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第8話 都市の守護者、あるいは一部、もしくは厄介者

 ジェシカがエイダの労働意欲のなさをそのまま報告したので、隊長は激昂し、「なんたる怠惰! なんたる腐敗! この国は終わりだ! 若年層は覇気を失い死にゆく肉塊だ! 浄化の日は近い! 蜂起せよ人民!」などと叫び始めたので、そそくさとシガードは支部を後にした。


「まったく隊長ときたら、というかボマーさんもたいしたタマだよ」ぶつくさ言いながら街を歩いていると、ガードレールの上に腰掛けコーヒーを飲んでいたロイド巡査長に声をかけられた。三十前の無精髭を生やして目つきの悪い、怠惰そうな男だ。


「シガード、お前んとこの若いのがまた街で暴れてやがんぞ。ちゃんと先輩らしく教育しやがれ」

「どの件ですか? ノアがアザラシを発狂させたやつですか? ウィルヘルミナが二十人くらい嘔吐させたやつ?」

「両方だよ、オレに手間をかけさせんなって」

「ぼくに言われましても。彼らはちゃんと杖で修復したんですよね?」

「直し漏れがないとも限らんだろうが。奴らの仕事は雑すぎんぞ」


 隊長よりはましだが、この警官もまた大層愚痴っぽい。エイダと同じく東リンダリア出身であり、解呪師に対して未だに胡散臭い印象を抱いているようだ。


「しかし巡査長、これがこの都市一流のやり方なもので。千年続く伝統で」

「あの若造どもは年上への礼儀もなってない。ハイネマンに至ってはオレを公然と犬畜生呼ばわりしやがって。確かにお前らは呪いは解くだろうが、それ以外の犯罪者どもに対処するのは誰だ? お前の家にこそ泥が忍び込んだら誰に頼む? オレ達だろ?」

「仰るとおりで。しかし目上の人への礼儀ってのは各家庭の教育の結果ですので、ぼくが今更できることはないかと思われますが」

「ハイネマンの奴の呪いを解くことはできないのか? あの〈浄化機構〉という妄想への執着だよ」

「鎮静化した後で呪いをさらに解くというのは難しいですね」これは嘘で、本部の特級解呪師ならそれすら消し去ることは可能だ。しかし高額な上に、隊長は解呪師を引退しなくてはならなくなるし、本人の心身に後遺症が残る恐れもある。


 微妙に噛み合わない応答で愚痴をかわしていると、巡査長の苦言の対象はウィルミアそのものへ移り始めた。

「お前らも厄介だが、それ以上の馬鹿どもばかりだ、この街は。クソ犯罪者がオレの心身を疲弊させる。誰かがオレの代わりに悪党どもを捕まえてくれりゃあいいが、そんなことはあり得ないからな」

 シガードが無難な応援を口にしようと思ったとき、雑踏の中で叫び声が上がった。「スリだ! 捕まえてくれ!」


 巡査長は一瞬面倒そうな顔つきになったが、すぐにそちらへ走っていこうとする。

 すると人々が砂粒のように吹き飛び、街の一角とともに粉砕されるのが見えた。

 彼らが修復され、何事もなかったかのように歩き去る中を掻き分け、スリの背中に剣を突きつけたジェシカがやって来た。


「あ、ロイド巡査長。犯人を捕まえました」

 巡査長はそれを見て、苦々しい顔になったが、ため息を吐くと言った。

「犯人確保への協力に感謝する、解呪師ジェシカ・フィリップソン。今回はな」

「都市を守る者として当然のことをしただけです。では仕事があるので」

 そう言うと彼女は駅ビルとその周辺を吹き飛ばし始めた。シガードは巡査長が何か言う前に、人ごみに紛れてその場を立ち去った。

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