結婚してください
15歳になり、昨日、社交界にデビューいたしました。
これから、ほぼ毎日、舞踏会やお茶会、狩猟界に、買い物に出かければ偶然行き会うなど、イベント満載のはず。
引きこもっていいですか。
ああ、お父様。引きずり出さないでくださいな。
結婚相手を見つけろなんて、ンな無茶な。
逆ハーエンドもバッドエンドもまっぴらごめんでございます。
「ということで、ブライアン、結婚して!」
「無理です」
「ひどい!3日間くらいは悩むものよ!」
「時間の無駄です」
「愛しているの!」
「ありがとうございます。身に余る光栄です。余ったので、そっくりそのままお返しします」
「ひどい!」
ブライアンは、私の護衛です。
7歳の時、傍につくようになりました。
ただの男爵令嬢に、ずいぶん手厚いと思いますでしょう?
私ってば、ヒロインでして、特別な魔力なるものがあるのです。
魔力!なんてファンタジー。
けれど、残念なことに、ヒロインは自由に使える魔力は全くありません。
いや、あるにはあるのですが、助けたいと強く強く願ったとき、目映いばかりの光が降り注いで、強力な治癒の力を発揮するのです。
その力は、もはや、神。
治癒魔術は、そもそも血液の循環を魔術によって行ったり、筋肉や皮膚の蘇生を、細胞レベルに呼びかけて活性化させて行うもので、医療の知識がなければならず、また、細かい魔力の調節が必要なため、使える人が極端に少ないのです。
その上、治癒魔術によって治った方は、無理に細胞が働いているため、大変な疲労状態になるそうです。
そんなこんなを、全く無視した治癒魔術を使えるヒロイン。
さすがヒロイン。無駄なチート能力を持っています。
で、その魔術を使うと、ヒロインは倒れてしまう設定。疲れるからね!
…………・使えねえ。
でも、やっぱりちょっとやってみたくて、小鳥さんがけがしちゃったときに、やってみました。
願うのも、すごい精神力使うし、終わった後は、いつ終わったかも分からないくらい、突然意識が暗転します。
誰もいないところで、動物相手にやったら、私は遭難します。
よかった。侍女がいるときで。
確か、ヒロインの力が判明するのは、ゲームの終盤。
それまで、ヒロインは貴族の血を引きながら、魔力を全く開花させることができず、勉学は優秀なのに、魔術は全くダメだと悩むのです。本当に男爵の血を引いているのかなどと陰口をたたかれながら。
でも、私、設定知ってたから、やってみたし。
だから、魔力があることは、実証済の上、特異な治癒能力は有名になってしまったのです。
そして、どんな能力を秘めているか分からないからと、神殿から監視・・・兼護衛が派遣されてきました。
………てへっ。
ブライアンは非常に優秀で、武術も魔術も両方使え、私の教師でもあります。
ドレス姿で剣をふるう令嬢!格好いいでしょう?
「何もないところで転ぶ人に、剣など、もってのほかです」
まあ、取り上げられたけどね。
魔術は・・・うん、まあ、治癒は使えるよ!
「使わないでください。運ぶのが面倒です」
ブライアンが冷たすぎて凍えそうです。
「お父様!私、ブライアンと結婚することにしました。だから、社交界にはもう行きません。」
「……かわいそうだろう?」
お父様がブライアンを見ながらつぶやきます。
「ひどい!」