シーン2!
俺は今、日本と言う孤立された数々の島で作られた国にいる。
しかも、どちらかと言うと都会から若干離れている場所に俺は捨てられたようだ。駅前にいるのに、コンビニが一つしかない。陳腐なところだ。
なぜ世界各国の国の中でエロース様がここを選んだのかは、自分の名前が変態用の呼び名になっているのがよほど気に障っているかららしい。まあ、分からない気もしなくはないんだが、やはり他人に責任を押し付けるのはどうかと思う。
どうやら、部下への愛は専門外らしい。
でも、エロース様が俺の事を気にしてくれているのかどうかは知らないが、一応キューピッド界に連絡するためのすべは残してくれたようだ。というのも、一種の携帯が俺のポケットの中に入っていた。でも結構古い型だな。契約すれば本体タダ。
経費で落とせばいいのに。
ほぼ嫌がらせである。
しかし、自慢するわけじゃないが、この携帯、人間界ではまだ発売されていない。
聞いた人は聞いたこともあるかもしれないが、なぜなら人間界で作られるすべての物のアイデアは、もっと高次の聖域から作られてから下りてくるから、だ。
だから実際俺たちキューピッドが手にしてから、人間が手にするには多少時間がかかってしまう。
例えばこの携帯だったら、今の生まれた赤ん坊が、おっさんになって頭がハゲになったころにやっと出回るくらいだ。今これを読んでいる読者は最早見ることさえできないかもしれない。
残念極まりない。
途方に暮れている俺に追い打ちをかけるように、電話が来た。
「あーあー、アモル、聞こえる?」
「ああ…… 聞こえますよ、エロース様」
「じゃあ、ターゲット教えるから、よろしく!」
「えっ、はい……」
「ピー……ピー……ピー……」
切れた。
俺が。
今の俺のおでこにはバツ印の血管が浮き出ているだろう。
次はメールが来た。
おそらくはターゲットの情報だろう。
よし。
この仕事が終わったら、転職しよう。
死神あたりがちょうどいい。
愛のない上司なんてクソくらえだ。
課された俺のキューピッド人生最後の任務のため、仕方なくさっき受け取ったメールを開いた。
意外ときちんとターゲットの情報が書いてある。というよりも、ありすぎた。
名前、年齢、生年月日、性別、住所、血液型、家族構成、星座、趣味、好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きな女性のタイプ、嫌いな女性のタイプ…… まあ、若干多い気もするがここまではまだまだOKだろう。なんにせよ、ターゲットの愛の橋渡しにならなきゃいけないわけだからな。多少意味無さげの情報も頭に有った方が良いだろう。
しかし、血圧、平均心拍数、血糖値、性癖、残りの寿命、諸々。絶対いらないだろ。健康診断じゃあるまいし。
大体、俺がこいつの残り寿命知って何の意味があるんだ? あの有名なリンゴばっかり食べてる死神ならまだしも、俺キューピッドだぜ? 黒いノートなんて持ってないぜ?
でも、おかげさまで見つけるのはそんな難しくないかもしれない。
写真も添付してあったし。
しかし、駅から徒歩十五分は結構しんどい。いつもはちっこい体で動いていたわけだから、身長が二倍以上にもなると、息が切れる。せめて翼が欲しかった。
想像していたよりターゲットの家は大きかった。
二階建て、シンプルに三角の黒い屋根が特徴的だ。
俺は 「ふむふむ」 と、ターゲットの情報を読みながら扉の前に立っていたら、後ろから誰かの声が聞こえた。
「あの、どちら様……ですか?」
「…………」
「そこ僕の家なんですけど……何か用ですか?」
「…………え? もしかして、俺に声かけてる?」
「あなた以外の誰だっていうんですか」
「……あー、俺の事見えるんだー、確かに写真で見たのと同じだ。こいつね」
俺はそのフツメンの男と写真を見比べて、確信を得た。こいつがエロース様曰く、男のフェロモンというものを自ら知らないうちにかみ殺しているという草食動物らしい。
面は特に絵にかいたようなヲタクでもなければ、イケメンでももちろんない。人並みに常識をわきまえていれば一人ぐらい彼女は出来るんじゃないかという感じのフツメンである。
金の矢が使えなくともこれなら、何とかなるだろう。思春期の男だ、一人ぐらいは気を寄せている女の子がいるはずだし。
「よし!」
「?」
「愚民。 おまえさっさと彼女作れ」
「……え?」
学ラン姿で、分厚いメガネをぶら下げている俺より拳一つ分くらい背が低い人間は何やら言葉を失っている。まあ、親から三十路突入の娘へならまだしも、会ったばかりのワイルドなイケメン男に 「お前、彼女つくれ!」 なんて言われる人間はこの世界になかなかいたもんじゃない。
分らない気がしないでもない。
「ほ、ほんと誰ですか、あなた?」
「ああ、俺? 俺はキューピッドだ」
もの凄く細い目で見られた。
しかも俺に関わりたくないように俺の横を通り抜けようとする。
はっはっは、俺の存在がそんなに眩しかったのかな、愚民クン。
ふっ、させない!
俺に目を合わさずまい、と通り過ぎようとする愚民の手を掴む。
「いや――! 手を離して下さい! 助けて――!」
「大丈夫だ、お前の救世主はここにいる。安心しろ」
「よけい嫌だ! 帰って―――!」
そこまで俺の秀才かつ天才的な行動がミステリアスすぎたか。
本当のところ外の人から見て自分の家の前で一人勝手に叫んでいる愚民の方が精神疾患の患者なんだが、今のところは伏せておこう。なにせよ俺は人の幸せを願うキューピッドである。
しかしながら、ここまで見事にぎゃあぎゃあ騒がれたら近所迷惑だな。しかも、こいつが 「イッちゃってる」 みたいなゴシップが流れたら、彼女を作るどころか、普通の人々でさえこいつに寄りつかなくなるから、最終的には俺の首を絞めることになる。こいつかどれだけ多くの女性に近づけるかで、俺のハーレムの規模も変わってくるし、出世の有無も変わってくる。そのためにも人間界でのパラダイスへの道を遮るものは出来るだけ排除するようにしたい。
こいつを黙らせるとしよう。
「お前は本庄拓哉。香閣学院高校二年生。席は窓際の一番後ろ。身長は175cmで体重は62kgのまあまあの体格の持ち主。学業は優秀、だけど体育は全く駄目。典型的な筆記バカ。本庄家の長男として生まれ、妹が二人いる。えーっと、一人は高校一年で…… もう一人は中学二年…… だったか。どちらも美人でホワイトデーでメインの女の子なのだが、それに比べてお前はバレンタインでこの妹らからの義理チョコしか貰ったことがない。モテ具合に全く遺伝を感じさせないように育ってしまった。残念極まりない」
「うっ……」
「まあ、ちなみに拓哉って名前に別に深い意味はないらしい。適当だ」
「適当!?」
「『いいんじゃね?』 感覚で付けたらしい」
愚民が口ポカンと開けて俺の顔を見る。落ち着いたようだな、手を離してやる。男の手を握るのはなんだか気色悪いのだ。しかし、考えてみたら女子と女子同士で手をつないで歩いている光景は別に衝撃的ではないが、男子と男子だと変な想像をしてしまう。全く不思議なものである。
ターゲットは落胆していた。
真実は時に恐ろしいものだ、知れ、愚民。
おっと、そうだ。
「あー、忘れるところだった、愚民の好きな女性のバストサイズはー……」
「なあにぃ!?」
「……ぷぷっ…… ぺったんこ好きか……」
「ストォォォォップ! ていうか何で僕の事詳しいんですか!?しかもやたらデリケートなことばかりだし!」
「だーかーらー。俺キューピッドだ、って言ったじゃん」
「こんな嫌味なキューピッドいてたまりますか!」
「事実だから仕方ないだろ。お前がぺったんこ好きなのも、俺がイケメンなのも」
「二言多い! じゃあ、証拠、そう証拠を見せて下さいよ! ほら! ほら!」
疑い深い人間だな。これだけ羞恥心をくすぐられる事実の数々をお披露目しても信用しないなんて、この愚民はサンタクロースの存在をクリスマス前夜に勃発する不法侵入の常習犯扱いするような人種のらしい。
「じゃあ、せめて矢を見せて下さいよ。持ってるんでしょ、キューピッドなら」
しつこいなあ。
でもまあ、そう来てしまったか。遅くにせよ早くにせよ、俺が金の弓が使えない事実は明らかになるのは、ある意味避けることのできない事なのだが、できたら見せたくなかった。
なぜならこういうことだ。
「ああ…… 見たい?」
「はい、見たいです! もし本物だったら百パーセント信用します」
「本当に? 後悔するかもよ?」
「しません」
「みたら俺に恋にするかもよ?」
「したら自殺する覚悟です」
何の躊躇もなしにストレートに言われてしまった。異世界の住民にここまでキッパリ言われると逆に清々しい気分がするが、返答が俺にとってネガティブなのがとても悔まれるばかりだ。
「わかったよ…… でも笑うなよ」
「笑いませんよ。大体、キューピッドの矢のどこが面白いんですか」
「本当の、本当の、本当に笑うなよ!!」
「わ、わかりましたよ。約束しますから」
どーも、はるまきです!
続き、読んでいただき有難うございます!
まだ数日ながら、徐々にアクセス数が増えてきているのは純粋に嬉しいことです。稚拙な文章ながら、楽しんでいただけたらなあと心から思っています!
次からは本編にはいるわけですが、これからも楽しく読んでいただけたら幸いです!
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