なぜ現れるのでしょう
「初めまして。レティシア様・・・そう、お呼びしても?」
嫌です。
「ええ、もちろんですわ。私を知ってくださっているなんて、光栄ですわ」
なんてことを言えるはずもないのですが。
たれ目が微笑んでいます。
横目に、羨ましそうな令嬢が目に入ります。
さあ、あなたも話しかけるのです!私は一切邪魔立てしませんよ?
「私のことは、エヴァンと呼んでいただけますか?是非、お話してみたかった」
何故だ。
困ったように微笑むに留めると、反対から声がかかった。
「私もそう呼ぼう。レティシア様。あなたに興味がある」
まあ、とか、あらとか、そこかしこで声が上がった。
私は全く興味がないのですが!?
「治癒の魔術がどう発現しているのかを、この目で見たいのだ」
「そう、セオがこう言ってね、夜会ではゆっくりお話もできないし、この場に現れたのだよ」
治癒魔術のせいか!
しまった。そんな理由が出てくるとは思いもしませんでした。
「まあ。でも、私の治癒は、私自身も気を失ってしまうもので、そう簡単には使えませんの」
使ってなんかやるものか。
あれ、結構疲れるし。
「ああ、聞いている。だから、ベッドを用意し、オレの手を切り落として・・・」
怖い怖い。何か言ってますわよ、この方!
簡単に自分を傷つける気でいらっしゃいます!
「セオ、令嬢がおびえていらっしゃる」
ふっと、楽しげに笑うたれ目が、私の顔をのぞき込む。
「大丈夫です。手を切り落とすのは私がいたしましょう。すぐに、治癒できるのでしょう?全く問題ありません。簡単な傷だと、効果がよく分からないので、しっかりとおとしますが。
今日でなくてもいいのです。またお時間を取っていただけたら。いつにいたしましょ…」
「失礼します」
エヴァン様と私の間に、突然大きな影が入ってきました。
「お嬢様、顔色が優れないようです。お疲れなのではありませんか?」
エヴァン様に取られそうになていた手を、ブライアンがそっと、包み込んでくれました。
「あ……」
その瞬間、はっ・・・と息を吐き出すことができて、自分が息を止めてしまっていたことに気が付きました。
手が、少し震えています。
「おい・・・」
背中を向けられたエヴァン様が声を上げたところで、
「エヴァン、セオドア様。今のは、あなたたちが不躾でしたわ」
はっきりした声がかかりました。
チェザーレ夫人が、二人の男性を諌めてくれています。
「そうですか?」
不満そうなセオドア様の声が聞こえるけれど、血の気が引いて、上手く頭が回らない。
手を切り落とすって、ナニソレ。
この場の空気を悪くしたことを感じて、私は席を立ちました。
「申し訳ありません、皆様。どうやら、少々体調がすぐれないようなのです。申し訳ありませんが、先に失礼させていただきますわ」
優雅に礼を取った後、ブライアンに手を任せる。
自分を傷つけて、多分、重症と言われるような傷を、負って、私に治癒力を使わせようとしたセオドア様が怖かった。
それを窘めようと口で言いながら、具体的な日程を設定しようとするエヴァン様も。
治癒能力が働かなかったらとか、リスク考えてないのでしょうか。
成功しなかったら、その腕は、永久に元には戻らないのに。
「レティシア様」
チェザーレ夫人に注意を受けながらも、帰ろうとする私を呼び止めて、エヴァン様は言う。
「また、夜会出会えた時は、お相手お願いいたします」
誰もが見惚れるような微笑みを浮かべ、エヴァン様が微笑みました。
ぞくりと、背筋に何とも言えない悪寒。
支えてくれる手がなければ、倒れそうでした。
「光栄ですわ」
なけなしのプライドを引きずりだしました。
これで、攻略対象者は4人現れました。ついに、後は一人・・・。