いーみーふーめー!
数日後、土曜日、俺と正樹の部屋。
「暇だなー、正樹」
「そうだなー」
「なんかすることないかー?」
「ないなー」
「しゃーない、外でるか」
「その必要はないよ、優くん!」
何故か女性の声がする。しかも廊下からじゃない。ベランダからだ。
「その声、……春か」
振り向くと、やはり春がベランダに立っていた。
ここ、2階なんですけど……。
「大好きな優くんに会いにきたよー!」
部屋に入ってくる。
面倒なのがきたなー。
「待て、くるならドアからこい。ベランダから入るな!」
「ここ2階っていうツッコミはないの!?」
甘いな、正樹。もう心の中でツッコミはすませたよ。
「だって優くん開けてくれないじゃん!」
「いやいや、開けてやるからドアからこい」
俺は春の肩を掴み(なぜか顔を赤らめる春)、ベランダに押し込み、窓の鍵を閉めた。
春はしぶしぶ縄はしごで下っていった。
「よし、逃げるぞ、正樹」
「え、いいの?」
「逃げないと、あいつまた何しでかすかわからないぞ?」
「いや、逃げても変わらないだろ」
華麗なツッコミがきた。
ここはスルーだ。
俺と正樹は財布とペン一式、スマホを持ってでる。
何があるかわからないのでペンは持ち歩きます。
階段を下りながら、春の「優く、私の旦那が知りませんかー」という叫び声が聞こえてきた。
旦那じゃありません!
私服だったが、寮内にいては見つかるので学校へ行った。
「あ、片桐くん、武田くん。こんにちは」
「ちわっす、直江先生」
「どうしたんですか、2人とも」
「まぁ、いろいろありまして。先生こそ、どうしたんですか?」
「先生は休日出勤ですよー」
「そっちではなくて……」
「はい?」
俺と正樹は同時に言った。
「「なぜ、メイド服なんですか!?」」
「この前あなたにきせそこ損なったからですよ。本当に残念でした。実は今日出勤なのも校長に怒られたからで」
先生、その服ではまた休日出勤になりますよ……。
俺は必死にツッコミを抑えた。
正樹の顔を見ると、苦笑していた。
多分同じこと思ってるな。
すると、
「優く、理想の旦那様ー、どーこー?」
「やべ、来たぞ」
「それでは先生、失礼します」
「はい、気をつけて。あ、片桐くん、そういえば校長が呼んでいたので、行っておいてくださいね」
「了解でーす」
手を振りながら、俺と正樹は校長室にむかった。
休日なので誰もいない。そんな廊下を走るのはとても気持ちよかった。
ドン、と誰かにぶつかった。
「すいません、大丈夫ですか?」
「えぇ、あなたこそけ怪我していませんか?」
俺が衝突したのは先生だった。ただ、顔に見覚えがない。きっとし新任なんだろう。
「問題ないです」
立ち上がると、
バキッ。
…………なんか踏んだなー。
足の下を確認するとUSBが粉々だった。
「すいません、本当にすいません!」
やべー、大事なデータはいってるかもしれないのに。
「はは、気にしなくていいよ。捨てようとしてたものだし」
「本当にすいません」
「怪我なくて良かったよ。じゃあ急いでるから」
USBを持って去って行った。
優しい人で良かった。
「気をつけなよ、優人」
「わりー、じゃあ行くか」
* * *
校長室。
「だいぶ来るのはやかったね。というか、なんでそんなに息きれているんだい?」
「そこ、は、ハァハァ、あれですよ、ハァ。青春してたんです」
直江先生と別れたあと、俺達は全力疾走でここまできた。
今思えば逃げる理由は特にない。あとで謝っとくか。
「おいコラどこだー! ゆーとーーー!」
廊下で声が響いた。
ダメだ、会った瞬間殺される……。
「……青春してるね、君たち」
「それほどでも」
「褒めてないだろ」
正樹からツッコミをもらった。
「さて、本題に移ってよろしいかな?」
「えぇ」
「問題ありません」
「実は……幽霊がでるんだよ、夜に」
まぁ、幽霊は基本夜ですけど。
……ん? 幽霊?
「幽霊って、あの幽霊ですか?」
「まぁ、誰かが見たってわけじゃないけどね」
いーみーふーめー。
「詳しくお願いします」
真面目だな、正樹よ。
「うむ。この学校のセキュリティシステムは知ってるよね」
「はい。グラウンドは赤外線やらなんちゃらで厳重。さらに校内は赤外線プラス先生の見回り」
「監視カメラもありますね。あと、先生たちはセキュリティにひっかからない個人結界を持っている、とか」
「だいたいはそれであってるよ。だから夜に一瞬電気がつくなんて怪現象はおきないはずなんだよ。他にも物が壊れてたり動いてたりPCがついていたり。おかしいことが多いんだよ、最近」
「誰か先生がやったってことはないのですか?」
俺も思った。
「ないはずだよ。この幽霊騒動は教師から報告されたもの。もし先生がやったのなら報告はこないしね」
まぁ、それもそうか。ということは、
「僕らに調査をしてほしい、ということですか?」
「その通りだ。もし、テロリストによるものだったら世界問題になってしまう。それだけは何としても避けなくてはいけない」
……確かに。けれど問題もある。
「セキュリティが稼動していたら入れないんじゃないんですか?」
「優人……。先生達はどうやってみまわってるんだったか考えてみなよ」
「あ、あぁ。個人結界か」
やべ、気が抜けてた。集中、集中。
「もちろん、報酬は払うよ。それで、この依頼、受けてくれるかい?」
はい、と返事をしようとした。しかし、その前に正樹が質問した。
「質問させてください。もし、もしテロリストだった場合、怪我や命の安全は確保できるのですか?」
「大丈夫だ。君たちはWEAPONシステムが使える。それに個人結界は、いつも使う結界の応用だから銃弾を数発くらいなら防ぐことができる。その間に逃げて教師を呼べば問題ないさ。肝試し感覚でやってくれればいい」
「そう心配するなよ、正樹。もし命の危険が高いならいくらなんでも子どもにやらせないよ」
「…………わかりました。お受けします」
「ありがとう。個人結界はあとで部屋に持っていかせるよ。6人だったね。迷惑かけるな」
「いえいえ、ご心配なさらずに」
俺と正樹は礼をして校長室をあとにした。
階段をくだっていると、後ろから体当たりをもらい、残り数段の高さから落ちて顔面からすべった。
誰かは言うまでもない、春だ。
「優くーん、さみしかったよー! ひどいよ、おいていくなんて! お仕置きしちゃうぞ?」
語尾にハートがつきそうな可愛い口調だった。
………………その拳以外は。
すでに振り上げられた拳は止まる、ということを知らず、…………。
* * *
俺と正樹の部屋。
6人がいろいろな場所で座っていた。
校長室でのやりとりを話し終えて、誰が行くか、という話になっていた。
なぜ6人じゃないかって?
理由は明白。個人結界専用のカードが2枚しかとど届かなかったからだ。
どうやらそれだけしか用意できなかったらしい。
「むりむり、幽霊とかむりですー!!!!」
未来は頑なに拒んでいる。
どうやら苦手らしい。
「優くんとだったら、何処へでもいくよ」
はいはい、春は、スルー。
「ふっ、ゆ、幽霊なんているわけないだろう、バカバカしい」
おい、声がふるえてるぞ、メガネ。
「まさかお前、……怖いのか?」
「そそ、そんなわけないだろう。そんなき、貴様こそどうなんだ」
「ぜんぜーん、怖くないけど」
「もう、ジャンケンでいいか。面倒だし」
正樹の提案にみんな同意した。
「せーの!」
「「「「「「ジャンケン、ポン!」」」」」」
パー、4人。グー、2人。
負けたのは俺と未来。
俺は何も問題ない。
未来をみると、俺のベッドに顔をうずめて本格的に泣いていた。
「しょうがないよ、未来。負けちゃったんだから。2人で頑張ろう」
「う、ぐす。じゃあ何かあったら、守ってくれる?」
おーっと、涙目アンド上目遣いだからといってドキドキしていませんよ。えぇ、決して。
まったくこの天然は。
「もちろん、守ってやるよ」
一応、力強く宣言した。
「ぐす、じゃあ行く。頑張る」
「よし、いい子だ」
ついつい、頭を撫でてしまった。
「じゃあ、ペン達準備してくる」
未来は自分の部屋にもどった。
「私達はどうすればよろしいでしょうか?」
「そうだな、萌たちは携帯通話中にしておくから常に状況を聞いていてくれ」
「わかりました」