仕返し
壁際から、中央へ進み出ました。
誰かを探すようにキョロキョロしてると・・・。
「レティシア様?どなたをお探しですか?」
「キュース様」
チョロQです。
多分、誰か攻略対象が近づいて来ると思っていました。
でも、よりによって・・・。
「この間は、申し訳ありませんでした。あのようなことは、二度としないと誓います」
疑惑の目を向けてしまっていたのでしょう。チョロQが、悲しそうに首を傾げました。
どんな表情していようと、ぶれない美しさです。
まあ、いいかと思って、周りを見渡しました。
やはり、先ほどの令嬢が、こちらを気にしているようです。
「私こそ、誤解させたのは私だと、父から怒られました」
チョロQには、不自然さを感じさせないように、話しながら、イマージュ伯爵令嬢へ視線を向けると、少し顔色が悪くなっていました。
きっと、先ほどのことを言っていると思っていることでしょう。
罪悪感を持つ人間、陰口が好きな人間ほど、自分のことを話されるのは嫌いなものです。
そうでなくても、「私のことを話している」と、疑心暗鬼になっているでしょう。
むふふ。
「けれど、気持ちは変わらないのです。申し訳ありません」
悲しそうに目を伏せてから見上げると、きゅっと眉を寄せて、悲しそうなチョロQがいます。
まあ、見ようによっては、怒っているようにも見える、かな?
もう一度、イマージュ令嬢に目を向けると、逃げるように会場を出ていくところでした。
――――よし。
「私には、一片の気持ちも与えてはいただけないのですか?」
「……父が、スティールンス家に嫁に行けと言えば、喜んで。もちろん、キュース様が望んでくださることが大前提になりますが」
そう言えば、何かをこらえるように目を閉じて、息を吐きました。
「では、そういうお話があった時に」
寂しそうに、綺麗に笑って、人ごみに紛れるように、行ってしまいました。
キュース=スティールンスのルートは、これで消えたと思いたい。
ふと、「誰か一人だけ、好感度あげていくのは?」アルディの声が聞こえました。
ああ、そんな方法もあるんだなと思いました。
だけど、私は、誰とも恋愛結婚する気はないのです。
結婚しろというならば、こいつとと、すっぱり決めてほしいのです。
私には、ブライアン以上に素敵な人を見つけるなど、無理なのです。
私も、このままどなたかとダンスを踊る気にもならないと、休憩したくて会場を出ました。
そこに、何故か、イマージュ令嬢。
……しつこい。
「ちょっと、少し何か言われたくらいで、すぐに告げ口?下賤の人間は、耐えることも知りませんの?」
口止めかと思います。
憤るように、目の前に腕を組んで立っています。
「あら、何か言われて困るようなことをなさったのかしら?高貴な方のこだわりは、私にはなかなか分かりませんの。申し訳ありません」
面倒くさくて投げやりに答えると、やはりお気に召さなかったご様子。
「なんて、口の利き方!?アルベティーヌ様にいじめられていらっしゃったから、助けて差し上げたこともありますのに!」
……いつ?
「本当、アルベティーヌ様を怖がって、いつも探していらっしゃったでしょう?私、わざわざ、みなさんに教えて差し上げましたの。レティシア様がおびえておいでだと」
―――――お、ま、え、かあぁぁ!
「そのような事実はありません」
投げやりな態度をやめて、真っ直ぐに、イマージュ令嬢を睨みつけました。
「アルベティーヌ様に嫌がらせを受けたことも、おびえたこともありません。皆様に訂正をお願いいたしますわ。私の勝手な勘違いでしたと」
「なんですって!?」
「殿下が憤っておいででしたわ。婚約者が侮辱されたと」
反論に口を開こうとした令嬢が、喉に何かが詰まったように、瞬時に息を止めました。
「アルベティーヌ様に対する偽りを、故意に流した者がいると調査されているようですわ」
まあ、知りませんけどね。
「そんなっ……!?」
真っ青になったイマージュ令嬢と、後ろの二人が、こそこそと離れようとしているのを横目で見ながら、その場を離れました。
や~ったあ。
なんだか、とっても上手くいった気がします。
これで、いじめられイベント、なくなってくれたかもですよ!