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第36話:元帥

城の中に設けられた一室には机と椅子があるだけで他には何も無かった。

円形に配された五つの席のうち埋まっているのは三つだけだ。

全ての席が埋まったことは一度としてない。

五元帥の任命された内の一人は早々に政から身を引き、もう一人はふらりと出て行ったきり何処に居るのかも分からない。

実質元帥は三人しかいなかった。

そのうち一人はは黒衣で全身をまとめた影のような人物で面倒だと言わんばかりに机に足を乗せ、呟いた。


「この時期になって問題が起ころうとはな」


重い声に赤い色彩がびくりと震えた。

細い体にサイズの合わない大きな司祭服を着込んでいる男は彷徨わせた瞳を声の主には合わせずに水を含んだような声でぼそりと言った。


「エスタニアの連中がやったのでは」


「ハッ!何のために?」


馬鹿にしきった声に唸り声が重なった。


「王女を害したと戦争でもふっかけるか?腹に病巣を抱える今、外側から突かれたくないはずだ。見せ掛けだけでも友好状態は保ちたいだろうよ」


そのためにアリオスを成り上がりものだと下げず見ながら、国王の代理として来るのは第二王女だ。

遣わされるもので、その国の重要度を計るのなら彼女はかなり上位を表すに違いない。

確かにアリオスの治世もよくなり唯の軍事国家ではないという見識が広まってはいるがまだまだ甘い。

本当ならば彼女のような手腕を持つ王女が喉から手が出るほどほしいのだが、今更そんなことを考えても仕方のないことだ。


「では、誰が王女を狙った?……もしや……サンディア殿の……」


「そんなこと知るか」


吐き捨てながら、男は今まで一言も声を発さなかった人物に視線をやった。

その人物は組んだ指先を額に当て瞑目するように座っていた。


「おい、ハマナ。あんたの意見はどうなんだ」


上げられた瞳は静かで深い海の色。

しかし其処から意思を読み取ろうとする前に眼鏡が光を反射させその色を隠してしまう。


「今の状況では、どうということもできないでしょう。……暫くは静観を」


「そうでしょうな」


痩せこけた男は安堵の息を吐き、いそいそと席を立った。

逃げるように去っていく男の背を睨み付ける男にそっとため息を付いた。


「そう睨んでやるものじゃない。彼は今とても忙しい」


言い聞かせるように言ったのはハマナ・ローランド。

五元帥のうちで最も高齢であり、アリオスの知恵とも呼ばれる人物である。

彼に忙しいと言われた痩せこけた男はモーズ・シェリン    。

祭事を司る彼は王族の結婚式を間近に控えた今、きっと誰よりも忙しいに違いない。

ハマナの言葉に鼻を鳴らしたのはエンと呼ばれる男だ。

それ以外に彼の情報はあまり出回っていなかった。


「俺だって忙しいんだよ。五元帥が半分も居ないんじゃ格好がつかないからお飾りでいてやってるだけだ。さっさと引退してこんな事に煩わされずに楽に暮らしたいんだがね」


「そう言わないでくれ。君が居てくれて私はとても助かっているのだから」


笑みを向けられてもう一度鼻を鳴らす。


「そんなに助けが欲しいならアイツを引きずってくればいいものを」


その言葉にハマナは静に首を振った。


「……アレにはアレの考えがあるのだよ」


エンは苦りきった顔を扉のほうへ向け、歩き始めた。


「アリオスに巣くう病魔も根深いかもしれんな」



手を振りながら闇に解けていくエンを見送りながらハマナも同意するように深いため息をついた。





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