表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/60

第33話:手合せ

吊り上げた眉にしっかりと結んだ唇。

彼女からは戦う前の緊張というよりも復讐を果たす前のような思いつめた気配が感じられた。

手合わせをお願いしたいとの言葉にへろりと笑い了解した自分を責められているようだった。

剣を握った手には必要以上に力が入っている。

彼女は誰にどんな話を聞いたのだろう。

自分はそんなに気負って向かう相手では無いのだけれど。

これが彼女の常ではないのだろう。マキナも気遣わしげに彼女を見ていた。


「テラーナ殿……そんなに怖い顔しないでよ」


「これが普通の顔ですからお気になさらないで」


「……そう」


こちらが体をほぐしている間中テラーナは同じ体勢を保ったままだった。

体が温まる頃には舞台が出来上がっており、幾人かの見物人も居た。

今回もセイラは稽古用の剣を借りたのだがテラーナの剣は特別なのだろう。

細く幾分長く見え、鞘には瞳と同じような深い緑の玉が嵌っていた。

始めの合図と同時にテラーナは地を蹴り、眼前に迫る。

身が軽いのか随分動きが早く、セイラが身を捻るころには、その姿は背後にあった。

ジョゼとやりあった時ほど響く衝撃はないもののこれほど素早く攻撃されては反撃が中々出来ない。

繰り出した攻撃も剣先が届く前に逃げられてしまう。

時にセイラの流れるような動きに翻弄されてもすぐに体勢を立て直し、間合いを取る慎重ぶりだ。

今までに無い好敵手のはずだった。

それなのにセイラは心から楽しむことが出来ない。


―どうしてそんなに苦しげに顔を歪めるのだろう。


テラーナのほうが有利なはずなのに、彼女の顔には高揚も見られず逆に青白くなっていくようだ。

剣を振るうのが苦痛だと言わんばかりに。

刃をかち合わせて顔が近づいたときにセイラは思い切って尋ねようとした。


「テラーナ、君はどうして……」



ヒュン



言い切るより先に耳元を風が奔った。


―矢ッ!


何故?

そんなことが頭に浮ぶよりも早く腕がテラーナを引く。

バランスを崩したテラーナは前によろめくと、銀が宙を舞う。

矢が掠めたのか髪紐が切れ、テラーナの髪が視界を埋め、もう一矢の姿が消えてしまう。


「セイラ様!」


気づいたときには右手に熱が奔っていた。

駆けつけたマキナが素早く周りに指示を出しながら、セイラの腕に布を巻きつける。


「……なぜ」


腰を落としたテラーナの頬には血しぶきが飛んでいた。

呆然とみやった先には誰もいない。

髪を下ろした彼女は随分と幼い印象に変わる。


「分かりません。ですが故意でしょう」


この場所には弓の練習をするものはおらず、誤って飛んできたにしては正確に二人の姿を捉えていた。


「今探らせていますからセイラ様は医務室へ」


巻きつけた布にはじわりと赤が滲む。


「うん」


「何故です! 何故かばったりしたのです!」


マキナに手を貸され立ち上がったセイラにテラーナが叫んだ。

その顔は今にも泣きそうだ。


「だって矢がきたんだもん」


当たり前だと言いたげなセイラに何もいえずテラーナは虚しく口を開閉した。

自分でも何を言いたいのか分からない。

けれど何かを叫びたかった。


「あ、あなたは!」


「今度は楽しくやろうね。苦しい悲しいで剣を振るうともっと悲しくなるから」


伸ばされた手が頬についた血を拭うためだったと気づいたのはセイラの袖口がその色に染まったからだ。

凝視するテラーナに笑みを向けながら無事なほうの手を振った。


「またね」


そう言って連れて行かれるセイラを見つめるテラーナに侍女が声をかけると、彼女はよろりと立ち上がった。


「お部屋までご一緒いたします」


「いいえ、一人で帰れます」


不安定に体を動かすテラーナに伸ばされた手は沈みそうな言葉とともに拒絶された。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ