表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/33

第2話 傍点乱舞

 スーパーマーケットから二人の解呪師が出てきた。買い物袋を手にした栗色の髪の少年が言う。「そんでその高等遊民の人は災禍誘発体質ではないかってジェシカの奴が言ってたんだよ」

「一週間で四回だろ? じゃあ確定なんじゃないかなぁ」隣を歩いていた灰色の髪の女性が言った。「上客の出現だから喜ぶべきだろうけど本人にとっちゃそうじゃないだろうな、風呂場が泥だらけになったり履物が魚醤まみれになったり、挙句の果ては道行く人が『貴様はゾウリムシ以下だ』と罵ってきたり」

「いやボマーさんは最初こそ戸惑ってたけどあんまりもう気にしなくなったらしいよ。豪胆だ」

「そりゃひょっとすると解呪師の素質があるかもしんない」

「隊長もそう言ってた。いずれにしろマークしとこう」


「ところでノアどうだい、あたしの顔はまともに見えるようになったかな」

 言われて少年は相手の顔を見やるが、ウィルヘルミナ・フリードの顔は煤まみれのガラス越しのようにぼんやりしていた。声もさっきから、電話で話してるようにややくぐもっている。それを本人に言うと、

「そうだろうな。あんたは呪いへの抵抗力が低いわけじゃないけど隊長やシガードくらいの実力者でなきゃ駄目なんだな。もっと高みを目指せ」

「努力してんだよ俺なりに。最近糖分を控えるためにダイエットコーラを飲み始めたんだぜ」

「水道水でも飲んどきな」

 ウィルヘルミナは言いながら周囲を窺った。通行人は、あってはならない恐ろしいものを見るかのような表情をしている。この〈禁忌〉の二つ名を持つ解呪師の呪いが彼らを畏怖させているのだ。同業であってもノアのように、脳がウィルヘルミナの顔や声を受け入れることを拒絶してしまう。当人はそれを面白がっているのだ。堅物そうなサラリーマンがすれ違いざま、ぎょっとして青ざめ反射的に後ずさった。ウィルヘルミナがにやつきながら会釈すると目を逸らして足早に歩いていく。彼の一日が最悪なものになったことに満足げなウィルヘルミナだが、周りを突然、十人ほどの集団が包囲した。


「見つけたぞ、呪われし悪魔め!」

 彼らは黒ずくめのローブを纏い宗教団体らしい装いだ。全員が銃で武装しており、それを二人に向けている。

「話には聞いてたけどマジでこういうのが呪いに組み込まれてるんだな」ノアが襲撃者を見回して言った。

「そうそう。毎回設定が違うんだよ。憲兵みたいなのが国家の存続に関わるとかって言ってきたこともあるし、前はなんか火炎放射器を持った部隊が闖入して来たのよ」

「ローランド子爵の顔に傷を付けたことを忘れたとは言わせんぞ、ウィルヘルミナ!」一人がそう叫ぶと、首謀者らしい鉄仮面の人物が前に進み出て、素顔を見せた。顔面を斜めに横断して巨大な切り傷が刻まれている。

「知らないよ! 誰だよあんた! 何屋さんだよ! まったく、何か口上はあるのかな?」

「ウィルヘルミナ・フリード、呪われし魔女め、我らが裁きの鉄槌を下してくれる。死体は骨も残さぬぞ」ローランド子爵がおごそかに言った。

「ほざけ。週末のアトラクションとして早々に屠ってやるよ。剣でなぎ払うのも一興だけどノア、久々に得意技を見せてくれよ」

「ああ、良いよ」少年は買い物袋に手を入れて叫んだ。「悪漢ども、目に物見せてやるぞ。これだ!」

 彼が右手に掲げたのは先ほどスーパーで買い求めたタマネギだったが、襲撃者たちにとってそれは青天の霹靂だった。全員がたじろぎ、驚愕の表情を浮かべる。

「バ、バカな! タマネギだと!」

「あんな小僧がなぜ!?」

「落ち着け! 偽物に決まっている。う、うろたえるんじゃない!」


 それを聞いてノアは不敵に笑う。「偽物だって? あんたたちの目は節穴か。教えてやろう。こいつはな、()()()()()()()()()()()()()()()んだぜ……」

「なっ……何だと!」

「みじん切りにすると涙、だと……」

「あの小僧、そこまでの域に到達しているとは……!」

「まさに悪魔的ではないか」

 さらにたたみかけるノア。「だから俺はわざわざ、()()()()()()()()をかけてその上()()()()()()()()()()()切ることにしているんだ」

「そ……そんな……水泳用のゴーグルを……」

「鼻にティッシュ……だと……」

()()()()()()()()()、とでも言うのか……」


 既に襲撃者たちは攻撃意欲をなくし、蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くしている。

 そこでとどめの一撃、とばかりにノアは言う。「冥土の土産にひとつ教えてやろう……この袋の中にはタマネギのみならず、ニンジン(・・・・)ジャガイモ(・・・・・)()()()()()()()()()()()

「な……ま、まさか……」敵役たちは顔面蒼白、絶望の表情を浮かべている。そこで再び、にやりと笑い、少年は宣言した。



「そう、()()()()()()()()()()()()()()()()



「アァ――――ッ!」

「ヒィ――――ッ!」

「ゴァ――――ッ!」


 奇声を発しながら襲撃者はその場に倒れ伏した。ノアはガンマンが拳銃をガンベルトへ仕舞うように、タマネギを買い物袋に戻す。

「あの世で野菜をしっかり食べやがれ」

 襲撃者たちは塵へと還った。二人の解呪師は家に帰った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ