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第32話:姉

ケイトが渡したのは一通の手紙だった。

宛名の文字には嫌になるほど見覚えがある。

その性格を現すようにはっきりとまるでお手本のように美しく見やすい文字だ。

手紙の送り主は姉だった。姉といっても半分しか血は繋がっていない。


「まさかユリザねぇさまが来るとは……」


セイラは手紙を片手に持ったままだらりと長椅子の端から垂らした。

式には国王の代理で王女の一人が来る事は伝えられていた。

その王女に第二王女のユリザが選ばれるとは……

いや、よく考えれば彼女ほどその役に相応しい王女は居ないのだが無意識にその可能性を排除したかったのだろう。

セイラはぐぅと唸り声を上げた。

脳裏には黒髪も艶やかな女性の姿が浮んだ。

彼女の正式な名はユリザ・リューデリスク・トゥーラ=エスタニア。

エスタニア国の第二王女だ。

セイラと王家は疎遠なため上の七人の王女たちとも親交があるわけではなかったが、何人かとは面識があった。

その中でもユリザはジニスまで押しかけてきた強者だ。

彼女が居なければセイラはきっと自分がエスタニアの王家に連なるものだとは思わなかっただろう。


「間抜け面はおよしなさい」


はじめて見る豪華な馬車にぽかんとしていれば、そう言って彼女は整備されていない道を踵の高い靴で闊歩した。

彼女はまったくと言って良いほどジニスの街に馴染んでいなかった。

土くれにまみれる人々の中で浮かび上がる彼女は御伽噺の中から間違って出てきてしまったお姫様のようだ。

その様子を思い浮かべてセイラは苦笑した。

彼女のことが嫌いというわけではなく少し苦手なだけだ。

ジニスの人々も彼女に好意的だった。

どんな相手にもぴしゃりと言い放ち、居丈高だけれど街の人々が知っているどの貴族よりも正しいことを言う。

王家でさえ糾弾し孤児にはその身を誇れと。

彼女は誰にでも公平に厳しい。

もちろん己にも。

どんな時にでも王女らしく、乱れた姿など一度としてみたことが無い。

少年のような格好をして泥だらけで駆け回っている姿を見つかって散々に怒られた記憶はどうやっても消えてはくれない。


「貴女がどう思っていようが母親の身分がどうなどと関係ないのよ。

その身体を構成する血肉の一片はエスタニアに連なるものなのだから自覚を持ちなさい」


言い放たれた言葉に言い返そう者ならば十にも百のもなって返ってくる。

母もハナも一緒になって目を丸くしていたのをよく覚えている。


「う〜怒られないといいけど」


手紙の出だしは「エスタニアの王女として相応しくない行動を取っていないでしょうね」だ。

「馬で駆けたり、雪まみれになったり……」と続く。

これはもう全部筒抜けになっているに違いない。

報告したであろう使者を怨みながらクッションに頭を沈めた。

けれど一つだけ来るのが彼女であるのが嬉しい事がある。

彼女は上辺だけみて物事を判断しない。

ジルフォードについて色なしや魔物と呼ばれていたことも含めてすべてを調べてくるだろう。

その上で自分の目で彼を見てくれる。

彼女が何を思うのか楽しみでもあった。

彼女がくるまでに少しぐらい王女らしく振舞おうかとも考えたが、それはすぐに霧散して明日は訓練場に行こうに変わってしまった。



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