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シーン1!(裏話)

 これは俺が人間界に送られた、経緯の物語である。


 俺はキューピッドの仕事、つまりエロース様のお手伝いさんとして奉仕活動に精を出していた。

 そして、突然エロース様は言った。

「この頃、人間の愛の扱い方が雑なのよ! もっと私たちの存在を知らしめるべきだわ! 大体何よ、聖なるこの愛の女神さま、『エロース』 ていう、この慈愛に満ちた名前が、今では『変態』っていう意味になってきてるのよ! 可笑しくない、ねぇ!」

 と言った直後、近くでエロース様のコップに水を注ぎに来た俺に

「アモル! あなた人間界に行ってきなさい!」

「えぇ! なんで!」

 何の前触れもなく、突発的な爆弾発言をしたわけで。

「聞いてたでしょ! あんたが人間界にいって、素晴らしい恋愛劇を作ってくればいいのよ! そうすれば人間が愛の価値ってのをもう一度考え直す事が出来るじゃない!」

「愛の価値って…… 大体、俺一体何すればいいんですか?」

「そうね……」

 俺は天に願った。

 アイデアが生みでない事を。

 俺のキューピッド生を奈落の底へ突き落さないことを。

「ああ!」

 天が早くも俺を見離した瞬間だった。

「じゃあ、後でめちゃめちゃ草食系男子をターゲットとして送るから、あんたはそいつの手助けするだけにしよう。それなら簡単でしょ。うん、簡単だよね!」

「なに自分だけ納得しようとしてるんですか! 俺、女ならまだしも、ぎったぎたの草食男子にくっつくかなきゃいけないんですか! 嫌ですよ!」

 かなり切迫した状況だった。ある意味俺のキューピッド生がかかっているのだ。頼む、わかってくれ、読者。

「ノリが悪いわね…… 人間の体にしてあげるから、それでいいでしょ!」

「な、なんですってえ!?」

「人間のカ・ラ・ダ。嫌なら別にゴリ押しはしないけどお?」

「に、人間の! か、体! それはまあ……」

 しょ、正直言おう、俺は人間の体に憧れている。愛しているといってもいい!

 キューピッドの体は人間の赤ん坊ほどしかないが、頭脳はなかなか大人なのだ。大抵、キューピッドの持っているその大人のような頭脳は紛れもなく知性の方なのだが、俺は珍しくその知性を捨て、オス的性衝動に目覚めたチョーレアなキューピッドだ。だから、女性の体には徳として芸術を感じている。男は、残念だが全く興味はない。

 そのため、このスペシャルオファーにはよだれが出る。夢に見た人間の体になれるのだ。俺が男になって、絶景の美人とトキメキを分かち合ってもよし、もしくは女になって自分観賞を楽しむも良し。

 どちらにせよ、極上のパラダイスだ!

 だが残念なことに、次に彼女は俺のピンク色な妄想でいっぱいだったガラスのようなハートを、瞬く間にブチ壊した。

「…… あっ、でも、あんたの姿、誰にも見えないけどね」

「えっ……………………」

「だってキューピッドじゃない」

「ガーン…… グスッ……」

「そ、そんなに落ち込まないでよ。ちょ、ちょっと! な、泣かないでってば! 天使だから仕方ないじゃないのよ! でも、ターゲットには見えるから、そ、それでいいでしょ」

「ターゲットって男じゃないですかぁあ! お、女の子が、グスッ…… いいのに…… 酷い …… ウワ――――ン!」

「あんた扱い易いのか難しいのかわからないわね。わかったわよ! ターゲットがオーケー出した奴なら、ヲタクでも、露出狂でも、ミミズでもあんたを見えるようにしてやるわよ!」

「グスッ…… ホ、ホントですか?」

「まあ、本来なら人間に見られただけで消滅刑なんだから、喜びなさいよね」

 こんな感じで彼女は無茶なとこはあるんだが、押せば結構いけるのだ。しかも、消滅刑の特例を俺に作ってくれるのは助かる。我ながらこの世からいなくなるのは恐ろしいからな。

 ……しかしながら、それは数少ない部下への愛の表しなのか、それとも権力の振りかざしなのか。

どちらにせよ、人間の女性とウハウハ出来るなら、俺に文句は言わんことが得策であることには違いない。

 ヒャッホー! ビバ・人間体!

「でも何で俺なんです? 他にも優秀なキューピッドなんていっぱいいますよ。韓国担当のサランとか、中国担当のアイニーとか。俺なんかまだ新米キューピッドですよ」

俺の潜在的才能が早々と認められるのか!

 いやー確かに俺ほど将来性がある輩は存在しないな。口笛も2オクターブ全部正確にできるし、リンゴを齧っても歯茎から血が出たことはない。いやー嬉しいかや、嬉しか……

「え、別に。いたのあんただけだから、今」

「ああー……」

 俺は愚鈍だった。

「まあ、良いじゃない。あんた人間界のゲームとか、マンガとか好きだったし」

「それとこれとは違う話じゃないですか!」

「ああ、後、あったこと全部本にしてね」

「えぇ! 本にまでしなきゃいけないんですか、俺!」

「いいじゃない、印税はあんたに全部あげるから」

「なんで俺が……」

「微笑んであげるから、はい」

「うっ、愛の女神の微笑み…… お…… お、俺は…… い、行かない! 行かないぞ!」

「ええー、さっきまで乗り気だったくせに」

「だって本にするなんて、メチャクチャです! 大体、俺話せても、書けませんよ、人間の言葉なんて」

 その通り、俺は天使としてすべての言語はマスターしているつもりだ。やはり、誰が誰に気があるのか、とかいう噂は自分の耳で聞かなければならないからな。

 「このヘタレ野郎!」 とか言いあっている男女が次の日突如結婚した、となると不自然極まりないだろ? キューピッドもなるべく自然な恋を成就させたほうが安心なのだ。

 出世の為とか、かなり現実性に満ちた、全く夢の欠片もない理由なのだが。

 しかし、まあ、喋るのには自身が有ると言っても良いが、書くとなると話は別だ。

 俺は人間の言語が書けない。なぜかというと。


 愛は、どんな言葉を要しても表すことが出来ない尊い感情。無理して言葉で表すことは、自然の条理に反する。


 というのは綺麗事で、こればかりは単純に俺の勉強不足だ。かたじけない。

 そうそう、念のために言っておくが、俺たちに人の心を読む力は、ない。

「じゃあ今までどうやってマンガとかゲームやってきたのよ。あれ全部日本語じゃない」

「もちろん天語訳が入ってるやつですよ」

「精進しないわね…… あんた」

「うっ……」

 ご最もなのだが、言われたくなかった。特にこの上司には。

「まあ、そんなもの、あとで勉強すりゃいいのよ。日本語よ、日本語。あんた、留学気分で日本に行けば言葉なんてすぐマスターできるわよ。あんたのマンガとかゲームのレパートリーだって増えるじゃない。一石二鳥よ!」

「その一石で俺の運命がガラッと変化してしまうんですけどねぇ……」

「あ、そうだ、引っ越し準備もう終わってるから、ほい、お行き」

「……えっ?」

「ほら、行ってよ、もう引っ越し頼んじゃったんだもん」

「…… ていうかもう計画済みだったよな! おい! いやだよぉぉぉぉ! いやだぁぁぁ!」

 そして一生懸命、地団太を踏んだ俺の努力も虚しく。

「問答無用! せい!」


 というわけだ。

 同情してくれるかい?

 だったら本編を読み進めてくれ。

 この小説のポピュラリティーによって、俺が帰れるかどうかが決まるのだから。

 俺のキューピッド生は、あなた、そう、あなたが左右しているのだ。

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