父にご報告
「お父様、お話があるのですが」
少しだけ顔をうつむけて、憂い顔をしてみました。
顔はいいので、なかなか心配される表情だと思います。
「・・・父は、嫌な予感しかしないよ」
まあ、父には通用しないうえに、多用したのでこんな感じになってはいますが。
「私、もう夜会には出席しないようにしようと思うのです」
父に、とりあえず、今までの経緯を話して謝らなければならないのです。
「またか、社交は必要なのだぞ?」
「スティールンス様に、二度と近づいてくるんじゃねえっぽい言葉を言いました」
「は?」
「それから、殿下に暴言吐いて、不敬罪になりかけました」
「何やってんの!?」
「そんなら神殿に出家してやるぜ、それでもいいのか!?的なことを言って、円満解決しております」
「それ、円満じゃないよ!?」
「それから、ディフォンティー侯爵令嬢と恋仲と疑われまして」
「本当に、何やってんの!?」
話をしていく度に、父が倒れそうになっていくのが心配だけれど、とりあえず、最後まで経緯を説明しようと、話を続けます。
「殿下とは、恋敵です」
「意味が分からん!」
「ということで、お父様、もう舞踏会には行きません」
「どうしてそこまでいろいろ起こせるんだ!」
「どうにもこうにも、不可解です」
「父は残念でならないよ…」
多分、男爵家はつぶれないと思いますと付け足せば、激しく睨まれました。
ブライアンが呆れたように近づいてきて、
「お嬢様は、ディフォンティー侯爵令嬢と仲良くされております」
そっと、父を慰めていました。
それを横目に、私は、自室に帰りました。
必要事項はしっかりと伝えました。
これで、父にも分かってもらえたと思います。
もう、舞踏会には行きません。
エスコートも必要ありません。
この先、どうやって進んでいくのか、アルディにも分からないようなのです。
全員と出会いイベントをこなした後は、積極的にかかわって、好感度を上げていくことになるらしいのですが、しませんからね。
さらに、その最中に、悪役令嬢こと、アルディが出てきて、いじめに画策にと、イベントを起こしていくらしいのですが、「しないからね」と、しっかり約束していただいております。
じゃあ、もう終わりですか?
あとは、適当な男性を見繕って、結婚して、ハッピーエンドとなるのでしょうか。
……なんて思っていたら。
またもや、夜会にいます。
父が、無理難題を押し付けてきました。
曰く、「とりあえず、交友関係は拡げろ」
逆ハーを回避しようそしている娘に何たる仕打ちでしょう。
「お前のためだ。お前は、自分の幸せを考えなさい」
父が、悲しそうに言いました。
私は、自分の幸せを考えていますよ?
不思議そうに首を傾げれば、そうか、と優しく笑う父がいました。
会場で、お偉いさんとお話しする父と離れ、アルディを探そうかと思います。
今日のエスコート役は、ブライアンではありません。
ブライアンにお願いするのは、やめたのです。
ブライアンに、結婚をねだれないなあ、と思ってから、私は、ブライアンとほとんど会話をしていません。
今まで、どんな風に接していたか、分からなくなってしまいました。
だから、近くに行けないのです。
抱きしめて欲しいとも、大好きとも何度も言ってきました。
だから、結婚して欲しいと。
それを言えないと…ブライアンに話すのは、日常の他愛もないことだけです。
別に、それでも良いはずです。
だけど、それは、私が息がつまりそうなのです。
嫌われていないのは分かっています。
どちらかというと、にくからず想って…というより、好かれていると思っていました。
何故断られるのだろうと、常々、不思議ではあったのです。
何故、なんて、愛していないからに決まっていますよね。
ずっと、一緒にいました。
もうすぐ、10年になります。
出会った頃の、ブライアンの年に、追いついてしまうのです。
私は、もう大人になりました。
社交界にデビューもしました。
求婚者が現れれば、結婚もするでしょう。
結婚をすれば、子どもも産んで、育てます。
そのとき、ブライアンは、どこにいるのでしょう。
そう考えると、どうしようもない気分になるのです。
私の隣にいてほしいのは、ブライアンなのに。
別の人を探すために訪れる場所に、ブライアンにエスコートしてもらうなんて。
嫌すぎます。
父と一緒に行くと言ったとき、父もブライアンも何も言いませんでした。
……それが、答えなのです。