第28話:お願い
乾いた身のうちを暖かいお茶で満たし、ほくほくとしながら軽やかに廊下を歩いていると後ろから声がかかった。
「セイラ殿」
声の主はルーファだった。
一国の主とは思えぬほど質素な服装だ。けれど銀と緑の煌きは彼に華やぎを与えている。
「ルーファ殿。どうしたんだ? こんなところで」
供もつけずに歩いていて良いのだろうか。
「ちょっと下にね」
どうやら王様はお忍びで街に行ってきたらしい。
彼がふらりと出かけていくことはダリアに聞いたことがある。
連れて行ってくれないとぷりぷりと怒っていたが、二人で行けば目立つ事間違いない。
「セイラ殿。どうした?」
いつも元気な少女の目元が赤く腫れている。
「ん? ああ」
何のことか分からなかったが目元に伸びてくる指先に納得した。
カナンに濡らした布を貸してもらい随分冷やしたはずなのに、まだ目元が赤いらしい。
「泣いたから?」
説明するのは二回目だ。
ルーファに分かるくらいだからハナにも問い詰められる事になりそうだ。
首をかしげる少女にルーファは肩眉を器用に上げた。
瞬時に泣く原因を探ったが思いつかない。城の人々とはうまくやっていたはずだ。
「ジンと一緒に泣いたの。苦しかったわけでも悲しかったわけでもないよ」
理由はよく分からないが、懸念していたような事態ではないらしい。
「……ジルフォードと?」
泣いている姿など想像ができなかった。
笑った姿すら見たとこがないかもしれない。
「すごく静かに泣くの。あれじゃ目の前に居なきゃ気づけないだろうな」
「そうか。ジルフォードとは……」
「仲良しになりたいなとは思ってるよ」
それなりに仲良く慣れているとは思っているけれど、まだ手探り状態だ。
弟が気持ちを外に現さないことを知っているルーファは苦笑した。
「ジルフォードを許してやって欲しい。あいつがああなってしまった責任は私にある」
もっと早くに動いていたならば、無理やりにでも彼の世界に入っていたのならば。
どれだけの民に治世を褒められようとも、たった一人の弟の心を溶かす事もかなわない。
自嘲じみた笑みに明るい笑みが重なった。
「ジンに、ルーファ殿にそれぞれ守りたいものがあって、それぞれのやり方があったと思うんだ。結局同じものを大切に思っていただけなのかもしれないけれど」
「セイラ殿?」
「遅すぎるなんてことはないと思うよ」
セイラは二人の距離を一歩詰めた。
「一つ、協力して欲しい事があるんだ」