女子会
次の日、ディフォンティー侯爵家に、お邪魔しました。
何故殿下がいらっしゃるのでしょう。
「なんだ、その嫌そうな顔は」
「そのようなことがあるはずがありません。殿下のご尊顔を拝し、光栄の極みでございまして。感極まりました表情でございましょう」
「まあ。レティって口が上手いわね」
ころころと、可愛らしくアルディ笑います。
「そうでしょ?なんで、殿下ここにいるの?暇なの?」
「そうみたい。来るなって言ったのに、来たのよ」
「暇なわけがないだろう!話があってきたのだ」
アルディの部屋のソファにゆっくり座って、二人で語り尽くそうと思っているのに、殿下がいては、話せない話ばかりです。
「おい、レティシア」
「あら、どなたかが呼んでいらっしゃるわ。無視しても良いものかしら?」
「良いと思うわ。淑女のお名前を突然呼び捨てだなんて。許されるはずのないことだわ」
「……レティシア嬢」
「お呼びでしょうか、殿下」
「アルベティーヌは、私の婚約者だ」
「存じております」
「アルベティーヌは私のものだ」
「そうですか」
「………」
「グラン、何が言いたいのか分からないわ」
「昨日から、お前達は運命だの、何だのと。女同士だぞ!」
「意味が分からないわ、グラン」
「レティシア嬢!あなたにアルベティーヌは渡さないからな!」
何故、恋敵認定をされているのでしょう。
ここは、乗ってみるべきでしょうか。
「ふっ…。私たちの絆に太刀打ちできるとでも思ってらして?」
「昨日会ったばかりだろう!俺が婚約者なのだぞ!」
「けれど、一番わかり合えるのは、私ということですわ!」
「なんだと!」
「え~、何を言い合っているの?」
アルディが呆れたように見上げています。
いつの間にか立ち上がっていた体を、もう一度ソファに沈めます。
「殿下、アルディと殿下が相思相愛、お互いが一番大切な方なのは分かっております」
アルディが、ぽんっと音がしそうなくらい真っ赤になりました。
ナニソレっとか、奇声を発していますが、今は放っておきましょう。
「さらに言えば、私には同性愛の気はございません」
それから、アルディは不可思議そうな顔をしています。
殿下は、怪しげにこちらを睨み付けてくる始末。
「アルベティーヌを狙っているのではないのか?」
「恋愛的な意味でしたら、ありません。
昨日の会話により、共通の趣味が発覚したのであります。そのお話は、男性にお聞かせできる内容ではありませんので、お屋敷にお邪魔し、趣味の話に興じたいと思っているところでございます」
納得いかないような顔はしつつも、同性愛の気がないと分かって、一応落ち着いたようです。
そんな殿下を見て、イタズラ心がでても仕方がないと思いませんこと?
「まあ、アルディは分かりませんが」
二人して、不思議そうにこちらを見てきます。
「この愛らしい私に、アルディが一目惚れをしてしまうと言うことは、あるかもしれません!」
「そんなわけあるか!」
「分かりませんわよ?普段愛を囁いてくださらない恋人よりも、愛らしい友人へ心が傾くのも…」
「アルベティーヌ!」
「は、…はい!?」
「愛している」
「は……」
「俺以外を見ないでくれ。足りないというのなら、一日中でも、愛を囁こう」
「まあ、重いですわ。俺以外見ないで欲しいだなんて」
「黙れ」
「女性同士のお茶会に乱入するだなんて、束縛が過ぎると嫌われるそうですわ」
「……アルベティーヌ、邪魔がいなくなった夕方に来る。」
殿下は無言で立ち上がり、アルディの頬にキスをしてから、ドアへ向かいます。
途中、牽制するように私を睨むのも忘れずにですね。
「いってらっしゃいませ」
わざと丁寧に言えば、嫌そうな顔をしながらも何も言わずに出ていきました。
「ええと…」
アルディが、ぽっぽと、真っ赤になった顔を、困ったような表情にして、私に視線を向けます。
「アルディ、ごめんなさい。今のやり取りは、わざとなの」
困った顔を、さらに困った顔にして、アルディが首をかしげています。
どうしてこんなに可愛らしいのでしょう。
「アルディが、殿下と両想いになれば、皇太子妃ルートは消えるのよ」
自分本位な理由を告げました。
この間、微妙な関係のお二人に気が付いて、気になるから、さっさと愛でもなんでも確かめ合って、心身ともにくっついて欲しいと願っていたのです。
「皇太子妃なんて重荷、私には無理だわ。というか、攻略する気はないことを、アルディに信じてもらわなくてはならないから、殿下を挑発したの」
あの程度の挑発に乗ったと言うことは、もともと、想いを伝える準備はあったということですし。
殿下が嫌なら、一緒に断ると言うと、
「あ、えと…うん。ああ、断らなくて、大丈夫、です」
アルディが真っ赤な顔を隠すように俯いたまま、答えました。
「よかった!これで、逆ハーは無くなったわね!」
まずは、一安心です!
一番、攻略が難しいとされていましたが、攻略なるものをしてしまえば、一番逃れられなくなるのも、皇太子妃だろうと思います。
絶対、嫌です。
ふふ。とアルディが笑いながら、私を見て言いました。
「ありがとう。グランが私を好きなんて、初めて知ったわ。・・・いろいろな思惑が絡んだ、つまり、ただの政略だから、ヒロインが出てきたらきっと、すぐにフラれてしまうって、覚悟してた」
あれだけ、好意を示されていてデスか?
私にまで嫉妬を見せると言うことは、随分前から兆候はあったと思いますが。
「できるだけ、ヒロインには関わりたくなかったのに、突然、あんな噂が流れるし」
アルディが、私を害していると噂されたことですね。
私が、居場所を聞きまくったからでしょうか。
「そういえば、誰か攻略中じゃないの?」
「全然よ。チョロQはこのままの顔じゃスルーは無理だなって思ったくらい」
「逆ハーとかは?」
「冗談でしょ。なんでわざわざ、そんな難しい立場になるのよ」
「なるほどねえ。私は、ちょっと興味あったけど」
「そうなの?じゃあ、逆に私がいじめようか?」
「・・・レティが私をいじめたら、投獄されちゃうわよ」
不敬罪でですね!




