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神殿へ

 眉間にしわを寄せてずっとこちらを睨み付けていたブライアンが、大きなため息を吐いて、私に手招きをしました。

 仲直りですね!

 喜び勇んでブライアンの膝の上に乗り、抱っこしてもらいます。

 ああ、ようやく安心できます。

 「ごめんなさい。来てくれてありがとう」

 私のそんな状態を全く無視して、

 「私がここにいるのは、護衛でも、監視でもない。教育係が一番の役目だ」

 唐突に、ブライアンが口を開きました。

 ここって、この場ではありませんよね。ずっと私といてくれる理由?

 「教育係は、ついでかと思っていました」

 ブライアンを見上げると、無表情のまま見下ろされました。

 「だろうな。神殿は、治癒術を扱える者が不当な扱いを受けずに済むように使い方を教え、どう使っていくのか考え方を教えていく。だが、あなたにはその常識は通じなかった。神殿に引き取ったとしても、使い方を覚えさせるも何も、初めて見る治癒術だ。どうしようもない。使い方も何も、全て桁外れだ。だから、神殿に呼び寄せるよりも、教育係を派遣した」

 長い話を、ゆっくりと私の背中を撫でながら話すブライアンの声は心地よく、少し眠ってしまいそうです。

 さっきまで、誰かを助けようとしていたのに、追いかけられて、怒りと恨みにさらされてささくれ立っていた心が、ゆるく綻んでいきます。ここは、一番安心できる場所なのです。

 でも、うとうとしていたら、また頭をつかまれて「寝るな」と怒られましたが。

 「もともと、私は調査員だった。これは、神殿では扱えない。訓練などできない。そう判断されて、教育係として私が派遣された。どんな状態でも・・・死んでいなければ、完璧に治癒する術を扱うのだ。通常の治癒では、病が進行していれば、治せない。体力がなければ、治癒術自体が、患者の命を奪う。事故などでも同じだ。即死でなくても、それを癒せる体力が必要なのだ。・・・通常は。それを、全く必要のない治癒術がある。どうする?誰からも無理だと諦められ、後は死を待つだけだと言う娘がいるとする。両足を事故で失った男性がいるとする。どんなことをしてでも手に入れたいと思う者たちがいても不思議ではないのだ。どんな大金をはたいてでも欲しいだろう?本来なら伏せるべき力だった」

 そうだ。こんな伝染病など起きなくても、助けたいと思う心はあちこちにあるでしょう。けれど、今まで無理矢理に治癒術を使うことを強制されたことはありません。

 どちらかというと、使うなと言われていました。

「だが、使用人・・・民間人の前で使用し、噂が広がり、回収できなかった。そこで神殿に引き取れば、その噂は真実になる。噂は噂でしかない。そこで止めなくてはならないから、だからこそ、護衛という形で私がそばにつくことになった。そんな噂を持つお前が目の前に現れたら縋り付かれる。自分にはできませんと断ったところで・・・あの状態だ」

 さっきまでの状況が、きっと、ブライアンとアルディには見えていました。私にも、言葉を尽くして教えてくれていたのに。

 だから、私は治癒術を持ちながら、神殿に行っていないのですか。

 私の力を、皆様は半信半疑だったのですね。権力の中枢に近い人たちだけがしっかりと真実だと知っていたと言うことですか。

 「お前が街に出ていけば、ああなることは分かっていた」

 い、痛いです。ほっぺたを伸ばさないでください。

 「治癒術士たちの準備は進めていたんだ。それを、いらん演技まですることになった。あいつらも、奇跡の力を分け与えられたっていう、さらに重圧を背負うことになった」

 あちこちに、迷惑がかかっています。私だけが背負えばいいことではなかったのです。

 自分の立ち位置を把握できていなかった、自分の幼さが恥ずかしくて悔しさで涙が出てきそうです。


 「もうすぐ着く。……降りるぞ」

 馬車が止まり、私が膝から降りる前に、ブライアンが立ち上がります。

 ・・・・・・うん、私はブライアンの腕の中にいるまんまです。

 「あの、下ります」

 「ああ、降りる」

 私を抱えたまま、馬車のドアを自分で開けて外に出ました。

 そこには、神官の格好をした大勢の人。


 ・・・・・・って!恥ずかしいですよ!初めてきた場所でこれはないです!



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