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アラセルバ王国のティオフェル

作者: Virag MarjaAnna Mary

語り「時は紀元前5000年、アラセルバ王国と言う莫大な資産と領地を持った王国が存在しました。アラセルバは300年続く都でいつの時代も変わらずに王子の頃から厳しく凛とした教育を受けた立派な聖君の元、平和な国が成り立ってきました。」


   赤子の産声


語り「そして、アラセルバ王国第12代目国王・メディオスにも二人の王子が誕生しました。一人はイプスハイム、もう一人はイプスハイムより15も年下の弟、ティオフェルと言いました。二人とも器量がとても良く、美しい王子に成長し、長男であるイプスハイムはその頭の良さと明確さから将来の聖君を国民から期待されていましたが…」


語り「イプスハイムは元服を迎えると共に人が変わってしまい、女遊びはするわ、酒には溺れる、賭博はする…何とも言えない放蕩息子となってしまい、それに怒った国王はイプスハイムを勘当し南方の邪馬台国と言うところに追いやってしまった。さて、では後継はどうなるのか?そんな話が持ち上がった頃にイプスハイムの弟、ティオフェルが生まれました。そして時は流れ、王子は軈て12歳の可愛らしい少年になりました。国民はこのティオフェルに国の将来を期待していたのですが…」


○王宮・ティオフェルの寝室(朝)


   ティオフェル王子(12)、眠っている。



女中の声「王子様、ティオフェル王子様、朝にございます。お起きになってくださいませ。」

ティオフェル「ん…んんっ…」

女中「王子様、」

ティオフェル「今起きるよ…(上体を起こし蒼冷める)あ…」


○同・広間(朝)  アッディーリャ王妃(50)とティオフェル(12)。


アッディーリャ「ティオフェルっ!!」

ティオフェル「はい…」

アッディーリャ「あなたはもう12にもなる立派な王子なのですよ。将来はお父上の後を継ぐ国王となる王子なのですよ。それなのにまだおねしょとは、何事です!?」

ティオフェル「(しゅん)」


語り「そうかと思えば…」


○同・学修堂(夕)


   ティオフェル、眠そうに講義を聞いている。ペドロ、講師をする。


  「よって、聖君とは民の事を重んじ第一に…(ティオフェルを見る)王子?王子様っ!!」

ティオフェル「んんっ、」

ペドロ「ティオフェル王子っ!!学業中ですぞ!!聞いておられるか!?」

ティオフェル「(ハッと目覚める)ハッ!?」

ペドロ「王子っ!!」

ティオフェル「すまない、聞いていなかった…。」


      ペドロ、ため息。


ペドロM「ティオフェル王子様にも困ったものだ…。」


語り「ティオフェル王子は12になってもおねしょ癖が治らない、しかも非常にマイペースで我が道王子様。父である国王も母である王妃もティオフェルの将来を按じていた。」


アッディーリャ「王様、私はあの子の将来が心配ですわ…。」

メディオス(55)「うむ…如何にも。今のままのティオフェルに本当にアラセルバの後継を任せて良いものか…。」


語り「そんな頭を悩ます両親や城の者共を他所に、ティオフェル王子は気儘にやりたい放題。重臣達もこの子には大層手をやかせていた。」


○同・ティオフェルの寝室(夜)


   ティオフェル、メディオス


メディオス「なぁティオフェル、」

ティオフェル「はい、父上」

メディオス「お前は国王になりたいか?」

ティオフェル「私が王様に?(拗ねる)嫌だって言っても私が王様にならなくちゃいけないんでしょ?どうしても私に継げとおっしゃるのでしょ?」

メディオス「ティオフェル!」

ティオフェル「本当は私だって王様になんてなりたくありません!このまま王子のままで充分です!私には兄上様がいらっしゃったのでしょう?本来ならば私には関係なかったはずではありませんか!だって兄上様が王位を継ぐべきお方なのでしょう?」

メディオス「そうだ。しかしティオフェル、今は私亡き後の国を支えていくのはお前しかいないのだ。イプスハイムはこの国にはもうおらん。」


   ティオフェル、不服そう。


メディオス「故に、父はお前の将来が心配なのだ。お前の自由さ、気儘さ、とても国王になるものの姿勢には見えぬ。」

ティオフェル「故に私は!」

メディオス「そこでだティオフェル、お前に大切なお話をしよう。」

ティオフェル「え?」


   話し出す。ティオフェル、青ざめて聞いている

  ***


ティオフェル「え?」

メディオス「今申した通りだ。間もなくアラセルバでは戦が始まろう。それがその時の合図だ。それで万が一父に何かあったらティオフェル、アラセルバを守るのはお前しかいなくなる。」

ティオフェル「そんな、そんな父上、変なご冗談を仰らないで下さい!!」

メディオス「(笑う)大丈夫だ。言ってもそれほど早い事ではなかろう。しかし、何れは…お前が生きている間には必ず来る。その為にもティオフェル、お前には確りと…」

ティオフェル「分かりました父上…。私はどうすれば…?私はまだ何も知らないのです!」


   不安げなティオフェル、メディオスが支える。


メディオス「案ずるな。お前が一人前になるまで父は王としてお前の元にいる。」


語り「が…。」


○同・戦場(朝)

   邪馬台国とアラセルバの大きな戦が行われている。ティオフェル、恐怖に怯える。


メディオス「ティオフェル、お前もいずれ戦を指揮する時が来る。しかと見ておけ!」

ティオフェル「父上っ!!」


   メディオス、ティオフェルに目配せして出陣。


メディオス「メデア、ブブ、王子を頼んだぞ。」


   メデア(35)、ブブ(40)


メデア・ブブ「はっ。」


メデア「ティオフェル王子様、」


   腰を抜かすティオフェル。


メデア「無理もありませんわ、アラセルバは長年平和だったゆえに、王子様は戦をご覧になるのは初めてですもの。」

ブブ「如何にも。王子様、」

ティオフェル「父上は、父上は…もうこのまま戻っては来られないのではあるまい?」

メデア「お気を確かに王子様、大丈夫です。王様は必ずや邪馬台国に勝利しお帰りになりますわ。」


   二人、ティオフェルを連れていく。


○ティオフェルの夢想

   メディオス、アッディーリャ火刑台にかけられている


ティオフェル「父上っ!!母上っ!!」

メディオス「ティオフェルっ!!」

アッディーリャ「お前は強くお生きなさい!!」


   (F・I)


○寝室(深夜)

   

   (F・O)


 ティオフェル(15)、飛び起きる。息を切らし、汗びっしょり。傍らにブブ。


ブブ「王子様、如何なされたか?」

ティオフェル「ブブ…。(蒼白)」

ブブ「酷く魘されておいででしたよ。」

ティオフェル「恐ろしき夢を見たのだ。数年前の戦で、父上と母上が邪馬台国に捕らわれたときの夢だ。(淡々と)夢の中でお二人は邪馬台国の者らによって火刑台にかけられ、炎の中で…(声を詰まらす)」

ブブ「王子様。」

ティオフェル「なぁブブ、私は恐ろしくてならないんだ。どうすればよい?何故に、何故になん100年にも渡って太平の世が保たれてきたこのアラセルバが、何故この様な事になる!?何故に東方のアラセルバには関係もない南方の国である邪馬台国が、この地に攻めてくるのだ?何故に罪なき父上と母上を捕らえたのだ?」

ブブ「その昔…(真剣に)ティオフェル王子様の兄上様であられるイプスハイム様が、この国から追放されて邪馬台国に流された事は王子様もご存じですね?」

ティオフェル「あぁ。で、ではまさか、兄上の差し金か?」

ブブ「怒ったイプスハイム様が腹いせにと言う事も囁かれてはおりますが一番は…」

ティオフェル「一番は?」

ブブ「女王卑弥呼の復活と言われてもおります。」

ティオフェル「女王卑弥呼の復活?」

ブブ「左様。王子様もお勉強なされたでしょう。5000年前のあの出来事を。」

ティオフェル「??」

ブブ「ペドロに習っておられないのですか?王子様のお年の王族であれば誰しもが知っておいでなのに。(呆れてため息)もしや王子様、又もお居眠りを?」


   ティオフェル、ドキッ


ブブ「よいでしょう。わたくしブブめがお話いたします。5000年前、この地がまだアラセルバではなくイルプラトと言う王国だった頃の話です。イルプラトを治めていたのは国王ではなく女王でした。それもまだ僅か10歳にも満たない少女。しかしその賢さと頭の良さ、鮮明さは多くの国民の支持を受けていたんです。」


ブブ「一方、当時から南方の国に邪馬台国と言う国がありました。当時の邪馬台国は小国でイルプラトには到底及ぶ領土ではなかったものの物凄い権力と財力がありました。しかしそれ以上に凄かったことがあるんです。」

ティオフェル「それは?」

ブブ「その国の統治者もおなごだった。卑弥呼と言うその女王もイルプラトの女王、アナスターシャと同じくらい若い娘だったと残されています。」

ティオフェル「私よりも若くして国の統治者か。」


   ブブ、悪戯っぽくティオフェルを見る


ブブ「そう。実はアナスターシャはもとは邪馬台国の出身、つまり卑弥呼とは従姉妹同士の関係に当たったため、二人とも初めは大変仲も良かったのです。」

ティオフェル「邪馬台国の?では何故にアナスターシャだけが東方の国に?」

ブブ「売られたのですよ。」

ティオフェル「え?」

ブブ「陰謀です。当時邪馬台国では革命派と国風派が争いを起こし、国が二つに分裂していたのです。アナスターシャは革命派、卑弥呼は国風派でしたから国風派はアナスターシャの家柄に恐怖を感じ、邪魔なアナスターシャを東方に連れ去ってしまったのです。初めは殺すつもりでした。」

ティオフェル「そんな」

ブブ「しかし、幼き頃より仲が良かった卑弥呼はどうかアナスターシャの命だけは取るなと嘆願し、彼女は結局東方の国でひっそりと生きることとなったのです。アルプラト宮殿の奴隷として。」


ブブ「しかし幸いなことにアルプラトの国王シラ・ルエデリは大層心の良い王であり、可哀想な王女・アナスターシャを養女として迎え、可愛がられ何不自由なく暮らしたんです。そして彼女に、女王としての世継ぎの資格までをお授けになった。間もなくして国王がこの世を去ると、約束通りにアナスターシャがアルプラトの女王として即位をした。」


ブブ「まだ若いながらに賢くて頭のいい女王はすぐに国の支持を集め、アルプラトを拡大し国を纏め上げ、勢力も強めていった。」


ブブ「それを聞いた女王卑弥呼は徐々にアナスターシャに対して危機感を募らせ、生かしておいたことに後悔した。このままではアナスターシャが腹いせに邪馬台国まで攻め入り、国を奪うと思ったのでしょう。卑弥呼はアナスターシャのこれ以上の拡大を防ぐべく兵を挙げ、アルプラトへと進撃を始めました。それに気がついたアナスターシャも兵を挙げ、瞬く間にアルプラトと邪馬台国は戦となったのです。」


ブブ「でも、その時が初めのその時だったのです王子様。」

ティオフェル「初めのその時?」

ブブ「アルプラトに巨大な流星が落ちた…あの出来事です。」

ティオフェル「とは?」

ブブ「全く、しっかりなさってください王子様。これもご存じないのですか!?」

ティオフェル「仕方なかろう!私とて父上と母上なき傷を負い学業も手につかぬのだ。続けてくれ。」

ブブ「ちょうど戦の真っ最中でした。邪馬台国の者はその流星の落下により殆どの者が滅ぼされてしまったが、卑弥呼だけはその中でも生き延びた。」


ブブ「アルプラトも滅びてしまい国はぐちゃぐちゃ、もうどうにもならない状態で人も住めない。」

ティオフェル「アナスターシャは?」

ブブ「恐らく巻き込まれて死んだのではと言われておりますが、実際彼女のご遺体は何処からも見つからなかったそうです。」


ブブ「間もなく卑弥呼も死んだらしいのですが、正確にはアルプラトの民と国土を滅ぼしたのは流星ではないのではとと言われ…」

ティオフェル「では?」


ブブ「人々の間の伝説では卑弥呼が邪術をかけたのではとも言われております。それからと言うもの、1000~2000年に一度の割合で、まるで卑弥呼とアナスターシャのジンクスの様に戦が起こり、その年には必ず流星が落ちて国を破滅させると言うことが起こっていましたが、いつしかそれもなくなり人々からそれらの事も忘れられていったのです。一説の噂では、誰かがその呪いを封印する儀式を行ったのではないかと。」

ティオフェル「封印する儀式?それはどういうものだ?」

ブブ「(笑う)いえ王子様、それは単なる噂でございますからわたくしも何とも…。」

ティオフェル「しかし…(神妙)」


○尖り石縄文公園(夜)

   野原。柳平麻衣(11)、小口千里(11)、岩波健司(11)


健司「よしっ、みんな集まったな。」

麻衣「えぇ!!」

千里「うん。(きょとん)でも僕らなんで集まったんだっけ?」


   麻衣、健司、がくり


健司「あーのーなー(呆れる)お前人の話ちゃんと聞いてたか?」

麻衣「流星群を見に来たんだらに。」

千里「あ、そうか。」

健司「ったく、確りしろよな。」

千里「ごめん。(指差す)あ、流れ星!」

麻衣「又だわ!始まったのね。」

健司「あぁ。今日は昼間は金環日食だったしさ、満月だしさ、何か変な日だよな。」

麻衣「何か1000か2000年に一度あるだとかないだとかのとっても珍しい日なんですって。だもんで(草に寝転がる)今夜は終わるまで見てまーい!」

健司「俺だってそのつもりさ。」

千里「僕、その前に眠っちゃうかも。」

健司「ダメよん、今夜は…(色っぽくく)ね、か、さ、な、い、わ、よ。」

千里「(眉をしかめる)やめろよ、その言い方。」


   麻衣、ククッと笑う


麻衣「ほれほれ二人ともおふざけはしてないで。これだけ流れとるんに、願い事もいくらだって出来ちゃうわよ。」

健司「お、ふんとぉーだ。じゃねじゃね、まず俺はワルシャワに行きたいな。」

麻衣「ワルシャワに?」

健司「ほ。んで、ワルシャワにある音楽の名門行ってバイオリンを学びたいんだよ。(ジェスチャー)そう、呪いも打ち砕くようなすざまじきジプシーバイオリンさ。」

千里「バイオリンか。じゃあ、僕はピアノかな。早く上手になって憧れのショパンのポロネーズやリストのエチュードを弾きたいの。(うっとり)」


千里「(顔をしかめる)でもそんなことよりも僕、今はとにかく勉強が出来るようにならなくっちゃ。だって僕は今までに一度だってテストの点数でママに誉められた事がないんだ。いつでも十点や十五点で、最悪な時には0点さ。あーあ、一度でいいからテストで五十点以上は採ってママに誉められたいよ。」

麻衣「テストに、ピアノに、バイオリンかぁ。んじゃ私はねぇ?」


   ジェスチャー


麻衣「こんな風に!こんな風に!護身や武術を磨いて父さんのような警察官か、なれなくても人を助ける強い人になりたいわ。」

健司「警察官だぁ?お前がか?(大笑い)」

麻衣「何よ!!失礼しちゃうわ笑うだなんて。(腰に手を当てる)そんなに笑うんなら?」


   気の棒を持って立つ


麻衣「妾と一度勝負をして見るか?妾の剣を受けてみるがよいわ!!」


   千里、健司、身を引く


千里・健司「ううっ、恐れ入った…姫。」


   麻衣、悪戯っぽく笑って座る。


麻衣「それか…そうね、考古学とかも面白そうかも。」

千里「考古学?」

麻衣「そうよ。ほら、古代史って謎が多いら?ほいだもんで私、色々調べてみたいのよ。とりあえず気になるのは、この地の古代史よね。茅野市7000年の地だって言うし。気になるじゃない?」

健司「そうだよな、確かに俺も興味あるわ。ここには昔、アラセルバとか言う名前のでっけー王国があったって話だろ?なのにそんな大きな王国だったにも関わらず、アラセルバについては良く分かっていない。」

千里「7000年かぁ。今まで色々な人がここに住んできたんだよね。当時の人達も今の僕らみたいに星を見たのかな?」

麻衣「どんな願いをかけたのかしら?」


麻衣「あら?あれ見て、何かしら?」


   空を指差す。空には青白い光


健司「ふんとぉーだ。飛行機?ともUFOか?」

麻衣「まさか!」

千里「こっちに近づいてくるよ!」


   光の玉が落ちてくる


三人「うわぁっ!!」


   ***

   

   恐る恐る目を開ける。


麻衣「今の…なんだっただ?」

健司「さぁ?でも俺たちの町になんの被害もなかったみたいだでとりあえずは良かったんじゃね?」

千里「だね。今のでもう流星は終わりなの?」

健司「(空を見る)らしいな。」


   千里、伸びをして欠伸


千里「あぁー、僕もう眠くなっちゃったよ。」

健司「ほーいや俺も。」

麻衣「私も。なら、ぼちぼち(にやり)やりましょうか?あれ。」

千里・健司「あれとな?」


○縦穴式住居(深夜)

   麻衣、健司、千里


健司「おい、ここって尖り石の復元住居だよなぁ?」

千里「こんなところで何するの?」

麻衣「んっ、」


   積まれた干し草の上に倒れ込む


麻衣「わぁーっ気持ちいいわ。二人もやってごらんなさいよ。」

健司「お、おいっ、何やってんだよ。怒られるぞ。」

麻衣「大丈夫、大丈夫。今は夜でこんなとこ誰も来ないわよ。それに明日は尖り石祭りだら?ここなら始まり次第すぐに会場に参加できるわ。」

健司「じゃっ、まさかお前…」

麻衣「そ。そのまさかだに。どう?」

健司「うっおー、めちゃサバイバル!

楽しそうじゃん。俺のった!」

麻衣「流石!話がお分かりになる。」

千里「え、えぇー?」

麻衣「せんちゃんは?」

千里「嫌だよ!帰ろうよ!」

健司「帰るだぁ?お前はふんとぉーに意気地のない男だな。」

千里「だって、だって(もじもじ)万が一日本狼とかナウマン像とかが出てきたらどうするの?第一原始人とかに襲われたらどうすんのさ?」


   ***


健司「原始人に?」

麻衣「日本狼?」

健司と麻衣「それにナウマン像…」


   二人、大笑い


麻衣「せんちゃん、ちょっとバカはよしてに!あーお腹いたい!いくら縄文時代の遺跡だからって、今時日本狼に原始人って!」


   笑いながら


麻衣「大丈夫よせんちゃん、安心しな。もしも変な人が襲ってきたなら(満を持して)この柳平麻衣が警察官の父の名に懸けて、あんた方をお守りいたすっ!ってこんでお休みなしてぇ。」


   寝る


健司「明日は早いぜ。千里、お前も早く寝ろよな。お休みなしてぇ。」

千里「健司君まで…(泣きそう)もういいよ、お休み。」


   ***

   翌朝


健司「んんっ、良く寝たぁ!おはよう。(立ち上がる)あーおしっこおしっこ。」


   外に出る


健司「(延びる)んーっ、気持ちのいい朝だなぁ。いいや。まだこんなとこ誰もいねぇんだし…」


   草むらに入って用を足し出す


健司「ん?(目を細める)」


   遠くの山の上に建物


健司M「何じゃありゃ?あんなもん今までここから見えたっけ?」


   ***

   

   住居の中。千里と麻衣が起きる。


麻衣「んーっ、良く寝た。せんちゃんおはよう。良く眠れた?」

千里「麻衣ちゃん…(固まって目は一所に釘つけ)あれ…」

麻衣「ん、あれ?せんちゃんどうしただ?」


   千里、指差す。二人の目の前には日本狼。そこへ健司。


健司「よっす、二人ともおはようっ。(固まる)何だこれ?」

麻衣「とりあえず私には…」

千里「狼に見えるけど…」


   三人、顔を見合わせる


三人「うわぁっ!」


   逃げる。狼は三人を追う。



○アラセルバ王国

   王宮・学修堂。ティオフェルとペドロ


ペドロ「よって聖君とは、民の事を思い民を第一に考え、民のために最善の…(ティオフェルを見る)」


   ティオフェル、面白くなさそうに羽ペンで羊皮紙に落書きをしている。


ペドロ「ティオフェル王子様!!聞いていらっしゃるか!!」

ティオフェル「えぇ?」

ペドロ「王子様はこの国の君主となられるお方ですぞ。」

ティオフェル「だから何だ?私だって国王になりたい訳じゃないもん。王子になりたくてなったわけでもない。王子として生まれてしまったんだもの、仕方なく王子として生きてるだけ。無責任な兄上が王位を放棄したから仕方なく私が後取りとして生きているだけ。(鼻を鳴らす)王様になるための勉強なんて嫌だよ。だってつまんないんだもん。」


   席を立つ


ティオフェル「それよりももっと面白い事を私はやりたいよ。調べたい事だって他にあるしね。じゃ、ペドロ。私はもう行く。続きはまだ今度頼むよ。」


   走って退室。


ペドロ「(やれやれ)ティオフェル王子様にも本当に困ったものだ。」


   ***

  

    市街地の橋の上。女装をしたティオフェル、竪琴を弾いている。


ティオフェル「日がな一日こうやって、なにも考えずに好きな竪琴を弾いて過ごす。私の一番安らげるときだ。この何て静かで穏やかな日…なぁピぺ。」


   インコと遊ぶ


ティオフェル「お前はいいよな、いつでも。ん?」



   ***

   

   山の手の林の中


   麻衣、健司、千里、追いかけられている


麻衣「ちょっとぉ、これっていつまで逃げていればいいのよぉ?」

健司「知らねぇよそんなの、死んだふりでもしろよ。」

麻衣「そりゃ熊の時でしょうに!」

千里「ママぁ!」


   鈍い鳴き声


麻衣「何、今の?」


   三人、立ち止まって振り向く。


   蘇我ポテト、蘇我ホース。狼の亡骸を持っている。


麻衣「あ、ありがとうございます。おじさんが助けてくれたのね。」

千里「本当にありがとう。」

健司「おじさんたち、尖り石祭りのスタッフか何か?じゃあ、この狼も今今日使うやつか!」


   三人、顔を見合せる


千里「何か言葉通じてないみたいだよ。」

麻衣「外国の方みたいだし。」


   ホース、ドルフィン、三人に近寄る


健司「ってより何かこの状況…俺たちヤバくねぇか?」

千里「確かに…」

麻衣「ここは一先ず逃げまい!!」


   逃げる三人、追うホースとポテト。


麻衣「どうしましょう、追ってくるわ!」

健司「全速力で走れ!」

麻衣「無理よ!大人の足から子供が逃げ切るなんて出来っこないわ!もう諦めましょうよ!」

健司「ばか野郎、諦めたら殺されるかも知れねぇーんだぞ!お前ら死にてぇのかよ?走れるところまで走るんだ!」

千里「僕もうやだ、ママぁ!」

   

   

○同・橋の上

   竪琴を弾くティオフェル


ティオフェル「全く、今日は何なのだ。騒々しくて心休めることも出来ない。」


   インコのピぺ、ティオフェルのもとを離れて羽ばたく


ティオフェル「お、おいピぺ!何処に行くんだ?待て、待てったら!ったく。」


   追いかけて走る


ティオフェル「ピぺー、ピぺー!(立ち止まって青冷める)あ…ゲッ…」

ポテト「おぉ、こんなところであなた様にお会いできるとは!なんと言う光栄!」

ティオフェルM「オエッ」


   ポテト、ティオフェルにベタベタ。


ポテト「私は邪馬台国の兵士だが、あなた様の事はお守りしたい。だから私を避けないで欲しい。」

ティオフェルM「お前が今ベタベタしてるのは他でもない、お前の憎むアラセルバの王子でしてよ。」

ポテト「さぁ、今日こそご身分とお名前を私にお聞かせくださいませ。あなた様は見たところ、どうやら普通の町娘ではないようです。」

ティオフェルM「私の事を本当におなごだと思ってらぁ。こりゃ面白いや。もっと遊んでやろう。」


ティオフェル「(声色)あぁ、あなた様は邪馬台国のポテト様。あなた様の事は良く存じておりますわ。実は私はこの国の王宮に使える下働きの女なのです。名はロミルダと申します。」

ポテト「ロミルダ、なんと美しゅうお名前か。しかしあなた様が宮殿の女とは…。」


   ロミルダを抱く


ポテト「ご安心なさい。例えアラセルバと戦になろうとあなた様だけはお守りしましょう。アラセルバは無王で乱れており、あなた様が住むにはとっても危険な国過ぎる。(小声)あなた様だけにお話致しましょう。他のものには決して漏らしてはいけません。」

ティオフェル「(声色)なんですの?」

ポテト「我が邪馬台国の女王様はアラセルバの王子の首をとり、無王のアラセルバを統一しようとなさっている。」

ティオフェル「何とまぁ!」


   手で顔を覆って泣く演技


ティオフェル「では、ではアラセルバはどうなるのです!?私は戦は嫌いです!どうぞアラセルバを、私のふるさとを滅ぼさないで下さいまし。」

ポテト「ロミルダ殿…(難しそう)私も下の人間ゆえ上の者にお従いしているだけです。故に私の力ではどうすることも…」

ティオフェル「どうかどうか、戦だけはお止めくださいまし!」

ポテト「あなた様のお気持ちお察し致します。」


   ティオフェル、一礼して走り出す。顔は蒼白。


ティオフェルM「戦争?邪馬台国と!?こりゃ偉い事になったぞ!!私はどうすればいい?」


   立ち止まる


ティオフェル「あ、ピぺ!!」


   再び呼びながら走り回る



   ***

   麻衣、健司、千里、息を切らして歩く


麻衣「誰も追って来ないわ。」

健司「まだ油断はするな。」

麻衣「分かっているわよ。」

健司「声がでかいよ!」

麻衣「うるさい!!」


   千里、もじもじ。


千里「もぉ僕嫌だよぉ!!ここ何処なんだよぉ?帰りたいよお。」

健司「千里?」

千里「トイレに行きたいんだよぉ!!」


   もじもじと泣き出しそう


千里「ママァ…。」

健司「(おろおろ)と、ところでなぁ千里、お前…」


   千里、おかめインコの入った鳥かごを持っている


健司「どいでそんなもん持ってるんだ?」

千里「あ、これ?(にこにこ)僕の可愛いおかめのルルちゃん。いつでも何処でも一緒なんだ!」

健司「ふーん、逃がすなよ。」

千里「誰が逃がすものか!あれ?」


   セキセイインコが飛んでくる


千里「セキセイインコだ。誰のだろう?」

ティオフェルの声「ピぺー!ピぺー!」

千里「誰か来るよ。」


   ティオフェルがかけてくる


ティオフェル「ピぺー!」


   千里の指に止まったインコを見る


ティオフェル「ピぺ、良かった。こんなところにいたのか。」

千里「あ、これは君のインコだったんだね。」

ティオフェル「あぁそうだ。しかし気安いぞ。私を誰と心得る!?私はこの国の王子だ!次回からは口を慎みたまえ。さらば。」


   インコを肩に乗せて小走りに帰っていく


麻衣「王子様って言った?」

千里「うん。でもあの子、どう見たって女の子だったよね。」

健司「つうこんは、王女の間違いってか?(笑う)とりあえず俺たちもここにいたってただ怪しまれるだけだろう?ここが何処かは分からない。ただ俺たちがとてつもなくヤバイ状況だってのは確かだ。だから、」


   三人、何かに引っ張られて大きな土器の中に入れられる。直後、邪馬台国の兵士が通りすぎる


   ***


エステリア(16)「皆さん、もう出てきていただいて大丈夫です。」


健司「ってぇ、いきなり姉さん何すんだよ?いてぇじゃねぇか!」

エステリア「申し訳ございません。しかし今、この辺りには邪馬台国の兵士がうろうろしています。あなたたちも見つかってしまったら大変!」

麻衣「では、あなたは私たちを助けてくれたの?」

千里「ありがとう、お姉さん。」

エステリア「いえ。今はとにかく私に着いてきてください。あなた方を安全な場所へお連れいたします。」



○アラセルバ宮殿(朝)

   きょろきょろする麻衣、健司、千里と引率するエステリア


健司「それにしても姉さん、教えてくれよ。ここは一体何処なんだ?」

千里「これって本物のお城なんだよね。」

麻衣「古代みたい。」

エステリア「あなた方はこの国のお方ではないのですね。ここは、アラセルバと言う王国です。」

三人「アラセルバぁ!?」


   ***


エステリア「王子様、王子様、いらっしゃいますか?」

ティオフェルの声「いま取り込み中で忙しいんだ。」

エステリア「王子様、」

ティオフェル「(イライラ)一体何なんだ!?あ。」

健司「あ、あんた。」

麻衣「さっきの。」

ティオフェル「如何にも。(結った髪を解く)私が先程の少女、ロミルダだ。真の名をティオフェルと言う。」

健司M「くそっ、何で同じ男なのにこんなに可愛いんだ?」

千里M「男の子が王子様に恋しちゃったりして。」

麻衣「でも(胡散臭そうに笑う)何で又女装を?ひょっとしてあんた…」


   近寄る


麻衣「そういう趣味のある変態王子なの?それともただのおかま?」

ティオフェル「な、何だと!?この無礼者っ!口を慎め!誰に向かってその様な口を聞いているのかそなたは分かっているのか!?今一度言う、私は王子だぞ!」

麻衣「ふんっ、だったら何よ?罰するなら罰すればいいんだわ。」

ティオフェルM「この女…火炙りの系に処す。」

エステリア「お二方とも、お止めになってください!」


   ***


麻衣「ところでエステリア、さっきいっていた邪馬台国って?」

エステリア「えぇ。この事はティオフェル王子様から直接お話しされた方がよろしいかもしれません。」

ティオフェル「まさにその事で私は悩んでいるのだ。エステリア、邪馬台国に関して新しい情報を掴んだ。」


   深刻に蒼白な顔


ティオフェル「…。」

エステリア「王子様?如何なされましたか?」

ティオフェル「邪馬台国が我が国を滅ぼそうと、宣戦布告をしてくるらしい。そして私の首をとり、無王であるこの国を邪馬台国と統一させると。」

全員「え?」

ティオフェル「先程邪馬台国の親衛兵であるポテトに聞いたので間違いはない。ポテトはロミルダとなった私にお熱で何でも話してくれる。私が男だとも知らずに。やつを利用して遊ばせ、口を割らせるのは容易いことだ。私がおなごに化けるのはこのためでもある。」


   恥ずかしそうに咳払い


ティオフェル「ついに王子の私が、この私が一人で判断し動かなければならない時がやって来てしまった。(しゃがみこんで頭を抱える)私は一体どうすればいい?何をすればいい?」

千里「ん?僕、確か…」

麻衣「せんちゃん?」

千里「確かリュックの中に(がさごそ)あったあったこれだ。」


   本を取り出す


千里「茅野市の図書館で借りたままの本、入れたままで良かった。」

ティオフェル「何だそれは?」

千里「考古史の歴史書ですよ。(にこにこ)きっとこれを見ればアラセルバの歴史が書かれている筈。そうすればこの先どうなるか、何をすればいいかが分かるんじゃないかな?」

健司「千里…お前今日は凄いな。」

麻衣「冴えてる!」

千里「あった、あった。ん?あれ?(顔をしかめる)」

健司「ん?」

千里「これを見て…読めないよ。」

ティオフェル「どれ?」


   読む


ティオフェル「こ、これは!(目を見開く)」

エステリア「王子様、如何なされましたか?」

ティオフェル「お前が、ど、ど、ど、どうしてこれを?」

千里「(おどおど)だ、だから茅野市の図書館で…」

麻衣「一体どうしたって言うのよ?」

ティオフェル「これは昔に父上がお話になっていた予言の歴史書だ。」

千里・麻衣・健司「予言の歴史書!?」

ティオフェル「(震えだす)そう。それは今から遡ること5000年前の事。邪馬台国の創始の大王・クンドルが持っていたと言われる物。な、何故にお前たちがそれを?」


   剣を向ける



ティオフェル「さては邪馬台国の者か?卑弥呼のスパイなんだな?」

健司「違うよ!何勘違いしてんだ!どこをどう見りゃ俺たちが邪馬台国の奴に見えるんだよ!」

麻衣「(笑う)」

健司「お前は何で呑気に笑ってんだよ?」

麻衣「面白くなってきたわと思ってさ。」

健司「は?」

ティオフェル「兎に角、もうお前たちを信用することは出来ない。アミンタ!メルセイヤ!」


   アミンタ(30)、メルセイヤ(45)


二人「は、王子様。」

ティオフェル「直ちにこの息子と娘を捕らえよ。牢にぶちこめ。」

二人「は、」

健司「くっそぉ、あのくそ王子め!見てろよ!」

麻衣「なりいきを見るのよ(大声)この能無しのへたれバカ王子!」

ティオフェル「なんだと?無礼者!お前など股割きの刑に処するわ!」


   麻衣、あかんべ


千里「え、え?ちょ、ちょっとその前に王子様…あぁ」


   ティオフェル、呆気にとられて千里に釘つけ


ティオフェル「お前…(静かに)何故によりにもよって私の部屋でする!?この無礼者!」


   舌打ち


ティオフェル「しかし、もう既に時遅し。やってしまえば仕方があるまい。ブブ、」


   ブブ(35)


ティオフェル「やむを得ん。この者に私の寝巻きと下着を」

ブブ「は。は?」

ティオフェル「黙って従ってくれ。メデア、」


   メデア(31)


メデア「はいはい王子様。」

ティオフェル「この者の着替えを。そして終わったらブブ、残りの子供二人が閉じ込められている牢にこの者も。」

ブブ「畏まりました。」


   ***

   

   メデア、千里を着替えさせている


メデア「まぁまぁ、それにしても何と可愛らしいお姫様だ事!」

ティオフェル「私も女に王子の服は着せたくはないが致し方あるまい。」

メデア「ティオフェル様はお優しいのですもの、こう言った困った方を放ってはおけないのですわ。(クスクス)」

ティオフェル「メデアっ!」

メデア「そうお怒りになられませぬよう。王子様は可愛らしい姫様には気むずかしそうにお接しになられつつも、お優しく…」

ティオフェル「(おどおど)いくら乳母やとはいえ王子に向かって無礼ではないか!?」


   咳払い


ティオフェル「しかしながら怪しからん者だ!王子たるこの私の部屋で粗相を抜かすだとは。私は生まれてからこれまで、一度としてその様な失態をしたことがないぞ。」

メデア「まぁ、それは誠にございますか王子様?今でしで毎晩の様におねしょをされているではありませぬか。」

ティオフェル「(真っ赤になる)ぶ、無礼者!メデア!こ、今度その様なことを申してでも見よ!例え乳母殿であろうと私は…(言葉を飲む)」


   千里、ククっと笑う


ティオフェル「お前っ(剣を向けようとする)…あ?」


   千里を見る


ティオフェル「お前って…まさか、」

メデア「まぁ!」

千里「そ、そうですよ。(ビクビク)僕はおなごではありません。正真正銘のおのこです。」

ティオフェル「おや、これは…(きょとん)」


   ***

  

    着替えが終わる


メデア「さぁ出来ましたよ。王子様、こんなに可愛らしいお坊っちゃんを誠に牢にお入れするなどとお考えですか?」

ティオフェル「仕方がない。この者には全てアラセルバや邪馬台国の事について話してしまったからね。もしやつらの手下ならうっかり仲間らにアラセルバの情報を漏らされても困る。」

千里「だから僕らは邪馬台国の人じゃないんだってば!あの歴史書が何よりの証拠じゃない!」

ティオフェ「あの本だと?バカを申せ!あの本こそお前が邪馬台国の使者であるという紛れもない証拠だろ!」

メデア「まぁ…(恐れて身を引く)」

千里「だから話を聞いてくださいよ!あの本にはこれから先の事が全て書かれているんです。たがらそこにあなたとアラセルバの将来、つまりあなたとアラセルバを救うヒントも書かれているんです。」

ティオフェル「だったら?」

千里「僕も、あなたとアラセルバを救うお手伝いを致しましょう。」


   ***

   

   ティオフェル、笑い出す。


ティオフェル「分かった、それは面白い。ではもしお前の手柄あってアラセルバが邪馬台国に勝利出来れば、あの仲間の者たちを釈放しよう。しかし、少しでも変な真似をしてアラセルバを窮地に落とす様な事あらばあの仲間共々、お前の首も跳ねる。」

千里「ひぃぃぃぃ!」

ティオフェル「分かったな!」

千里「はいぃ…」


   ***


ティオフェル「尖りの森?」

千里「はい。確かそうだった。そこに尖り石という名の大きな石があるんだ。その石は遠い昔に空から降ってきて、その時に何かが石の下敷きにされたって聞いた事もあるなあ。それから、流星による神隠しとか…」

ティオフェル「神隠しとは?」

千里「人が消えちゃうんです。その石の時に人が現れたとか消えちゃったとか。」

ティオフェル「もうよい…(立ち上がる)」

千里「どちらへ?」

ティオフェル「尖りの森へ行く。何かヒントがあるかもしれない!」

千里「えぇっ!?」


   ティオフェル、髪を解く


千里「?」


   自分の髪紐で千里の髪を結う


千里「王子様?」


   ティオフェル、衣装と下着を脱いで女の格好をし出す


千里「あ、あの…(おどおど)」

ティオフェル「よし、出来た。お前は髪をこうして私の衣装を着ると私に良く似ているんだね(笑う)完璧だ。後は頼んだよ。」

千里「え?え?頼んだって…何を?」

ティオフェル「私は暫しお前を信じてかけてみることにしよう。だから私は数日間出掛けてくる、この城の番を頼むよ。」

千里「番って、まさか」

ティオフェル「お前に私の代わりに王子を演じてもらう。」

千里「ひぃぃっ、」

ティオフェル「只し、あの者らを釈放したり変なことをしてもらっては困る。そんなことをした日には…」

千里「分かりました。」

ティオフェル「ではメデア、ブブ、エステリア、この者の事と私の事は私たち以外秘密だぞ。誰にも口外してはならぬ。それから少年」

千里「僕は千里です!」

ティオフェル「千里、お前も私が帰るまでは決して何があろうとあの者たちの元へは会いに行ってはいけない。分かったか!?」

千里「はい…」

ティオフェル「では私は行く。さらば。」


   周りの様子を伺いながら慎重に走っていく。千里、直後腰を抜かしてしゃがみこむ。


エステリア「王子様…」

千里「王子様って呼ぶなよ。僕もうどうにかなりそうだ。」



 ○アラセルバ王国・市街地(朝)

    ティオフェル、竪琴を抱えて少し色目を使いながら紅い顔をして歩いている


ティオフェルM「と言っても、尖りの森って一体何処にあるんだろう?今まで聞いたこともない場所だ。あ!」


   市場街


ティオフェルM「あのおばあさん人が良さそうだ。よし!(近付く)」


ティオフェル「(声色)ねぇおばあさま、ちょっとお訪ねして宜しいかしら?」

老婆「まぁまぁ若い娘さん、どうしたんだい?」

ティオフェル「(声色)尖りの森って場所に行きたいの。おばあさまご存じ?」

老婆「尖りの森?(きょとん)お前さんあんなところまで行くのかい?一人で?」

ティオフェル「(声色)ご存じなのね!道を教えて!」

老婆「お前さん、あんなところ危ない。可愛い女の子が一人で行く様な所じゃない。」

ティオフェル「(声色)大丈夫!だからお願い。ね、おばあさま!」

老婆「分かったよ、あのねぇ…」


   ***


ティオフェル「(声色)分かったわおばあさま、どうもありがとう!」

老婆「本当に気を付けるんだよ。(袋を差し出す)道のりは大変だよ、これを持ってお行き。」

ティオフェル「これは?」

老婆「団栗のお餅だよ。今ここらじゃとても人気なんだ。お代はいらないよ。あんたにゃ特別だ。」

ティオフェル「(声色)ありがとう、ご親切なおばあさま。ではごきげんよう。」


   走り出す


   ***


ティオフェル「あぁ、恥ずかしかった。でも私の変装は完璧。誰も私が男で、しかもアラセルバのティオフェル王子だなんて気が付かなくってよ!オホホ…(餅を口に入れる)あら、このお餅以外と美味しいわね。」


   歩き出す


   ***


   大きな山の山の手

   


   息を切らして足が縺れる。


ティオフェル「あれから一体どれくらい経つ?もうダメだ、一休みをしよう。」


   ピぺが飛んでくる


ティオフェル「ピペッ!(指に乗せる)来てくれたのか!それより何故ここが分かったんだい?よしよし。」


   餅をちぎって小さく丸める


ティオフェル「お腹が空いたろ。お前も食べるかい?」



○同・宮殿内の牢や(夕)

   麻衣と健司。健司、格子を揺らす


健司「くっそぉ、あれからどれくらい経つんだ?」

麻衣「さぁね。」

健司「さぁね、じゃねぇだろう!!大体千里はどうしたんだよ!?」

麻衣「分からないわよ!もしかして先に…」

健司「お、おい縁起でもないこん想像してるんじゃないだろうな?」

麻衣「…。」

健司「図星か?」


   麻衣、虚ろに健司を見る


健司「な、なんだよ。」

麻衣「お腹空いたわね。」

健司「あ、あぁ。そういえば千里、あいつずっとトイレに行きたいって言ってたなぁ。大丈夫だったのか?」

麻衣「さぁ…漏らしちゃってなければいいけど。」


   鼻を鳴らす


麻衣「歴史書なんて所詮嘘っぱちよ。王様はみんな聖君でみたいないい事ばっかり書いてあっても何よ!みんな実際の歴史を知らないからあんな推測をするんだわ!私将来は歴史の仕事について書いてやる!」

健司「何て!?」

麻衣「所詮はバカ王子のバカ君主だったって言ってね。」

健司「お前、バカ君主って…ひょっとしてあいつの事言ってる?」

麻衣「当たり前よ!他に誰がいるっていうのよ?」

健司「でも本当に将来あいつが王位につくとは限らねぇだろうに。」

麻衣「ほっか(あっさり)それもそうね。大体、フッ…あんなのが王位になんてついたら忽ち一年も経たない内に国は滅びるわ。」

健司「麻衣…そこまで言うか?」


   二人のお腹が鳴る


二人「腹へったぁ…。」


麻衣「あーあ、本来なら今頃はもう縄文祭りなのよね。キィィィッ悔しい!この日のために折角貯めたのに…」

健司「何を?」

麻衣「クイズつき縄文スタンプラリーの応募券よ。」

健司「なんだ…そんなもんかよ。」

麻衣「ちょっと、そんなもんかよとは何よ、そんなものかよとは!!」

健司「だってそうだろ!こんな時に良くそんなもんの心配してられるな?」

麻衣「だって折角当たってたのよ?今日が引き換えだったのよ?縄文ツアーと縄文食が抽選で一名なのよ?幻の縄文食なのよ?」

健司「なんだって!?そりゃ聞き捨てならねぇ話だな。」

麻衣「だらだら!?」


   二人、へなへな経垂れ込む


   ***


   王室。千里とエステリア


千里「あぁぁっ!」

エステリア「王子様!?どうなさいました?」

千里「ないっ!!」

エステリア「え?」

千里「僕、何処かに落としちゃったんだ。どうしよう…これじゃあ健司くんや麻衣ちゃんにこっぴどく怒られちゃうよ。」

エステリア「何かお大事なものでも?」

千里「う、うん。確かにこのパーカーのポケットに入れていたのに。着替えたときに落ちちゃったのかな?それとも…あぁっ(頭を抱える)」

エステリア「もし私がお力になれればお探ししましょう。それはどの様な物ですか?」

千里「うん、紙と書くものあるかい?」


   エステリアから羊皮紙と羽ペンを受けとる


千里「ありがとう、えぇとねぇ。(書きにくそうに書き出す)」



○尖りの森(夕)

   数日後。ティオフェル一人


ティオフェル「やっと着いた。ここが尖りの森なのだね。さて…(山を見上げる)ここを登るのか。(歴史書を見る)尖り石は一体何処にあるのだろう。あんまり上じゃなきゃいいんだけど…ピぺ、登ってみよう。」


   山を登り始める


ティオフェル「(本を見ながら)数千年前はここに都が広がっていただなんて…」


   周りは全て森や木々


ティオフェル「面影一つない…。」


   ***

  

    夜。


ティオフェル「あぁ日が落ちた。流石にもう探すのは困難だ…(きょろきょろ)」


   数メートル先、縦穴式住居


ティオフェル「民の家だ(近付く)…誰もいない。みな邪馬台国にやられてしまったのか?(悔しそう)」


ティオフェル「仕方がない。今晩はここに寝泊まりさせてもらおう。」



○住居の中(夜)

   ティオフェル、藁の上に無造作に横になる


ティオフェルM「あいつ上手くやってくれているだろうか?今頃城中は大騒ぎになっていないだろうか?…ん?」


   お尻の下に手を入れる


ティオフェル「何かある。」


   ミルテがあしらわれ、星屑を散りばめたバレッタ


ティオフェル「美しい…(微笑んで懐に入れる)まだなんかある。」


   がさがさ


ティオフェル「何じゃこりゃ?」


   茶色い陶器の破片と一センチあるかないかの泥にまみれたピンバッチ


ティオフェル「きったないなぁ…誰がこんなもんをここへ置いておくのだ!?」


   ピぺ、大きく羽ばたくがティオフェル気がつかない


ティオフェル「捨てて来るよ…」


   住居を出て崖下へ投げ込む


ティオフェル「ナイッショット!」


   再び横になる


   ピぺ、ティオフェルの腹の上に止まる


ティオフェル「ピぺ、おいで。(手に止まらす)お休み。(目を閉じる)」


   F・I


○王室(朝)


   F・O 

   

   千里とエステリア。エステリア、物思いげに首を捻る


千里「エステリア、どうかしたの?何か変だよ?」

エステリア「これ…(千里の描いた紙)私昔に何処かで見た覚えがある気がするんです。」

千里「えぇ!?(笑う)エステリア、それはあり得ないよ。だってこれは僕らのいた時代に初めて作られたものなんだよ!」

エステリア「え?あなたのいた時代ですか?」

千里「あ、あぁ…いやぁ。(困っておどおど)」


   ***


エステリア「え、7000年後の時代から?」

千里「信じてもらえないかもしれないけどそうなんだ。僕らは7000年後のこの地に住んでた。みんなで流星を見てたんだ。そしたらその時に急に大きな星が降って来て…気が付いたらこの時代に来ちゃったって訳。」



○尖りの森(朝)

   ティオフェル、熟睡。ピぺ、ティオフェルの頬をつつく


ティオフェル「んんっ、ピぺ…(微笑む)おはよう。どうした?」


   ピぺ、飛び立つ


ティオフェル「お、おいピペッ、何処に行くんだ?」


   後を追いかける


   ***


   大きな石の前


ティオフェル「こ…これは?」


   本と見比べる


ティオフェル「ここに書かれた不思議な絵とまさしく同じ。遂に見つけたぞ!


ティオフェル「ではこの下に…」


   石を持つ


ティオフェル「うぅっ、びくともしない。どうする?」


   ピぺ、ハミング


ティオフェル「ピぺ?」


   歌を続ける


ティオフェル「私に歌えと言っているか?」


   ピぺ、頷くように竪琴の上に止まる


ティオフェル「この竪琴と共に?」


   ティオフェル、竪琴を弾きながら歌い出す。



   石、ずれる


   ***

   

   石の下の穴の中、本がある


ティオフェル「わぁ…ん?あった!本だ!」


   取り出して土を払う


ティオフェル「ピぺ、お前ってやつは何て賢いインコなんだ。どれどれ?」


   ***

   

   石の上に腰かけて読み出す


ティオフェル「何々?」


   ティオフェルM「え?」


   本を二度見。


ティオフェル「え?(急いで読み返す)そんな馬鹿な…(蒼白になってよろよろ)」


   本を閉じて立ち上がる


ティオフェル「ピぺ、急いで王宮に戻る!すぐ山を下ろう!」


   よろよろと走る



○牢や(朝)

   健司、麻衣、窶れて瀕死。


健司「なぁ麻衣、あれから何回夜が来た?」

麻衣「そんなの知らないわよ。」

健司「俺もうダメだ、死にそう。こんなところで遺書も残すことが出来ず死ぬなんて無念だぜ。」

麻衣「縁起でもないこと言わんでよ…(がくり)って、私ももうダメかも。(弱々しく微笑む)でももしかしたら死ねば戻れるのかもね…平成に。」 

健司「そうなのかもな。この全ては泡沫の夢だった。」

麻衣「せんちゃん、あんたはへーそっちにいるの?だったら待ってて…私たちももう行くわ。さようならアラセルバ。」


   二人、力尽きる


○王宮の庭(朝)

   千里、エステリアと弓矢無げをしている


千里「っ、(手を止める)」

エステリア「如何なさいましたか?王子様?」

千里「麻衣ちゃん!健司君!」

エステリア「え?」

千里「お願いエステリア、牢への行き方を教えて!本物の王子様に八つ裂きにされたって構わない!(不安げ)凄く嫌な予感がするんだ。考えたくはないけど二人の身に何か…」


   泣き出しそう


エステリア「王子様…」


エステリア「分かりましたわ。(密やかに)只し、ブブ様とメルセイヤ様、アミンタ様に見つかってはなりません。」

千里「分かった。」


   二人、走る


○尖りの森(朝)

   ティオフェル、蒼白になって足を止める


ティオフェル「っ、」


   再び走り出す


ティオフェルM「私は、私は何と言うことをしてしまったのだ!何も知らなかったとはいえ、勝手に邪馬台国の罪人と決めつけてしまった。頼む!死なないで、生きていてくれ!」



○牢や(朝)

   番人二人。千里、番人を見て怖じ気付く


エステリア「ガーボル!フィス!」

ガーボル「は、エステリア様。」

エステリア「王子様のご命令です。子供二人を釈放なさい!」

千里「しゃ…釈放しろ!…してください。」

フィス「子供二人ですって?」

ガーボル「二人の子供なら先ほど罪人墓地へ連れていきましたぜ?」

千里「ざ…ざざざざ、罪人墓地って?」

フィス「あぁ、二人とも死にました。恐らく飢え死にだろう。ここにはそんな囚人が何人も今までにいるではありませんか?何故にそんなに驚きなする?」


   千里、へなへな


   ***


   王室


エステリア「王子様っ!」

千里「なら、これから二人はどうなるの?」

エステリア「王宮から離れた罪人墓地に葬られるのでしょう。」


   千里、静かに泣き出す


エステリア「王子様…」

千里「僕は、僕はこの世界の人間じゃないんだ。あの二人と共に三人でここへ来た。二人がいないんじゃあ僕一人どうやってここで生きていけばいいんだ!」


   エステリア、慰める


エステリア「王子様、まだ希望をお棄てになってはなりません。私たちも罪人墓地に行ってみましょう。」

千里「二人とももう死んじゃったんだろ?何の望みがあるっていうんだ!」

エステリア「望みはまだあります。急いで!早くしなければ本当に取り返しのつかぬことになります。さぁ早く!」

千里「うん…(涙を拭って立ち上がる)」



○市街地(朝)

   千里、エステリア、市場街を走る。人々、二人を見て口々に「王子様だ」と囁く


   ***


   ティオフェル、山を降りて市街地に出る。


ティオフェル「やっと里に下りた。ん?」


   遠くに音楽行列


ティオフェル「叉、囚人が死んだのか。」


   青ざめて頭を抱える


ティオフェル「あぁもし間に合わなかったら、取り返しのつかないことになっていたならばどうしよう?そしたら私の責任だ…」


   よろよろ。


   ***

   

   千里とエステリア


エステリア「王子様、大丈夫ですか?」

千里「うん…」


   よろよろ


千里「僕は大丈夫さ。エステリア、君こそ大丈夫?」

エステリア「私も大丈夫ですわ。」

千里「辛くなったら君は戻って。僕は一人で何とか行ってみるから…」

エステリア「ありがとうございます。王子様ってお強いしお優しいお方なのですね。」


   千里、でれでれと笑う


エステリア「しかし、ご心配には及びませんわ。とにかく先を急ぎましょう。」

千里「うんっ。」


   エステリア、よろよろとした千里を支えながら先に進む。


   ***

   

   麻衣と健司を乗せた死者行列の楽隊が数十メートル先を歩いている。麻衣と健司。棺の中で眠っている。


   ***

   3日後、ティオフェル


ティオフェルM「あぁ、後もう少しで王宮だ。頼む、生きてて…私が行くまで死なないでいてくれ。」


   よろよろ


ティオフェルM「足が思うように前に進まない…目の前がボヤける…。」


○王宮・牢や(夕)

   ティオフェル、よろよろ。


ガーボル「お、王子様!?そのお体は如何なされたか?」

ティオフェル「何も聞くな。それよりも二人の子供はどうした?早く、釈放しろ!」

フィス「二人の子供?あの妙な着物の二人か?」

ティオフェル「そうだ、一人はおのこ、もう一人はおなご…」

ガーボル「あぁ、その二人でしたら数日前に死に、今死者行列が罪人墓地に運んでいるところだと先日王子様とエステリア様にもお伝えいたしましたよ。」

ティオフェル「な、ななななな、何だってぇ?」


   へなへな


フィス「あらら…数日前と同じ展開。」


ティオフェル「そんな、そんな…。」


   泣く


ティオフェル「私の首を跳ねろ!!」

ガーボル「お、王子様?行きなり何をおっしゃる?」

ティオフェル「私は取り返しのつかぬことをした。国一つ守れぬダメ王子だ。ほれ、はよ私の首を!!」


   番人たち、おろおろと顔を見合わせる


○罪人墓地(夕)

   使者たち、麻衣と健司の遺体を石台の上に寝かせる


使者1「これでいいな。叉、数日の後に来よう。」

使者2「子供の罪人のミイラか。珍しい。」

使者3「しかしまだ幼いに、ちと残酷じゃのう。」

使者4「構わぬ。」


   使者たち、帰っていく


   ***

   

   エステリアと千里


エステリア「ここですわ。きゃっ!」

千里「麻衣ちゃん?健司君?」


   触る


千里「冷たい…(ワッと泣き出す)何で?何でさ?どうして僕を置いて先に逝っちゃうの?君たち無しで僕はどうやってアラセルバで生きていけばいいのさ!?僕は、千里はまだここで生きているんだよ!!」


   エステリアに泣きつく


エステリア「王子様…」

千里「エステリアお願いだ。僕からの最初で最後の命令です。(真剣)僕を殺してください。」

エステリア「そんな王子様!その様なこと私には出来ません」

千里「君が出来ないって言うんなら自決します…」


   エステリアの短剣を抜く


千里「いざっ…さらば」

エステリア「王子様なりませぬ!王子様だけでもお生きになるのです!」


   千里、首に短剣を当てる


○尖り石縄文公園(夜) 

   現代の世界。健司と麻衣、起きる


健司「ん、んーっ。あれ?俺たち…」

麻衣「流星を見て眠っちゃっていたのね。(空を見る)まだ流れているんだわ。」

健司「俺、変な夢見てたわ。」

麻衣「私も。」


   暫くぼんわり


   ***


健司「帰るか?俺達が帰るべき場所へ。」

麻衣「そうね。せんちゃんもへー私たちを待ってるかしら?」


千里の声「僕はまだ死んでないよ!!」


   麻衣、健司、立ち止まる


千里の声「生きてるんだよ!!二人とも戻ってきてよ!アラセルバの地へ!!」

麻衣・健司「アラセルバ?」



○ティオフェルの夢の中(火の色)

   麻衣、健司、死んでいる


ティオフェルM「おいっお前たち!!死ぬな!死なないでくれ!嫌だ!」


   二人、火刑台の上に死んだままつけられている


ブブの声「王子様、この者共にもう用はありませぬな。」

ティオフェル「お前は誰だ?」

ブブの声「(不気味に笑う)」


   火刑台に火をつけ、二人が焼かれる。


   目を覚ます麻衣と健司、苦しみながらもがいているが死んでいく


ティオフェルの声「わぁぁぁぁぁっ!」



○王室(朝)

   布団の中、ティオフェル。真っ青な顔で息を切らして飛び起きる


メデア「王子様っ!!王子様がお目覚めになられました。」


   ブブが入室


ブブ「王子様、お加減は如何ですか?」

ティオフェル「ブブ、メデア…」

メデア「驚きましたよ王子様、地下牢で自らお命を絶とうとなさるなんて!一体何をお考えなのです?あなた様はこのお国のお世継ぎなのですよ!!」

ブブ「王子様、お気を確かにお持ちくださいませ。あなた様がお亡くなりになればますます国は混乱してしまいます。」


   ティオフェル、暫くぼわーっとしている


ティオフェル「ブブ、メデア…(ワッとメデアに泣きつく)私はどうしたらいいのだ乳母や、結局私は父上と母上無しでは何も出来ぬダメ王子なのです。私は間違った判断をし、取り返しのつかぬことをしてしまいました。この国一つ守れず、何が王子といえますか?私はどうすればいいんだ、なぁメデア!」


   メデア、優しく慰める


メデア「王子様は王子様なりに十分ご立派にやっておられます。数年前の王子様とお比べになれば、とてもご立派に成長なされています。故、自信をお持ちください。王子様はきっと聖君になられます。」

ティオフェル「メデア…」

メデア「さぁさぁ、王子様(ティオフェルの涙を拭う)その様なお顔をされていたらなりません。民が心配なさります。」

ブブ「あなた様はもう少しゆっくりお休みください。王子様はあの後すごいお熱を出されてお倒れになったのです。少しは休息も大切ですよ」


   メデア、興奮して起き上がったティオフェルを寝かす


ブブ「ではメデア、王子様を頼んだぞ。私は持ち場に戻りますゆえ。」

メデア「えぇ、わかりました。」


   ブブ、意味深な笑みをして退室。ピぺ、ティオフェルの頬を心配そうにつつく。


   ***

   

   ブブ、武装をして廊下を歩く


ブブ「ティオフェル王子が病気か。こりゃこっちには好都合だ・・・」


   小走り



○邪馬台国(朝)

   謎のベールで顔を隠した気味の悪い扮装の卑弥呼、マルキ、リオーナ、ブブ


ブブ「リオーナ様、マルキ様、卑弥呼様、如何なされます?アラセルバの王子は衰弱しております。ここでちょっと手をかければ王子もそう長くはありませぬ。」

卑弥呼「お前、王子に手を下すつもりか!」

ブブ「手を下す以外に方法が?」

卑弥呼「王子はなかなか利口で用心深い。例え病床で動けぬ身であろうとあの王子のことだ。こちらの手の内すぐに見破り、失敗に終るが落ちじゃわい。これはやはり…」


   にやり


卑弥呼「戦を仕掛けて王子を引きずり下ろし、首をとるしかあるまい。話を聞けばブブ、王子は戦をしたことがなく恐れているようだな。ではこれしかあるまいに。戦にて王子を子典範に負かすのじゃ。」

ブブ「戦…遂に宣戦布告をなされるのですね。」

卑弥呼「流石の王子でも人数と戦力に長けた邪馬台国が戦を仕掛ければ何も歯が立たぬまい。ホ、ホ、ホ」

ブブ「なるほど。」

リオーナ「となりますと、エステリアはどうなります!?」

ブブ「あの者はもはやアラセルバの民…」

マルキ「と言うことはもしやっ!」

ブブ「王子と共に滅ぼすのだ。」

マルキ「そ、そんなやめろブブ!それはあまりにも薄情と言うものだろう!エステリアは我が妹!邪馬台国の者ではありませぬか!!」

リオーナ「お前こそ黙れマルキ、あれは邪馬台国を捨て敵国の民となった女、血の繋がった家族であろうと今や憎き敵同然。」

マルキ「しかし母上、数年前まではアラセルバとも友好を築いていたではありませんか!なのに今更何故…」

リオーナ「今は今、昔は昔。今と昔ではなり生きも状況も違う。変わったのじゃ。あんな者もう勘当だ!一族でもなんでもないわ!!」

マルキ「一体アラセルバが我が邪馬台国に何をしたと言うのです!?」


   リオーナ、退室


リオーナ「マルキっ、もう二度とそのような口を利くのではない!!」

マルキ「母上っ、お待ちください!母上!」


○アラセルバ王室

   数日後。ティオフェルが目覚める


メデア「王子様、お目覚めになられましたか。」

ティオフェル「メデア、」

メデア「あれから毎晩魘されておいででしたのでとても按じておりました。」

ティオフェル「ありがとう。ずっとここにいてくれたのか?」

メデア「勿論ですわ。お加減は如何ですか?」

ティオフェル「お陰で大分いいよ。」


   メデア、額に手を当てる


メデア「お熱ももうお下がりになられましたね。(微笑む)ではお召し換えを致しましょう王子様。」


   ティオフェル、布団の中を見て頭を抱える


メデア「仕方がありません。今回はお体が優れなかったせいに致しましょう。誰にもお話致しませんからご安心を」

ティオフェル「…。」

メデア「お召し換えをなさったら王子様のお部屋にお行きくださいまし。エステリア様が先ほどお帰りになられ、王子様をお待ちです。」

ティオフェル「エステリアが帰った?一体何処に行っていたと言うのだ?では千里も一緒に出掛けていたと言うのか?」

メデア「えぇ。」

ティオフェル「(不思議そうに首をかしげる)」


   ***

  

    別部屋。エステリア、千里、麻衣、健司。そこへティオフェル


エステリア「王子様。心配していたのですよ、お加減の方はもうよろしいのですか?」

ティオフェル「案ずるな。私はもう大丈夫だよ、心配かけたね。(咳をする)」


エステリア「王子様、まだお咳が!」

ティオフェル「構わぬ、私は大丈夫だ。」


   エステリア、ティオフェルの背を擦る


ティオフェル「ありがとう、すまぬなエステリア。」


エステリア「いえ。それで王子様…」


   ティオフェル、悲しそうに暗い顔


ティオフェル「何も言うな、分かっている。全ては私の責任なのだ。

エステリア「え?」

ティオフェル「お前だってそう思っているのだろ?私が殺したんだと!人殺し王子なんだと!(しゃがみ込む)元から私に後継に値する国王の器なんてないんだ。私は一体どう生きたら良い?聖君にもなれずに国を滅ぼし乱す王として国民に蔑まれながら惨めに屈辱的な人生を送っていくのか?」

エステリア「王子様、何故その様に思われるのですか?」

ティオフェル「私は謝った判断を下してしまった。民を見殺しにしてしまった。例え他国の民、敵国の民であろうと罪なき民を救うのが人であろう!?それなのに私は人として取り返しのつかぬことをした…私は何て最低な人間なんだ!これの何処が王子と言えるのだ!」


麻衣「何いってんのこの子?」

千里「僕たちはここにいるのにね。」

健司「俺たちに全く気がついてないみたいだぜ。」

三人「うんうん。」


エステリア「王子様、ご心配いりませんわ。あの者たちはきちんと生きておられます。」

ティオフェル「バカを申せエステリア!お前は聞いていないのか?(声を詰まらす)あの者たちは…あの者たちは…」


麻衣「私達がどうしたって?」

健司「事は全てエステリアと千里から聞かせてもらったぜ。」

千里「おかえりなさい、王子様。」

3人「秘密は約束通り誰にも話しとらんに。」


ティオフェル「お前たち…何故?」

麻衣「理由は、ね。」

健司「俺たち本当にもうダメかと思ったよ。一回朽ちたのは事実。」

麻衣「もう一歩遅かったら本当に死んでたわ。」

千里「うん、僕も2人が死んじゃったって聞かされたときは自決を考えた。でもエステリアに止められたの。死んじゃあなくて良かった。二人とも微かにまだ息があったからあわてて医療所に連れていったんだ。そしたら…」

ティオフェル「そうだったのか…。エステリア、それに千里もありがとう。本当にありがとう。(涙を堪える)みんなよく生きて帰ってくれたね。生きててくれてありがとう。私を許してくれ、私はお前たちに何て酷いことを…」

健司「もういいってこんよ。」

麻衣「やっと私達が怪しくないってわかってくれたのね。大体気づくのが遅すぎるんだわ。」

千里「これで僕らも安心だね。」

ティオフェル「あぁ。」

エステリア「(微笑む)王子様が泣いていらっしゃる。」

ティオフェル「う、う、う、うるさい!黙れエステリア!」


   赤くなるティオフェル、笑う他4人。


千里「それで王子様、」

ティオフェル「場所は見つかった。(本を取り出す)石の下にはこれがあったんだ。」

エステリア「本ですか?」

ティオフェル「私もまだ初めの方しか読んではいないが、どうも国を守る方法の書かれた秘書らしい。」

千里M「本当にあったんだ、歴史書は嘘つかないね」

麻衣「で、そこには何て?」

ティオフェル「うん、封印をするには何か儀式が必要らしいんだ。しかも女王・アナスターシャ付き添いの元って書いてある。」

麻衣「女王アナスターシャ?」

千里「それって…」

ティオフェル「そう。今から5000年も昔のアルプラト女王。」

健司「そいつ付き添いって…まさか今でもアナスターシャが生きてるって言うのかよ!?そんな馬鹿な話ってあるわけないだろ?(笑う)もし生きてりゃ軽く5000歳は越えてるぜ。」

ティオフェル「如何にも。(悩む)うーん。」


   ピぺ、部屋を旋回している


ティオフェル「ピぺ、少しは落ち着け。」


   

   ***

   

   寝室。ティオフェル、布団に入って本を読み返している


ブブ「王子様、そろそろお休みになられませんと。」

ティオフェル「いやブブ、今夜はもう少し起きている。」

ブブ「しかし王子様は病み上がりのお体ゆえ、夜更かしはよくございません。」

ティオフェル「大丈夫だブブ、暫く出てくれ。一人になりたい。」

ブブ「承知致しました。」


   ***


ティオフェルM「封印の儀式に必要なものは女王を象った小さな像。そして黄金に輝くピン…か。これは一体何処にあるんだろう。」


   葛藤


ティオフェルM「しかしあの者たちがアラセルバを守る者になるとは一体どうやって…」


○学修堂

   ペドロ、一人。そこへティオフェル


ティオフェル「ペドロ、」

ペドロ「ティオフェル王子?この様なお時間に一体どうなすった?」

ティオフェル「ペドロ、聞きたいことがある。暫しいいか?」


ペドロ「こりゃこりゃお珍しい。王子様より進んでお勉強をなさりたいとは。」

ティオフェル「なぁペドロ、女王を象った小さな像と黄金に輝くピンとは一体何の事だ?」

ペドロ「(噎せ混む)お、王子様何ゆえその様なことを。」

ティオフェル「知っているみたいだね。さぁ、どうか私に教えてくれ!!」

ペドロ「分かりました。お教えしましょう。その代わり、」

ティオフェル「その代わり?」

ペドロ「秘密厳守にしてくださるとお約束いただけますね?」

ティオフェル「あぁ分かった。」



ペドロ「ではお話いたします。女王を象った小さな像とは、かつての女王アナスターシャの姿。これはアナスターシャが天変地異によって亡くなり、その遺体が姿を消した時にアナスターシャの侍女であったエレンによって作られたものとされている。」


ペドロ「しかしそれをアナスターシャとして彼女の遺体の代わりに棺に入れようとした時に像を落としてしまい、右腕の部分が欠けてしまったと言われる。それを今でもアナスターシャとエレンの霊が探し回っていると言う噂なんです。」

ティオフェル「では、像はアナスターシャの棺の中に?」

ペドロ「恐らく。しかし彼女の棺が何処にあるのかさえ誰も知らぬ。」

ティオフェル「王族墓地ではないのですか?」

ペドロ「今まで歴代の王がそこに埋められ、調査もされたが彼女とされるものは何処にもなかった。ひょっとしたらエレンと同じ場所にあるのかもしれないがそのエレンすらも見つかっていないのですよ。」

ティオフェル「では、黄金のピンとは?」

ペドロ「恐らくかつての国王であるシラ・ルエデリが持っていた王の勲章でしょう。それは代々アルプラト家に伝わったとされ、ルエデリの死後アナスターシャの手に渡ったと言われている。表面にはアナスターシャを象った彫刻が掘られていると。」



○邪馬台国(夕)

   小野ポテト、蘇我ホース、蘇我ドルフィン


ポテト「そう。んでな、アラセルバにはかっわいいおなごがおるのじゃ。」

ホース「かわいいおなごなど山とおるじゃろうに。」

ポテト「いやいや、ただ可愛いだけじゃねぇ。気品があってそりゃもう美しい!アラセルバ宮殿の下働きと言うとった。ロミルダちゃんて言うんで。」

ドルフィン「しかしポテト、お前はもう40も近い親父じゃろうに。そのロミルダはいくつなんだ。」

ポテト「さぁな、詳しく歳は知らねぇが…ほれ、レディーに歳聞くわけにはいかんだろう。しかし見た目14、5ってとこかねぇ。」

ホース「ロリコンじゃ…」

ドルフィン「そりゃ相手にすりゃあ気持ち悪いの何者でもないぞポテト」


   ***


ティオフェル「くしゅんっ!!」


   ***


   そこへブブ


ブブ「何を下らん話をしておる!」

ホース、ポテト、ドルフィン「ブブ様!」

ブブ「耳を貸せ。いい話だ。」



ホース「何じゃ?そりゃまことか?」

ポテト「ではアナスターシャの像と勲章を手に入れれば天下は我々の物になると言うわけだ。」


   4人、怪しく笑う


ポテト「そうとわかりゃ早速、アラセルバに…」

ホース「ポテト、お前はまさかロミルダに会うのが目的ではあるまい?」

ポテト「ち、違いますぜ!ちゃんと仕事ですだ。(もじもじ)しかし会えれば会いたいのぉ、我が愛しのロミルダちゃん」


   ***

   

   ティオフェル、身震いする


ティオフェルM「嫌だなぁ…叉熱が上がってきたのかなぁ?くしゅんっ!!」


   ***


   ポテト、ホース、ドルフィン、ブブ、急いで城を出る


ブブ「では私は王子に怪しまれぬよう、アラセルバ宮殿に戻る。」


   4人、馬を走らす。


○学修堂(夜)

   ペドロ、ティオフェル


ペドロ「王子様、お顔の色が優れません。本日のところはお休みを。」

ティオフェル「私にはまだやらなければならぬ仕事があるのだ!」

ペドロ「王子様!今はお体をご自愛くださいませ。(大声)誰かおらぬか!?王子様のお顔の色が優れん。直ちに寝所にお連れしろ!」


○尖りの森・頂上(夜)

   ティオフェル、その場に座り込む


ティオフェル「やっと着いた。喉が乾いたよ。何処かに水は…」


   湧き水がある


ティオフェル「助かった、水だ!!」


   手で掬って飲む


ティオフェル「美味しい…さてと、」


   立ち上がる


ティオフェル「まずは探さなくちゃな。何処にいってしまったんだろう?」


   地面に這いつくばって進み出す


ピぺM「全く、ティオフェル王子にも困ったものですわ。せめて私がきちんと口を利けたらいいのに。」



   ***

   

   邪馬台国の3人も上ってくる


ホース「着きましたぜ、ポテトにドルフィン。」

ポテト「あぁ、しかし本当にこんなところにあるのでしょうか?物も知らないものを一体どうやって探すのだ?」

ホース「気長にそれらしきものを見つけていくしかなかろうに。」

ポテト「しかし…おや?」


   指差す


ポテト「あれって?」

ホース「アラセルバの王子ではないか。一体何をしておる?」

ポテト「何をしておるとは、決まっているではないか!!王子も事を知って探しに来たのですぞ。」

ホース「なんじゃと!?王子にとられればまずい!こちらがなんとしても先に見つけなくては!!」

ドルフィン「そう焦るなホース、よく考えても見よ。もし仮に王子に取られたとする。しかし今のアラセルバでは王子が元服するまでの間、ブブ様が政権を握っているであろう。」

ホース「故、ブブ様の手に渡ればこちらのものって訳ですな。」

ポテト「しかしもし、王子がそのまま持っていれば?」

ホース「そりゃまずい!とにかく探せ!」

3人「はっ!!」


   ***

   

   ティオフェルも必死


ティオフェル「ないっ、ない!どうしよう、何処に行った!?」


   見つける


ティオフェル「あ、良かった!!あった!!」


   崖の斜面


ティオフェル「んっ、んーん(手を伸ばす)届かない…あともう少しなのに。っ!?」


ティオフェル「誰だっ!!」


   振り返る


ティオフェル「お前はっ…邪馬台国のドルフィンとホースとポテト!!」

ホース「さぁ王子、その王位継承の勲章を渡すのだ!!」

ティオフェル「何故にそれを!?」

ホース「は、は、は、さぁ何故だろうね。とにかくアラセルバはもうすぐ我が邪馬台国の支配下となるのだ。故に大人しく渡さぬか!」

ティオフェル「無礼者!!誰に向かって口を聞いている!?私はアラセルバの王子ティオフェルだぞ!!アラセルバは決してお前たちに渡しはしない!!」

ホース「ふんっ、お主のような元服前のガキに一体何が出来ると言うのだ!!」

ティオフェル「黙れっ!手を放せっ!無礼者っ!」


   抵抗する


ホース「いいのですかな?(にやり)私がこの手を放せば王子様、あなたはこの崖下の川にまっ逆さまですぜ。」

ティオフェル「くそっ…」


   少しずつ手を伸ばす


ティオフェルM「もう少し、もう少し…あ!!(握る)とった!!」


   ホース、ティオフェルを引き上げようとする。ティオフェル、抵抗して暴れる。


ティオフェル「嫌だ!嫌だ!放せ、無礼者!放せったら!」


   谷底を見て覚悟を決める


ティオフェル「さらばっ!!」


   ホースを振り払ってティオフェル、数十メートル下の川に飛び込む


ホース「王子があの激流に飛び込みましたぜ!!」

ポテト「ホース、お主行け!!」

ホース「わしは泳げん。ポテト、お前はどうじゃ?」

ポテト「私も高所恐怖症なのだ。」

ホース「馬鹿者っ!!」

ポテト「しかしあの濁流じゃ王子は生きてはおられぬまい。」

ホース「左様。王子が死ねば話は早い。何れにせよ、アラセルバが邪馬台国のものとなる日は近いのじゃ。」


   3人、急いで山を下っていく


   ***

   

   流れの岸。ティオフェル、打ち上げられて気を失っている。ピぺ、ティオフェルの頬を優しくつつく


ティオフェル「ん、うー…(目を覚ます)ピぺ、私は生きているのか?」


   キョロキョロ


ティオフェル「あぁそんな…折角見つけたのに。」


   ピぺ、破片とピンを加えてティオフェルに渡す


ティオフェル「ピぺ、お前…」


   ピぺ、喋る様に鳴く


ティオフェル「ありがとう(泣きそうになるのをこらえる)」


   ピぺ、飛び立つ


ティオフェル「ピぺ?今度は何処に行くと言うのだ!?ピぺ!!」



   ***

   

   深い洞窟


ティオフェル「ここは?」


   ピぺ、小さな鍵穴とティオフェルのペンダントを指す


ティオフェル「これをここに翳せと言っているのかい?」


   ピぺ、頷く。ティオフェル、ペンダントを鍵穴に翳す


   鍵穴、輝きながら開いて中に縄文の彫刻


ティオフェル「これは…」


   破片と見比べる


ティオフェル「まさかこれが?」


   ピぺ、嵌め込むように指示


ティオフェル「分かった。」


   輝く


ティオフェル「わぁっ!!」


ピぺ「王子、王子」

ティオフェル「誰?」

ピぺ「目を開けてごらんなさい。」


   ティオフェル、ゆっくり目を開ける


ピぺ「私です、あなたのインコのピぺですよ。」

ティオフェル「ピぺ!?何故…」

ピぺ「助けてくれてありがとう。実は私は5000年前のアルプラト王国女王、アナスターシャです。」

ティオフェル「ア、アナスターシャ!?お前が!?」

ピぺ「そうです。私は呪いがかけられたせいでインコの姿にさせられてしまい、それから今まで死ぬことさえ出来ず王宮でひっそり暮らして参りました。そんな中あなたがお生まれになり、鳥を心から愛してくださる心優しい王子の元私は暮らしながらいつの日かあなたが私を助け、そしてアラセルバを守ってくださると信じておりました。」


ピぺ「王子、まさに近年がその時です。時は参りました。今こそあなたが王子として立ち上がるとき。」

ティオフェル「ということは?叉あの、父上と母上がお亡くなりになった日のような大戦争が本当に起きるのか?」

ピぺ「えぇ、その日は近いでしょう。」

ティオフェル「私はどうすればよいのだ?私は今まで国王になるための勉強もろくに受けていなければ戦術すら学んでいない。こんな私が邪馬台国に勝つなど出来るか!?」

ピぺ「王子、自信を持ちなさい。あなたならきっと大丈夫です。」

ティオフェル「アナスターシャ…」

ピぺ「私は全てが終わるその時までは今までのようにあなたの忠実なインコとして振る舞っております。暫くはもう喋ることもないでしょう。しかしいつでも王子の側であなたをお守りします。」

ティオフェル「アナスターシャ、一つだけ教えてくれ。全てが終わるその時って?いつなのだ?」

ピぺ「何千年に一度、流星群と金環日食が重なる日があります。その年に大きな戦が起こり、その後何事もなかったかの様に国は統一され平和になるのです。全てが終わるのはその時です。王子、金環日食のあるその日にここで儀式を行いなさい。」

ティオフェル「え?」

ピぺ「あの石の下より掘り起こした本をこの寝台の上にて燃やすのです。

ティオフェル「分かった。」

ピぺ「それともう一つ、犠牲が必要です。」

ティオフェル「なんだ?」

ピぺ「生け贄です。」

ティオフェル「生け贄だと?まさか、私か?」

ピぺ「いえ、あなた様は死んではならぬお方です。」

ティオフェル「では、」

ピぺ「麻衣さまです。」

ティオフェル「麻衣とは?」

ピぺ「この為に来られたお方です。王子様のお側にいらっしゃるお嬢様ですわ。」

ティオフェル「あの?」

ピぺ「はい。この国を守る代わりに、彼女を女王卑弥呼の生け贄にしなければなりません。」


   ティオフェル、蒼白になる


○王室

   ティオフェル、イライラ


麻衣「(小声で)最近あのバカ王子、変じゃない?」

健司「(小声で)確かに。なんか機嫌悪いってか?」

千里「(小声で)何かあったのかなぁ?」

ティオフェル「(三人を睨む)何だ?」

麻衣・千里・健司「い、いや何も。」


麻衣「(エステリアに小声で)最近王子様どうしたの?」

エステリア「(小声で)私にも分かりません。メデア様やブブにもあのような感じらしくて。」


ティオフェル「ん?(千里の絵を見る)この絵は何だ?」

千里「あぁ、スタンプラリーの引換券だよ。っていっても分からないよね。」

ティオフェル「わからん。」

千里「とにかく僕らにとってはとっても大切なものだったんだけどさ、どこかに落としちゃったみたいで無くしちゃったんだ。」

健司「無くしちゃったって、てっめぇ!(千里に食って掛かる)」

千里「ごめんなさい、許してっ!」

麻衣「ちょっとやめなさいよ健司!!」

健司「ふんっ。」

 

   ティオフェル、まじまじ


ティオフェル「ついこの間何処かで見たような…」

千里「何処でっ!?」

ティオフェル「うーん、何処だったかなぁ?これはそんなに大切なのか?」

千里「そうなの。ひょっとして僕らこれがあれば帰れるかもしれないんだ。」


健司「帰れるって千里、何適当な事言ってるんだよお前!」

千里「ひょっとしてこれを落としちゃったせいで僕らタイムスリップしっちゃったのかも知れないだろう?だから見つかれば…」

健司「なるほど!!王子っ!!」

ティオフェル「あぁっ!!(手を打つ)思い出した!!」

麻衣・千里・健司「何処だ!?」

ティオフェル「尖りの森。」


麻衣「尖りの森?」

健司「何処だそれ?」

千里「尖りの森は僕らが流星を見ていたところだよ。」

麻衣「尖り石の縄文公園の事?」

千里「そう。そこがこの時代、尖りの森って呼ばれてたんだ。」

ティオフェル「流星を見ていたところ?」

麻衣「えぇそうよ。私たち、ここへ来る前は尖りの森で流星をみていたのよ。」


   健司、千里、頷く


ティオフェル「で、ではそこに住んでいると言うのか?」

麻衣「何?いけない?(半睨み)」

ティオフェル「そんな…信じられない…。」


麻衣「行きましょう!!」

健司「おぉ!!」

千里「僕らの里へ!!」

ティオフェル「いけないっ!!あの場所は今とても危険なんだ!」

麻衣「大丈夫よ。私たちが来るときも相当危険な目に合ってるんだから。」

千里「そうだよ。僕らは大丈夫だからさ(恥ずかしそうにもじもじ)、おトイレの心配さえなければ。」

健司「お前はいつもそこだな。」

千里「だってぇ…」


   外を見る


千里「もう冬になるんだし、寒かったら余計におトイレ行きたくなっちゃうじゃないか。」

ティオフェル「確かに、雪ももう降ってもおかしくないかもね。(身震い)おぉ寒い…私も寒さは苦手だ。こんな冬山を行くなど考えられない。せめて春になったらに…」

健司「だったらあんたは来なきゃいいだろ?俺等だけで行くさ。」

千里「だからひょっとしてこれが最後になるのかもね。」

麻衣「あの場所に行ったら、私たちはきっともう…」


   3人、頷き合って駆け出す


ティオフェル「お、おいっ!!ったく、仕方のないやつらめ。」


   ティオフェル、困ったように肩を竦める



○アラセルバ市街地(朝)

   麻衣、千里、健司が歩いている。ティオフェル、女装をして三人を追ってくる


ティオフェル「(声色)おーいっ!!」

3人「王子様!!」

ティオフェル「シッ、今は王子と呼ぶな。」

健司「何でだよ。」

ティオフェル「色々と事情があるんだ。」

麻衣「だったらなんて呼べばいいのよ!」

ティオフェル「お前は何故にいつもそう攻撃的なのだ!!」

麻衣「あんたがいつも偉そうにしてるからよ。」

ティオフェル「無礼者!!王子に向かって何だ!!」

千里「ちょっとぉ、二人ともやめてよ」


   ティオフェル、咳払い


ティオフェル「私の事はロミルダと呼んでくれ。」

麻衣「ロミルダ?」

健司「ロミルダか、へー名前まで可愛いじゃん。俺、(色目)マジで惚れそうだぜ」

ティオフェル「よせ、気色悪い。」

千里「じゃあロミルダさん、道案内宜しくね。」

ティオフェル「(声色)任せておいて!」

麻衣「オエッ」


   ***

   

   4人、一列になって歌いながら歩く



○尖りの森(夕)


ティオフェル「ここが尖りの森の入り口だよ。」

千里「ここを登るんだ。」

健司「そう言われてみりゃ、なんか面影あるかもな。あのビーナスラインに。」

麻衣「本当ね。」

ティオフェル「ビーナスライン?何だそれは?」

麻衣「私たちのいた時代の日本にはそういう道があるのよ。」

ティオフェル「日本?お前たちは確か尖り森に住んでいると言っていたではないか。なのに今度は日本だと!?一体お前たちは何者か?」

麻衣「…。」

ティオフェル「何だ?」

麻衣「あんたバカ?」

ティオフェル「わ、わ、わ、わ、わ、私が何だって!?私に向かってバカだと?」

麻衣「だってそうじゃないの。」

ティオフェル「無礼者!!王子に向かってバカと申すとは何事だ!?」

麻衣「お望みなら何度だっていってやるわ。このバカ王子!!」

ティオフェル「お、お、お、お、お、お前は!!」

麻衣「確かに私たちは尖り石付近から来たって行ったわ。日本から来たとも行ったわ。それの何がおかしって言うのよ?日本国長野県茅野市豊平地区の尖り石縄文公園でしょうに!」

ティオフェル「バカいえ!ここは日本などと言う国ではない、アラセルバだろうに。」

麻衣「あんたこそ頭おかしいんじゃないの!?アラセルバは日本なのよ!日本の中のアラセルバ、レイミーテンデ!?」


   麻衣、ティオフェル、一歩も引かない。健司、二人を引き離す



健司「だーでーっ、二人ともどいでほーなるんだよ、喧嘩はやめろって!!」


   麻衣、ティオフェル、つんっとそっぽを向く。


千里「ここでこうしていたって仕方ないだろう。山登ろうよ。」


   4人、登り出す。


   ***

 

   数時間後、頂上。


   4人、へたばってしゃがみこむ


健司「確かにここだここだ。俺たちの時代も今も全然変わってないんじゃん」

千里「ただ近代的な建物がないね」

麻衣「あそこに、(指差す)本来ならば考古館があるんよね。」


ティオフェル「で?」

千里「で?あ、王子様…じゃなくてロミルダ、例のものは?」

ティオフェル「確かここに。」


   縦穴式住居の中に入る。


ティオフェル「あーあったあった。これか?」

千里「あーそれだ!よかったぁ、ロミルダありがとう。二人とも見つかったよ!」

ティオフェルM「それのどこがそんなに大切なのだ?」


健司「よし、では…(腕時計を見る)時計がちゃんと動いてるってのが不思議だぜ。」

麻衣「(健司の時計を覗き込む)私たちが星を見た時間に決行ね。」

千里「了解、その時間に…」


   ***

  

   時間の経過。麻衣、千里、健司、草の上に寝転んでいる


麻衣「あの日のようにこうやって草に寝転んで星空を眺めていると…」

健司「流星群が見え出して…」

ティオフェル「流星?」

健司「そう。世話んなったなロミルダ。」

千里「僕たちは流星の日、星と共にここに来たみたいなんだ。」

麻衣「だから帰りもきっと星と共に帰るのね。


麻衣「この場所にその内…」


   ***

   

   月が頂上に来ている


麻衣「流れないわね。」

ティオフェル「なぁ、(興味深げ)その流星と共にって話、私に詳しく聞かせてくれないか?」

3人「え?」


   ***


ティオフェル「なるほど。では、お前たちは今から本当に7000年も後の時代から来ていると言うのか?」

千里「そうだよ。その時代にはここは尖り石縄文公園って呼ばれているんだ。(指差す)そこに考古館も建っているんだよ。」

ティオフェル「考古館?」

麻衣「そう。(ツンっと)あんたたちの時代に作られたものや文化、文明は私たちの時代にはとても貴重なものとなって残されているの。それが展示されたところよ。勿論、(皮肉っぽく)あんたが何も出来ないおねしょたれのお漏らしバカ王子って事も嘘偽り無く残されているでしょうね。」

ティオフェル「そなたはっ(食って掛かろうとする)一体何様のつもりなのだ!」

麻衣「ただあんたが気にくわないだけよ。あんたの顔見ているだけで虫酸が走るわ!!」

ティオフェル「私とて、そなたみたいなおなごは嫌いだよ!虫酸が走る!」

麻衣「真似しないでよ!!そ、れ、と、私の名前はそなたでもお前なんていう名前でもないわ。麻衣よ、麻衣!!きちんと覚えておきなさい!!」

ティオフェル「っ…、」

健司「だーでーっ、やめろってんだろうに!!二人とも何がそんねに気に入らねぇーんだよ?」


   二人、再びつんっ。健司、呆れてため息


   

○封印の寝台(夜) 

   ティオフェル一人


ピぺ「王子、こんなところにお一人で?」

ティオフェル「ピぺ…。なぁ、麻衣とは見ての通りのあんな関係だが誠に出来るのかな?あの者は私が何か言えば必ず反抗してくるし、それを見ていると私もついつい言い返してしまうんだ。」

ピぺ「大丈夫です王子、自信を持ちなさい。きっと上手くいきます。」

ティオフェル「だといいけど…」


   寝台に寝転ぶ


ティオフェル「…」

ピぺ「お疲れのようですね。」

ティオフェル「とっても疲れたよ。おやすみ、ピぺ。アナスターシャ。(目を閉じる)」


   ***

   

   夜が更ける


○アラセルバ市街地(朝)

   麻衣、健司、千里、ティオフェル、ドングリ餅を食べながら歩いている。


麻衣「結局、流星もなければ帰ることも出来なかったわね。」

健司「そうだなぁ、一体俺らどうすりゃ帰れるんだ?」

千里「ひょっとして一生帰れなかったりして?」

健司「変な冗談止せよ千里!!」

麻衣「そうよ、きっといつか私たち帰れるわ。」

ティオフェル「あぁ。(笑う)きっと必ず」

3人「王子様…じゃなかった、ロミルダありがとう。」

ティオフェル「あぁ。(ちらりと麻衣を見て軽く微笑む)」



○王宮・廊下(夕)

   麻衣、ティオフェル


ティオフェル「麻衣っ!!」

麻衣「王子様。(わざと)何よ、名前なんて呼んじゃって。」

ティオフェル「ちょっと私の部屋に来てくれるか?」

麻衣「えぇ?」

 

   ティオフェル、麻衣の手を引く


麻衣M「な、何よこいつ。ちびの王子のくせに急に真剣な顔しちゃってさ。」



○寝所(夕)

   麻衣、キョロキョロ


麻衣「ここは?」

ティオフェル「私の部屋だよ。」

麻衣「こんなところで私に何か用?」

ティオフェル「あぁ。みながいる前ではそなたも素直に話が出来ないだろうと思ってここに呼び出したんだ。」

麻衣「はい、」

ティオフェル「お前に断られることを覚悟で折り入って重大な頼み事をしたい。聞いてくれるか?」

麻衣「私に?王子様から?」

ティオフェル「麻衣、お前しか頼めない事なんだ!!」


   ***


麻衣「え…え?王子様、今何と?」

ティオフェル「呪いを封じ込め、末代まで平和をもたらす封印の儀式のやり方が分かった。しかしそれには麻衣、お前が生け贄となることが条件なんだ。」

麻衣「そんな…」

ティオフェル「しかし私はお前を見殺しにするなんてとても出来やしない。だから私は考えた。」


   真剣に麻衣と向き合う


ティオフェル「私と当日は入れ替わってほしい。」

麻衣「え?」

ティオフェル「私などどうなっても構わない。所詮、民に嫌われ国を潰すだけのダメ王子だ。そなたの言う通りのバカ王子なのかもしれん。」

麻衣「そんな、そんなこと…」

ティオフェル「王位の後継などブブや兄上、私よりもずっとふさわしきものがいる。だからそうしてくれないか?他のものではダメらしいのだ。」


   麻衣、おどおど


   ***


麻衣「分かりましたわ。」

ティオフェル「本当か?感謝するよ麻衣。」

麻衣「しかし、入れ替わるなどとはおっしゃらないでください。あなた様はこの国の王様となられる王子様なのです。死ぬなどあってはなりません!!私がいきます!私こそこの国には不必要な人間んですもの。」

ティオフェル「いけない麻衣、それは…」


   麻衣、一例をして退室。


   ティオフェル、悩み苦しむ。


   ***

   

   数日後、雪が降っている


ティオフェル「くしゅんっ!!」

メデア「王子様、お目覚めでございますか?」

ティオフェル「あぁ、メデアおはよう。私は寒いのは苦手だ(震えている)ガウンを。」


   メデア、ティオフェルにガウンをかける


ティオフェル「ありがとう。」

メデア「それと王子様?」


   ティオフェルに書状を渡す。


ティオフェル「私宛に?」


   読む。


ティオフェル「なぬ?(青くなる)遂に…」


   あたふた


ティオフェル「何れ来よう事は分かってはいたが何故、何故にこんな時期に?」


   外を見る


ティオフェル「くそ、まだまだ雪も積もるって言うに…」


   そこへブブ


ブブ「だからでしょう王子様、」

ティオフェル「ブブ、」

ブブ「王子様がお寒い時期が苦手と知り、この時期でしたらアラセルバは不利だと考えられたのではないでしょうか。」

ティオフェル「知脳派か、なんと卑劣な手を!!」

メデア「邪馬台国は元々ずる賢い国ですわ(鼻を鳴らす)」

ブブ「では王子様。」

ティオフェル「(きっぱり)断る!宣戦布告ならば雪が溶けたらにしろと伝えろ。」

ブブ「宜しいのでございますか王子様?敵国の戦の申し入れにお断りすれば戦の敗けを認めることとなり、邪馬台国に従服…」

ティオフェル「そんなぁ…少し考えさせてくれ。」


○部屋の中(夕)

   麻衣、千里、健司、エステリア、ティオフェル


麻衣「王子様どうなすったのです?お顔の色が優れませんわ。失礼いたします(額に手を当てる)」


   ティオフェル、ドキッ


麻衣「お熱はありませんわ。」

ティオフェル「大丈夫だよ。私は至って健康だ。」

麻衣「では何かお悩み事でも?」

ティオフェル「あぁ、実は。」


   O・L


エステリア「まぁ、遂に!」

麻衣「どうしたの?」

エステリア「邪馬台国からの宣戦布告です。一ヶ月の後にと…」

ティオフェル「では、その日と言うことか」

麻衣「例のものですね。」

ティオフェル「あぁ…」


   ティオフェルと麻衣、目配せ。


健司・千里・エステリア「?」



健司「しかし王子、あんたどいでそんなに着込んでんだよ。」

エステリア「王子様は幼い頃からお寒がりなのです。故、戦が冬…」

ティオフェル「エステリアっ!!」

エステリア「申し訳ございません!」


   ティオフェル、咳払い


ティオフェル「そう。エステリアの言う通り、正直冬の戦は気が進まないんだ。寒い中ずっと外で戦うなんて私は嫌だよ。しかも私はまだ戦の経験もないんだ。かといって断る事は出来ない。邪馬台国も寒さの中の私なんて骨抜きで勝ち目がないと思っているのだろう。」


   悩む


麻衣「お気を強くお持ちに、王子様。(ティオフェルにショールをかける)暖かいら?そしてこれは…」


   ティオフェルの背中を触る


麻衣「失礼します。」

ティオフェル「これっ無礼者!!王子の体に触るなど…(赤くなる)」

麻衣「その内に暖かくなるわ。カイロ!」

健司「お前、いつの間にそんなもん持ってたんだ?ほいだって俺たちの来たのって夏だろ?」

麻衣「信州女は一年中カイロは持ち歩いとるもんなのよ。(得意気)」

ティオフェル「ありがとう麻衣、そなたはとても気が利くな。(微笑む)」


   健司、麻衣とティオフェルを交互に見る


○寝所(夜)

   ティオフェルとブブ。ティオフェル、書き物をしている。


ティオフェル「よし、出来た。ブブ、これを邪馬台国へ。」

ブブ「承知致しました。お心の準備がお出来になられたのですね。」

ティオフェル「あぁブブ、私は逃げない。寒い最中でも正々堂々と戦ってやろうじゃないか!!」

ブブ「では、ペドロにそれなりのお稽古も。」

ティオフェル「分かっている。最近は勉強もサボってはいないよ。(笑う)」


   横になる


ティオフェル「今日も疲れた。おやすみ。」

ブブ「お休みなさいませ、王子様。」


   ブブ、退室


   ブブ、怪しい笑いをしながら退場。




   



○寝所(夜)

   ティオフェル、メデア


メデア「王子様、あなた様はまだお病み上がりなのですからご無理はなさらないでください。」

ティオフェル「構うな、私は大丈夫だから。」

メデア「何が大丈夫です!?(額に手を当てる)あらあら、まだお熱がおありです。王子様、今度ご無茶をなさったらこの乳母めが許しませんよ!!」

ティオフェル「分かった、分かったから!!(目を閉じる)お休み。」

メデア「お休みなさいまし王子様。」


   ***

  

    深夜。ブブ、メデア


メデア「ブブ様、」

ブブ「王子様のご容態は?」

メデア「先ほど叉ご無茶をなされてお熱を。」

ブブ「お前乳母だろう、一体何をやっておる!!」

メデア「申し訳ございません。」

ブブ「それで王子様は?」

メデア「今しがたご就寝になられましたわ。」

ブブ「そうか。」


   寝室に目をやる


○ティオフェルの夢の中(夜)

   深い森の中


ティオフェルM「ここは?尖りの森?」


   ピぺ、陶器の破片を加えて飛んでくる


ティオフェルM「ピぺだ。ん?あれは確か…」


   捨てたことを思い出す


ティオフェルM「あの破片だ!!もしかして…」

アナスターシャの声「そうです王子、」

ティオフェルM「何処?誰?」

アナスターシャの声「私は女王アナスターシャ、この破片こそが私の一部。それとあなたが棄てたあのピン、あれが私たち一族の勲章です。」

ティオフェル「何だって!?」

アナスターシャの声「それを探しだし私の言葉に従ってください。」

ティオフェル「分かった。」

アナスターシャの声「急いでください王子、邪馬台国もそれを狙っているのです。邪馬台国にとられたらおしまいです。さぁ早く!!」


○寝所(朝)

   ティオフェル、飛び起きる


ティオフェル「夢…(はっ!!)じゃないかも!!だとしたら!?またしても私はとんでもないことをしてしまった!!急がねば!!」


   着替える。メデアが飛んでくる


メデア「王子様、何をなさっております!!お召し換えは私が!!」

ティオフェル「構わぬ。あっちへいってくれ。」


   剣を持つ


ティオフェル「メデア、私は用事があるゆえ暫し出掛けてくる。千里に王子の衣装を着せよ。では、」

メデア「王子様っ!!」


   いじいじ


メデア「んもぉ、王子様ったら!!叉王子様の身に何かおありになれば怒られるのはこのメデアめなのですよ!!」




   ***


麻衣、千里、健司、エステリア。


メデア「千里さま、お召し換えを。」

千里「え?」


千里「え、叉王子様はお出掛けになられたのですか?」

メデア「そうなのです、故あなた様に代わりをと。」

千里「そんなぁ…」

メデア「今は特に邪馬台国との関係は悪化しております、ご用心を。」

千里「あぁ…」


   麻衣、健司、笑う


健司「ま、いいんじゃね?お前も慣れたみたいだしさ。」

千里「バカ言うなよ!!」

麻衣「こんな経験二度と出来ないかもしれないんだで。」

千里「もう二度としたくないよ!!」

麻衣「少なくともあのバカ王子よりは何倍も素敵でかっこいいわ。」

千里「勘弁してくれよ麻衣ちゃん…(赤くなる)」


○アラセルバ市街地(朝)

   ティオフェル、ロミルダになって歩いている


ティオフェルM「夢の通りであれば尖りの森へ行けばいいんだ。」


老婆「おや、この間のお嬢さん。」

ティオフェル「(声色)あらおばあさま、私を覚えていてくださったのね。嬉しいわ。」

老婆「今日は、何処へ行くんだい?」

ティオフェル「(声色)尖りの森よ。」

老婆「おや、叉あの場所へ行くのかい?お前さんが無事で安心したけどさ、一体今度は何をしにいくと言うんだい?」


ティオフェル「(うそ泣きで涙ぐむ)」

老婆「おやおや可哀想に、どうしたって言うんだい?よしよし…泣くのはおよし。」

ティオフェル「(声色)両親のお墓参りに行くのよ。私の両親はあの場所で邪馬台国に殺されたんだわ。」

老婆「そんなことが!まだこんなに幼いに気の毒なことだよ…」


   ティオフェルを抱き寄せて慰める


老婆「邪馬台国ってとこはなんつー国なんだろうねぇ。わたしゃ大嫌いなんだよ。ほらお嬢さん、もう泣いちゃいかんよ。ドングリ餅をお食べ。」

ティオフェル「(声色)ありがとう、優しいおばあさま。私、もう行きます。」

老婆「気を付けるんだよ。」


   ***

   

   ティオフェル、歩きながら涙をぬぐう


ティオフェルM「あんな話をしていたら、まことに父上と母上が思い出されて…」


   涙をこらえて勇む


ティオフェルM「私は必ずや聖君となり、父上と母上の無念を晴らします。そして必ずや憎き邪馬台国を倒して見せましょう。私はいつまでも寝小便の泣き虫王子なんかじゃない!」


   走り出す



   ***


   暫く


ティオフェル「っっっ…」


   ポテト


ポテト「我が愛しのロミルダ姫よ、叉もこの様なところでお会いできるとは!」

ティオフェル「(声色)え、えぇごきげんよう…」


ティオフェルM「叉変なのと出会してしまった…どうしよう?」


ポテト「なぁ、私とお茶でもせんかね?何が好き?ドングリビスケット?山葡萄ジュース?何でも好きなもん奢るよ。」

ティオフェルM「どれも私は好きじゃない!!ううーん。(赤くなる)あ!この際恥ずかしいが仕方がない」

ポテト「どうじゃ?」

ティオフェル「(声色)ごめんなさい、悪いけど私今とっても急いでいるの。」

ポテト「何処へ行くんだい?私もお供しよう。」

ティオフェル「(声色)いいえ、それだけはやめてちょうだい」


   もじもじ


ポテト「どうしたんだい?恥ずかしがらないでもいいんだよ。」

ティオフェル「(声色)ご用を足したいのよ!!あなた、女の子のご用足しを見たいのですか!?」

ポテト「こ、これは失礼!!」

ティオフェル「(声色)あぁ、もう漏れちゃいそう!!失礼するわ。叉いつか、おじさま!!」


   走ってポテトをすり抜ける


   ***


ティオフェル「はぁ、上手くいった。しかしあの様な恥ずかしい言葉を口にするだなんて顔から火が出そうだ。」


   空を見る


ティオフェル「もう夕方か。尖りの森を登ればもう夜だよな。(餅を食べる)よしっ!」


   ドレスを脱いで、男の着物に着替える。


ティオフェル「もうさすがに王子に戻っても大丈夫だろう。(髪を結び上げる)出来たっ!登ろう。」


   ゆっくりと登り出す。


   別の登り口。ポテト、ホース、ドルフィン。ポテト、うきうき。


ホース「何があったポテト?にやついてるぞ。」

ドルフィン「会ったのか?」

ポテト「偶然にも町中で会っちまったんでぇ!しかし話す間もなくかなり急いで走って行っちまった。」

ホース「そりゃそうだろうよ、お主が気持ち悪いからじゃ。」


   三人、山を登る




○王室(朝)

   一ヶ月後。


兵士の声「ティオフェル王子、おられるか?」

兵士の声「潔く戦に参戦なされ!!」


ティオフェル「遂にこの時が来たか。」


   雪が降っている。ティオフェル、何枚にも厚着をしてマスクをし、カイロをそこら中に貼っている。


健司「王子、いくら何でもそりゃやりすぎだろ。」

麻衣「いいの。」

健司「お前、最近こいつに優しくないか?」

千里「いいじゃない。喧嘩しているよりかさ。」


   ティオフェル、剣を持つ。


ティオフェル「では、私は行く。健司と千里、エステリアは安全なところへ逃げろ。」

千里「王子様…」

ティオフェル「私は大丈夫だ。」


エステリア「では、みなさん。」

健司「あぁ。麻衣、早く!!」

麻衣「ちょっと先に行ってて。私、王子様とちょっとお話があるの。」

健司「(にやにや)ふーん、よく見るあれか?戦場に行く男に愛を囁くって言うやつ。」

麻衣「バカなこん言っとらんで早く行きなさいっ!!」

千里「麻衣ちゃん、必ず来いよ。」

麻衣「心配せんで、必ず行くわ。」


   健司、エステリア、千里、退室


麻衣M「さようなら…健司にせんちゃん。」

ティオフェル「麻衣、」

麻衣「覚悟は決まっています。参りましょう。」

ティオフェル「あぁ…」


   二人、退室。


○封印の寝台(朝)

   ティオフェルと麻衣。


ティオフェル「麻衣、どうしてもそなた自身がやると言うのか?」

麻衣「王子様は死んではなりませぬ!」

ティオフェル「やはりダメだ!そなたを死なせる事は出来ない!(服を脱ぐ)」

麻衣「(真っ赤になって目をそらす)王子様、一体何を?」

ティオフェル「儀式の際のおなごの衣装だ。(着る)」

麻衣「ちょ、ちょっとまさか王子様?なりませぬ!!王子様がやるなどあってはなりません!!」



   ティオフェル、首にかけていたペンダントをアナスターシャの像にかけ、ピンを側に置く。


   麻衣、おどおど


   寝台の上に本を置く


ティオフェル「これをまず燃やすんだ。」

ピぺ「まもなく日蝕ですわ。」

麻衣「(きょろきょろ)え、え、誰?」

ピぺ「私です。王子様のインコ、ピぺです。」

麻衣「ピぺ?何故?」

ピぺ「詳しいお話は叉に致しましょう。それより見て!」


   洞窟の天井が開けて太陽が見える。


ピぺ「完全に太陽が隠れたらここに火がつきます。(麻衣を見て小声)本当に王子を見殺しになさるおつもりですか?」

麻衣「(小声)そんなわけないじゃない!火がついたら私が火の中に飛び込み王子様と入れ替わります。」

ピぺ「また後程…。」

麻衣「え?」


   ティオフェル、汗だけで震えている


麻衣「王子様、お怖いのですね。」

ティオフェル「あぁ、とっても怖い。」

麻衣「安心なさってください、私はあなた様を決して死なせは致しません。」

ティオフェル「大丈夫。人間いつかは死ぬもの、それが少し早まったと言うだけだ。これが私の宿命なのだ。なぁ麻衣…」

麻衣「はい、王子様?」

ティオフェル「ティオフェルと呼んで欲しい、私の信の名だ。この名で呼んでくださったのは死んだ父上と母上のみだった。だから私の生きている間にもう一度だけ、心から愛するものに私の名を呼んで欲しいんだ。」

麻衣「本気なのですか?」

ティオフェル「私がやらねば誰がやるのだ?」

麻衣「分かりました。」


麻衣「では、二人で犠牲となりましょう。」

ティオフェル「え?」

麻衣「もしどうしてもあなた様が生け贄におなりとおっしゃるのであらば、私も共に犠牲となります。」

ティオフェル「麻衣っ、それは…」

麻衣「あなた様なしでこれから一体どうやって?どうやって残されたこの地で生きていきましょう?あなた様のお心なしでどうやって?」

ティオフェル「麻衣…」


ティオフェル「そなたは…こんなに美しいんだね。」

麻衣「え?」

ティオフェル「私の今まで見てきた女の中で一番だ。」


   麻衣、動揺しておどおど


ティオフェル「私はそなたみたいな女を后にしたかった…そなたを愛してる。」


   目を閉じる


ティオフェル「そなたが私を嫌いでも、私はそなたが…」


麻衣「ティオフェル…」

ティオフェル「さようなら…」

ピぺ「日蝕だわ!!」


   本は瞬く間に燃えてなくなる。ティオフェルも火に包まれる


麻衣「ティオフェル!」


   麻衣、火の中に飛び込む


麻衣「ティオフェル!ティオフェル!」


   ティオフェル、気を失っている


麻衣「ティオフェルっ!」


   洞窟が火に包まれる。ピぺ、洞窟を出て空を見る


ピぺ「王子っ!麻衣様!!」


ピぺ「おかしいわ。日蝕はとっくに終わっているのに火が消えないだなんて。それどころかどんどん強くなってる。」


○戦場(朝)

   邪馬台国の陣地に卑弥呼、戦うドルフィン。


アッディーリャM「あら?私は今まで一体…ティオフェル!?」


   そこにドルフィン


ドルフィン「王妃様!!」

卑弥呼「そなたは!邪馬台国のドルフィン!」

ドルフィン「王妃、よくご覧。」


   仮面をとる


アッディーリャ「王様!?」

ドルフィン「左様、私はアラセルバのメディオスだ。」

アッディーリャ「何故あなた様が?もしやずっと今まで?」

ドルフィン「そう。邪馬台国の手下の振りをしながら長年王妃とアラセルバにおる我が息子ティオフェル王子を見守っていた。」

アッディーリャ「ではティオフェルは?」

ドルフィン「王子は無事じゃ。元気にしておるが相変わらずだ。」

アッディーリャ「あぁ…では王子はこの戦に?」

ドルフィン「その筈だが、戦の中に姿がない。」

アッディーリャ「無理もないでしょう」

ドルフィン「王妃」

アッディーリャ「あの子にとって戦なんて一度も経験がありませんし、あの子は戦術すら知りません。」

ドルフィン「王妃…」



○隠れ家(朝)

   エステリア、千里、健司


千里「あれ、そういえば麻衣ちゃんは?来ていないよね?」

健司「ったく、何やってんだよあいつ!」


   エステリア、深刻そう


健司「エステリア、ひょっとして何か知っているのか?」

エステリア「え、えぇ…」

健司「はっきりしろよ!!」

エステリア「(戸惑うが)実は…麻衣さんは封印の寝台に行かれました。」

健司「封印の寝台?何だ?」

エステリア「私も何度もお止めしたのです。しかし…」


   話し出す


エステリア「早く行かなければ!!取り返しのつかぬことになってしまうかもしれません!!」

健司「うっそだろ!?あのばか野郎!」

千里「行こう、麻衣ちゃんと王子様を助けに!!」

健司「あぁ!!」


   3人、隠れ家を出る



   ***


   外。アッディーリャがいる


エステリア「何者っ!?お前は…」

健司「誰だこいつ?」

エステリア「邪馬台国の卑弥呼!!」

健司・千里「邪馬台国の卑弥呼ぉ!?」

エステリア「何故ここを知っておられるか?何ゆえにここへ来た!?王子様を探しにか?それとも私たち兵士でないものの首を取りにか?ふんっ、取れるもんならとってみるがよいわ!!私も」


   剣を向ける


エステリア「憎きお前の首をとるっ!」

健司M「こわっ…てかエステリアって」

千里M「なんか麻衣ちゃんの祖先だったりするかも。」

二人M「うん。」


アッディーリャ「早まるなエステリア!私の話を聞いてくれ。」

エステリア「今さらなんの話を聞くことがあるか?」

アッディーリャ「私はアラセルバの敵ではない!」

エステリア「嘘を申せ!その様なことをいって私たちを安心させておいてから一気に攻め混むつもりだろう。」

アッディーリャ「違うっ!私の話を聞いてくれ!」

エステリア「無駄だ。私を見くびるな!こう見えても私は武家出身の女、覚悟は出来ているわ!わぁぁっ!」


   アッディーリャに剣を向けて突進


   千里、手で顔を覆う。健司、千里を庇いながら目を伏せる


○封印の寝台(朝)

   火が大きくなって森全体を包んでいく


ピぺ「困ったわ…」


   待ち人も気が付いて混乱が起きる


○戦場(朝)

   人々、戦いをやめる


兵士「何か匂わないか?」

兵士「火事か?」

ブブ「あれを見よ、火がこちらへ迫ってくるぞ!!」

メルセイヤ「逃げるのだ!今は敵味方言ってる場合ではない!!みな避難しないと焼け死んでしまう!!」

アミンタ「邪馬台国の兵士もアラセルバの兵士も皆こっちへ来い!」


   全員、逃げる


○隠れ家(朝)


健司「おいおい一体何があったんだ?」

千里「わからないよ…」


   アッディーリャ、考えている


千里「卑弥呼さん!」

エステリア「そんな者に構っている必要はない!私たちは早く逃げるのです!」


   アッディーリャ、蒼白になる


アッディーリャ「まさかっ」


   健司と千里を見る


アッディーリャ「少年たちよ、お待ちなさい。時に聞くが今、封印の寝台と言うところに行っている者はいるか?」


健司「おばさん知ってるの?封印の寝台を?」

千里「僕の女の子の友達が王子様と二人で行ったんだ。」


アッディーリャ「やはり。しかし何故にここまで燃えるのだ?あれは日蝕が終わると共に火が消えるもの…(息を飲む)王子、ティオフェル!なんと言う愚かなことを!」

健司「おばさん!?」

アッディーリャ「私は封印の寝台にいってくる!」

千里「なら僕も連れていってよ!」

アッディーリャ「いけない!!危険だ!お前たちまで死んでしまうかもしれぬ!」

千里「それでも構わないよ!!だって友達なんだよ!大切な友達見捨てて僕だけ生き残るなんて出来ないよ!もし麻衣ちゃんが死んじゃうんなら、王子様が死んじゃうんなら…」

健司「俺らずっと一緒の友達だもん。もしかして一緒に帰れるかもしれないじゃねぇか。」


   健司、千里も後について行く


エステリア「私も行きますわ!!王子様と麻衣さまをお助けに!!」


エステリア「しかし…」


   アッディーリヤを見る


エステリア「何故に?」


アッディーリヤ「詳しくは後で話す。とにかく今は…」

エステリア「えぇっ!」


○封印の寝台(夕)

   千里、健司、エステリア、アッディーリャの到着。火が消えていく


エステリア「火が消えて行くわ。」

アッディーリャ「ティオフェル!!ティオフェル!!」


   洞窟の中のみ火の海


アッディーリャ「おろかな真似を…お前まで死ぬとは!」


ティオフェルM「母上の声だ。母上…」


   アッディーリャ、ティオフェルの名を呼び続けている


ティオフェルM「母上、やっとお会いになれるのですね。このように若くして来たとお叱りになられるでしょう。どうか私をお叱り下さい母上…(微笑みながら涙を流す)」


アッディーリャ「ティオフェルっ!!」


   抱き抱えて外に出る


千里「女王様!!」

アッディーリャ「ティオフェル、あなたがおなごに化けてこの様な事をするとは…あなたは最低の親不孝ものです!」


   揺する


アッディーリャ「ティオフェル、ティオフェル、聞こえますか?母ですよ!!」

千里・健司「お母様!?」

エステリア「どう言うことだ卑弥呼?王子様のお母上を名乗るとは許さんっ!」

アッディーリャ「エステリア待て!私を見ろ!」


   ベールと冠をはずす


アッディーリャ「これでもまだ分からないか?」

エステリア「ア、アッディーリャ王妃様?何故…」

アッディーリャ「心配かけてすまなかった。私は今まで邪馬台国にて卑弥呼の亡霊に操られていたらしいのだ。」

エステリア「卑弥呼の亡霊…」

アッディーリャ「しかし儀式のお陰で呪いが解けて元に戻ることが出来たのだ。その代わり私は大切な息子を犠牲にしてしまった。」

健司「待って。」


   脈を計る


健司「まだ微かに生きているぞ!(心臓マッサージをする)」 

アッディーリャ「無礼者、王子に何を!」

健司「王子をこのまま死なせたくねぇーんだろ?…気持ち悪いが仕方ねぇ(人工呼吸をする)」 

アッディーリャ「何というふしだらな」


   

   ***

   

   ティオフェル、息を吹き返す 


健司「良かった、生き返った。」

ティオフェル「ここは?(きょろきょろ)私は戻ってきてしまったのか?(切な気に微笑む)母上のお声を聞いたのだ。だから私は母上のお国へ行こうとした…」

アッディーリャ「何をいっているのです!!母上はここにいるではありませんか!どれだけ親を心配させたかあなたは分かっているのですか!?」

ティオフェル「え?(キョロキョロ)」

アッディーリャ「ここですよ、あなたの目の前にいるのがお見えになりませんか?」

ティオフェル「母上?」


   面影を照らし合わせてわっと泣きつく


ティオフェル「母上!!」


   健司、千里ももらい泣き


ティオフェル「(泣きながら)母上、まだ火の中におなごがいるのです。私の大切なおなごがいるのです!」


   よろよろと立ち上がる


アッディーリャ「ティオフェル!何を考えているのです!?愚かな真似はお止めなさい!」

ティオフェル「あの者は死んではならぬのだ!!例え私が死んだとて麻衣は生きなくちゃいけないんだ!!だから行きます!」


   火の中に入っていく


ティオフェル「麻衣ー!麻衣ー!何処にいるんだ?麻衣ー!!」


  

   寝台の下に転がって動かない麻衣


ティオフェル「麻衣っ!!…待ってな」


   自分のマントを引き裂いて麻衣の口に当てる。自らのドレスを脱いで麻衣を覆い、出る



   ***


アッディーリャ「王子っ!」

ティオフェル「私は平気です。しかし麻衣が…。(泣きそう)麻衣、どうしてこんなことになってしまったんだ。私のせいだ。私のせいで麻衣はこんな惨い姿に…」

健司「とりあえずは麻衣を連れて王宮に戻ろう。」

ティオフェル「あぁ。」


   健司、麻衣をおぶる。よろよろしたティオフェルを両肩アッディーリャと千里が支える


ティオフェル「ありがとう。」

健司「あんたはいい王子だよ。初めの頃はごめんな。」

ティオフェル「いや、私こそそなたらに大変酷いことをした。申し訳ない。」

千里「僕たち身分は違うけどさ、もう友達だよ。ね。」

ティオフェル「友達か。それもいいな。」



○戦場(朝)

   三日後、戦が再開している。


ティオフェル「メデア、」

メデア「はい、王子様。」

ティオフェル「軍服を用意せよ。」

エステリア「王子様、戦などお止めください!!そのようなお体でまだ無理です!!」

アッディーリャ「そうですよティオフェル、無茶は行けません。」

ティオフェル「ご心配なく、私はもう大丈夫です。」

千里「僕も戦に出るよ」

ティオフェル「千里っ!バカいうな!戦は遊びではない!人と人との殺し合いなんだ!一歩間違えば命を落とす場所なんだぞ!ダメだ、来るな!」

千里「そんなの分かってるよ!でも、僕も王子様のお役に立ちたいんだ!初めは王子様の身代わりでお城の留守番するだけで怖かった。それまでは本当に弱虫な僕だったんだ。でも僕はここに来て王子様のお陰で強くなれた!だから死んでも生きてもこの戦で恩返しをしたいんだ。僕なんかダメダメで戦力なんて少しもないけど、王子様のお力になりたい!アラセルをお守りしたいんです!!」


   千里、近くの兵の剣を奪って戦場へかけていく


健司「俺も行くぜ王子、弱虫千里なんかに負けてらんねぇし。なんつってもここは俺たちのふるさとでもあるからさ。」


   同じく剣を奪ってかけてく


ティオフェル「全く、仕方のないやつらだ。どうなったって私はもう知らないよ。(涙を拭って戦場にかけていく)エステリア、メデア、母上、麻衣を頼んだよ。」


アッディーリャ「ティオフェルもいいお友だちを持ちましたこと。」

メデア「そうですね。」

エステリア「私も嬉しゅうございます。しかし…(悲しそうに麻衣を見る)」


   麻衣、アッディーリャの腕の中で項垂れて眠っている



   ***

   

   戦うティオフェル。


ホース「ふんっ、ちびの王子め!口ほどでもないわ!!」

ティオフェル「やー!やー!うわぁ!」

健司「王子、逃げるな!!」

ティオフェル「たぁーっ!!」


   剣の柄でノックアウト


ティオフェル「(ガッツポーズ)」


アッディーリャ「ティオフェル!何を呑気なことをしているのですか!?これは試合ではないのですよ!!留目をさせ!」


ティオフェル「殺すなど私にはできません!」

アッディーリャ「そのようなことでどうやって戦ができます!?国王となれます!?何のための戦です!?」

ティオフェル「ですて…」


   ポテトが襲ってくる


ティオフェル「ポテトっ!!」

ポテト「えへへ王子様、お久しぶりで。」

ティオフェル「お前、うちの城のロミルダ嬢に大層お熱のようだが?それはまことか?」

ポテト「早耳じゃのう、流石は王子。」

ティオフェル「ロミルダに約束したそうではないか。何ゆえに約束を破る!?」

ポテト「それはいかなる意味かな?」

ティオフェル「アラセルバに戦は仕掛けない、戦になったとしても彼女だけは守る、殺さないと。」

ポテト「勿論きちんと覚えているとも。王子様はそのようなことまでご存じだったか、」

ティオフェル「あー、みーんなしってるよ。」


ティオフェル「彼女は和睦を望んでいたんだろ!?」

ポテト「あぁそうだった。しかし私は下の者、私にはどうにもならぬ事なのじゃ。」


ポテト「なぁ王子様、あんたを殺す前に教えてくださいよ。今、彼女はどこにいる?無事なのか?」

ティオフェル「今、彼女が何処にいるかって?ロミルダなら殺されそうになっているよ。他でもないお前にな!!」

ポテト「???」

ティオフェル「ん、わからない?(声色)ロミルダ嬢はあなた様の目の前におりますしてよ。」

ポテト「まさか…」

ティオフェル「(声色)そう、そのまさか。ごめんねポテト、あなたを騙してて。あなたが私を愛してくれるのは嬉しいけど、でも私は生憎男に興味ないの。」

ポテト「そ、そそそそそんなの私だってそうだわい!おえぇ気持ち悪い。こんなやつと私は…」

ティオフェル「おえぇって、そりゃ私の台詞だよ!!このロリコンエロ親父!」

ホース「王子王子やっちまえ!!」

ポテト「貴様はどっちの味方じゃ!!」

ティオフェル「いざ覚悟!(意を決して剣を降り下ろす)」

ポテト「ぎゃあああああっ(バタリ)」

ティオフェル「あぁ…」


   腰を抜かしてしゃがみこむ


アッディーリャ「王子っ!!」


   そこへペドロ


アッディーリャ「おぉ!!」

ペドロ「王妃様!ご無事だったのですか!!」

アッディーリャ「そなたこそまだ元気そうで何よりです。」

ペドロ「それよりも王妃様、この戦は…」

アッディーリャ「存じております。」

ペドロ「は?」

アッディーリャ「しかし王子の心を傷つけてしまうのではと恐ろしくて…」

エステリア「一体なんなのですか?」

アッディーリャ「エステリア、メデア、あなたたちも信じがたい事実ではあるのですが…」


   ***

   ティオフェル、ポテト。そこへブブ。


ブブ「ホースやめろ。」

ティオフェル「ブブ!!」

ホース「ブブ様!!」

ティオフェル「え?」

ブブ「この王子は私が始末する。」

ティオフェル「ブブ?一体何を…」


   ブブ、ホースを見る


ブブ「その前にこの使えない者を先に…(にやり)やぁーっ!!」

ホース「わー!(倒れる)おのれブブ…さては私を裏切るか?」

ブブ「ははは、そうだ。私はこの目的を達成するために邪馬台国を利用していたのみ。」

ホース「貴様、よくも…」

ティオフェル「ブブ、何故だ?」


ティオフェル「いや、これは何かの間違いだ。お前がそんなことをするはずがない。だってお前は…」


   ***


エステリア「ブブ様が!?そんなまさか!!ですてあのお方は王子様の幼き日よりもっとも信頼のおける重心だったではないですか!!王子様が王様と王妃様とお離れになり泣いていらした時だって王子様のお涙を拭ってくださったお方ではないですか!!そんなお方が何故…?」


   ***


ブブ「確かに、王様がご不在になり、まだ幼かった王子様の代わりに摂政として政治の責務についた時の私は純粋に王子様のお側にお仕えする重臣の私だった。けどね王子、いつしか心は変わるのだよ、欲望へとね。段々に私は王の座につきたいと望むようになった。そして邪馬台国と手を組み、今日の日までずっと待っていたんだ。王様無き後、息子のように可愛がったあなたの首をとることをね。」

ティオフェル「なんだと!?ではブブ、お前はずっと私を騙していたのか?私の側にいたのも…」

ブブ「そう、全てはアラセルバを支配し、乗っとるためだ。」

ティオフェル「そんな…」

ブブ「では王子、覚悟はいいですかな?」


   金星が出ている


ブブ「さらば王子、やぁぁっ!!」


   ティオフェル、身を伏せる


アッディーリャ「おのれブブ、私の一人息子に…許せんっ!!」


   麻衣をメデアに預ける


エステリア「お止めください王妃様!」

アッディーリャ「構うな!大事な息子に手出しをされて黙ってみておる母などいないわ!!」


   剣を抜いて進んでいく


エステリア「王妃様っ!!」


   ティオフェルのペンダントが輝き出す。


   麻衣、眠ったまま涙を流す


麻衣M「ティオフェル…王子様…」


ティオフェル「これは?なんだ?」


エステリア「あれは?」

メデア「あれは…」

アッディーリャ「ペンダントの力だ。」

エステリア・メデア「ペンダントの力?」

アッディーリャ「そうだ。数千年に一度起きると言われている幻だと言われている。まさか本当に起ころうとは…。」


   ペンダントの光、金星に混ざると大きな光となってブブを攻撃


ブブ「うわぁぁっ!(ばたっ)」


   健司、千里もびくびく近寄る


健司「死んだのか?」

ティオフェル「いや、ただ気を失っているだけだと思う。」


   ブブの上体を起こす


千里「殺すの?」


   ブブ、弱々しく


ブブ「王子、私を殺せ。私は王子を殺そうとした大罪人だ…」


   沈黙


ティオフェル「いや。」


ティオフェル「(大声)この謀叛者ブブを太宰府に流す!数年の後、反省が見られればブブをアラセルバの重臣として復位させる!」

ブブ「王子様…(涙を流す)」

ティオフェル「ブブ、私はお前を父のように慕っている。叉、必ず私の重臣として、父として戻ってきてくれ。」

ブブ「王子様…喜んで。叉、私はあなたにお仕えしましょう。あなたの慈悲に感謝致します。しかし王子様、父親代わりとしての私はもう必要ございません。」

ティオフェル「何故だ?」

ブブ「あなた様のお父上、メディオス様は邪馬台国にて生きておられます。」

ティオフェル「え?」


   ドルフィン、近づく


ドルフィン「ティオフェル、」

ティオフェル「ドルフィン!!お前まだ生きていたのか!!」

ドルフィン「ティオフェル!!」


   鎧をとる


ティオフェル「父上?」


   ドルフィン、頷く。


ティオフェル「父上…(涙を隠すように下を向く)」

ドルフィン「ティオフェル、こっちにおいで。」

ティオフェル「しかし…」

ドルフィン「父の元に来なさい。今日だけは許そう。ここで思いっきり泣いていいよ。」

ティオフェル「父上…お会いしたかった。」


   ドルフィン、ティオフェルを抱き寄せる


ドルフィン「ブブ、戻ったら叉一緒に暮らそう。ティオフェルの世話を頼みたいからね。」

ブブ「承知しました王様。何とありがたきお言葉。」


   流星が始まる


アッディーリャ「多くのものが亡くなってしまったが、これで全てがやっと終わったのですね。」

ティオフェル「はい、母上」


ピぺの声「いえ、まだ終わりではありません。」


   ピぺ、王女の姿になる


ティオフェル「アナスターシャ!」

ピぺ「王子、本当にありがとう。そして一人でよく頑張りましたね。あなたは決してダメ王子ではありません。立派な王子です。あなたは必ずや聖君となり、アラセルバを統一して太平の世を築いていってください。」

ティオフェル「約束します…」

ピぺ「王子、今まで本当にありがとう。」

ティオフェル「ピぺ、本当にお前はいってしまうのか?」

ピぺ「私は5000年も前に生きた女王なのです。人間に戻った今、もうこの世で生きているわけにはいきません。さようなら王子、お別れです。」

ティオフェル「ピぺーっ!!」


   ピぺ、光と共に消えていく


ピぺの声「王子、涙を拭いてください。泣いてはなりません。さようなら。」


   ***


ティオフェル「ピぺまでもがいってしまった…(寂しく肩を落とす)」


   ドルフィン、アッディーリャ、両方からティオフェルの肩を抱く。


   ティオフェル、者繰り上げる。そっと涙を拭って堪える。


○王室の庭(夜)

   千里、健司、ティオフェル、エステリア。中央には麻衣がミルテの花畑で眠っている


ティオフェル「麻衣!麻衣!」

麻衣「…。」

ティオフェル「頼む麻衣、目を開けて。戦は終わったんだ。平和が戻ったんだよ。」

千里「麻衣ちゃん…」

健司「おいっ麻衣!!」


   ティオフェル。泣き出しそう。そっと麻衣の手を握る


ティオフェル「私が死ぬべきだったのに、どうしてそなたがこの様なことになるんだ…」

エステリア「王子様…」

ティオフェル「そんなに私の事が嫌いか?私が憎いのか?…だったらそれでも良い。私を憎んでいても良いから、嫌いでも良いからここに戻ってきてくれ。何故に何も応えてくれない?」

健司「流星の奇跡でも起きてくれないかな。」

千里「うん…(涙を拭う)」


千里「麻衣ちゃん何で?僕ら友達なんだよ?いつでも一緒だって約束したじゃん!なのに黙って一人で行っちゃうなんて酷いよ…」


   泣き出す。健司、慰める


健司「泣くのはよせよ。」

千里「だって…」

ティオフェル「私が悪いんだ。麻衣をあんな目に遭わせて、火事になったときだって、真っ先に何で救ってあげられなかったんだ!?(涙を堪える)麻衣…」


   体を触る


ティオフェル「そなたの体は冷たいね。こんなに冷たかったの?もしこのままそなたが戻ってくれないのなら、私の声など二度と聞きたくないというならそれでもいいから!」


ティオフェル「最後にこれだけ聞いて欲しい。これでも応えてくれぬというのであれば私はもう諦める。」


   竪琴を弾き出す。全員、涙を流す。


○瞑想の中(黄金・黄泉)

  

麻衣M「あの音は?美しく、何処か懐かしいあの曲は?」


麻衣M「そうだわ!確かあれはティオフェル王子様の奏でる竪琴よ!王子様!王子様!!」


ティオフェルの声「麻衣!麻衣!」

麻衣M「王子様ですの?」

ティオフェルの声「麻衣、何故目を覚ましてくれない?」


   ティオフェル、現れて涙を流す


麻衣M「王子様…何故にお涙を?」

ティオフェル「麻衣、私が嫌いか?」

麻衣M「え!?(大きく首を降る)」

ティオフェル「私が憎いか?」


   麻衣、泣きながら首を降る


麻衣「いいえ王子様、私はあなた様を憎んではおりません!嫌いでもありません!何故その様にお思いになられるのです?」

ティオフェル「だったら私の元へ戻って来ておくれ…(静かに泣いている)」

麻衣「王子様、私のために涙をお流しになられているのですか?いけません!私ごときに王子様が悲しい涙を流されるなどあってはなりませぬ!」


   ティオフェル、少しずつ消えていく


麻衣「王子様、王子様お待ちください!!どちらに参られるのですか?」


○(戻って)庭(夜)


   ティオフェル、竪琴をやめる


ティオフェル「そうか…分かったよ麻衣、それがそなたの気持ちなんだね。」


   空を見上げる


ティオフェル「こんなきれいな星空をこんな気持ちで見ることとなるとは…そなたとこんな形で別れることとなるとは。お前は最後の最後まで薄情で軽薄な女なんだね。」


   麻衣に石楠花とミルテの髪飾りをつける


ティオフェル「そなたの黒髪によく似合っている…」


   麻衣の髪に寄り添う、髪飾りに涙が流れる


ティオフェル「おやすみ麻衣。(口づけ)」

エステリア「王子様…」


   ティオフェル、麻衣を抱き上げる。麻衣、ゆっくり目を開ける


麻衣「王子様?」

ティオフェル「麻衣っ!?麻衣なのか?」


   千里、健司、エステリア、驚く


ティオフェル「麻衣っ!!」


   麻衣、弱々しく微笑んで頷く


ティオフェル「麻衣!よかった!戻ってきてくれたんだね!!」

麻衣「瞑想の中で…」

ティオフェル「え?」

麻衣「あなた様のお声が聞こえました。お姿が見えました。あなた様は泣いておいででした。私は、私ごときのために悲しい涙をお流しにならないでくださいと王子様に言いました…」

ティオフェル「(強く抱き締める)そうだよ麻衣、私はどれ程そなたのために涙を流したか…」

麻衣「とても美しいものですね。(笑う)初めて見ました、王子様のお涙。」


   麻衣、そっと涙を流す。ティオフェル、麻衣に顔を寄り添って泣いてる


麻衣「あなた様は私に、私が嫌いか?憎いかとお尋ねになられましたね。しかし私はあなた様を憎んでなどおりませぬ、嫌いでもありませぬ。


麻衣「あなた様は私とは身分も違う、私ごとき手の届かぬお方だと言うことはよく存じております。いえ、本来ならば私の様な者がお近づきになってはならぬお方…。しかしご無礼を承知で言わせてください。ティオフェル王子様、私はあなたをお慕いしておりました…心より。」

ティオフェル「(泣きながら)無礼者!おなごが男にそのような言葉を口にしてはならぬ!男の私がそなたに先に言わねばならぬのに…」

麻衣「王子様?」

ティオフェル「私もそなたの事が好きだ。今までに出会った女の中でそなたほど美しいものはいなかった。心の綺麗で優しい者はいなかった。愛してる麻衣…(口づけをする)」


健司「なんだ?なんだ?一体どうなっているんだ?」

千里「麻衣ちゃん…」

エステリア「王子様…(寂しそうに微笑む)」


○広間(夜)

   大舞踏会が行われている


ティオフェル「(少々酔っている)さぁさ、みなのもの今日は宴だ!!存分に飲め、存分に食べろ!!」

ドルフィン「ティオフェル、ご機嫌なのはいいが少々飲みすぎだぞ!そなたはまだ元服前だ。」

ティオフェル「父上が飲み無さすぎるんですよ!!ほらほら父上も!(ぶどう酒を注ぐ)それに私は元服前とはいえ、もう14です。来年の夏にはもう15なのですから変わりないではありませんか!!」


   得意気に


ティオフェル「私だって例え14でも腹と体は一人前の男なんです。」


   飲み食いをする


アッディーリャ「王子っ!!はしたない真似はよしなさい!あなたはそれでも王族の息子か!!」


   健司、酒の入れ物を見る


健司「俺らはまだこんなの飲めねぇよ」

麻衣「何いってんのよ!あんた酒蔵会社のぼんぼんでしょうに?」

健司「それ関係ねぇだろう!」

千里「いいじゃん。今は平成じゃないんだしさ。」

健司「千里、お前アラセルバに来てから偉い調子づくようになったな。」

千里「え?(赤くなる)」

健司「一時でも王子を任されて自信がついたんだろ?」

千里「…。」


ティオフェル「叉、これからも王子の代理を頼むよ。」

千里「それは勘弁してくださいよ」


   ティオフェル、笑う


ドルフィン「ティオフェル、もう千里を王子の代理にする必要はない。」

ティオフェル「え?」

ドルフィン「お前はもう、王子などではない!」


   全員、一斉にドルフィンを見る


ドルフィン「お前はこれよりもう、アラセルバ国王じゃ。」

ティオフェル「え?」

ドルフィン「立派になったな。これで父も安心じゃ。ティオフェル、故にお前に王位を譲ろう。これからはお前がアラセルバ国王としてこの国を作っていって欲しい。」

ティオフェル「父上…(涙目でドルフィンを見つめている)うぅっ」

麻衣「王子様っ!?一体どうなすったの!?」

ティオフェル「(手で口を覆う)気持ちが悪い…飲みすぎたみたいだ。」

麻衣「えぇっ!?」


   ティオフェル、走って退室。麻衣も追いかける。


   千里、健司、心配そうに顔を見合わせる


ドルフィン「ハハハ、大丈夫だよ。心配要らない。」

千里「でも…」

アッディーリャ「昔から変わっていませんわ。あの強がりなところ…」

健司「え?」


   エステリア、ククッと笑う


健司「?」



   ***

   

  バルコニー。ティオフェル、ぼんわり。そこに麻衣。


麻衣「王子様、」

ティオフェル「麻衣、お前も来たのか。」

麻衣「やはりここにいらしたのね。」

ティオフェル「(笑う)ティオフェルと呼んでくれと言った筈だよ。」

麻衣「あのお別れの時だけではなかったのですか?」

ティオフェル「当たり前さ。」

麻衣「では、ティオフェル」


   二人、笑い会う


麻衣「でもあなた、本当はご気分が悪いだなんて言って出てきたのは嘘なのでしょ?」


   ティオフェル、動揺


麻衣「私には何でも分かっておりますのよ。泣き虫な王子様…」

ティオフェル「やめろ麻衣。しかしそなたの言う通り、父上に突然あの様な事を言われてというのもあるが…」


   星空を見上げる


ティオフェル「こうしてそなたと二人きりになりたかった。」

麻衣「え?」

ティオフェル「そなたは私を追ってここへ来てくれると思ってた。」


ティオフェル「なぁ麻衣、(向き合う)先程そなたが私にくれた言葉に偽りはないか?」

麻衣「えぇ勿論…」

ティオフェル「そうか…」


   星空に目を戻す


ティオフェル「しかしそなたはいつの日か私の元を去り、国へ戻ってしまう日が来るのだろう?」


   麻衣、寂しげに目を伏せる


ティオフェル「私を忘れる日も必ず来るのだろう。」

麻衣「王子様、それは!」


   ティオフェル、言葉を遮る


ティオフェル「私にはそれがいつ来るのか、その時はいつなのかは全く分からぬ。だから一日でも長く、一瞬でも多くお前たちと一緒に過ごしていたいんだ。今のこの愛しい時間を大切にしたい。」

麻衣「ティオフェル…」

ティオフェル「特にそなたとは。だから麻衣、私はそなたに渡したいものがあるんだ。受け取ってくれるかい?」

麻衣「私に?なんでしょう?」



   麻衣、ティオフェルの話を聞いて赤くなって動揺するが頷く。


   エステリア、影から見ている。寂しそうにフッと微笑んで去っていく。



   ***


   一年後。朝。戴冠式。


メディオス「ティオフェル、これからはお前が国王としてアラセルバに太平の世を築いていく番だ。」

ティオフェル「はい父上。」

メディオス「これからは苦労も増える。大変なことや苦しいこと辛いことも沢山ある。もし一人ではどうでも乗り越えられないときは父に頼りなさい。父は上皇としていつでもお前を側で見守っているよ。」

ティオフェル「父上…(泣きそうになる)」

メディオス「泣くなティオフェル、お前はもう国王なんだ。」


   葡萄の葉で編んだ王冠をティオフェルに被せて麻のマントを着せる


   大歓声と拍手が起きる


全員「アラセルバの王様、万歳!万歳!万歳!」


   ティオフェル、涙ながらに微笑む


   ***

   

ティオフェル「王妃っ!」


   正装した麻衣、ティオフェルの隣に来る


千里「麻衣ちゃんっ!!」

健司「麻衣!!王妃ってどう言うことだ?」

千里「麻衣ちゃんっ!!まさかずっとここに残るつもりじゃないよねぇ?」

健司「あのバカっ!!


健司「勝手にしろ!あんなやつ知るかっ!!帰りたくなきゃ一生ここに残ればいいだろ!!一生そいつと一緒にいりゃいいだろう!」

千里「健司くんっ!!」

健司「ふんっ。」


   ***


ティオフェル「麻衣、本当にありがとう。」

麻衣「私はとても嬉しゅうございます王様…」

ティオフェル「麻衣…(微笑む)」


ティオフェル「父上、母上、私の妃です。」


   麻衣、頭を下げる。メディオスとアッディーリャも微笑む


メディオス「そなたが命がけで王子とアラセルバを守ってくれたことは私たちもよく知っている。感謝します。」

麻衣「いえ…」

メディオス「そなたは王妃にふさわしいおなごだ。これからも未熟な国王を支えてやってくれ。」

麻衣「上皇様…はい。」

ティオフェル「麻衣…」


   口づけ


ティオフェル「ありがとう、生涯そなたのみを愛すると私は約束しよう。例え遠くに離れてもしまっても一生…」

麻衣「王様…」


ティオフェル「アラセルバ王族の后としての証のリングだよ。」

麻衣「不思議だわ、こんな輝き見たことがない…素敵。大切にする。」


   ティオフェル、麻衣に指輪を填めてから強く抱き締める


   

   空が少しずつ暗くなる


   星が光出す


麻衣「見て王様、金星よ。」

ティオフェル「本当だ。」


   星が流れる


麻衣「流れ星だわ!(両手を伸ばす)」

ティオフェル「何をやっているのだ?」

麻衣「こうやって流れ星にお願いすると願いが叶うのよ。」

ティオフェル「そなたは何と?」

麻衣「いつまでもアラセルバ王国が平和でありますように。そして(ティオフェルを見る)あなた様とあなた様のご一族に幸せが沢山あるようにと…」


   ティオフェル、柔らかく微笑んで両手をあげる


ティオフェル「では、私もそなたのために願いをかけよう。そなたが一生幸せに暮らせるように、そしていつまでも私を忘れないで欲しいと。」

麻衣「王様…」


   ティオフェル、空を見る。星が降っている


ティオフェル「その時が来たらしい。」

麻衣「え?」

ティオフェル「麻衣、(手を握る)私はもう近くでそなたを支えたり守ってやることは出来ない。しかし時を越えてもそなたの事をずっと想い続けていると言うことを忘れないで欲しい。心だけは何千年経ったっていつでも側にいる…」

麻衣「王様?嫌よ、私帰らないわ。私のお側には愛するあなた様がいるんですもの!今や私のいた世界に未練など少しもございません。故、私の余生あなた様と…」


   ティオフェル、悲しそうに麻衣の手を離す


麻衣「王様、嫌っ!!その手をお放しにならないで」

ティオフェル「ダメだ麻衣、いけない!そなたはそなたの世界に戻るんだ!」

麻衣「嫌、嫌、嫌!私をお放しにならないで!!ずっとお側にいてください!」

ティオフェル「私だって離れたくなんてないよ。そなたと一緒にいたい…」


ティオフェル「けれど…(涙を飲む)」


   麻衣に首飾りをかける


ティオフェル「この首飾りはアラセルバの王族に伝わるとても高貴なもので王位後継の男しかつけることを許されない。麻衣、そなたには特別だ。私とこの国を忘れぬ様に…」


   麻衣を強く抱き締める。流星の光、王宮を包む


ティオフェル「麻衣、さぁお別れだ!さようなら、行って!!」

麻衣「嫌よ!!」


   ティオフェル、少しずつ麻衣の体から手を離す


麻衣「ティオフェル!!」


   麻衣、ありったけのカイロを取り出す


麻衣「これ、寒くなったら使って。あなた冷え性だからまた寒い思いしてお体壊さないように…そして」


   ポシェットの中からキャンディーやお菓子袋を取り出す。キャンディーをティオフェルに握らす


麻衣「これもあなたにあげるわ。あなたが時々お食事もお取りにならないほど忙しくしているの、私知ってるわ。これからはもっとでしょう?これなら簡単に食べられるしきっとあなたもお気に召すわ。どんなに忙しくてもお食事はきちんと摂らなくてはダメよ。」

ティオフェル「麻衣…」

麻衣「そして、それと…」


   ティオフェルの口にマシュマロを押し込む


麻衣「王様っ!ティオフェル!」


   麻衣、星に包まれて少しずつ消えて行く


ティオフェル「麻衣ーっ!!」


   ティオフェルと麻衣、泣いている。



○尖り石縄文公園(早朝)

   麻衣、千里、健司、目を覚ます。


千里「あれ?僕たちいつのまにか眠っちゃっていたんだね。」

健司「へー流星も終わっちゃってるな。(腕時計を見る)やべっ!5時じゃん!」

千里「僕たちこんなところで一晩中眠っちゃってたってことか!くしゅんっ!」


   立ってもじもじ


千里「あー僕なんか冷えちゃったみたい!おトイレ!」

健司「だったらその辺でしろよ。」


   千里、草むらへかけていく


健司「おーなんか俺も!!」

麻衣「嫌ね、みんなして。」

健司「麻衣、お前もどうだ?」

麻衣「エッチ!!バカ!!」


   リュックを振り回して健司のお尻を叩く


健司「いってぇーな、やめろよ!ん?(麻衣の顔を見る)お前泣いてる?」

麻衣「どいで?泣いてないわよ?」

健司「そうか?」


   ***

  

   三人、帰り道を歩く


健司「そういやお前の母ちゃんも父ちゃんも今日はいないんだよな。」

千里「うん、だから…」

麻衣「分かってるって。今日はそういう約束ずらに。」

千里「(嬉しそうに)うんっ!!」


   

   ティオフェル、微笑みながら草むらの中で微笑んでいる


麻衣「誰っ!?」


   麻衣、公園を振り返る。強い風で芝生が揺れているのみ。誰もいない


健司「ん、どうしたんだ麻衣?」

麻衣「え、ううん何でもない。」

千里「ちょっと怖くなるからやめて!」

健司「お前は本当に怖がりだな」

千里「だってぇ」



○千里の家(早朝)

   麻衣、健司、千里、川の時になって眠っている。麻衣、眠れない。麻衣の首と指には首飾りと指輪。麻衣、寝返りばかり。千里、泣いている。


健司「おい千里、どうしたんだ?大丈夫か?」

麻衣「せんちゃん?」

千里「僕のるるちゃんがいないんだ。どっかに置いてきちゃったんだよ。」

健司「はぁ?逃がしたのか?」

千里「籠さらないんだよ!!」


○アラセルバ王国・宮殿(夜)

   バルコニー。ティオフェルとエステリア。ティオフェル竪琴を弾いている。


ティオフェル「王妃、」

エステリア「王様、又あの方々の事をお考えだったのですか?」

ティオフェル「あぁ…」

エステリア「あの方々はとてもいいお方でした。またお会いになれないかしら?」

ティオフェル「そうだな。出来る事ならば私とて会いたい。しかしもう二度と会える事もないだろう。」


   懐かしそうに遠くを見つめる


ティオフェル「ピぺも人の姿となり遠い国へいってしまった。私の周りにはもうエステリア、お前と母上と父上だけだ。寂しくなったものだ。」

エステリア「何をおっしゃいます王様。あなた様は一国を担うアラセルバの王様ではありませんか、その様にお弱くなってはいけませんわ。」

ティオフェル「エステリア、」

エステリア「それに王様、寂しがることなどございませんわ。」


   おかめインコの入った鳥かごを見せる


エステリア「これ、」

ティオフェル「これは?」

エステリア「王様がお飼いください。宮殿の中に置かれていましたの。きっと王子様のための贈り物なのだわ。」

ティオフェル「あぁ…」


   千里が持っていたことを思い出す


ティオフェル「確かルルと呼んでいたな、」

エステリア「は?」

ティオフェル「いや、何でもない。」


   微笑む


ティオフェルM「安心しろ千里、この鳥はこれからは私が大切に育てていくよ」

エステリア「王様?」

ティオフェル「王妃…エステリア、私はこの子をルルと呼ぶことにする。」

エステリア「ルルですか?」

ティオフェル「あぁそうだ。」

エステリア「ルル…可愛らしいお名前。王様らしいですわ。」

ティオフェル「そうか?」


   二人、笑い合う


ティオフェルM「麻衣・・・」



   ***

   

   麻衣、布団の中で目を開いている。


麻衣「…。」


○尖り石縄文公園

   人で賑わっている。


健司「うわぁ、やっぱり縄文祭りってすげぇな。」

千里「縄文時代当時もこんな感じのことやってたのかな?」

健司「バカ野郎!!縄文時代にこんな大層なことやってるわけないだろうに!」

千里「それもそうか。ねぇ、考古館に入ってみようよ!」

健司「そういや無料解放だしな。いいじゃん、入ってみようよ!!」



   麻衣、健司、千里、走っていく


○縄文考古館

   麻衣、千里、健司、展示物を見ている。三人、縄文のビーナスに釘つけになる。


健司「おい、ちょっと見ろよ。なんかこれ知ってるよな?」

千里「うん、何かえらく身近に感じられるって言うか?」

 

   麻衣、無言でそれを見つめる


健司「ん、何々?」 



   麻衣別のガラスケースを見る


麻衣「これ…」


麻衣N「これは紀元前約5000年、アラセルバ王国時代の宝石と思われる。アラセルバ王国第13代国王・ティオフェルの遺骨と共に発見。ティオフェルが生前大切にしていたものと思われる。」


   麻衣、不思議そうに自分の首飾りと指輪を照らし合わせる。


麻衣「同じ…。」


麻衣N「それと共に埋葬物の中から麻の袋が出土された。中には当時としてはあり得ない食物が入っていたとされ、内容物に関しては現在更に調査中である。謎のオーパーツとし、世界中が注目している。」


麻衣「ティオフェル?」


   苦しそうに首をかしげる


千里「え…?」


   なんとも言えぬ表情でガラスケースに顔を押し当てる。鳥かごと化石が入っている


千里N「これは、紀元前約5000年のアラセルバ王国の時代のものと思われる。同じくアラセルバ王国第13代国王・ティオフェルの遺骨と共に発見。ティオフェルは生前、大層の鳥好きであったと書かれており、この鳥はティオフェルが幼少時代に飼ったインコの化石と鳥かごである。インコの種類はオカメインコと推定されている。この時代に何故このように際密に作られたと鳥かごがあるのかは今段階ではまだ謎である。叉かごにはルルと言う文字が彫られている。恐らくティオフェルがインコにつけた名前ではないかと推測される。」


千里「ルル…」


   涙ぐむ


千里「僕のルルだ。何でルルはここにいるの?何で死んじゃってるの?」


   苦しそうに葛藤しながら泣き出す。


健司N「又…」


   三人、一所に夢中になる


健司N「国王ティオフェルの遺品から、彼は生前かなりの冷え性で大層の寒がりだったと分かっている。遺体は大量の冬物衣料を着た状態で見つかっているが、衣類の至るところにカイロの成分と思われるものが検出され、実際そのようなものが貼られてもいる。これもまさに謎とされている。」


健司「だとさ。何じゃこりゃ?いくら古代ミステリーとは言ってもさ、こりゃオカルトだろ!(笑う)」


麻衣「ん、まだなんかあるに。」


   石盤


麻衣「何て書いてあるの?」

千里「誰が書いたんだろう?」

健司「訳文があるぞ。」

千里「読んでみてよ。」


健司N「お前たちの事は一生涯忘れない、ありがとう。私達は身分は違えどいつまでも友達。叉いつか、何処かで会えるその日まで。再会を信じて。ティオフェル。」


   ***

   

   フラッシュ


アラセルバ王国。ティオフェルが直筆で手紙を刻んでいる


   ***


三人「ティオフェル…」


   顔を見合わす


健司N「追伸、王妃へ。私はそなたを忘れない。時代が流れどれだけ変わっても私の心は変わらない。一生…いや、この命尽きてもそなただけを愛し続けよう。」


千里N「この文は、晩年のティオフェルが書いたものと思われる。初めの物は恐らく遠いところにいる友に宛てて書いたものと思われるが、誰かは不明である。しかし文面から、身分の低いものと推測される。追伸に関しては、王妃に宛てたものと思われる。ティオフェルは心より妻を愛した王であり、又国民から愛された聖君だったと思われる。」

 

   最後の展示物。男女のミイラが棺に収まった状態で展示されている。


麻衣「ティオフェル…いやぁーっ!」


   麻衣、手で顔を覆って声をあげて泣き出す。


千里「ま、麻衣ちゃん?どうしたの?大丈夫!?」

健司「麻衣、いきなり何だよ!!びっくりするじゃねぇーか!嚇かすなよな!」


   麻衣、泣いてその場にしゃがみこむ。



○尖り石縄文公園(夜)

   麻衣一人、縦穴式住居の前。金星を眺めている。


   ティオフェル、同じ場所で金星を眺めている。


   別々の時代の麻衣とティオフェルは肩寄せて並んでいる。麻衣、首飾りを触る。ティオフェル、右手を握る。麻衣の手が握られる。


   無言のまま夜から朝へ。


   陽が昇る。ティオフェルの姿、消える。



○縄文考古館・受け付け前(朝)

   麻衣、健司、千里。麻衣、悲しそう。ペンダントと指輪を持っている。


健司「おい、ふんとぉーにいいのか?」

千里「ここに渡したらもう取り戻せないんだよ?大切なものなんだろ?」

麻衣「いいの、覚悟は決めたわ。これは私が持っているべきものじゃないもの。(作り笑い)宝石なんて私みたいなガキにはまだ10年早いしね。それよりもこれからの歴史学に貢献した方がずっといいじゃない?」

健司「そうか。」

千里「なら僕ら、ここで待ってるよ。」

麻衣「えぇ。」


   麻衣、入っていく


   ***

 

   涙を拭って出てくる


千里「麻衣ちゃん…」

健司「泣いているのか?」

麻衣「ううん大丈夫。」


   寂しげ


麻衣M「これで何もかも本当に終わったんだわ。だから最後にあなたに…」


   駆け出す


健司「お、おい麻衣!!何処行くんだよ!!」

千里「麻衣ちゃん!!」



   ***


   尖り石の前。


健司「なんだ?この石は?」

麻衣「尖り石よ。」

千里「尖り石?」

麻衣「そう、ここはその昔尖りの森って言われていたの。」


   深呼吸


麻衣「そしてこの辺に洞窟があったの。その中に…あ!」


   壊れかけた封印の寝台


麻衣「封印の寝台だわ、まだ残っていたのね。」

千里・健司「え?」


   麻衣、涙ぐんで寝台に頬を寄せる


麻衣M「あの日のあなたの温もりはまだ私、覚えているわ。」


   一冊本を寝台に置く。


麻衣M「ティオフェル、あなたは決してダメダメのバカ王子なんかじゃない。あなたはとても素晴らしい王子様であり、王様であり、男であり、人間だったわ。


麻衣「安心して、私たちの時代に立派な聖君としてあなたの名は歴史に刻まれているわ。」


麻衣「決めた!!私大人になったら考古学者になる!」

健司「は?なに言い出すんだよ?」

麻衣「そして本を書くの。古代と言う時代の本当の姿、人の生き方を。正しい形で世に残していきたいから。」

健司「なんだよそれ?」

千里「素敵じゃない?僕もやりたいな。」

麻衣「なら一緒にやらまい!!」

千里「うんっ!!」

健司「んじゃ俺も俺も!!」


   ***


麻衣「さぁ帰りましょう!!何だか私お腹が空いちゃったわ。戻っておやつでもしまい。」

健司「賛成ーっ!」

千里「僕も。何食べる?」

麻衣「私、草加煎餅!」

健司「お、それいいねぇ。堅くておしょうゆの利いたしょっぱいやつ。」

千里「んーっ、おいしさそう!!」

麻衣「帰りに買ってって食べまい。あ!」


   閃き


麻衣「そういえば私、ドングリ粉とドングリの実、古代米を買ってあるのよ。だから団栗餅とドングリのブリヌイ作ってあげるわ。」

健司、千里、ティオフェル「やったぁ!」


   千里の笑顔とティオフェルの声と面影が重なる。麻衣、ハッとして懐かしそうに微笑む。


麻衣「えぇっ!!」


   三人、無邪気に走っていく。


麻衣M「ティオフェル、ありがとう…さようなら。」


   ***

   

   三人が去った後。


   封印の寝台の草むら。強い風が吹く。


   ***


   縄文考古館、サンダルの子供の足、来館。


   麻衣の寄贈した首飾りと指輪をアップ。見つめる様子。


   完。



 









      

   

   





   





 



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