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第43話:動

カナンの苦笑の理由を知って、セイラも苦笑し、握り締めた鬘を掲げて見せた。


「ちょっと前まではハナだったんだ」


テラーナの部屋で脱いだ後、しっかりと握っていたはずなのに、その存在をすっかりと忘れてしまっていた。これでは、いくら侍女の格好をしようともハナには見えない。侍女の格好をしたセイラ王女だ。

一直線に走ってきて、誰にも声をかけられなかったのは幸いとしか言いようが無い。


「ノウチェスって人知ってる?」


テラーナの告げた名前には微かに聞き覚えがあった。きっと代わる代わるに挨拶にやってきていた貴族たちの一人なのだろうが、顔まではおもいだせない。「誰々の血筋で、役職は……」と挨拶を受けながら、耳元でハナが相手の情報を教えてくれたはずだったが、セイラは笑みを貼り付け優雅に頷くので精一杯だったのだ。初めの頃こそ覚えようと努めていたのだが、そろえた様に同じような服装で同じような口上を述べていくのだから頭には入ってこない。しっかり覚えている人物の中には「懐かしいでしょう」という理由で、部屋いっぱいにエスタニアの国花を贈ってくれた有難迷惑な人もいたが、彼の名前はノウチェスではない。ついでにいうと、大量に送られた淡いピンクの花は王都でしか咲かないものなのでセイラにとっては懐かしくはなかった。


「存じておりますが……」


その名を聞いて、カナンの表情が曇った。

暗い思い出を引きずり出すには十分だった。


「アリオスの闇の犠牲者です」


今でも鮮明に覚えている。初雪が積もった美しい光景の中を戦場さながらに怒号が行き交った。城中が痛いような緊張に包まれ侍女たちは息を潜めていた。兵士たちもいつもの規律は乱れ、落ち着き無く彼らを盗み見ていた。

彼らが声高に叫んでいるのは、母親から引き離された子供を殺すかどうかだった。

前王がジルフォードの城中での生活を認めたことと、元帥が黙認したことにより騒ぎは鎮まったものの不穏な空気は払拭されぬまま、ここまできてしまった。


「ジンがらみなんだね」


答えを聞かずともカナンの表情を見れば分る。


「ジンは?」


馴染みの顔が見えないことで、ざわりと胸の中に漣が立つ。カナンの部屋の中にはジルフォードが居た痕跡は微塵も無い。


「今日はお見えになっておりません」


カナンの沈んだ声に嫌な予感がして、セイラは部屋を飛び出した。












「セイラ様!」


振り返ると、全身からぴりりとしたオーラを放つケイトの姿があった。その後ろには見知らぬ青年が付き従っていた。ケイトの額に浮かぶ汗とせわしなく現れる白い息が、どれほど懸命にセイラを探していたのかを現すようだった。


「何をしてらっしゃるのですか!」


近づいてくるオレンジの髪がケイトの怒気に煽られて炎のように見える気がする。いつもは垂れ気味の目もつり上がって見えるのは気のせいだろうか。


「どれだけ心配したと思ってるんですか! 部屋はもぬけの殻ですし」


どう言い訳をしようかと考えていると、気になる言葉が耳に入った。


「……ハナは?」


逆に詰め寄り、問いただすとケイトの顔にはっきりと困惑が浮いた。部屋がもぬけの殻なはずはないのだ。ちゃんとセイラ王女を用意してきたのだから。


「侍女殿でしたらおられませんでしたよ」


二人のやり取りを傍観していた青年が、そう告げた。「寝室に」と言おうとしたセイラを見越して青年は告げた。


「恐れながら緊急事態でしたので、寝室も調べさせていただきましたが何処にも」


「そう」


ハナが勝手に部屋から出て行くとは考えにくい。ハナも巻き込まれてしまったのか。


「セイラ王女。なにか分りましたか?」


そう問いながらも、全てを知っているのではないかと思わせる暗褐色の瞳。さまざまな感情をあらわにしているケイトの横で表情めいたものを見せず、落ち着き払った声の青年は冷淡にも見えるが、信用できると直感が働いた。


「ノウチェスって人が関係あるかも」


「ノウチェス……わかりましたから、セイラ様は部屋に戻ってくださいよ」


ケイトの言葉に、ジルフォードを探していたことを思い出したセイラは、くるりと背を向けると走り出した。



「ジンを探しているんだ。君たちハナを探して」


「セイラ様!」


「任せたから。ハナは一人ぼっちは嫌いなの」


のばした手は虚空をつかみ、セイラの背中はすぐに遠くなっていった。振り向きもせず、ただ信頼だけを残して去っていくセイラに諾と言う以外、ケイトには答えようが無い。


「追いましょうか?」


がくりと肩を落とすケイトに声をかけると首が振られた。


「お前はジョゼ将軍に報告を」


「了解」


ケイトは音も無く去る部下とは逆方向へと駆けた。

ケイトもハナの性格をわかりつつあった。二人の共謀でないのなら捕らわれてしまったに違いない。外はもう薄暗闇が支配している。一人で心細さを味わっているだろうハナを早く見つけるべく、足に力を込めた。





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