帰り道
「レティシア様」
「はい」
ブライアンの頬は、赤くなってしまっています。
思い切り叩きましたもの。
あの後、すぐに馬車に乗せられました。
ずっと睨まれるものだから、膝の上で、手をこすり合わせてもじもじしてしまいます。
「私は、あなたの護衛としてここにいるのです」
「はい。存じております」
「あなたは、私を守らなくて良いのです」
それは無理です。
声にださなくとも、読み取ったらしいブライアンが、眉間のしわを深くします。
まだ深くなるんですね。どのくらいまでなるんですか。
「ブライアンは、私を守ってくれるのよね?」
突然話し始めた私に、不思議そうな顔をしながらも、頷いてくれました。
「守るには、ずっと傍にいないといけないのよ?」
もう一度、頷いてくれます。
「だったら、自分の身を犠牲にして守るのは、間違っていると思うの」
驚いたように、私を見返してきます。
「私を守ることで、ブライアンが罰せられたら意味がないわ。その後も、私は生きていくのに、守ってくれる人がいないじゃない」
他の人がいるとか、そんなことは聞きたくない。
そもそもが、あんなにくだらないことで、言及しなくても良いところです。
しばらく、にらみ合って、ブライアンが目を閉じて、ため息をつきました。
「軽率でした。申し訳ありませんでした」
聞こえてきたのは謝罪です。
「じゃあ、仲直り?」
「……そうですね」
しぶしぶという姿勢を見せながら、頷きました。
やったと、すぐにブライアンの膝に乗っかります。
喧嘩をして落ち込んだので、慰めてもらうのです。
頬を胸に寄せると、優しく髪をなでてくれます。
少し、迷うようなそぶりをして、ブライアンが口を開きました。
「レティシア様、あの中に…」
「あの中?」
「今日、集まった5人の男性です。あの中に、結婚しようと思う相手はいないのですか?」
「いない。う~~ん、どうしようもなくなったら?」
そう言って、なんて失礼な、高飛車な物言いだと思い、もう一度否定しました。
「どうしようもなくなった令嬢なんて引き取らないわ。だから、ないわね。向こうも私と結婚なんて、考えてもないわよ」
どうしようもなくなった令嬢ってどんなだろう。そんなことを考えながら、顔を上げると、心配そうな瞳と出会いました。
「心配?だったら、ブライアン、結婚して?」
「……………………………………………………………………………………考えておきます」
すごおく、悩んだ末に、絞り出すような返事が聞こえて、笑ってしまいました。
この話の流れで、嫌だと言えなくなってしまったのでしょうか。
嫌だと言えない相手に、結婚を申し込むのはできないなあと思います。
強制したいわけじゃないから。
……笑いながら、ちょっと泣きそうになってしまいました。