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第12話 令嬢は金食い虫

 エイダは自宅で白骨化しているところを、やって来たリジェルに無事再生された。


「ありがとうございます。片手が白骨化するまで二時間くらいかかったので、余裕ぶっこいてたらまさか肘から先で急にペースアップするとは」

「呪いは気まぐれだからな。しかし、あんたは確かに〈高等遊民〉らしいわな」


 リジェルは室内を見渡した。陽光が差し込むリビングは十五畳ほどの広さ。冷房ががんがんに効いており、大量の漫画や小説、大型液晶テレビ、高そうなゲーミングPCなどが並んでいる。そのすべてがエイダ自身ではなく親の金で購入したものだ。


「親がニューノールにビルをいくつか持っているので」

「隊長なんかは『あんなやつのどこが高等なのだ。低俗遊民と呼称しろ』と言ってるけどな」

「すべての労働者が私を嫉妬するのは自然なこと。この記録的猛暑の中、暑い外気に包まれて歩き回る皆さんを尊敬いたしますが私には無理。そういえばあなたとまともに話すのは初めてだったかもしれないので自己紹介しておきます。エイダ・ボマー、高等遊民。これ以外に言うことがなかった」カップアイスを食べながらエイダは言う。

「こりゃ丁寧にどうも。こちらは湾口地区南六番隊所属、〈金字塔のリジェル〉ことリジェル・ジタンだ。まあ今後のご愛顧もよろしくってところだわな」

「長いお付き合いになるはず。ところで隊長は未だに私を加入させたがっている?」

「ああ、あの人は特にあんたや新しく入ったレイって野郎、オレに対してもそうだが、人格や素性をまずはボロクソに言うが、そいつの能力が優れてれば躊躇なく役立てる。そこを分けてるのは隊長の資質だわな。まあ愚痴を聞かされてるシガードは不憫だが。エイダ、ちょっとこっちを見ろ」


 アイスを咀嚼しながらエイダは、ソファーの背もたれ越しにリジェルを振り返る。その眠たそうな両目を見てリジェルはしばし黙考した。


「やはりな。あんたの抗呪力はだいぶ高い。だが不自然だ。これだけの力を持ってれば、大抵の呪いなんか撥ね付けられそうなもんだ。エイダ、あんたはわざと呪いに対抗してないんじゃないか? 東の出身といえど、もう引っ越してきてしばらく経つだろ? とっくに呪いとの戦い方を、体が学習してもいいころだ」

「それに関してはなんとも言えませんが」アイスを掬い上げながらエイダは言う。「私は自分のしたくないことは徹底的にしない人間だという自覚があります」

「魔人に頼んであんたを仕事中毒者にしてやりたいが、そいつをしちまうとオレは解呪師でなくなる上に前科者だ。まあ、今のところはあんたが呪いを経験するうちにどう変化していくのか、観察段階だわな」

「あなたはグラブの出身と聞いた。向こうではどうやって呪いと戦っている?」

「基本的にはこっちと同じだ」リジェルは大剣と杖を叩く。「こういう便利な道具がないから、自分の呪いをぶつけて対消滅させる、少々荒っぽいやりかたが主流だけどな。初代皇帝は便利な代物を手にしたもんだ」

「欲しいと願ったらそこら辺にあったとジェシカは言っていたけど」

「それは教会好みな伝承だわな。レミュエル一世が建国後にどうやって呪いに襲われ、対抗していくかにはいくつものバリエーションがある。ジェシカが話したのは、それまでの善行によって、神が窮地の皇帝へ力を授けたってパターンの一部だろう」

「実際は違うと?」

 皮肉にリジェルは笑いながら話す。「オレの故郷に伝わってるのは、皇帝は最初から恐るべき抗呪の戦士で、屠った竜の骨で剣と杖を拵えたって話さ。むしろ神が、傲慢な皇帝への挑戦として呪いを与えたって伝説もある。場所によってはレミュエル一世は英雄であり、別の所じゃ悪魔だ」

「人の評価なんていい加減なもの。ハイネマン隊長にとっては怠惰な小娘でも、人によっては私を高尚な趣味人として見るかもしれない」

 今度は苦笑いを浮かべてリジェルは言う。「オレの目にも怠惰な小娘にも見えるが、あんたのご両親にとっては〈高尚な趣味人〉、もしくは愛娘なのかもな」

「いえ、この前電話で話したら〈金食い虫〉呼ばわりされた」

 リジェルは頷き、部屋を出ようと踵を返しながら、

「オレに娘がいてこうなら〈ごくつぶし〉と呼ぶわな」

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