土饅頭
生と死の境界で、自分自身と儀式を続ける男
毎晩、誰かが俺を呼ぶ声がする。
土で築かれた古びたかまくらに、俺は無言で線香を供える。細い煙が闇に溶けていくのを、ただ見つめている。
この不可解な儀式を、今日で何度繰り返しただろう。おそらくもう数年以上になる。
意味など分からなくとも、体が覚えている。繰り返しが、いつしか儀式そのものを重く、聖なるものに変えていた。だが、今日だけは違った。
薄暗い森の奥、白装束の者が立っていた。顔は真っ白に塗りつぶされ、表情は一切ない。
そいつは、かまくらの穴を塞ぐように、黙々と土を運んでいる。俺は横目でそれを見ながら、いつものように線香を立てた。
炎が揺れ、煙が白い影の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせる。何の意味もない行為だと知りながら、止められなかった。ずっと続けてきたことだから。
数日が過ぎ、穴はほとんど塞がれた。線香を差し込む隙間さえなくなっていた。俺は塞がれた土を横へ掻き出した。
白装束の影は、すぐにそれを元に戻しにかかる。黙々と、機械のように。
「邪魔だ」
俺の声が初めて響いた。だが影は答えない。ただ土を運び続ける。俺が掻き出すたび、影はそれを埋め直す。静かな、果てしない攻防。
やがて俺は怒鳴り、掴みかかり、土を蹴散らした。叫び、暴れ、息を荒げているのは俺だけだった。白装束はただ、淡々と作業を続ける。
まるで俺の存在など、最初から認めていないかのように。その時だった。白装束の顔を白く塗り潰していたモノがひび割れ、砕け落ちた。
下から現れたのは――俺の顔だった。
同じ目、同じ鼻、同じ、疲れ果てた表情。そこにあったのは、紛れもない俺自身だった。息が止まった。世界が音を失った。俺は叫び声を上げたはずだった。
だが、記憶はそこで途切れている。
――病院の白い天井。意識が戻った時、医師は言った。
昏睡状態が五日間続いていたと。一時は危篤に陥り、親族たちはすでに葬儀の準備を進めていたという。
夢の中で感じた“数年”は、たった五日だった。窓の外は夜だった。遠くから、誰かの呼ぶ声が聞こえるような気がした。
俺はベッドに横たわったまま、ゆっくりと自分の手を眺めた。土の匂いが、まだ指先に残っている。
かまくらは、まだそこにあるのだろうか。そして、あの白装束は――今、どこで土を運んでいるのだろう。
俺は目を閉じた。線香の煙の幻が、瞼の裏に浮かんだ。儀式は、まだ終わっていないらしい。
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