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第25話 我が侭な解呪者

 エイダが五番隊の担当区域を歩いていると、ジョアンナとともに初めて見る灰色の髪の男が歩いていた。近づいて挨拶するといきなり男はエイダを非難してきた。


「貴様が六番隊が抱える厄介児エイダ・ボマーだな! なんでも自分では働かずに親の世話になっているそうじゃないか。非常に大きな社会的負担だ。労働者を、ひいては帝国を圧迫しているという自覚があってその放蕩生活に洒落込んでいるのか?」

「はい。しかしどうも思いません」

「なんというやつだ! 実にけしからん。貴様を養う金で親御さんは別のなにかを買うことができたかもしれないと思わないのか、エイダ?」

「思いますが現状そうはしていない以上、問題はひとつもないというのが私の見解ですが」

「ひでえな。まったく、貴様がうちの担当区域に引っ越してこなかったのは僥倖だ。これ以上厄介ごとが増えたらたまらない。どの区域にも貴様のようなひどい人格や呪いを抱えた顧客がいて、日々我らのストレスになっているんだ。部隊の中にも変なのがたくさんいるし」

「まことに恐ろしいな」ジョアンナが鹿爪らしく言った。

「いや貴様のことを言ってるのだ、俺は。一般人にところかまわず勝負などしかけやがって。ああ、そういえば支部が襲撃されさらにラヴジョイ局長が来訪したそうだな、六番隊は」

「はい。なんか一般人に服を脱ぐように強要し隊長に殴られていました。『そこのお兄さんいい体しているなぁ! じかに見せてくれよ……そう胸襟を開いて大胸筋を、ナンチャッテ。さあ脱ぎたまえ……』などと」

「ひでえもんだ。なぜ陛下はあの変質者を弾劾しないのか理解に苦しむよ。まあ、ところかまわず一般人を改造したりしないだけまだましか。そうなるのも時間の問題な気がするがな」


「よし、場も暖まったしマシューよ、わたしと勝負するのだ」突然ジョアンナは相棒にそう言い放った。

「いや、意味が分からねえ。そういうムードじゃなかったはずだ。それにどうせまた貴様はいんちきルールでやらせようって腹だろ」

我が侭な貝セルフィッシュ・シェルフィッシュとわたしが三回言う前に三十回言うのだ。先に言い終わったほうが勝ちだ」

「そんなの無理に決まって……セルフィッシュ・シェルフィッシュ、セルフィッシュ・シェルフィッシュ、セルフィッシュ……」

「セルフィッシュ・シェルフィッシュ、セルフィッシュ・シェルフィッシュ、セルフィッシュ・シェルフィッシュ、わたしの勝ちだ! また一つ勝利を積み重ねたぞ!」

「おめでとうよ。やれやれ、西側は混沌としてんな、まったくよ」

「マシューは東の人間ですか?」

「ああ、先週引っ越してきたばっかりだ」

「私も東の出身です、奇遇ですね」エイダがそう言うとマシューは嫌そうな顔になった。

「貴様が東のイメージを悪化させないのを願いたいが無理だろうな。俺も帰れるものなら帰りたいが」

「そうできない理由は?」

 マシューはため息を吐いて、

「呪いだよ。俺は旅行者だった。この街に入ったとたんに呪われ、出られなくなったんだ。どうにかしようと思ったが、強固過ぎて解呪に莫大な金がかかることが判明した。それが貯まるまでどうしようもない」

「しかし、それは裏を返せば強力な解呪師になれたってことじゃあないのですか?」

「俺がそれを望んでいればすばらしい話だがな。まったく、この世はジョアンナのゲームに挑むように逃げ場のない問題だよ」


 そう言って歩いていこうとするマシューに、再びジョアンナが対決を仕掛けようとしている。

 もちろん彼に逃れる術はない。

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