故障
ーーー
「チッ、殺りそこねたか。個人結界を展開してるとは、誤算だよ」
ソンナコトハ、ドウデモイイ。オレガオマエヲ、コロス。
「リバース」
黄、白の日本刀が、ペンに戻る。
「リリース」
続いて、攻撃重視のシャープペンを日本刀にする。色は黒だが、ペンの黒と違い黒光りしているところだ。属性は硬さ。そして、自由さ。使い手次第で最も攻撃力がかわりやすい武器である。
コロス。コロスコロスコロス!
優人は教師に向かって突っ込む。
教師は拳銃を連続してうつ。しかし、結界があるため効かない。
もっと数を撃つか、さらに強い銃でないとこの結界は壊せない。だからこそ優人は突っ込めた。
教師は短刀を取り出し応戦する。それもただ受け流すだけ。
その上、拳銃を撃ってこようとする。さすがにこの至近距離では結界は破れる。
ジャマダ。
その鉄の塊である拳銃を優人は真っ二つにした。
「さすがに硬いな、炭は」
短刀を投げると、優人の肩をかすめた。同時に教師が距離をとる。
「リリース」
もちろん、教師だってWEAPONシステムは使える。
選んだ色は赤。現れた武器は西洋の剣。
もし、インクを全部使って属性を使ったらここら一帯は燃えてしまう。
「リリース」
優人も武器化する。選んだ色は青。属性は水。赤とは相性が良い。
もちろん、炭でも相性はいい。しかし、それは炎が効かないというだけで、炎を消すことはできない。だからこそ青の日本刀を出した。
優人は突っ込む。
片手の青と、赤では互角。しかし、炭はしまえない理由がある。
お互いの刀と剣が何度も何度も、何度も何度もぶつかる。
もし、隙を見せたら確実に死ぬ。それほどの究極の勝負、命の駆け引きをおこなっている。
先に仕掛けたのは優人ではなかった。
教師は突きを出す。
それを優人は刀の側面で上手く受け流す。
だが、教師はそこでとまらない。突きの勢いで自分自身も加速し、横を通り過ぎて行く。
背中を刀で斬ろうとするが間に合わず、2人の立ち位置が逆になる。
つまり、教師の後ろに未来がいることになる、はずだった。
「ミライガ、イナイ? イナイイナイイナイイナイ!」
優人の目から光が消える。
「ドコダ? ドコヘヤッタ? ハハ、ハハハハ」
恐怖を感じる。
「アハ、アヒャァヒャァヒャァヒャァ、コロス、コロスコロスコロスコロス!」
教師の全身に鳥肌がたつ。
そして、このままでは殺されると感じた。
逃げる。それしかない。
「燃やし尽くせ!」
赤の剣に特大の炎が巻きつく。
そのまま剣を投げる。
対して、優人も、
「ナガレロ」
刀の周りに水が現れる。そしてこちらも投げる。
刀、剣が空中でぶつかる。
強力な炎と水、二つがぶつかることにより大量の水蒸気が発生する。
あっという間に視界は0になる。
この状況は逃亡には有利。
「ジャマ」
だが、優人も逃がさない。
「リリース」
緑の日本刀が出現する。属性は風。
「キリサケ」
強烈な風が吹き、一瞬で水蒸気は消える。
背中を捉える。
「コバメ」
炭の日本刀が硬化する。
シャープペンの芯とダイヤモンドは同じ炭素原子からできている。違いはその並び方。それを上手く使うことで、炭の刀は鉄をも切り裂くことができる。
それだけじゃない。
優人は突きのモーションをとる。すると、刀は延びた。
「く、あぁ」
刀が肩を突き刺した。
教師の動きがとまる。
「ツカマエタ、ツカマエタ。ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ」
「お前は、一体なんなんだよ!」
優人は無視する。
そして、近づく。
「リリース」
もう片方の手に、黄色の日本刀を出現させた。
炭は電気をながすことができる。
それを思いだした教師の顔には、怯えの色しかない。
「ミライハ、ドコダ?」
「知らない。本当に知らないんだよ。なぁ、助けてください。お願いします。お願いし」
優人は聞かない。
「ハシレ」
残りのインクを全部使い、雷を流す。
「アアァァァァァァァァ!」
絶叫が廊下に響く。
インクがつきると、気絶し、地面に倒れた。
「コロス、コロス、コロス!」
刀を振り上げる。狙いは首。
振り下ろそうとした瞬間、
「やめて!」
後ろから抱きつかれた。
ーーー
その声は泣いている。
「お願い、もう戦わなくても大丈夫だから」
聞き覚えのある声。
仲間の声。
「帰ってきて、いつもの優人くん……」
目がさめる。すると周りには写真や動画がたくさん落ちていた。
その全てに見憶えがある。
そう、〈記憶〉だ。
後ろをむくと人がいる。誰でもない、俺自身だ。
そうか、久しぶりに〈中〉にきたのか……。
『よ、元気か?』
『よ、じゃねーよ。よりによって俺を呼び出しやがって。相手は対して強いわけでもなかったし』
『悪かった、悪かった。だいたい呼び出したのは俺じゃないし、不意打ちだったんだ。許してくれ』
『けっ。まあ俺も観ていたから状況はわかっていた。本当は殺してからお前と話をするつもりだったんだが、未来に止められちまったよ』
『なるほど。いつもより目醒めるのがはやいのはそのためか』
『さすがに友達の前では、な』
『はぁ。なんでこんないいやつなのにあんな怖い喋り方しかできないのかねー』
『しょうがないだろ、これが俺の人格なんだから』
『…………〈怒り〉、か』
『あぁ。できれば俺だって出たくないさ。ここの生活は楽しいからな』
お前はニートか!
『けれど、俺が出た。これがどういうことかわかるか?』
『…………。』
俺達の間で、空気がかわる。
それまでのちゃらけた空気ではなかった。誰もがに逃げたくなるような重さがある。
『お前は、……逃げたんだよ』
『にげ、た……」
『あの時だってそうだった。おぼえてるか? お前は、……そこにいるお前は何もできなかった。だから……、だから今でも春の好意に対して肯定も否定もできない。そうだろ? そうじゃないのか?』
『……。そんなこと、わかりきってる』
『いや、何もわかっていない! わかっていたのなら未来だって、お前が守れたはずじゃないか。無力なんだよ、てめぇーは!』
口調が乱暴になる。
『お前に……、何がわかる?』
『……全てだ。俺達はお前であり、お前も俺達なんだ』
『……。』
『逃げるなよ、簡単に。お前は戦わなくちゃいけない。自分自身と。俺以外の俺達はいつでもお前の精神をのっとる機会をうかがっている。俺が言うのもなんだが、簡単に負けないでくれ。俺はお前を、応援してるからな』
すまない。お前でよかった。そして、
『ありがとう。頑張るよ。逃げないように』
『もう2度と呼ばないでくれ。俺は面倒だからな』
『善処する。じゃあな』
『さよなら』
またな、じゃなかった。本当に嫌なんだな、出てくるのが。
今度こそ、〈中〉から現実に戻ってきた。
状況は理解している。
だから俺は、後ろにいる少女を安心させるために言う。
「大丈夫、帰ってきたよ」
「よかっ、よかった」
さらに泣き出す。
俺も弱いな。自分自身に負けて、暴走しちゃって。
助けたのも俺じゃないし。
「ごめん。怪我は、ない?」
「うん、大丈夫。謝る必要ないよ。優人くんは助けてくれたんだし」
やっと冷静になってきた。
そして気がついた。
…………背中に、おもちがくっついている。
カモーン、俺の理性、カモーン。
別のことを考えろ、目の前の2人の教師、どうし、あー、やわらかい。
誰か見回りきてくれ、もう、最高です。
女教師が誰にもヘルプしなかったってことは、他に敵はいないだろ、幸せだ。
……ダメだ、他のこと考えても、おもちの感触には勝てない。
すると、廊下の奥から聞き慣れた声がした。
「無事ですか、お二人とも」
萌様でした。教師もいる。
すぐに、俺と未来は離れる。
「あぁ、なんとか大丈夫だ」
萌様の後ろから全速力でくる女子1人。
「優くーん! ぶーじー?」
そして顔面に飛び蹴りをかましてくる。
「うがっ」
よけられるか!
春は俺の上で馬乗りになっている。その目には涙が。
「よかった、優くんが死んだら、私は生きられなくなっちゃうから……」
「大げさな」
「大げさじゃないよ。約束したじゃん!」
「……そうだったな」
春は抱きついて俺の胸で大泣きした。
……重い。
泣き止むと、俺の顔に、春の顔を近づけてくる。
「ちゃっかりキスしようとするな!」
「あいた」
軽くチョップをし、俺は立ち上がった。
しばらくして、男2人が校長を連れて来た。
これで、一件落着か。
校長は俺と未来に、話は後日聞くから帰っていいよ、とだけ言って、俺たちを返した。
寮への道で、俺は質問をした。
「なんでこれたの?」
「あぁ、携帯通話しっぱなしだったでしょ。あれのおかげでピンチがわかって校内に電話して、ヘルプを求めたってとこ」
「なるほど。助かったよ、いろいろ」
おもちとかおもちとかおもちとか。
「無事で何よりでした」
その言葉で緊張がきれたのだろうか。
そのまま、俺は倒れるようにして、立ちながら寝た。
* * *