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勇者母、今日も六時から世界を救う ~朝の魔王四天王との終わらない戦い~

作者: 日御碕 出雲
掲載日:2026/09/30

【第21作目】また、冷蔵庫を開けた時に思いついてしまった。

しかも似たような感じで関連話も作れそうな気がする・・・

---------------

退魔鈴<目覚まし時計>が鳴り響く。

ジリリリ~ン!


静寂を切り裂くその音は、まるで魔界の門が開く警報のように。

私は重いまぶたを開ける。

「うっ……またおまえか……」


朝の魔王四天王、その筆頭が不敵な笑みを浮かべ立っている。

【魔祭司スリープ】

奴は人々を深い眠りへと誘い、遅刻という名の破滅へ落とそうとする恐るべき存在だ。


昨夜、小学生の娘が寝る前に突然言い出した。

「明日持っていく牛乳パック工作壊れた」

付き合って修復作業を手伝った。

さらに中学生の息子は、

「お母さん、社会のワークどこ?」

二十二時半に言い出した。

知らん。

私は神ではない。


そんな疲労が全身を支配する中、スリープは甘く囁く。

『あと五分……』

『あと五分……』

危険だ。

危険すぎる。

その呪詛は何人もの勇者を葬ってきた。


私は勇者の力を振り絞り、退魔鈴を叩き止めた。

「開眼!」

しかし知っている。

これは始まりにすぎないことを。


時計を見る。

六時。

既に他の3人も暗躍を開始しているはず。


私はキッチンという名の戦場へ向かう。

その瞬間。

ゴォォォォッ!

炎の魔法陣が輝く。

現れたのは四天王第二席。

【魔将軍ブレクファ】

「今日も来たか、勇者よ」

「ええ。毎日来るのはあなたの方でしょう」


ブレクファは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。

朝食、弁当、水筒。

中学生の息子用のボリューム増量。

小学生の娘が突然言い出す好き嫌い対応。

手数が多すぎる。


私はフライパン魔法を振るう。

「カニさんウィンナー!」

ジュウッ!

「焼き鮭召喚!」

パチパチパチ!

「弁当結界展開!」

弁当タッパーを定位置に置く。


だがブレクファも強い。


冷蔵庫を開けた瞬間、私の動きが止まった。

「たっ……卵、一個しかない」

致命傷である。


これは家庭の朝においてドラゴン級の重い一撃受けたに等しい。

緊急事態だ。


私は冷静に代替案と言う名の回復魔法を模索する。

ハム。

チーズ。

冷凍食品。

最後は気合。


母の料理には時々気合が入る。

栄養士が聞いたら怒るかもしれない。



その時だった。

背後から声がする。

「母さん、俺の靴下知らない?」

振り返る。


そこには旦那。

いや。

【幻魔士オトーン】

本来は味方のはずだ。

しかし朝になると何らかの洗脳を受けて魔族化している。


「洗面台に置いた充電器見なかった?」

「今日って雨ふる?」

「ゴミの日だっけ?」

「俺のネクタイは?」

次々と飛んでくる質問魔法。


私は思わず叫ぶ。

「自分で探してぇぇぇぇっ!」

オトーンは首を傾げる。

「え、知らない?」

知らん。

そんなものは知らん。

むしろなぜ私なら知っていると思った。


私は弁当を詰めながら回答する。

まるで敵の攻撃を盾で受け流しながら剣を振るう達人のように。


「充電器?ソファーの上は見たの?」

「午後から雨は降るかも!」

「ゴミの日は明日!」

「ネクタイはクローゼットの中に無かったの?」


「ありがとう!」

オトーンは満足して去っていった。

何一つ自力で解決していない。

幻術で私の精神力だけが削られた。


続いて、

二階に向けて支援魔法発動しながら駆け上がる。

「起きなさい!!」

私の叫びである。


中学生の息子の部屋。

扉を開くと、そこにはベッドに埋まる亡者がいた。

「あと十分……」

再び【魔祭司スリープ】呪詛だ。


私はカーテンを開放する。

聖なる太陽光が降り注ぐ。

「ぎゃあああ!」

息子は苦しみながら起き上がった。


討伐成功。


しかし安心する間もなく、小学生の娘の部屋へ向かう。

娘は既に起きていた。


だが別の問題がある。

服を着替えていない。

ランドセルの準備もしていない。

なぜかぬいぐるみ会議を開催している。

「うさちゃんが議長なの!」

知らん。

今は国会を開いている場合ではない。

「着替えて!」

「はーい!」

やらない。

小学生低学年特有の返事である。

やる気と実行が一致していない。

オトーンと同じ魔族化なのだろうか、少し疑う。


リビングへ戻った私は異変に気づいた。


時間だ。

さっきまで六時十分だった。

今は七時十分。

一時間が消えていた。

「なにっ!?」


現れた。

四天王最後の一人。

【時空魔導士タイム】

奴は直接戦わない。

気づけば時間を奪う。

最も卑劣な敵だ。

「まだ余裕あると思ってたのに!」

私が叫ぶ。


タイムは高笑いした。

『洗濯物を一回干しただけで十五分だ』

『子供の探し物で十分』

『連絡帳確認で五分』

『水筒洗い忘れで三分』

『気づけば終わりだ』


ぐはっ!

確かにその通り。

有効な反論ができない。



ここから戦いは最終局面へ入る。


息子が言う。

「今日体育あるんだった」

もっと早く言え。

体操服捜索開始。


娘が言う。

「いつものハンカチがいい」

今からか。

ハンカチ捜索開始。


オトーンが言う。

「車の鍵どこだっけ?」

お前もか。


私はもはや勇者ではなかった。

災害対策本部長である。


家中を駆け回る。

洗面所。

子供部屋。

玄関。

リビング。

キッチン。


探索依頼解決だけなら冒険者ギルド内でもトップランクだ。


そして。

ついに。

七時四十五分。


玄関の扉が開かれる。

「行ってきます!」

「いってらっしゃい!」

息子が出発する。

続いて娘も出発する。

オトーンも出勤した。


扉が閉まる。

シーン……。


静寂。


なんという静寂だろう。

さっきまで戦場だった空間が、森の湖のように穏やかだ。


私は椅子へ座り込む。

「終わった……」

今日も勝った。


四天王を何とか退けた。

世界は救われたのだ。


温かいコーヒーを淹れる。

誰にも話しかけられずに飲むコーヒーは、伝説級回復薬にも匹敵する。

私は微笑む。

ようやく平和が訪れた。



そう思った。



その時だった。


テーブルの上から禍々しい異様な気配を感じる。

私はゆっくり視線を向ける。


そこにあった。

中学生の息子の学校指定タブレット。

さらにその横。

小学生の娘のリコーダーが。


私は震える。

「……うそでしょ」


討伐したはずの四天王の背後から、不適な笑みを浮かべ魔王が姿を現した。


その名は。

【忘却王ワースレモノ】

しかも分身魔法を唱えて二体同時出現。


私は天を仰ぐ。


さっき出たばかりの子供たちの背中を思い浮かべながら。

冷めかけたコーヒーから白い湯気が立っていた。


そして私は静かに立ち上がる。


勇者の朝は。

まだ終わっていなかった。

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共感できた方がいれば、アイコンでリアクションして頂けると嬉しいです。


もしよければ、以前投稿した作品も読んでみてください。5分程度で読めるものばかりです。

(ギャク系が多いですが…)


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