勇者母、今日も六時から世界を救う ~朝の魔王四天王との終わらない戦い~
【第21作目】また、冷蔵庫を開けた時に思いついてしまった。
しかも似たような感じで関連話も作れそうな気がする・・・
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退魔鈴<目覚まし時計>が鳴り響く。
ジリリリ~ン!
静寂を切り裂くその音は、まるで魔界の門が開く警報のように。
私は重いまぶたを開ける。
「うっ……またおまえか……」
朝の魔王四天王、その筆頭が不敵な笑みを浮かべ立っている。
【魔祭司スリープ】
奴は人々を深い眠りへと誘い、遅刻という名の破滅へ落とそうとする恐るべき存在だ。
昨夜、小学生の娘が寝る前に突然言い出した。
「明日持っていく牛乳パック工作壊れた」
付き合って修復作業を手伝った。
さらに中学生の息子は、
「お母さん、社会のワークどこ?」
二十二時半に言い出した。
知らん。
私は神ではない。
そんな疲労が全身を支配する中、スリープは甘く囁く。
『あと五分……』
『あと五分……』
危険だ。
危険すぎる。
その呪詛は何人もの勇者を葬ってきた。
私は勇者の力を振り絞り、退魔鈴を叩き止めた。
「開眼!」
しかし知っている。
これは始まりにすぎないことを。
時計を見る。
六時。
既に他の3人も暗躍を開始しているはず。
私はキッチンという名の戦場へ向かう。
その瞬間。
ゴォォォォッ!
炎の魔法陣が輝く。
現れたのは四天王第二席。
【魔将軍ブレクファ】
「今日も来たか、勇者よ」
「ええ。毎日来るのはあなたの方でしょう」
ブレクファは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
朝食、弁当、水筒。
中学生の息子用のボリューム増量。
小学生の娘が突然言い出す好き嫌い対応。
手数が多すぎる。
私はフライパン魔法を振るう。
「カニさんウィンナー!」
ジュウッ!
「焼き鮭召喚!」
パチパチパチ!
「弁当結界展開!」
弁当タッパーを定位置に置く。
だがブレクファも強い。
冷蔵庫を開けた瞬間、私の動きが止まった。
「たっ……卵、一個しかない」
致命傷である。
これは家庭の朝においてドラゴン級の重い一撃受けたに等しい。
緊急事態だ。
私は冷静に代替案と言う名の回復魔法を模索する。
ハム。
チーズ。
冷凍食品。
最後は気合。
母の料理には時々気合が入る。
栄養士が聞いたら怒るかもしれない。
その時だった。
背後から声がする。
「母さん、俺の靴下知らない?」
振り返る。
そこには旦那。
いや。
【幻魔士オトーン】
本来は味方のはずだ。
しかし朝になると何らかの洗脳を受けて魔族化している。
「洗面台に置いた充電器見なかった?」
「今日って雨ふる?」
「ゴミの日だっけ?」
「俺のネクタイは?」
次々と飛んでくる質問魔法。
私は思わず叫ぶ。
「自分で探してぇぇぇぇっ!」
オトーンは首を傾げる。
「え、知らない?」
知らん。
そんなものは知らん。
むしろなぜ私なら知っていると思った。
私は弁当を詰めながら回答する。
まるで敵の攻撃を盾で受け流しながら剣を振るう達人のように。
「充電器?ソファーの上は見たの?」
「午後から雨は降るかも!」
「ゴミの日は明日!」
「ネクタイはクローゼットの中に無かったの?」
「ありがとう!」
オトーンは満足して去っていった。
何一つ自力で解決していない。
幻術で私の精神力だけが削られた。
続いて、
二階に向けて支援魔法発動しながら駆け上がる。
「起きなさい!!」
私の叫びである。
中学生の息子の部屋。
扉を開くと、そこにはベッドに埋まる亡者がいた。
「あと十分……」
再び【魔祭司スリープ】呪詛だ。
私はカーテンを開放する。
聖なる太陽光が降り注ぐ。
「ぎゃあああ!」
息子は苦しみながら起き上がった。
討伐成功。
しかし安心する間もなく、小学生の娘の部屋へ向かう。
娘は既に起きていた。
だが別の問題がある。
服を着替えていない。
ランドセルの準備もしていない。
なぜかぬいぐるみ会議を開催している。
「うさちゃんが議長なの!」
知らん。
今は国会を開いている場合ではない。
「着替えて!」
「はーい!」
やらない。
小学生低学年特有の返事である。
やる気と実行が一致していない。
オトーンと同じ魔族化なのだろうか、少し疑う。
リビングへ戻った私は異変に気づいた。
時間だ。
さっきまで六時十分だった。
今は七時十分。
一時間が消えていた。
「なにっ!?」
現れた。
四天王最後の一人。
【時空魔導士タイム】
奴は直接戦わない。
気づけば時間を奪う。
最も卑劣な敵だ。
「まだ余裕あると思ってたのに!」
私が叫ぶ。
タイムは高笑いした。
『洗濯物を一回干しただけで十五分だ』
『子供の探し物で十分』
『連絡帳確認で五分』
『水筒洗い忘れで三分』
『気づけば終わりだ』
ぐはっ!
確かにその通り。
有効な反論ができない。
ここから戦いは最終局面へ入る。
息子が言う。
「今日体育あるんだった」
もっと早く言え。
体操服捜索開始。
娘が言う。
「いつものハンカチがいい」
今からか。
ハンカチ捜索開始。
オトーンが言う。
「車の鍵どこだっけ?」
お前もか。
私はもはや勇者ではなかった。
災害対策本部長である。
家中を駆け回る。
洗面所。
子供部屋。
玄関。
リビング。
キッチン。
探索依頼解決だけなら冒険者ギルド内でもトップランクだ。
そして。
ついに。
七時四十五分。
玄関の扉が開かれる。
「行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
息子が出発する。
続いて娘も出発する。
オトーンも出勤した。
扉が閉まる。
シーン……。
静寂。
なんという静寂だろう。
さっきまで戦場だった空間が、森の湖のように穏やかだ。
私は椅子へ座り込む。
「終わった……」
今日も勝った。
四天王を何とか退けた。
世界は救われたのだ。
温かいコーヒーを淹れる。
誰にも話しかけられずに飲むコーヒーは、伝説級回復薬にも匹敵する。
私は微笑む。
ようやく平和が訪れた。
そう思った。
その時だった。
テーブルの上から禍々しい異様な気配を感じる。
私はゆっくり視線を向ける。
そこにあった。
中学生の息子の学校指定タブレット。
さらにその横。
小学生の娘のリコーダーが。
私は震える。
「……うそでしょ」
討伐したはずの四天王の背後から、不適な笑みを浮かべ魔王が姿を現した。
その名は。
【忘却王ワースレモノ】
しかも分身魔法を唱えて二体同時出現。
私は天を仰ぐ。
さっき出たばかりの子供たちの背中を思い浮かべながら。
冷めかけたコーヒーから白い湯気が立っていた。
そして私は静かに立ち上がる。
勇者の朝は。
まだ終わっていなかった。
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もしよければ、以前投稿した作品も読んでみてください。5分程度で読めるものばかりです。
(ギャク系が多いですが…)




