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第11話:対面

セイラは淡い水色のドレスを纏い、いつもは無造作に垂らした髪の毛を結い上げ、真珠を散らしてある。

いつもの少年ぽさは消え、王女といっても差し支えない。

行列が運ぶ荷物の中身を知ったのは用意された部屋に通された後のことだった。

侍女たちが衣装やら装飾品やらを山のように持ってくる。

その量たるや何人王女がいるのかと疑りたくなるほどだ。

けれど侍女にして見ればそれなりの地位のある貴族の娘なら当たり前だと。

その言葉に絶句しているうちに、上着は剥ぎ取られ、髪に櫛を当てられる。

散々駄々をこねてみたが、初めてアリオス王国の人々と対面を果たすのだ。

今日ばかりはハナと変わるわけにはいかない。

めかしこんで廊下に出れば踵と石造りの床がぶつかり高い音を奏でた。

それだけでいつもの自分ではない気がしてくる。

隣に立つのはハナでも昔から仕えてくれている老執事でもない。

父であるエスタニア国王が用意した使者だ。

まるでエスタニアの栄華を誇るように金銀で飾られた衣装を身に付けている。

細い肢体には付けられるだけ付けた胸の紋章が重くて、倒れてしまわないだろうかと心配になる。


「はぁ……」



いくら無鉄砲で好奇心旺盛なセイラでも緊張はする。

初めての他国で隣にはいつも寄り添う友人の姿もないのだ。

大きく深呼吸して気合をいれ、それと同時に目の前の扉が開けられた。

そこに広がるのは天井が高く、開放感のあるホールだ。

軍事国家といわれるように堅固な石造りのホールだ。

ごてごてと無駄な装飾はないが、そこかしこに飾られた花のおかげで冷たい雰囲気は薄れセイラには好ましく映る。

ただ隣の使者がひどく浮いて見えるが気にしないことにした。

周りから突き刺さる視線が少々痛いが気にせずに前に進みでた。

王座の前まで進み深く頭を下げる。


「セイラ殿。良く来てくれた。」


その声はまだ若く、穏やかだった。

セイラに声をかけたのはアリオス国王ルーファ・アリオスだった。

銀の髪に碧玉のような鮮やかな瞳の青年である。

その表情は優しげで軍事力を盾にのし上がった国の王には見えない。

その横には金髪に青空色の瞳を輝かせた女性が寄り添っている。

エスタニア国王の後宮にさえこれほど美しい人はいない。

思わず見とれていると、女性がふわりと微笑んだ。

花が咲くようとはこのことだろうか。

美女を見慣れているであろう使者も彼女に見惚れてしまっている。



「王妃のダリアです。こんなに可愛らしい妹ができてうれしいわ。」



声も同じく美しい。

玻璃を叩いた時のように高く澄んだ声だ。


「私もこんなに綺麗な義姉ができるなんてうれしいな。」


率直な感想を漏らすとダリアはもう一度微笑んだ。

隣の使者が急いで言葉遣いを諌めたが、出てしまったものは仕方ない。

視線を少しずらせば、知った顔が目に入った。



―あの人は……



銀の甲冑は漆黒に変わっており、色を失った瞳には玉の散りばめられた眼帯がされているが、夕日の中で会った男だった。

セイラの視線に気づいたのか、男は口の端を上げた。

軽く頭を下げて、一番痛い視線の持ち主へ……

何故だろう。

ルーファより鈍い銀の髪を結い上げた女性が貫かんばかりの視線をセイラに向けているのだ。

暫く見詰め合ってみたのだが根負けしたのはセイラのほうだ。

彼女の瞳からは理由の分からない怒りしか伝わってこない。


「妹のテラーナだ」


ルーファの言葉にテラーナは頭を下げた。

「よろしく」の言葉に返事はない。

無礼を承知で辺りを見渡す。

これで国王と王妃に顔見せは出来たのだが肝心の夫はどこのいるのだろう。

目の前にはいないし、周りにもそれらしい人は見当たらない。



「それでジルフォード殿下は」


使者もそのことに思い当たったのであろう。国王に尋ねた。


―遅刻か……来る気が無いかな?


隣の王妃が目を伏せる。

その行動でセイラは相手が来ないことを悟った。

ちょっと残念な気もするが、そのうち逢えるだろうとその時は高を括っていたのだ。


「それが来る気が無いようで」


どんな言い訳をするかと思っていたが、国王はありのままを告げた。

それにはセイラは呆気にとられ、使者はしばし呆然としていたが、体制を整えると猛然と国王に食って掛かった。

エスタニアはアリオスとは比べ物にならないほど大国なのだ。

友好のためだといっても顔すら出さないとは失礼だと。

ハナがいたらこんなことありえないと憤慨するだろう。

怒った顔がありありと浮んだ。


「どうするおつもりですか!」


なおも言い募る使者の横でセイラは笑がこみ上げてくるのを感じた。

この率直な物言いをする義兄をセイラは気に入ってしまったようだ。

この男の前では先に腹をたてたものが負けてしまう気がする。

怒らせるだけ怒らせておいて相手が疲れ、気が殺がれた時にがぶりと噛み付く。


「かまわないよ。ビラスト伯爵。」


確かこんな名前だったはずだ。

ダンの命名通り、ネズミと密かに読んでいたので思い出すのに時間がかかった。

いきなり止められた使者はしばらく口をぱくぱくさせていたが、ようやく「セイラ様。ですが・・・」と言い募った。


「こんな小娘が妻だと知ったらがっかりでしょう。もう少し秘密にしておこう。」


セイラはいたずらを仕掛けるときのように笑いルーファを見る。


「長旅で疲れているんだ。友人が暴れだす前に休んでも?」


「ああ、それは申し訳ない。きょうから貴女はアリオスの住人で我々の家族だ。ゆっくりくつろいでくれ。」


到着一日目はこうして暮れていく。




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