Memory5 真剣勝負
かつてない程の緊張感。
そこから繰り出される己が信じた最高、最強の一撃。
これが真の戦いと言うべきもの。
その2人は全力でぶつかり合う。
カインは、恐ろしい程強い。今の模擬戦を見て理解した。2年前よりはるかに、剣を振るスピード、構え、敵の攻撃を見切る瞬発力その他総合的な剣の技術が、騎士王に匹敵するぐらいに上がっている。シーヴェンス上級騎士が彼を剣神と呼んだのも納得がいく。
おそらく誰が見てもカインの剣の技術を
「最高」と評価するだろう。
俺も今までで、あんな綺麗な剣捌きを見た事がない。
実際、綺麗で美しい、踊るように繰り広げられる剣技に見惚れていた。
今の王は彼よりも凄い剣の技術を持っているのだろうか?
正直、俺は本当にカインを超える事が出来るのだろうか?
周りは、もう既に暗くなっており、夜を迎えていた。
ギーガーは、余計な事は考えずに、カインとの模擬戦だけに集中しようとしていたが、
様々な事が頭をよぎってしまう。
俺はカインを超える為に今まで頑張ってきたんだ。恐れる事は何もない。ただ自分の剣、腕を信じるだけ騎士とは、そういうものだ。
そう自分に言い聞かせながらギーガーは木刀を構えた。体が少し震えていた。
「カインは本当に凄い奴だな!でも‥。俺もいつまでもここに留まるわけにはいかない。
カイン!君という目標を超えるまでは!
今ここで決着をつける!」
カインは、まだ怒りに支配されていて周りが見えてなく息を荒くして突っ立っていたが、
このギーガーの大声を聞いて我に返った。
「‥‥。すまない。ギーガー‥お前が前に居る事に気付かなかった。もともとはお前と模擬戦をする約束だったよな。俺のせいで迷惑をかけてしまって悪かった。」
カインは、そう謝ると深呼吸して剣を構えた。模擬戦でカインに敗れた騎士達は、既に自分達の兜を回収して何も言わずに足早に去っていった。
「力ある者には逆らえないっていうのか?
フッ‥‥。実に、この世界は単純だな。」
カインは微笑しながら言っていた。 「そりゃあ、カインのあんな凄い剣技を見せつけられちゃあ誰でも逃げるだろう。」
ギーガーが、こう答えるとカインは少しジッと空を見て、
「だが、こうして俺の前にいるお前は、そいつらとは違うだろう?俺の剣技を見ても尚戦おうとするギーガーと言う騎士は。」
「当たり前だろう?俺はカインと言う騎士を超える為にここにいるんだ!力の差なんて関係ない!俺は自分を信じて戦う!それだけだ!」
雨が降って来た。風も強く寒いはずなのに
2人の見習い騎士の体は闘志に燃えていた。
1人は、自分という存在を理解しながらも立ち向かって来る親友に全力で応える為に‥。
もう1人は、自分を信じ、目標である親友を超える為に‥。
2人は、それぞれの戦う理由を胸に全力で激突しようとしていた。これが本当の戦いというものなのだろう。
シーヴェンスは、2人の会話をずっと聞いていた。友とは良いものだな‥‥。と思っていた。
2人は静かになり、お互いに模擬戦の合図を待つ状態になったので、
「模擬戦始め!」
と声に気合いをいれて叫んだ。
カインが先に動きギーガーの兜目掛けて、
とてつもない速さで木刀を振るった。
集中しろ‥‥!ギリギリまで引き付けるんだ!隙をみて‥‥。今だ!!!
ガンッ!!!
一瞬だった。
なんとギーガーの木刀がカインの胴に当たっていた。
なんという集中力と速さだ!カインの素早い攻撃をギリギリまで引き付けて僅かな隙を見つけて反撃をするなんて!まさかカインより速く動くとは‥。この2人は逸材だな‥。
シーヴェンスは目を見張ってその光景を見ていた。
「見習い騎士カインに胴ダメージ1!」
シーヴェンスは叫んで言った。
はぁはぁ‥。やったぞ!カインにダメージを与える事が出来た!
これであともうニ回胴に当てる事が出来たら俺の勝ちだ!
「流石だな‥‥。ギーガー‥‥。
俺はお前に会えた事に感謝している‥‥。」
カインは、さっきよりもさらに鋭い目つきでギーガーを見て。
木刀を構えた。ピリピリと覇気を感じるその構えにギーガーは少し後ろめた。
雨は相変わらず降っている。止む気配はない。緊張した空気が続く。2人は10分以上互いに動かないままでいた。
シーヴェンスもそれを黙って見続けていた。
雷が遠くで鳴った瞬間。
先に動いたのは、カインだった。
ガン!ギィン!ダァン!ギィン!
ガァン!!ギィン!ガガガン!
カインの激しい剣撃にギーガーは全て
防御する事が出来なかった。
それでも素早い剣さばきを3回も防御する事に成功した。
普通の騎士なら防御する暇もなく全ての攻撃に当たってた事だろう。
「ギーガーに胴ダメージ2!手足ダメージ4!」
シーヴェンスはカインの剣撃をギリギリ見切れていた。
「俺の本気の連続攻撃をガードするとは、
大したものだ。だがこれで次にお前は体のどこを攻撃されても負けになる。」
「実質ライフは、あと1ってことか‥‥。
本当の戦場みたいだな‥‥。
だけどな‥‥。ここで負ける訳にはいかない!」
2人は目を閉じ深呼吸をした。
これぞ1対1の真剣勝負。
お互いに極限まで集中して、己の最高、最大の攻撃を相手にぶつける。
カインとギーガーの模擬戦は正に真剣勝負と名乗るに相応しいものだった。
2人は目を閉じ精神を集中させる。
次に目が開いたときには、どちらかが勝利しているだろう。
ザッ!!!
足に力を入れる音が同時に聞こえる。
ーーーーガァァァァァァァン!!!ーーー
ガシャッッ!!兜が地面に落ちる音が耳に響いた。
顔がやけに涼しくなっていた。
雨が顔に直に当たる。そうか‥‥。
飛ばされたのか‥‥。俺の兜が‥‥。
自分の木刀を見た。
あと一歩速ければ、勝っていたのに‥‥。
「ギーガーに頭ダメージ!!
勝者カイン!!」
シーヴェンスの叫び声が騎士の間に響く。
気がついたら雨はもう既に止んでいた。
こうして2人の模擬戦は幕を閉じた。
カインとギーガーは暫く動かないままでいたのだった。
一週間に一回は投稿出来る様に頑張りますo(^_-)O