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シーン15!

 そろそろ、ここで読者にネタばらしをしよう。

 この偉大なるキューピッドであるアモル様は愛する読者を煽り、焦らし、弄ぶのは性に合っていないのだ。クライマックスを演出するためにそれらは必要だとされているが、俺は別にいつ来るかわからないクライマックスよりも今、目の前にいる読者の皆様の方が大事なのである。

 大体、俺はラノベ作家でもないし、単なるしがないキューピッドなんだから、ありったけの優しさを今、不特定多数の皆様に分け与える方がよっぽど割に合っているのだ。

 そのためには、一旦、愛莉と俺の作戦会議の模様をそのまま忠実にお伝えすることにする。元々奇天烈な振る舞いが多い愛莉なのだが、俺との会話の場所に屋根裏を選んだのは驚愕とまでは言わなくも、あそこが一つの場所として確立しているという自覚自体が自分にはなかったので、それを気づかせてくれたということに度肝を抜かれた。

「それでは作戦会議を始めまーす!」

「お、おう」

 因みにどのように屋根裏に侵入したかというと、二階にある酷い水漏れの為使用不可になっているトイレから、天井のふたを開けてよじ登った。どうやら二階にある全ての部屋は屋根裏で繋がっているらしい。

「しかし、この部屋広すぎないか。この空間、もったいないとしかいいようがないぞ」

 それもそうだ、建物が建っている面積がそっくりそのまま全てこの部屋に反映されているのだから。仕切りもなければ部屋ごとに分かれてもいない。確かに高さは俺が立つのがやっと程しかないが、やろうと思えば新体操が出来るほどの面積はあるのだ。

「広いでしょー、アモルちゃん! 私の秘密基地なんだよ! えっへん!」

 その秘密基地の中に愚民の宝物であるエロ本とギャルゲーの詰まったダンボールが置かれているわけだが。

「なんかね、法律でこのあたりの家は三階建てにしちゃだめなんだって。だけど、パパとママが、そんなこと知らずに家の建築を依頼しちゃって。だけど、分かった時にはもう骨格が出来てて、もう手遅れだったから、結局、ギリギリ三階建てにならないように建てたら、こういう風になっちゃった」

 おそらく、一階と二階の天井の高さを上にずらしたのだろう。口では容易いが、やるのは骨を折る作業のはずだ。大工さんも大変である。

 俺たちはこの部屋の隅っこでその作戦会議とやらをすることにした。どのようにして運び込んだか問いただしたくなる粗末なちゃぶ台が置いてあったので、俺と愛莉は向かい合うようにして座る。

「よし、じゃあ、次々と案を出していこう! はい! アモルちゃん、アイデアはあるかね!」

「い、いや。突然アイデアと言われても……」

「難しいことじゃないよ。お姉ちゃんのおっぱいを見るためにどうすればいいかを考えればいいんだから! お気楽に、軽率に、尻軽に、思いのままに発言すればいいんだよ!」

 最早どれほどまで軽々しくコミュニケーションとればいのだろうか。

 俺は思考を絞りに絞り、ごくごく一般的な意見を述べてみる。

「……風呂場を覗く、とか?」

「アモルちゃん…… え、えっちだよう……」

「元凶のお前に言われたくねえよ!」

 誰が俺をこんなエッチな事柄に招きよせたと思っているんだ!

「だけど、他にどうすればいいんだよ。俺たちが要求したところで怜が服を脱いでくれるわけでもないし」

「うーん、そうだね…… 愛莉の前なら上着を脱ぐぐらいはしてくれるだろうけど、それじゃ、アモルちゃんにお姉ちゃんのおっぱいを見せることが出来ないもん。はあ…… どうしたものかな」

 まあ、そういう要求をしたところで、俺は五体満足ではいられなくなるだろうしな。

「あれ? でも、俺に見せるだけなら、写真とかでもいいんじゃないか。ほら、カメラぐらい携帯にあるだろ。愛莉ちゃんが言ってみたように怜に上着を脱がせられるんだったら、その後、さりげなく写メを取って……」

「アモルちゃん…… ひ、卑猥だよう……」

「俺は意見を出すべきなのか、出さざるべきなのか!?」

 軽々しく意見を出していくたびに、俺のモラルの低下が露呈していくっていう罰ゲームなのか!? 

「うーん、アモルちゃんの意見は今一つキレがないなあ。じゃあ、愛莉の考えた案でいいよ」

「とっくにあるんだったら最初にだせええええええええええええ!!」

 恐らく家じゅうに俺の叫びが響き渡っただろう。家のなかに誰もいなくてよかった。

 愛莉は後ろからズボンに挟んでいたノートを取り出し、ちゃぶ台の上で開いた。

「ほら、これが愛莉の案だよ!」

「ほう、どれどれ……」

 あー、分からん。くねくねして、かくかくしすぎなんだよなあ、日本語ってのは。

 しかも、この落書きはなんだ、あの背が極端に低くて、真っ赤な帽子の鼻とひげがやたら印象的な中年のおじさんが出てくるゲームででてくるキノコじゃないか。

 それはさておき。

「あ、愛莉ちゃん、よくわからないから、詳しく説明してくれたら嬉しいなあ!」

「そうかな? わかりやすく書いたつもりなんだけどなあ…… でもわかった! アモルちゃんのために分かりやすく教えてあげる!」

 愛莉に限って小難しいことが書いてあることはないので、おそらく言う通り、分かりやすく書いてあるのだろう。それでも読めないんだから仕方がない。

「愛莉ね、いっぱいおじさんのお友達がいてね。なんでも出来ちゃうんだよ」

「おじさんの友達!?」

 嫌な予感がした。

「あ、愛莉ちゃん…… 計画とやらの続きを聞く前に耳に挟んでおきたいんだけど、君は一体どうやってそのおじさんたちと知り合ったのかな?」

「うーん…… 愛莉もよく知らない! なんかおじさんたちが勝手に愛莉の携帯の番号を知ってたみたいだから、仲良くなっちゃった!」

「そりゃ、れっきとしたストーカーだろ!? 愛莉ちゃん!? そんな連中とは二度と関わるな、ていうか離れろ、今すぐ離れろ!」

「そんなー、アモルちゃんは心配性だなあ。確かに最初の頃は愛莉にやたらついて来てたおじさんもいたけど、他のおじさんにそのおじさんの弱みを握ってもらったら、ピタッと止まったよ。みんないい人だよ! それで、その他のおじさんっていうのも、またそのまた別のおじさんの弱みを握って、そんでその別のおじさんっていうのも……」

「あ、もういいです」

 深入りをしない方が平々凡々なキューピッド生を全うするに相応しい選択であると、俺の本能が告げた。

 この萌女の人間づかいは荒くないが、酷いのだろう。

 しかし、先ほどの心配は不要だ。

 この子ならどんなにたちの悪いヤクザに絡まれようが、おそらく自分なりに丸く収めて最終的に一人で笑っているだろうという、なんだろう……。

 そう、一種の安心感がある。

「話を逸らして、ごめんね、愛莉ちゃん。で、どんな計画なのかな」

「あ! そうだったね。それでね、そのおじさんの友達の一人に、水着を製造してる会社を運営してる人がいるの」

 立派な社長さんがストーカーとは、いやはや、最も運が悪いとしか言いようがありませんな。愛莉ちゃんがじゃないぞ、その社長さんがだ。

「へえ、それで」

「うん、聞いた話ね、水に溶ける水着ってのがあるんだって」

「何だって!?」

 み、水に溶ける…… だと。服が透けて見える透視メガネと同じくらい男子の欲求を満し、かつ悪戯心も満たしてくれる代物じゃないか! そんなものが実際存在していたとは……。

「だけど、問題があって、その水着、ビキニしかないんだよ」

「ん? 何が問題なんだ? だったら怜にビキニを着させればいいじゃないか」

「お姉ちゃんはスク水しか着ないの! そんなにあっさりとビキニ来てくれるんだったら、苦労はしないよ!」

 そりゃまあ、ご最もだ。しかし、逆に考えてスク水しか着ないのもどうかと思うが。

「だから、愛莉そのおじさんに頼んでスク水の水に溶ける水着を作るようにきょうは…… じゃなくて、頼んだの、誠心誠意」

「いや、今、脅迫って言いかけたよな!?」

「ハハハー、オモシロイコトイウナ、アモルチャンハ!」

 隠し切れとらん。

 俺は続けるように促す。

「……はあ …… じゃ、まあ、それで? 愛莉は誠心誠意頼み込みました、はい、どうぞ」

「う、うん、ていうわけで、そのおじさんはこれ以上なーいほど快く愛莉の頼みを聞いてくれたんだけど、時間がかかるらしいんだって。ほら、スク水とビキニって素材が全然違うから。でも、念のため、研究者のおじさんも水着のおじさんを手伝うように言っといたから普通よりは早く出来上がるとは思うけど」

「へえ、それでいつ出来上がるの、それ」

「明後日」

 早ッ!! 発明ってこんなにハイペースであるべきなのか!? というかまず、完成する日程が決まっている発明ってこの世界にあるのか!?

「それまでに出来なきゃ、おじさんたちは堂々と道路を歩けなくなっちゃうから、絶対完成すると思っていいよ、アモルちゃん!」

 その爽快な笑顔を俺に向けないでくれ。そのおじさん方を憐れむべきなのか、素直に笑顔を返すべきなのか心内で葛藤が始まってしまう。

「で、でも、別にそこまで急ぐ必要はないと思うんだけどなあ、俺的には」

「…………」

 沈黙がこの屋根裏を支配した。

 激しく食いついてくると思っていた俺にとっては、新鮮な反応ではあったが、期待していたものではなかったので少し的が外れた気分だった。

 そして、次に放った言葉がやけに意味深で、俺が反論する余地をも持たせないほどの重さというものを兼ね備えていたことを、俺は忘れることがないだろう。

「早くないと、ダメなんだよ。早くないと」

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