでもあった。
カインが先に食べ終え食堂を後にした。
ギーガーは、カレーのおかわりを3回もしてから食堂を出てカインの部屋に向かった。
「失礼するぞ、カイン!遅れてすまない。
カレーをおかわりしていた。」
「問題ない。お前が、よく食う事は知っているからな。色々と話す事を整理していた‥。」
カインは、自分の鎧を拭く手を止めてギーガーの方に顔を向けた。
「取り敢えず座れよ‥。」
部屋に一つある木製の椅子をギーガーに勧めて
カインは自分のベッドに腰掛けるのだった。
騎士達の部屋はベッドが一つと小机と椅子がそれぞれ一つずつあるだけのとてもシンプルな部屋だ。
カインはギーガーの純粋な青い目を見て言った。
「この国に過去の記憶を知る事が出来る物や装置はあるか?」
ギーガーはポカンとしていた。
そして何かを思い出したのか目を大きく見開いた。
「記憶‥‥。そんな話を俺が10歳ぐらいの時に故郷のセントリー王国で聞いたような気がする。」
「話の内容を覚えているか?小さな事でもいい‥‥。」
ドキドキしながらカインはギーガーに質問した。ギーガーは、頭を抱えその時の状況を出来る限り思い出しながら続けた。
「ああ‥。あれは、おれが10歳か?12歳だったかな?俺は一回、親に呼び出されて、セントリー王国に帰った。何でも星の教えの洗礼を受けろって言われて。2日目に家の周りをブラブラ歩いていて、2人の騎士が一軒家の後ろでヒソヒソ話していたのが聞こえたんだ‥‥。たしか記憶石?がどうとか言ってた気がする‥‥。」
記憶石‥?石なのか?石で記憶を知る事が出来るのか?セントリー王国にあるのか?
様々な事がカインの頭を駆け巡った。
「この国で‥その記憶石という物がありそうな場所に心あたりはあるか?」
見つけて全てを知りたい。その事だけが
カインの頭を支配していた。
「どうだろな‥‥。俺の記憶も曖昧だから
記憶石ではないかも知れない‥。だが記憶なんちゃらって言ってたのは確かだ。ありそうな場所か‥。平和の城から少し離れた場所にある平和の教会では毎年何人もの若い人々が出入りしているのを見た事があるが‥。そういえば
君のお父さん、ザック代理王も入っているのを見た事がある!」
成る程、絶対そこには何かがあるな‥。
危険をおかしてでも調べてみる価値はありそうだ。
「ありがとう‥。ギーガー‥。充分だ。」
そうカインは言うと立ち上がり午後の訓練の支度を始めた。
「カイン、俺からも質問させてくれ。
記憶石?って言うのは記憶を知る事のできる物なのか?誰の記憶を知る事が出来るんだ?
「それは、俺にもわからない‥。
父から聞いた話なんだ‥。俺が話した事は誰にも言わないでくれ‥‥。頼む‥。」
カインは、そう言い鎧を装着している時、
突然横から声が飛んできた。
「君が何をしているのかは深く問わないが、
これだけは言わせてくれ‥。
事件を起こして処分対象には、どうかならないでくれ‥‥。騎士の世界は甘くない。
君もよく知っているだろう‥‥。」
ギーガーは、心配していた。カインが外に無断で出るのではないかという事を。
処分対象とは、騎士から外されて国から追放される事だ。主に掟を破った者に課せられる罰の一つだ。
「ギーガー‥。俺は、ただ父の言葉の意味が気になり小さな事でもいいから知りたいと思ったまでだ。そもそもあるかもわからない物を探すなんて馬鹿げている。外へなどは、決して出ない。さぁ、もう訓練が始まる時間だ急ごう。」
すまん‥。ギーガー‥。お前に初めて嘘をついたかもしれない。たとえ処分対象にされてでも俺は世界を知りたい。こういう性格なんだ許してくれ‥。次に会う時は俺は死んでいるかもしれない。もしその様な結末になっていても、お前は自分の信じた道を進んでいってくれ‥。
カインは、覚悟をしていた。
どんな結果に、なろうと進み続けると‥。
訓練場へ向かう途中
ふと廊下の窓の外を見た。
相変わらずの景色だ‥。人々が楽しそうに話合い、子供達が楽しそうに遊んでいる‥。
自分の運命を何回恨んだろうか?
そして、何回恨む事が無意味な事だと感じたろうか?
真っ青な空には、真っ白な雲が印象的に浮かんでいる。そこに鳥の群れが踊るように飛んでいる。とても綺麗だ。
カインは、14歳の時、初めて外に出た時を思い出していた。
前書きの言葉は、多分、登場はずっと先になりますが、ある女騎士の言葉です。
境遇がギーガーと似ています。
何故、前書きに書いたのか疑問に思うかもしれませんが、なんとなく書きたかったから書きました( ̄▽ ̄)
やりたい放題で、すいませんm(_ _)m
ペース遅いと思うかもしれませんが
頑張って書いていくので、
暖かい目で見守って下さいm(_ _)m