ジ・エンド
ページ数も重ねてきたので、設定とか、背景とか、そんな本の根本となる情報ではないにしろ、かなり重要な事柄を今ここでやっと明らかにするのは聊か俺が構成力不足だと思われるかもしれないが、ご了承願いたい。いや、本当はもう既に明らかなのだが、もったいぶっても活字にしなくては読者に伝わらないのでここで目に見え、確認でき、認識でき、納得できるようにしたいと思う。
さて、俺が言いたいことはいつも短い。一言で片付いてしまう。
この本での主人公は決して、俺ではないのだ。
俺は確かにこの本の語り手だし、全て俺の目線に基づいて書いてはいるが、俺自身は恋愛の当事者ではない。世の女性とただれた関係になれれば本望だが、この伏線上俺が恋愛するわけではないし、ましてやハーレムを味わっているわけでもない。
つまり、ここでの主人公は怜であり、一之瀬であり、一途さんなのだ。
何? 本庄拓哉がいない? おいおい、笑っちゃうぜ。冗談きついぞ、読者! あんなサブキャラは誰が主人公でも、サブキャラだ。
では、後日談の代わりに、エロース様と俺との会話で締めくくろうじゃないか。
『アモル! よく帰ってきたねえ! 三か月の人間界転勤、お疲れ! 良かったよかった! ま、結果的にはあの草食男子に彼女は出来なかったけど、そこんとこは寛大に見てあげましょ! 私ったら愛の女神なんだもの! お疲れ、お疲れー! 本も出来たようで、もう言うことなしだよ~~!』
「本当に疲れましたよ…… あのメイド好きの変態男の活躍って言ったら最後にストーカーが動かないように見張っただけじゃないですか……」
『ごめんね、アモル! 私もあの人間があんなに使えないとは思わなかったんだ…… ごめん! この通り!』
「まあ、今や過ぎた話ですから、蒸し返すつもりはないですけど…… 次は止めてくださいよ! こりごりです!」
『わ、分かったよ…… 落ち込むなあ…… ときに、アモル! あの後怜ちゃんと奏はどうなったの? どうなったのさ!』
「さあ? 俺とて最後まで見送ってませんから分かりません。――でも、たぶん大丈夫です。怜の奴、俺の置き土産はきちんと受け取ってくれたようですから」
『置き土産って何よ? アモル?』
「実は俺、図書館で一之瀬との会話を録音してたんです。事前にポケットにしまっておいた録音機で。さりげなくポケットに手を突っ込んだときにばれなかったのは、運が良かったとしか言いようがないですね。人間の機械を使ったから、会話とは言っても、一之瀬の独り言になっちゃうんですけど」
『そっかー、アモルも良く考えたね! なんだか怜ちゃんリピートして聞いてそう!』
「俺からしてみては、聞く度に嬉しさのあまり気絶してそうですけどね」
『奏はそのこと知ってるの?』
「ん? もちろん知りません。ああ、でも俺が一途さんを撃たなかったことは伝えました」
『勇気あるねアモル! 彼の頼みごと無視したっていうのに、よく会おうという気が芽生えたもんだ!』
「仕方ないじゃないですか、俺だって怖かったんですよ、あの目つき…… あんな人相悪い男と会うのは寿命が削られる気分です。だけど、愛莉が送ったストーカーを鉛の矢で撃つためには全員に接触しないといけないじゃないですか」
『ええ!? 全員のストーカーを撃ったの!?』
「あ、あれ? ま、まずかったですかね?」
『いや、異例のことだけど、別に前例がないわけじゃないし、気にしなくてもいいよ。でも、そんなことされて、愛莉ちゃんはどうだったの? 迷惑だったんじゃない?』
「愛莉ですか…… なんか、感謝されちゃいました」
『え? 感謝されちゃったの? 意外だね』
「はい…… ていうのも、うーん…… 何て言うかな……」
『何? 何? 意味深ですか! 興味深いなあ! ワクワクテカテカ!』
「あいつ、百合だったらしくて」
『ワオ! レズビアン!』
「だから、話によれば、愛莉にとっておじさん方の好意は鬱陶しかったらしいです。『今なら弱みだけでコントロールできるから、余計な力が入らなくて済む…… フフフ……』 とかなんとか。魔性の笑みを浮かべながら言ってましたよ」
『どうやら、これからもやることは変わらなそうだね、愛莉ちゃん』
「あの子と別れるのは悲しかったですね。色々と相談に乗ってもらったので」
『アモルじゃ、何もできなかったからねえ、最後の最後までへたれだったし』
「へたれとは心外です! 全員が不幸にならないように考えに考えた末の答えとして、怜も一途さんも撃たなかったんですよ!」
『ま、そういうことにしておいてあげましょ! でも、何でそういう考えに至ったのアモル?』
「え? えーっと、いや、いいですよ! 話すと恥ずかしいですし」
『話さないと襲うわよ』
「わ、分かりましたよ…… でも、笑わないでくださいよ……」
『わーかった! 安心して!』
「多分俺、みんなに恋から愛に自然に発展していく過程を楽しんでほしいんだと思います」
『恋から愛に発展していく過程……か』
「愛って言ったら、恋の最終形態みたいなものじゃないですか。いきなりそんな関係になっても、楽しくないでしょ? ごく自然に様々なイベントが積み重なっていくのを大切にしてほしいなって。他愛のない会話を積み重ねたり、お互い恥ずかしそうに手をつないだり、いろんなところにデートに行ったり……それで、少しずつ好きかな、って思って、好きだなって確信して。そんなことしてほしいなって思ったんですよ」
『へえ! そっか!』
「実際は起こりませんでしたが、例えば俺が一途さんを撃たなかったことで、その後怜が結婚の話を持ち出されて傷ついたなら、俺は怜のサポートはしたかもしれませんが、後悔はしなかったでしょうね」
『面白いね。矢なしのキューピッドのサポートなんて!』
「はは、そんなことないですよ。俺が矢を出せなくてもサポートは当たり前です。だって、あいつは俺の友達なんですから」
『立派なことを言うようになったねえ、アモル! 』
「元々、俺はこんな感じですよ? 惚れちゃいましたか? エロース様?」
『うん! 惚れたよ!』
「え、え? マジで?」
『マジで!』
「え!?」
『うん! だから、アモルの服脱がしちゃう! えい!』
「なんで、こんな反応なの!? ていうか、話したのに襲われてるのって、理不尽じゃね? いやいやいや、こんなこと問うている場合じゃない! ギャ――――! 助けてくれー! 痴女が俺を追いかけてくる!」
『逃げないでよ、アモルー! 痴女だなんて、酷いなあ! 良いじゃない、キューピッドと神が子作りしても、別にタブーじゃないし! 私はアモルの男らしさに惚れたんだよ、この愛は本物だよ! だから人間の体のままここに連れてきてあげたんじゃない!』
「イベントを重ねて徐々に、ということをお前は知らないのか!?さっき話したばかりだろうが! ていうか、何で人間のままここに来たかと思えば、お前の所為だったのか!」
『お・ま・え、だなんて、アモルったら! もうその気なら逃げなければいいのに! あ・な・た! だって、私たちはもうなん百年も一緒なんだよ、イベントなんて数えきれないよ!』
「俺の使った二人称代名詞にそんな含意はない! イベントなんか、そんなものあったものか! あっ!?」
『アモルったら、もうコケたフリなんてしなくても、いいのに! ほら優しくしてあげるから! まずはAから始めてあげる。一応ファーストキスだからね! 大事にしてよ、あ・な・た! ムチュー!』
「やめろおおおおおお! 助けてくれええええ!」
「俺の貞操がここで奪われてたまるかあ! 俺のファーストキスはいつの日か、愛莉ちゃんにささげるんだあ!」
終わり




