慰めてほしいのです
「レティ?何があったんだい?」
ここまで付き添ってくださった侍女に礼を言って、父とブライアンが馬車に乗り込んできました。
「ブライアン」
私がブライアンにしがみつくと、ブライアンはため息をついて、私を抱きかかえて座りました。
「レティ。父は寂しいよ」
お父様が文句を言いながらも、御者に指示を出したようで、馬車が動き始めます。
「お嬢様?どうされたのです」
「お父様が悪いのよ!」
ブライアンにしがみついたまま、目の前のお父様を睨み付けます。
「どうして、ちゃんと私を見ていてくれないの!別室に連れ込まれそうになったのよ!…ぐえ」
カエルがつぶれたような声が出ました。
というか、私がつぶれたからなのですが。
「ブライアン、突然なにするの!」
「連れ込まれそうになった、とはどういうことですか?」
文句を言う私に被さるように質問されました。
トレコモール様と踊っていて、プロポーズとも取れる発言をされたから、その気はないとはっきりきっぱり言うと、向こうが怒った、というようなことを話しました。
「すっごく、怖かったんだからね!」
でも、ブライアンに守るように抱きしめられて、今はすっごく幸せですけどね!
「なんだ。トレコモール伯爵令息なら、落とせるなら落としてくれたらいいけれど」
父の発言に、文句を言っていた口が固まりました。
「結婚相手として、申し分ないだろう?」
それは…そうですね。
キュース様は長子ですので、婿として来てはくださらないでしょうが、縁続きになるのは、こちらは大賛成でしょう。
逆ハーにならないのなら、一人を相手にするのなら、そう言う道もあるのだと、気がつきました。
「思い通りにならないからと、いきなり事に及ぶのはいかがなものかと思うが、両想いだと信じていた相手から、いきなり断られれば、動揺もするさ。…なあ?」
父の言葉が、私に向かっていないような気がしましたが、そうでなくても、私は返事ができる状態ではありませんでした。
結婚が、突然、目の前に現れたようでした。
皇太子じゃなければ誰でも良いと、後妻に入ることさえ考えておりましたが、そんなものよりも、ずっと条件は良いのです。
伯爵夫人になればいい。
「……考えておきます」
嫌です。考えるのだって嫌です。
ブライアンと結婚するのですから。
分厚い胸に額を押しつけながら、広い背中を握りしめながら、返事をしました。
「ああ」
父の声が聞こえます。
ブライアンは何も言いません。もう、抱きしめてもくれません……。