教えてください
ゲーム内では、ディフォンティー様が、私に謝ることなどあり得ないはずなのです。
ゲームと、リアルで、ディフォンティー様が大きく違うのです。
「ディフォンティー様、お話をさせてはいただけませんか!?」
話しかけると、嫌がるように顔を背けてしまわれました。
「お礼は、聞きました。これ以上は結構です」
どうして、こんなに嫌われているのでしょう。
え、やっぱりいじめられちゃったりするのでしょうか。
いいえ、そんなわけにはいきません!
「お願いです!どうしても聞いていただきたいことが…!」
「聞きたくないのです!」
声をかぶせるように大きな声を出されて、私の声が途切れました。
ディフォンティー様は、ご自分の声に驚かれたように声を詰まらせ、けれど、はっきりとおっしゃいました。
「私に関わらないでください」
どうして…。
涙がにじむのが分かりました。
何か言おうと、口を開ければ、
「そのくらいにしてもらえないか。アルベティーヌがこうまで声を荒げるのならば、何か理由があるのだろう」
殿下が、その背に庇うように、前に出ていらっしゃいました。
それでも、まだ話しかけたいと思う私の肩を、ブライアンの手が掴みます。
殿下など、押し退けてしまいたい。
お願い、話を聞いて!
「グラン、大事にしないで。…悪いのは、私なのよ…。だけど、ごめんなさい。私は、あなたと関わるべきではないの」
悲しそうに目を伏せるその仕草で、もう、この時しか、話せるときはないと思ってしまったのです。
この時を逃せば、この方は、私に決して関わってはくださらないと、分かってしまったのです。
部屋を出て行こうとされる背中に、ブライアンに捕まえられたまま、叫びました。
「ならば、教えてください!イベントを総スルーするにはどうしたらいいですか!?」
見開いた目が、私を捉えました。
「もうやだ。なにこれ。チートとか逆ハーとか、リアルでやったら、ただの無理ゲーだし!」
意味の分からないという困惑の表情の人たちに交じって、固まったように、動かないディフォンティー様。
「攻略とかしたくないのに、寄ってくるし!どうやったら、イベント起こらなくなるのよ!」
もどかしさをぶつけるように、叫びました。
あなたなら、教えてくれると思っていたのに、無視をするのですか!
理不尽だと、認識しているのに、大きな怒りが湧き上がって、叫ぶ声に、そのまま混じっていってしまいました。
「・・・何を言っているのか分からないが、その態度は…」
殿下が近づいてくる気配がして、後ろのブライアンが、私を背中に回そうと動き始めたとき。
「退いて!」
ディフォンティー様が叫んで、殿下が、横によろけていきました。
威圧感を出しながら歩こうとしていたのが台無しです。
後ろは全くのノーマークだったのか、ディフォンティー様に押されて、おもしろいほど、よろよろしていきました。
そんな殿下のおもしろい動きに目を奪われている好きに、目の前には、興奮した様子のディフォンティー様がいらっしゃいました。
「日本人!?あなた、日本人なの!?逆ハーは狙ってないの!?攻略進んでる感じなのに!」
「日本人です!攻略とか進んでないし!チョロQの攻略スルーに失敗しただけで!」
「チョロQ…!懐かしい呼び方!」
嬉しくて、満面の笑みになってしまった私に、泣きそうな顔で、手を握ってくださいました。
「レティ…レティと呼んでも良いかしら?」
「もちろん。私もアルディと呼んでも良い?」
「ええ!当然だわ!こんな事ってあるのかしら。ああ、素晴らしいわ!」
歓喜に震えるとは、こういうことを言うのでしょうか。
二人で、両手を握り合いながら、見つめあいました。
「私、あなたをいじめるつもりも、策略巡らすつもりもないのよ?」
「はあ、しないでいただけると、心穏やかに過ごせますね」
アルディは、あら、と、目を見開いて驚いてから、ふふっと笑いました。
「私、あなたと関わるのが怖くて。あなたがハッピーエンド迎えちゃうと、私、追放とか、投獄とかされちゃうのよ」
なるほどですね!
ヒロインと関わってしまうと、そういうイベントにつながっていくわけですか!
「アルディを初めて見たときから、転生者じゃないかと思ったの!」
「そうなの?もっと追いかけて、捕まえてくれたらいいのに!」
「そんなの、私が警備に捕まっちゃうわ」
うふふふ。抱き合うようにして笑う私たちに、ようやく声がかかりました。
「アルベティーヌ?どういうことだ?」
殿下が、困惑気味に声をかけてきました。
その他も、同意するように、こちらを見ています。
「レティは運命の相手だったの!レティ。もっとあなたと話したいことがあるの。」
殿下に答えてから、私に輝くような笑顔で振り返ってくれました。
「私もよ!たくさん聞きたいこともあるし。ああ、何から話したらいいかしら」
「そうね。だったら…明日、家にいらして。二人きりでお茶をしましょう?」
「ステキ!」
「待て。駄目だ」
殿下が低い声で私たちの間に入ってきました。
「なんだ、それは。女同士で運命とか言って良いと思っているのか」
女同士で?女同士はダメだったでしょうか。
「アルベティーヌ、お前は俺の婚約者だぞ!?」
突然怒り出した殿下に視線を向け、二人で首をかしげます。
「レティは特別だわ。誰と結婚しようと」
アルディがさらりと、問題発言をかましました。
「なんだと……!」
殿下が、頭を押さえてよろけました。
「びっくりするようなライバルが現れたのですが」
「あの態度は、男が駄目だったからなのか…」
「参ったね。殿下なら大丈夫と思っていたのに」
「…………」
それぞれの反応を眺めていると、肩をがっしり捕まえられました。
「帰りますよ?」
誘うような言い方ですが、その声音は命令ですよね。
「アルディ、また明日ね!」
辛うじて、それだけ声にだして、ブライアンに引きずられました。




