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信頼の形

俺はある病気を抱えている。

解離性同一性障害。DIDとも言う。

そういってもわからないだろう。

最も慣れ親しんだ言い方をすると、多重人格者、である。

そもそもなぜ別人格が生まれるのだろうか。

それは回避しようとするからだ。

辛いこと、苦しいこと、悲しいこと、嫌なこと。それらを別人格があらわれ、体験することにより、心のダメージを軽減するさようがある。

総称して、解離性障害とと呼ばれるが、俺のかかっている解離性同一性障害は最も重い。

なぜなら、切り離した感情や記憶が成長してしまうからである。

原因はいろいろ考えられる。

…………そう、いろいろ考えられるほど俺の幼少期は残酷だった。

今でもこうやって普通に生活できることに不思議な感覚がある。


ここまでで述べたことはきっと解離性同一性障害の人なら誰もが感じている症状や気持ちである。

しかし、俺の症状はかわっている。

人格と対話をすることができるのだ。

人格交代が起こると、俺は〈中〉へ強制的に潜る。そして、表の人格が俺のしたかったことをある程度やり終えると対話できる。

また、多くの人格は入れ替わってそのまま表になろうとする。

対話をする理由としてそいつらを説得することがあげられる。

もちろん、今回の〈怒り〉のようにそもそも表に興味のない人格もある。

説得できなかったらどうなるかって?

そりゃ、一生表に帰れない可能性もある。

だが、ひとつの人格として成り立たず、消滅する可能性もあるし、分解される可能性もある。


悪いことばかりでもない。

上手く利用できれば、今回の戦いのように俺以上の力を発揮して勝つことができる。

ちなみに、俺の場合は前述と違い、記憶の継続は可能である。

正確には〈中〉で映像を見ることができる。


もう一つ。〈中〉とは何なのか。

簡単に言うとすると、〈記憶〉の図書館。

今まで全ての人格の見てきたものが、あるものは静止画、あるものは動画として保存されている。いや、床に散らばっている。

床以外は真っ白。

これが俺の〈中〉である。


俺が生きることは常に戦いである。

俺は自分自身に負けてはいけない。

今の時間が続いて欲しいから。

今の仲間と一緒にいたいから。

今の幸せを、……守りたいから。


* * *


目が覚める。

「頭いてぇー」

頭を左右にふって目をさます。

周りを見てもだれもいない。

「俺の部屋、か。なにがあったんだっけ?」

もちろん、誰も答えてくれない。

そうか。未来のために戦ったんだ。

そして、俺じゃない俺が守った。

「まだまだだな。もっと、強くならないと」

さて、気を取り直して現状把握をしよう。

確か夜の学校に入ったのが日曜日。

絶対今日は平日だな。

時計を見る。

「…………。ノオオオオォォォォォォーーーーーー!」

12時32分。昼休みだった。

ちなみに月曜日だった。

よし、冷静になろう。

机の上の時計を見る。

1時32分。4限目だった。

「どっちが正しいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ここは、別の時計を見よう。

ベッドからおりる。

部屋を歩き回ると、正樹の机の上に時計があった。

恐る恐る時間を見る。

2時32分。5限目だった。

「だから、なぜだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

スマホの着信音がなる。

《はろー、優くん。元気ー?》

春だった。

「元気、ではあるな。叫びすぎて喉が痛いくらいかな」

《ほえ? 叫んだんだ。なんか困ってることある?》

「……とりあえず、時間を教えてください」

《えーっと、えーっと、だいたい12時30分》

「よし、他の時計直してやる(怒)」

《ホントに頭大丈夫?》

「問題ない。無事だ」

《安心した。ところで、学校はくる? 今からでれば昼休み中につけるでしょ》

「そうだな。行くよ」

《じゃあ待ってるよー》


……そうか、学校あるよな。

行くしかないか。報酬もらいに校長に会いにいかないといけないし。

制服に着替える。

あれ、夜、制服だったよな。誰かが着替えさせてくれたんだな。礼言っとくか。

昼飯はどうすっかなー。

うーん。正樹に頼んで購買で買っておいてもらおう。

これで、問題ないな。

さあ、学校へいこう!

…………なんか、こんな番組、昔あったな。


* * *


廊下を歩いて、教室の扉をあけようとする。

だが、俺が開ける前にあいた。

そして、俺の前を泣きながら走りさっていった。

…………。

あれ? 直江先生だよな。

………………しかも、メイド服。

はぁ、何があったんだか。

もしかして、クラス内で事件? 今よくニュースになってるいじめか! それとも、先生いじめ?

いくらなんでも、先生だって校内でメイド服にはならないだろう。

いや、家で着るって断言していませんよ。

みんなに着ろって言われてメイド服になって、さらにいじめるなんて許せない!

俺がクラスの奴らを断罪してやる!

先生がどれだけ悲しかったかお思い知らせてやる。

そうじゃないと、先生だってむくわれないじゃないか。

俺はみんなのこと、好きになれると思ったのに。

残念だよ。

さぁ、決戦だ!


勢いよく扉を開ける。


校長がいた。


「よいしょ」

扉を閉める。

わぉ、汗がとまらないぜ。

なんか、校長がいた気がしたけど、気のせいだよな。


再度扉を開ける。


やっぱり校長がいた。


「……、よっこらせ」

扉を閉める。

わぉ、ドキドキがとまらないぜ!


さて、状況整理しよう。

教室から泣いて走り去る直江先生。

ちなみにメイド服。

中にいる校長先生。

ちなみに顔には怒りマーク。

あー、なるほどね。

メイド服で授業して、それが校長に見つかったから怒られたわけね。

……何が先生いじめだよ!

心配して損した。

……何が先生はメイド服着ないだよ!

きてるじゃねーか!

あの先生、よくクビにならないな……。


さて、教室入るか。

「こんにちは」

校長に挨拶をして中に入る。

メガネたちは窓際で昼飯を食べてた。

「お、調子はどうだい、優人」

「まあまあだな。未来は大丈夫か?」

「はい。私はそもそも怪我してないし、勝手に気絶していただけなので」

「……それにしても、見苦しい所、見せちゃったな。本当にごめん」

「謝らないでください! 私のほうこそ、足手まといになってしまっただけですから。 それに、約束も守ってくださったし……」

どんな約束したっけ。全然記憶にない。すまん、未来。

「優人さんは無茶しすぎです。これ以上1人で抱え込んで危ないことしたら、いくら寛容な私でも怒ります」

珍しく萌様は怒っていた。

それだけ仲間のことをおもってい思っているのだと思うと、うれしくなった。だから俺は思ったことを言った。

「ありがとう、萌様」

「なーに、赤くなってるのかな」

正樹がからかう。

「赤くなってません! 変なこと言わないでください!」

「おー、怖い怖い」

みんな顔を見合わせて笑う。

「お、そういえば、放課後校長室にくるようにって直江先生がいってたぞ」

メガネが教えてくれる。

「俺だけ?」

「いや、みんならしい。事情が聞きたいんだとさ」

「そういえば、昨日は何も言わずに寮に帰されたからな」

「謝礼もあるらしいよ」

「じゃあ、今日の夕飯はみんなで食いにいくか」

「「「「「賛成」」」」」

「……ところで、その直江先生は何があったの?」

「まあ、何と言うか」

「何ともいえないよな」

春と正樹が口ごもる。

さっきの予想と違うのか。

それならおおいに気になる。

「先生曰く、注目を自分にあつ集めたかったらしい」

「……………………………………………」

「昨日の今日じゃん? 多少の噂はでてるわけよ。んで、そこから離れるために、じゃあ私が噂になりましょう的なノリだったのよ」

「あの姿で違和感なく授業できる先生もすごいとおもったけどね」

さぞかしシュールな光景だったんだろうな。

教室を見まわすと、もう校長はいなくなっていた。

次の授業まであと10分。

正樹に買ってきてもらった激甘クリームぜんざいデニッシュを食べるとするか。

まあ、この時間だし、購買にはあまりものしかないよな。

それにしてもこのネーミングセンス……。

売る気あるのかよ。

激甘を覚悟して一口。

「甘い……」

当然だ。

なかなか、2口目にいく勇気がでないので教室を見まわした。

すると、カップルが食べさせあいをしていた。

「甘い……」

チッ。

イチャイチャシヤガッテ。

あの甘さに比べれば、このデニッシュくらい!


なかなか憂鬱なお昼でした。


* * *


なんやかんやで放課後、校長室。

もちろん6人全員揃っている。

「本当に申し訳なかった」

開口一番がそれです。

まあ、当然といえば当然です。

「正樹君に命の危険はないといったが、このようなことになるとはお思っていなかった。優人君、未来君、すまなかった」

校長が頭をさげる。

うー。偉い人に頭を下げられると落ち着かない……。

「校長先生、私は大丈夫でしたから、頭をあげてください」

「俺も問題なかったです」

「そう言ってもらえるとありがたい」

安心した校長がいた。

「それではあの後どうなったのか説明しておこうか」

6人が真剣に聞き始めた。

「優人くんと戦った教師、いや元教師2人はテロ組織ではなかった」

「じゃあ一体……」

「…………カルト教団だ」

「「「!」」」

「「「?」」」

俺、メガネ、萌様は驚いた。

正樹、春、未来の顔にはハテナマークが浮かんでいた。

「テロ組織とカルト教団ってどう違うんです か」

メガネが答える。

「テロ組織は国の在り方に異議を唱えるものたちのこと。カルト教団は宗教が小さくなったものだな。カルト教団の場合は全てが全て、国に変革を求めていない。だが、過激的なものとして有名な組織もいた」

「オウム神理教……」

「あぁ。サリンに関する事件を起こして教団のトップが捕まってからというもの、活動は小規模になった」

「そのとおり。個人的にはテロ組織より厄介だと思っている」

人によるが、俺もそう思う。

根拠はない、直感だ。

「どこの教団かは口をわらなかったよ」

「調べることはできないんですか?」

「無理だよ、正樹。カルト教団の数は大小あわせて星の数あるんだよ。ましてや広まっていないものもある。本人が口をわらないかぎりわからないんだよ」

「優人くんも物知りだな。まあそういうことだ」

いやいや、それほどでも。

「ところで、何で教団の人が教師をやって、この高校の審査をくぐりぬけてきたんですか?」

俺もそれは気になる。

「2人以外にもまだいるんじゃ……」

「そこのところは調べ中だ。ただ、たぶん2人の他にはいない。そう何人もこの高校の採用試験を通れるほど甘くはないからな」

それでも通れるほど賢いのか、それとも財力があるのか現状ではわからない、か。

捜査は八方ふさがりなのだろう。校長は困った顔をした。

そして、最も重要な質問をする。

「情報は、漏れたんですか?」

嫌な沈黙がある。

「いや、大丈夫だった。だが……」

だが? なんだろう。

「ひとりは、USBが踏まれなければ〜、とずっと嘆いていたよ。私には何のことだかさっぱり」

…………。俺だ。

正樹がこっちを見て苦笑いしている。

まあ、結果的にすごくいいことしたんだから!

自分に自信をもとう、うん。

「それは、気にしなくていいですよ。僕ですから」

「? ? そうか。それならまあ気にしないでおこう」

ははは、とかわいた笑いが俺からでた。

「ということがあったくらいで、情報は漏れていない。本当に君たちのおかげだよ。ありがとう」

自然と笑みがこぼれる。

「さて、お礼をしないといけないね」

オォー、と歓声があがる。

「ひとつはいつも通りの食事券だ」

1万円分あった。

これでまたみんなで飯が食える!

「ひとつは、ってことはまだあるんですか?」

未来が質問する。

「察しがいいね。こっちは、優人くんと未来くんの2人分しかないがね」

「一体、なんですか?」

「これだ」

手渡されたのはテレビリモコンほどの大きさがある箱だった。

「開けてみてくれたまえ」

箱をあけると、そこにはペンがあった。

「ペン、ですか」

何色かもわからない。

「よくみてみなさい」

そう言われたので、ペンをまわしていろいろな面から見る。

すると、漢字がほってあった。

《大和》

か、かっこいいな。

未来のペンを見ると《疾風》とあった。

大和(やまと)疾風(はやて)。このふたつは私のつくったオリジナルペンだ」

「オリジナル?」

「今までのペンはインクによる属性攻撃しかなかった。しかし、このオリジナルペンはちがう。本体自体に能力がそなわっているんだ」

おぉー、すげー。

「ちなみに、能力はなんですか」

「知らん」

……は? 知らんって。

「正確には、わからない、だ」

「そりゃ、またなんで」

「このペンは使用者によって能力がかわるんだよ。力がないなら力を、速さが足りないなら速さを、君達に足りないものを補ってくれる」

面白そうなペンだな。

「今回は2本しか用意できなかったが、作れたらまた君達にもプレゼントするよ」

「タダでですか?」

「もちろん、それなりの活躍はしてもらうがね」

なるほど、2本しか用意できなかったからそもそも個人結界も2つしか用意されなかったのか。納得、納得。

「話は以上だ。わざわざ放課後にすまなかったな」

「いえいえ、それでは」

退出しようとすると、

「優人くんだけ、少し話しいいかな?」

校長は俺以外が出ていくのを確認してから話をはじめた。

「君は、話していないのかい?」

「……何のことですか」

「多重人格、DIDについてだ」

「…………気づいていたんですか」

「君が登校する前に少しあの子たちと話をして、ね」

昼休みに教室にいたときだろう。

「なんで話さないんだ」

「……話す、決心がつかないんです。それに、俺自身もこのことを忘れたい。いつか、いつかは伝えたい。けど今はまだ……」

「そういうことなら何も言わない。その選択が吉とでるか凶とでるかはわからないけど、…………まあ頑張れ、後悔しないように」


確かに、伝えるべきなのだろう。

もしかしたら、この〈俺〉は戻ってこないかもしれない。もしかしたら一生会えない日がくるかもしれない。けどそれは、誰にもどうしようもない。

これを話すときはなぜこうなったかも話さないといけないだろう。それはつまり、俺の過去。辛い過去。おも思い出したくもない。

もちろん、あいつらが信頼できないわけじゃない。信頼しているからこそ、この事実を伝えて、何かが変わってしまうことが辛い。

だから、いつか、どうしても伝える時以外は、伝えないと俺は決心している。


階段でみんなが待っていた。

「よし、夕飯食いにいくか」

「おう」

俺は元気よく返事する。

変わらないままでいたい。ずっと、このままで。


* * *

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