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25、月桂樹の花の花言葉は『裏切り』

ついに本編最終話です。やたらと長いです。









 意に沿わない引きこもり生活を続けて3日目。まあ、父に閉じ込められずとも、ローレンスは引きこもっていただろうが、外からカギをかけられるといると言う状況は結構堪える。そういえば、モニカが亡くなったときの戦争でも、ローレンスは部屋に閉じ込められていたっけ。


 あの時は後悔した。扉をぶち破ってでも、窓から脱出してでも、モニカの所に駆けつけるべきだった。後悔先に立たずと言うが、全くその通りであった。ベッドにあおむけに寝転がったローレンスはため息をついた。


 目を閉じたローレンスは、部屋の外が騒がしいことに気が付いて身を起こした。何だ。敵でも侵入したんだろうか。それなら、ローレンスの『影』が真っ先に気付くはずだが……。


 ちなみに、ローレンスの『影』もこの部屋からは閉め出されている。これはシリルのせいだな。


 そのうち、やや静かになったので、ローレンスは再び仰向けになり、目を閉じた。だが、すぐに目を開くことになる。ずっと開かずの間だったローレンスの部屋の扉が開いたのだ。


「ローリー。起きてる?」


 扉を閉めながら問う声は、よく聞き知った声だった。驚いて起き上がると、思った通り、母ブランシュだった。


「母上? 何故ここに……と言うか、出産されたばかりでしょう。お体は大丈夫なのですか?」


 ブランシュは美しい顔に笑みを浮かべると、「平気よ」と言いながらローレンスの額を指ではじいた。


「あなたはまず、自分の体の心配をすべきよ。あまり食事をとっていないそうね。ちゃんと食べなきゃだめよ。ただでさえ細いんだから。あなたの体は、もうあなただけのものじゃないんだから」

「あ……」


 ローレンスはうつむいた。そうしないと、涙がこぼれそうだった。戻ってきてから、自分が涙もろくなったようで嫌だった。

 ブランシュはベッドに腰掛けると、うつむいたローレンスの額に手を当てた。

「少し熱があるわね。だるくない? つわりはどう?」

 息子として育ててきたはずの娘が身ごもっても、ブランシュは何も詮索せずにローレンスの体調を尋ねた。そんな母が相手だからか、ローレンスも素直に答えた。

「だるいと言うか、少し気持ち悪いです。つわりかわかりませんが、食欲はあまりありません」

「んんっ。そう言う話はあなたにしなかったものね。はっきり言うと、あなたには無縁だと思っていたから」

「私も、そう思っていました」

 何もなければ、ローレンスは戦争で死ぬか、王になっていたはずだった。そして、弟のヴィクターを養子として育て、彼に王位を譲ることになっただろう。だが、ここでイレギュラーが起きてしまったのだ。


「……死にたい……」


 つぶやいた瞬間、ブランシュに頭をはたかれた。両肩をつかまれる。

「あなた、私の話を聞いてた? あなたの体はもう、あなただけのものではないの! あなたはおなかの子を育てる義務があるの」

「でも……私には、もう戦えません」

「ちょっと、会話が成り立ってないわよ。あなたが戦うことと、身ごもっていることの何が関係あるの?」

「だって……妊娠していたら、戦場にいけないじゃないですか」

「行く必要はないの。だって、身ごもってるんだから」

 互いに互いの言いたいことがわからなくて、母と子は首をかしげている。ローレンスは「でも」と言葉を続ける。


「父上が」

「ああ、陛下のことは気にしなくていいわ。自分の娘がどこの馬の骨ともしれない男の子を身ごもったから怒ってるだけだから」

「……」


 ブランシュの言っていることが本当だとしたら、なんだか普通の父親みたいだ。いや、父親なんだけど……。ブランシュがよしよしとローレンスの頭をなでた。

「あなたが生まれた時、もっと強く反対すればよかったのだわ。ちゃんと、あなたを王女として育てればよかった。あなたは美人だし、きっと、嫁ぎ先にも困らなかったのにね」

「でも、私は楽しかったです。女として育てられていては、できないことがたくさんできました」

「きっとお転婆な王女に育ったでしょうね……」

 普通の女性は戦争に行かないし、間違っても戦場のど真ん中で返り血を浴びながら笑ったりしないだろう。


 ブランシュはローレンスを抱きしめた。自分より大きくなってしまった娘は、それでも、やはり男と言い張るには線が細かった。

「ごめんなさいね。わたくしたちを護ろうと、あなたは必死に戦ってくれたのに、わたくしたちはあなたに何もしてあげられなかった。でも、もういいの。あなたは、おなかの子供のことだけを考えていればいいの」


 久しぶりに母に抱きしめられ、頭をなでられた。『何もしてあげられなかった』? そんなことはない。母には……家族には、愛してもらえた。少なくとも、ローレンスは自分が幸せだったと思っている。


 ローレンスはブランシュに抱きしめられたまま目を閉じた。こらえようとしたが、涙が止まらなかった。家族を裏切ったという思いと、子供を護らなければという責任感、そして何より、フランソワに会いたいと思った。

 軽く背中をたたいてくれていたブランシュは、ローレンスが泣き止んできたのを見てニコリと笑った。

「まず、食事にしましょうか。あまり食べていないんでしょう?」

「ええ……でも、食欲が」

「だーめ。気持ちはよぉくわかるけど、食べられなくても食べなきゃいけないのよ」

 こんな状況だが、ブランシュは何も知らないローレンスの世話を焼くのが楽しいようだ。もともと押しの強い自由人であるブランシュに押し切られ、ローレンスは温かい麦粥を口にする。また病人食のお世話になってしまった……。

「まあ、つわりが来る時期は人それぞれだけど、あなた、ちょっと早いわね。それに、言う割には軽いみたいだし。うらやましいわ」

 ブランシュがため息をつく。長子であるために、弟妹達を身ごもるたびにベッドの上でうめいていたブランシュを知っているローレンスは、確かにそうかもしれない、と思いながらスプーンをくわえた。


「それで、父親は誰?」

「……やっぱり、聞くんですね……」


 父にも聞かれた。当然と言えば当然の問い。ローレンスは、母になら答えられると思った。聞き方が穏やかだったのもある。もう一つは。

「……ガリアの、フランソワです。シャリエール伯爵家の……」

「ああ、やっぱりね」

 ブランシュがうなずいた。やはり、気づいていたらしい。ブランシュの聞き方が、『尋ねている』と言うより『確認している』と言う感じだったのだ。


「手紙が来ていたの。彼からね」

「フランソワから?」


 ローレンスは驚いて食事の手を止める。ブランシュが軽くローレンスの手をたたき、食事を続けるように指示する。


「ええ……ガリアは、少しややこしいことになっているの。知ってる?」


 ローレンスは素直に首を左右に振った。ここ3日ほど閉じこもっていたので、最新の情報は何一つわからない状況だった。ブランシュはため息をついた。

「ガリアで、クロヴィス4世が亡くなったの。そのことで、フランソワの父親と兄が王位を主張して決起したみたい……道理はフランソワの方にあるけど、おそらく、彼は父と兄に王位を明け渡すでしょうね……」

「……」

 明け渡す、と言ってもいろんな方法がある。フランソワの場合は、王位を譲ったところで、殺されてしまうだろう。なぜなら、生前のクロヴィス四世が認めたのは、彼だったから。


 しかし、確かにややこしい。ふと、ローレンスは自分の腹の子のことを思った。この子は、無敗の戦神ローレンスと、ガリア国王と認められたフランソワの血を引いている。このまま産んだら、この子はいやおうなく陰謀に巻き込まれていくだろう。自分の浅はかさにため息がつきない。


「だから、ローリー。逃げましょうか」

「!?」


 なんだか最近よく聞くセリフをブランシュにも言われ、ローレンスはびっくりした。ブランシュは、食べ終えた麦粥の皿をローレンスの手から取りあげた。ローレンスが顔を上げると、ブランシュは真剣な顔をしていた。

「あなたが逃げない、でも子は産みたいと言うのなら、わたくしはそう取り計らいます。幸い……でもないけど、ガリアは内輪のもめごとで、ブリタニアとの戦争を続けられないはず。王太子ローレンスが1年ほど休養をとっても、問題ないと思うわ」

「……」

 そうかもしれない、と思う。ローレンスがこのままブリタニアを離れたくないのであれば、そうすればいい。母はやると言ったらやるだろう。ローレンスが子を産み、ブリタニアで育てることができるかもしれない。


 でも。


 やはり、どう考えても政戦に巻き込まれてしまう。それほどまでに、ローレンスの存在価値はブリタニアにとって大きい。そして、ローレンスの腹の子はフランソワの血を引く。ややこしいことになるに決まっている。

「でも、あなたが逃げると言うのなら。腹の子を、自分1人ででも護って、育てていくと言うのなら……わたくしは、あなたを逃がす手伝いをするわ」

「……」

「逃げるかどうか、あなたが自分で決めるのよ。すぐにじゃなくてもいい。ゆっくり考えて、結論を出しなさい」

 ブランシュはローレンスの頬を両手で挟むと、首をかしげて微笑んだ。

「でも、できるだけ早くお願いね」

「母上は、どうしてそこまでしてくださるのですか」

 ローレンスの口から、疑問がついて出た。ローレンスが手の届かない所へ行く用意を、自ら手伝うと言うブランシュの考えは、ローレンスには妙に思えた。


「わたくしは、ただ、あなたに幸せになってほしいだけよ。だから、あなたが幸せになれると思う方を選べばいいの。きっと、わたくしはソフィアやジェインが『結婚したくない』と言っていたら、そうなるように画策していたわ」


 ふっと笑ったブランシュは、腹黒そうだった。ずっと、ローレンスの頭脳はニコラス2世から受け継がれたものだと思っていたが、もしかしたらブランシュから受け継いだものかもしれないと思った。

 ソフィアとジェイン。ブリタニアの第1王女と第2王女。それぞれ、すでに他国へ嫁いでいる。国と国の友好のための政略結婚だ。ローレンスの妹たちは、文句も言わずに嫁いでいった。国のために。


 なのに、自分だけが逃げてもいいのだろうか。


 悩むローレンスにブランシュは笑いかける。

「母親はね。自分の子にはどうしても幸せになってほしいのよ。子供が幸せになれるなら、何だってする。母親っていうのはそんなものよ。……まあ、全てがそうであるわけではないけどね」

 最後にそう付け足したのは、ブランシュの友人であるフランソワの母が、あまりいい母親ではなかったことを知っているからだろうか。

 ローレンスは目を閉じた。彼女には、選ぶことができた。それだけでも、十分に自由がある。それでも。



「……逃げます」



 決断をくだした。そう言った以上、ローレンスの腹も決まった。

「逃げます。ここに居ては、私の子は、幸せになるのは難しいと思うから」

「……そうね」

 ブランシュは目を細めた。ブリタニアにいても、ガリアにいても、ローレンスの子は立場が難しくなる。本当に、自由に育てたいのなら、逃げたほうがいい。

 やっぱり後悔するのかもしれない。でも、一度は選択しえなかったその選択肢を選ぶ。子供の為と言いつつ、本当は自分の為なのかもしれない。そんなものだ、とブランシュは笑う。


「結局のところ、母親の善意の押しつけなの。これは」


 ブランシュはそう言って、ローレンスの頬にキスをした。

「あなたは、このまま寝ていなさい。準備ができたら、呼びに来るわ」

「……わかりました」

 ずいぶんと手際がいい。ローレンスは素直にうなずきながら、母親の偉大さを実感した……ローレンスは、ブランシュのような母親になれるだろうか。
















 ブランシュが再びローレンスのもとを訪れたのは明け方のことだった。ブランシュは元気だったが、ローレンスはあくびをかみ殺していた。眠れなかったのである。

「はい。じゃあまず着替えて」

 ブランシュがテキパキと指示を出す。彼女は楽しげに男装の娘の服を剥ぎ取り、侍女が着るようなドレスを着せた。少し丈が足りないが、それは仕方がない。ローレンスは男性にしては小柄だが、女性にしてはかなり長身の部類に入る。

「寸法があっていないのが悔やまれるくらい似合ってるわ……」

「私はもう疲れました……」

「あら。そんなんじゃだめよ。逃げるんでしょう?」

 ブランシュに楽しげに言われ、ローレンスは渋い顔になった。実を言うと、まだ踏ん切りがついていない。


「いいから。一度決めたなら、そうしなさい。直感は大事よ」


 ブランシュはローレンスの肩をたたいてそう言った。ローレンスはうなずく。

「ありがとうございます。母上」

「いいの。わたくしはあなたの母上だから」

 微妙に回答になっていない気がしたが、ローレンスはとりあえず微笑んだ。

 ドレスの上から外套を着て、栗毛を仕舞う。フードをかぶって顔を隠せば怪しい侍女の出来上がりである。


「……思ったより怪しいわね」

「まあ、女性にしては背が高いですから……」


 だが、ハイヒールを履けば、女性でもローレンスくらいの身長の人はいる。だから、大丈夫。たぶん。

 ブランシュにくっついて部屋の外に出る。部屋を出るのは実に3日ぶりだ。やけにあっさり出られたな、と思ったら、部屋の前にいたのはシリルだけだった。


「……シリル君。ごめん」

「謝られるようなことをされた覚えはありませんね。私はただ、モニカはあなたに幸せになってほしいだろうと思っただけです」

「……そうだね」


 シリルのいつもの憎まれ口を聞きながら、ローレンスは目を閉じた。彼とも永遠の別れだ。

「せっかく誘ってくれたのに、1人で行くことにしたよ。ありがとう、シリル君。君といられて、私は楽しかった」

「……私もです」

 ローレンスはシリルの返答に微笑むと、ブランシュに続いて踵を返した。振り返ったら泣いてしまいそうだった。


 何度か兵士に見とがめられたが、ブランシュがさらりと言いくるめるのを見て、ローレンスはブランシュとの確実な血のつながりを感じた。いや、外見はもともと母親似であるが……。どうやら、ローレンスは具合が悪くて本土に逆戻りの侍女役らしい。


 何度か危ない場面もあったものの、何とか城塞の外に出た。ブランシュは門のところで立ち止まる。代わりに、馬を引いた青年が近寄ってきた。よく見たらジェイムズだった。ローレンスは驚いて目を見開く。


「ジェイミーも来ていたのかい。っていうか、私、わかる?」

「なんで片言なんですか。わかりますよ、兄上……いえ、姉上ですか」


 ジェイムズは少し混乱したように言った。会っていなかった期間はたった一か月のはずなのに、ジェイムズはぐんと背が伸び、精悍な顔立ちになった。少しニコラス2世と似ていた。

「ここから先は、ジェイミーが連れて行ってくれるわ。約束の場所まで」

「約束の場所?」

 尋ね返しても、ブランシュはただ微笑むだけ。彼女はローレンスの頬にキスをして、あっさりとした態度で手を振った。


「じゃあ、ローリー。幸せにね。ジェイミー、頼んだわ。無理しないのよ」

「大丈夫です」


 ジェイムズは力強くうなずくと、ローレンスを馬上に引き上げた。思わぬ強い力に、ローレンスは驚く。ブランシュとの挨拶もままならないまま、ジェイムズは馬を出発させた。

「ビックリしたよ、ジェイミー……。大きくなったねぇ」

「兄……姉上はいつも言ってますよね、それ」

「兄上でいいよ。『ローレンス』は君の兄だから……私のこと、聞いたんだね」

 ええ、とジェイムズがうなずくのを聞いて、ローレンスはため息をついた。自分はとんでもないペテン師だと感じた。


「ごめん。本当に。だましていたことも、これからしようとしていることも……すべて君に押し付けて……」


 ローレンスがいなくなれば、祭り上げられるのはジェイムズになるだろう。もしかしたら先ごろ生まれたヴィクターになるかもしれないが、少なくともヴィクターが大きくなるまでは、やはりジェイムズが後継ぎとみなされる。

 ローレンスがつらいと感じたものを、弟に押し付けてしまう。

「……いいですよ、別に。本来なら、私がしなければならないことを、兄上がやってくださっただけです。そうでしょう?」

「……そう言う考え方もあるんだね……じゃあ、お礼を言っておく。ありがとう、逃がしてくれて。どこかそのあたりで放っておいてもいいよ」

「いえ、そんなことしたら私が母上に怒られますので……もうすぐつきますよ」

 そう言っていくらも立たない間に、ジェイムズは馬を止めた。あたりを見渡す。ローレンスもつられてあたりを見渡したが、ただの雑木林にしか見えない……。と、暗闇に人影が浮かび上がった。一瞬ゴーストかと思ったが、生きた人間である。


「フランソワ・シャリエールか?」

「そう言うあんたはヘンリ・ジェイムズ殿下? ……見違えたな」


 シルエットからそんな予感がしていたが、人影はフランソワだった。彼も馬を連れている。彼とジェイムズが会ったのは今から5か月は前のことなので、フランソワはジェイムズの変化に驚いたようだ。我が弟ながらすっかりハンサムになったと思う。

 ジェイムズは先に馬を降りると、ローレンスに向かって手を伸ばした。自分でも降りられるような気がしたが、ローレンスはその手を借りて地面に足をつけた。それからフードを取る。


「……ローレル。迎えに来た」


 久しぶりに『ローレル』と呼ばれ、ローレンスは自分が喜んでいるのを感じた。フランソワがローレンスに向かって手を差し出す。


「俺と一緒に、来てくれるか? 俺にはもう、肩書も何もない、ただのフランソワにすぎないが……それでもいいのなら」


 ローレンスは知らずに手を伸ばしていた。フランソワの手に、自分の手を乗せる。そして、フランソワを見上げて首をかしげた。


「本当に、迎えに来てくれたんだ。ありがとう」


 それが返事だった。何となくいとおしい気持ちになりながら、ローレンスはフランソワの手を握った。

「私こそ、何の力もない、ただの女になってしまうけど。それでもいいのなら」

「もちろんだ。……あんたがいい」

 手を握り合って微笑みあう。その拍子に、ローレンスの頬に涙が滑り落ちた。フランソワがそれをそっと拭う。

「あんたも、泣けるじゃないか」

「……そうだね」

 ローレンスはジェイムズの方を振り返った。生真面目で、そして優しいローレンスの弟は涙をこらえるような表情でこちらを見ていた。こういうところがまだまだ子供だなぁ、とローレンスは思う。

「ジェイミー。ありがとう。私は、一国の王には向かなかったみたいだね」

「私は! あなたに王になってほしかった……!」

「うん。ごめん。でも、もう戻れない。あ、できたら父上によろしく言っといて」

「言えるわけないじゃないですか……」

 ローレンスがいつもの調子で言うと、ジェイムズも調子を取り戻していく。ローレンスが目を細めて優しげに微笑むと、ジェイムズは叫んだ。


「私にすべて押し付けていくんですから、幸せにならないと許しません!」


 それだけ言って、ジェイムズは馬に乗って駆け去って行った。ローレンスは驚いて、フランソワを見上げる。

「ジェイムズ殿下、あんたのこと好きだったんだな」

「好かれていたとは思うよ。でも、私は君のことの方が好きだったみたいだね」

「うれしいな」

 そう言って、フランソワはローレンスに口づけた。
















 王太子ニコラス・ローレンスはこれ以降、歴史の表舞台から姿を消すことになる。亡くなった、と公表されたガリアの元王位継承者フランソワとは違い、彼に関してははっきりした記録が残っていない。病で戦に出られなくなった、戦争ですでに死んでいた、いやいや、使用人と駆け落ちしたのだなどと憶測がささやかれたが、結局、真実が明るみに出ることはなかった。それでも、ニコラス・ローレンスはブリタニアの英雄として歴史に名を残すこととなった。







ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


プロットからそれつつも、完結できたのでいいかな~、などと思っている私です。最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。今、番外編を書いてますけど。

25話目のサブタイトルは、1話目のサブタイトルと対になっています。月桂樹の花言葉は、『栄光』などが正しいです。正確には、勝利者に月桂樹の冠をかぶせる、らしい。

でも、月桂樹の『花』の花言葉が『裏切り』であるのも事実です。ローレンスは勝利者でありながら裏切り者と言うことです。

この作品は、プロットの段階で終わり方の候補が3つくらいありました。


1、今回採用した、逃げ出すエンド

2、ローレンスが父を殺し、自害するエンド。重い上に現在連載中のもう一つの作品となんかかぶる。

3、フランソワを殺し、ガリアを手に入れるけど、そこで病没。これも重いから不採用。


なんだか私にしては重い作品になってしまいましたが、番外編はテンション高くいきたいと思います。


お昼ごろに人物紹介を投稿します。

番外編はいつも通り、明後日(1月12日)に投稿する予定です。

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